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第32話 今度こそゆっくり休みたい

 ユーミルが俺のダイブに気付いた時には、奴と俺の距離は直線で3メートル程になっていた。慌ててパイルバンカーを振り回してくるが、俺はそれよりも先にリニア・ガンのコイルに最大出力の電流を流した。直径10センチメートル、長さ2メートル弱の金属パイプが強力な磁石に早変わりし、尾栓側がバリアを構成する磁界に吸い寄せられる。そのままストラップで繋がれた俺の体ごとロボット目掛けてくっ付き――


「あ」


 ――に行く前に、抜き忘れていた砲弾が発射されてしまった。幸か不幸か、真上へ向けて第2宇宙速度ギリギリで飛び去る。


 おもわずそれを見送っている内に、先程、砲弾を跳ね返された距離まで肉薄する事に成功した。流石にバリアの完全消滅までには至っていない為、進攻速度が目に見えて落ちてくる。

 近付こうとする俺と、押し飛ばそうとするバリアの力が、バリアにやや食い込んだ辺りで均衡する。

 俺は砲身のコイルに電流を更に送り込んだ。無理を強いられているコイルが少しずつ劣化していくのをモニターしながら、それでも強めた磁力に俺の体をユーミルの居る運転席へとゆっくり運ばせる。

 既にロボットの腕では対処し切れない距離にまで近付いた俺を狙って、ユーミルは懐の拳銃を撃ってきた――確かに内側から外側に向けての移動は素通りではある――が、その程度の弾なら左腕で頭を庇っておけば充分だ。


 拳銃弾を数発弾き返したところで右手をアイテムボックスの中に突っ込み、手榴弾を引っ張り出す。奴との距離は約1メートル。運転席は防弾ガラスで覆われているが、それくらいなら何とか破壊出来るだろう。


「どりゃああああああああ!」


 叫びながら手榴弾を運転席の屋根――に相当するガラス板――へ投げ付けた。手首のスナップだけで投げた手榴弾は、サイボーグの膂力のお陰でガラス板に半分めり込む。流石に防弾ガラスを割るまでには至らなかった様だ。

 舌打ちしながら、俺はリニア・ガンに流していた電流を弱めた。バリアが正常に働き始め、食い込んでいた俺の体を外へと弾き飛ばす。

 俺はロボットから吹き飛ばされながら手榴弾の爆発を見届けるが……


『ふざけやがって!

 この程度の爆発で俺様を殺れると思ってやがるのか!?』

「……ったく、しぶといね」


 手榴弾の威力が弱すぎたのか、防弾ガラスが想定以上に頑丈だったのか、ガラスに罅を入れて運転席に風穴を開ける事には成功したが、奴に致命傷を与えるまでにはいかなかった。

 煤だらけになったユーミルは更に怒り狂い、ロボットに地団駄を踏ませ始めた。中々の運転技術である。


「糞。ケチケチせずに手持ち全部放り込んでやれば良かったぜ」


 ともあれ、まずは反撃であるが……頼みの綱のリニア・ガンは先程の無茶で使用不能になっていた。流石にコイルがもたなかった様だ。

 使い物にならなくなったリニア・ガンの代わりに、気休めにもならない毎度お馴染みモスキートを装備する。


「万事休す、か?……いや、待てよ……これは……」


 現時点でロボットを破壊出来そうな武器は、残り4発の手榴弾くらいかと思いきや、もう一つ出現した。大気圏は何とか突破出来たものの、衛星軌道には乗り損ねてUターンした60mmAPFSDS――先程間違えて打ち出したリニア・ガンの最後の1発である。

 上空の風に翻弄されたらしい砲弾は、発射地点から数十メートルずれた場所へ後1分程で着弾予定となっていた。


「とくりゃあ、やる事は一つだな」


 俺はユーミルの注意を引く為、運転席を狙ってモスキートを連射した。

 どうやらバリアはレーザーも弾き返すらしく、表面に派手な光の波紋が現れては消える。


『そこかぁっ!』


 俺を見付けたロボットが地響きを立てながら走って来た。よしよし、その調子で……って、ちょっと速過ぎるぞ!

