第30話 ここから逆転?
俺からの質問に、シャルビーは何かを思い出す様にゆっくりと話し始めた。
「確か……一昨日だったかな? 偶々、組織の事務所に顔出したら、何か……ロボット? 人型の戦車だか戦闘機だかを手に入れたって、幹部のオデンさんが」
「ロボット……ああ、成る程なぁ」
やはりあったか、ロボット兵器。
サイボーグ研究所なのに巨大戦女神を出してくる時点で想像はしていたが、別のクエストで見付かっていた様だ。
なるほど。これがドーラの目的か。
「知っているのか、トオル?」
「いや、残念ながら。
俺の場合は、一応サイボーグ――ええと、機械なのは体の一部だけだ。そっちのとは違うみたいだな」
一部が何処を指すかはさて置いくがな。
そう言えば、俺みたいな全身サイボーグじゃなくて、腕とか足とか一部分だけがサイボーグってのも居るんだろうか? ――某不死身の宇宙海賊とか、元悪の組織の科学者みたいな奴。
「そうか。聞いてたロボットって奴だったら、手土産にして他の組織に逃げられたのになぁ」
「……裏稼業から足を洗えよ」
残念そうなシャルビーに軽く突っ込んだところで、頭のてっぺんから場違いな電子音が聞こえた。目の前に【「Dora‐Gustav」からボイスチャットの申し込みが入りました。繋ぎますか?】と書かれたウィンドウが現れる。綴りからしてドーラか?
とりあえず、シャルビーに一言断ってからウィンドウの質問に【Yes】のボタンを押す。
『はいもしもし?』
『はあい、サーウッド、お元気?』
『あんまりお元気とは言えないな。
何の用だ?』
シャルビーからの、急に妙な電波を受信し始めた危ない人へ向けられる様な視線に晒されながら聞いたのは、予想通りドーラの声だった。
確かに本名――と言うのも変だが――は教えたが、スペルまでは教えていないんだが……
『弟に聞いて連絡取ってみたんだけど、今は大丈夫かしら?』
『あんた達が襲ってこない限りは、な。
カールの知り合いかとは思っていたが、身内だったか』
世間は狭いものである。
『まあね。それで相談なんだけど――』
『組織の偉いさんが持ってる、『最新鋭の戦闘ロボ』って奴か?』
『――勘が良いのね。知ってたの?』
『ついさっき、シャルビー――連れのNPCが、まだ何処にも出回っていない最新のロボット兵器の噂を教えてくれてな。丁度その話で盛り上がってたところさ』
『あらあら。
確かに、彼と初めて会った時に幹部連中とそんな話もしてたわね』
そう言えば、シャルビーとドーラは知り合いだったな。
ともあれ、交渉の糸口は見付かった様なので、そこから切り込んでみよう。
『なら、話は早いな。戦闘ロボはそっちに譲る――ってぇか、全部押し付けたいんだが』
『……それで、貴方の取り分は?』
今までの、どこかのほほんとしていたドーラの声が一気に冷え込んだ。いきなりの美味し過ぎる展開に警戒心がマックスに跳ね上がったとみえる。いや、見えてはないけどさ。
『とりあえず早く片付けて、ログアウトしたい。
それと、巻き込んじまったNPC兄妹の処遇だな。出来れば真っ当な職に就かせてやりたい」
『欲が無いのね』
『こっちはこっちでサイボーグに改造されちまったばかりなんでね。お腹いっぱい過ぎてロボットなんぞに関わる余裕が無い』
『ああ、それで姿が聞いていたのと違っていた訳ね。
……良いでしょ。取り引きに応じるわ。
ただ、現時点でロボットを手に入れる手段が見付かってないのよ。何処に隠しているかも判らないし』
わっちゃぁ。意外とあちらさん、二進も三進も行かなくなっていたのか? 使い走りをやってたのも、組織内の仕事をちまちまと片付ける事でボスに売り込んでいる真っ最中だったと……。
『それなら、俺に良い考えがある』
『聞くだけ聞いて良いかしら?』
『今の俺の戦力なら、組織が何人送り込んで来ても全て返り討ちに出来る。
その俺が強引に取り引きを持ち掛ければ――』
『乗るにしろ、攻撃するにしろ、最大戦力であるロボットを投入せざるを得ない?』
『その通り。後は、かっぱらうなり何なり、そっちで好きにやってくれ』
『確かに良い案だと思うけれど、一つ問題があるわね』
『何だ?』
『今の貴方の暴れ方だと、ロボットを確実に引っ張り出すにはちょっと弱いって事。
そんな訳で、もう一暴れ、お願い出来るかしら?』
おいおい、何処で暴れりゃ良いんだよ――とまで考えたところで、ドーラの口振りに嫌な予感を感じてしまった。拡張能力を起動してみると、下水道の前後から俺達を挟み込もうとする団体様が配置を完了しつつある。ついでに、シャルビーの胸元から信号が発せられているのまで判ってしまった。
「図ったなドーラ!?」
『貴方はとても良い人だけど、貴方のお友達が悪いのよ? ま、頑張ってね。取り引き場所は後で連絡するわ』