 想定外の速度で迫り来るロボットに、このままでは奴が通り過ぎた直後に砲弾がご到着してしまう危機が発生する。


「ええい、砲弾の雨を浴びにゃならんのか!」


 たたらを踏ませて調節しようとガトリング弾が降り頻る中に飛び込もうとした時、ロボットの足元が崩れた。最初に壊滅させた連中が潜んでいた――リニア・ガンで下水道の天井を崩落させた――辺りが先程の地団駄で脆くなったところを、重量物ロボットのあしが踏み抜いてしまったらしい。

 落とし穴に蹴躓けっつまずくロボットを待ち侘びたかの様に、その背中を外気圏帰りの砲弾が抉った。凄まじい爆発音と砂礫が暴風に煽られてビルの谷間を蹂躙する。


 砂煙の晴れた後にはロボットもユーミルも消え去っており、ドロップアイテムが幾つか転がっているだけだった。


「やれやれ。結果オーライと言うか、行き当たりばったり過ぎと言うか……」


 結局ロボットを全損にしてしまった。ドーラに何と言い訳するか……まあ、あのドロップアイテム全部で勘弁して貰うかねぇ。

 早くログアウトして休みたいもんだと大きな溜め息を一つ吐き出して、さてシャルビーを回収しに行こうかと歩き出した――ら、前方からユーミルと似た様な声が響いてきた。


「よぉしぃ、トオぉぉルぅ! お前ぇは、そこぉからぁ動ぉくなぁ!」


 妙な抑揚を付けた言い回しで叫んでいるのは、顔が傷と髭に覆われた、如何にも悪党と言った面構えの男だった。縦横無尽に走った傷跡の一つが左目を潰している。組織に3人いる幹部の一人だろう。


「ワぁシぃはぁ、次期ぃボスのぉオーデンんだぁ!

 さぁて、こぉいつの命ぃが惜しけりゃぁ、とぉっととブツぅを出しやがぁれぇ!」


 どうやら既に先代の仇討ちと組織の資金源回収を済ませたつもりになっているらしい。まあ、その横でヘルメットを取られ縛り上げられたシャルビーが銃を突き付けられているので、俺としては要求を飲まなければいけないんだが。


「さぁあ早ぁくぅ出しぃやがぁれぇい! あ、さぁあ! さぁあ! さぁあ!」


 って、お前は何処ぞの歌舞伎かよ。観た事無いけどさ。


「判った判った。そんなに焦らさないでくれ」


 急かしてくるオーデンを宥めながら、アイテムボックスから例のぬいぐるみを取り出す。


「まさぁかぁ、このぉ期ぉにぃ及んでぇ、偽物ぉ掴ぁませたりぃはぁしねぇよぉなぁ?」


 チッ……そろそろ鬱陶しくなってきたし、さっさと退場して頂くか。ちょうどドーラ達が現場に到着した様だし、ヘッドショットでもしてくれんかなぁ。

 期待しながら可能な限りゆっくりと物を取り出したりしてみたが、彼女達が動く気配は無い。

 何を狙っているんだ……と訝しんでいると、拡張能力の使用時間が終了してしまった。今まで見えていた周囲の状況が、ほぼ肉眼レベルにまで落ち込んでしまい、一瞬慌ててしまう。

 流石に集中力も切れてきた事だし、連絡を取ってみるか。

 ドーラにボイスチャットを要請すると、すぐに繋がった。


『はぁい。どうしたの?』

『そろそろ手詰まりになってきたんでね。そっちからの援護をお願いしたいんだが』

私達ウチの獲物を吹き飛ばしておいて、随分な言い草ね』

『今なら、まだワンチャンスある』

『本当に?』

『ああ。あのドロップアイテムが俺の想像した物だったらな』

『……判ったわ。

 手に持っている麻薬と人質を、さっさと交換して頂戴』

『了解』


 俺は言われた通りに、麻薬とシャルビーを交換した。文句も泣き言も言わず、健気に頑張った――単にそんな余裕が無かっただけかもしれんが――彼を抱える様にして、オーデン達から急いで距離を取る。

 その背後で爆発が起こり、白い粉が当たり一面に振り撒かれた。どうやら、ドーラが麻薬をFME弾を使って狙撃したらしい。


「麻薬が空気中に蔓延している。出来るだけ息を止めていろ」


 コクコクと頷くシャルビーと一緒に急いで路地へ駆け込むと、丁度カールが装甲車を停めたところだった。


「よ。大立ち回りだったそうだな」

「昨日の晩からお腹一杯が続いてるよ。

 彼を預かっていてくれ。

 俺はアイテムを回収して来る」


 シャルビーを預けて、俺はロボットの遺したドロップアイテムを取りに急いだ。周囲では麻薬の影響で気分良くなったオーデン達がヘラヘラと笑いながらふらついている。時折射撃音が聞こえるのは、ラリッて引き金を引いているのか、ドーラが仕留めているのか。

 ともあれ、お目当てのアイテムの他に、お亡くなりになった皆様の遺品アイテムまで有り難く頂戴し終えて、俺はカールの所へと戻った。


「お待たせ……おや」


 装甲車に乗り込むと、急展開の疲れが一気に出たらしいシャルビーがシートで舟を漕ぎ始めていた。俺もあやかりたいところだが、もう一頑張りしなければならない。

 まずはカールに戦利品の一部であるロボットのドロップアイテム――単一の乾電池より一回り大きな筒――を渡す。


「……これは?」

「ロボットの設計図だ。こいつを何処かの工場に持って行けば、新しいロボットを造ってくれると思う」

「……」

「場所は流石に判らん。

 多分だが、今回のクエストのどれかをクリアすれば工場が使えると思う」


 かなりぼやけた言い草で申し訳ないが、弁して貰いたい。

 何しろソースは「拡張能力で情報に溺れている時に、ロボットを製造出来る工場を見付けたから」である。詳しく説明する根性は、もう欠片も残っていないのだ。


 カールは受け取った設計図を色々な角度から眺めていた。ちょっと不審そうな表情を浮かべている。まあ、俺も山田部長から設計図を貰った時に同じ様な顔をしていたと思う。それ以前の情報はノーラン達から聞いていた話だけだったし。


「工場の方は当てがある。姉貴があのロボットを見付けたクエストが、多分それになるんだろう。

 ……だが、これが設計図?

 聞いた話じゃ、でっかい筒に入った紙の筈だが?」


 なるほど、製造修理については見当が付いている訳か。だが、ドーラのロボットに対する様子からすると結構面倒臭いのだろうか。


「それは一部分パーツの設計図だろうな。全部を揃えたら、この形になるんだろう。

 俺が持ってる全身サイボーグの設計図もこの形だった」

「へー……」

「後、この設計図の内容は自分で変更出来ると思う。製造されるロボットのスペックに何処まで影響するかは判らんが、外見程度は弄れるんじゃないかな」

「ふむ……どうして、そう思う?」


 興味津々の表情で質問をしながら、カールは装甲車を発進させる。ドーラとの合流は別の場所で行うらしい。

 硬いシートの無骨な振動に揺られながら、俺は口を開いた。


「サイボーグのボディを修理出来るポッドってのがあるんだが、それを使う時にこの設計図をポッドにセットするんだ。そして、このポッドはサイボーグ以外のアイテムでも材料さえあれば製作・修理が出来る。

 ならば、設計図さえ用意出来ればオリジナルのアイテムも作れる筈だ」

「……設計図を弄れるエディタが見付かれば、だな」

「まあな。

 ただ、この設計図がある以上、ロボットの製造は確実だろう」

「ふむ……」


 何事かを考え込みながら、カールがハンドルを切る。スピードを出していないのと道に車が少ないせいで、見た目よりは安全運転の様だ。


「で、あのNPCはどうするんだ?」

「ああ……出来ればあいつと妹を安全な生活環境に移してやりたいんだが、どうすれば良いかな?

 悪目立ちした以上、ナグール市(ここ)には居辛いだろうし」


 シートで眠っているシャルビーを眺めながら聞いてみた。ゲームを始めて1週間も経たない俺よりも、長くやっているカール達の方が何らかの解決手段を知っているだろうと考えての質問である。


「それなら……NPCを別の土地へ引越しさせるクエストを発生させれば何とかなるな」

「そんなのがあるのか」

「ああ。当人がそれを望めば、という前提はあるから、必ずとはいかないが、な」

「あいつ等がここに残るって言うのなら仕方がない。無理強いするもんでもないだろう」


 そう言えば、そもそもの発端となった俺のクエストはどうなってるんだろう?

 漸く思い出してクエストの進捗状況を確認してみると……


「『クエストに失敗しました』かよ……」

「配達クエストだっけ?」

「そ。

 あいつに――と、シャルビーを指しながら――麻薬入りのぬいぐるみを届けるだけの簡単なお仕事だったんだけどなぁ」

「ま、配達物を景気良く散布したからな。仕方がない。

 ご苦労さん」

「泣けてくるね。

 ……っと、そこのホテルの前で停めてくれ」


 指定した場所で停めて貰ったので、俺は装甲車から降りた。

 背中にカールの声が飛んでくる。


「姉貴には会わないのか?」

「流石にもう疲れたんでね。

 申し訳ないが、礼を言うのは次に会った時にさせてくれ」

「そっか。お疲れ」

「ども」


 そんな訳で、最後は色々端折ってしまったが、手近なホテルへ飛び込む事に成功した。後は部屋を取って寝るだけである。

 フロントで宿泊の手続きをしていると、ロビーに設置されているテレビ――と言うか、壁全面を使ったスクリーン――で気になるニュースが流れていた。


『――以上、現場からの映像を交えてお伝えしました。

 繰り返しになりますが、市民の皆様はユグドラストリートには近付かない様、ご注意下さい。

 今回の事件に関しては警察でも情報を把握出来ておらず、ナグール最大の犯罪組織が何故テロ行為に走ったかは未だに……』


 テロ行為、ねぇ……市街地で大型ロボットを暴れさせて麻薬を一帯に撒き散らしたら、確かにテロっぽいよなぁ。


「はい、お待たせしました。坊や、一人で大丈夫?」

「――あ、はい、だいじょうぶです。おねえさん、どうもありがとう」


 部屋の鍵を渡してくれたフロントの姉ちゃんに礼を言って、俺は丁度やって来たエレベーターに乗り込んだ。


 悪は滅んだ。

 そう言う事にしておこう。


 俺は足を引き摺りながら部屋へ入った。

 ベッドの上は流石に遠慮して、狭い床にメンテナンスポッドを設置する。

 表示されていく使用方法のガイドの手順を見ながら、パカンと蓋の開いたポッドの中へ予め買っておいた修理用金属を入れ、端の方にあるスロットにサイボーグの設計図をセットし、蓋を閉じると、ポッドは小さく振動を始めた。

 数十秒程でスロットの横にあるランプが青く光り、ポッド使用可能な状態になった事を伝える。

 もう一度蓋を開き、全ての装備を一括で外してから、俺はポッドの中に入り込んだ。底に設置されている味気無い鉄板の上で横になると、蓋が自動で閉まる。

 薄暗い灯りの中で暫らく待っていると、「これよりメンテナンスシーケンスに入ります」との合成音が流れてきた。

 同時にポッド内が真っ暗になり、目の前に【このままログアウトしますか?】とメッセージが表示される。

 質問に【Yes】と答えると、俺の意識はあっさりと暗闇の中に沈んでいった。


――――――――――――――――――――


 俺が波乱万丈の冒険からログアウトすると、部屋の時計は16時を回っていた。

 大した運動もしていないのに疲れ切った体を無理やり動かして洗濯物を取り入れ、晩飯の材料を買い込みに……出掛ける根性は残っていないので、備蓄のカップラーメンで済ませる事にした。


「とりあえず、夜まで一休みだな」


 ブツブツと呟きながら布団に潜り込んで、今度は夢の世界にログインする。

 全く、ハードでタフな一日だったぜ……


 次に目を覚ました時、日付は既に変わった後だった。


「あー……ヤーウィ達との約束、またすっぽかしちまった……」

チートって難しい……

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