「ちょ、手前ぇ――チィッ!」
ボイスチャットにも関わらず叫んでしまった俺に、どこぞの少佐みたいな言葉を残して、ドーラはボイスチャットを一方的に終了しやがった。
傍らで暇そうに俺を見ていたシャルビーが、突然吹き上がった悪態に目を丸くしている。
俺はシャルビーの胸元からペンダントを毟り取り、握り潰した。「ポン」と軽い音を立てて、出ていた信号が途絶える。
「ちょ、急に何しやがんだ!?」
「発信機だ。俺達の居る場所は既に特定されている」
シャルビーの抗議に答えながら、俺はアイテムボックスからリニア・ガンとランドセルを出して装備した。
現在、俺達が居る下水道は全長百メートルの分かれ道の無い直線で、その両端の曲がり角の向こうでは組織の皆様が開始の合図を待っている。
外への出口は、2メートル程向こうにある、入る時に使ったマンホールのみ。そう言えば、マンホールの上にも結構な数が集まっているな。前から十人、後ろからも十人、そして上には二十人、か。
……本気で洒落にならん。
「さて、どうするかねぇ」
俺は考えながら、サイズの合わなくなったヘルメットを取り出してシャルビーに投げ渡した。気休めにしかならないだろうが、流れ弾の一つも防いでくれりゃ万々歳だ。
「やれやれ、出たとこ勝負か」
ヘルメットを被ったシャルビーと共にマンホールの下まで移動して、俺は拡張機能を起動した。追っ手の進攻状況を確認しつつ、地上に居るであろう襲撃部隊のリーダー――こう言う場合、偉いさんは安全そうで快適な場所に陣取っているものだ――を捜してみる。
予想通りマンホールの近くでトランシーバーを片手に下水道内の部隊と連絡を取っている奴が居た。ふむ、これが奴等の使っている周波数か。
俺はトランシーバーに向けてメッセージを飛ばしてみた。
『あーあー。
ヒューストン、ヒューストン、聞こえますか、どうぞ?』
『ああん? 誰だ! 今、余計な事をくっちゃべった奴は!?』
『あんた等の攻撃目標さ。
四十人全滅の憂き目に遭わない様、今すぐの降伏しては如何でしょう、どうぞ?』
『はあ!?
おい、手前ぇ、一体――』
『これは最終通告だ。棺桶を四十個並べたくなければ、とっとと逃げ帰ってママのおっぱいでも吸い上げてな、坊主共。どうぞ?』
一応、可能な限り慇懃無礼に勧告してみたが、上手くいっただろうか?
まあ良い。どっちにしろ、殺る事は変わらん。
俺は下水道前方の曲がり角の天井付近を狙って、砲弾を5発ばかり撃ち込んでみた。
『手前ぇ等、殺っちまえぇうおあぁ!?』
どうやらリーダーが攻撃開始を命じるのとタイミングが被ったらしい。
天井と壁に命中した60mmAPFSDSは、動き出そうとした団体さんにコンクリートの吹雪を叩き付けた。幸運な事に死者は出ずに済んだ様だが、まだ二人程元気に動いている。
俺はもう3発、奢りの砲弾を追加した。前方の突撃部隊が、要救助者にクラスチェンジする。
『シグール! ジーク! 何があった!?
おい、シグール!?』
トランシーバーの電波で、リーダーが喚いているのが受信出来た。
ええと、こう言う時は何て言うんだっけか……
『ボルド! ジーク達が攻撃され――』
『CQ、CQ、ボルド君。
まずは三分の一だ』
『はぁ!?』
『――何だ、この声は!?』
『ジーク君の部隊なら、先程、死者1名、重傷者9名の壊滅的被害を受けたぞ』
『シグール! 今すぐ殺っちま――』
ボルドの言葉が終わる前に、シグールとやらが居る辺り目掛けて砲弾を撃ち込む。10発目で、こちらも死者2名と重傷者8名と大量の瓦礫の生産が完了した。
『やあ、ボルド君。これで三分の二だ』
『シグール!? シグール! 畜生!』
『そんな訳で残り三分の一だな。健闘を祈る』
足下で腰を抜かしているらしいシャルビーに待っている様伝えてから、俺はランドセルを榴弾の詰まっている物と取り替えて地上へ続く梯子を昇る。マンホールの蓋を持ち上げると同時に、かなり強い衝撃が蓋を通して襲ってきた。どうやらボルド君がバズーカをマンホール目掛けて発射したらしい。
蓋に弾かれた携行型ロケット弾が近くのビルに当たり、爆音と瓦礫が丁度現場に到着したばかりの援軍――警察と組織による夢のタッグだった様だ――に降り注いだ。直接の被害は15名だが、総勢50名の混成部隊は混乱している。あ。崩れかけてた壁が落下しちゃった。
『せっかくの増援が到着前に半減してしまったか。残念だったね』
『五月蝿ぇ!』
銃弾とロケット弾の雨霰が蓋を削り切らんばかりに叩き付けられている。こりゃあ、もうすぐ割れるかな?
こんな時ゼファなら例の高速移動で飛び出すんだろうが、俺にはそんな機能は付いてない。ここは数発食らうつもりで跳び出すとしよう。
俺はボロボロになった蓋を思い切りアッパーカットで殴り飛ばした。高さ2メートル程まで打ち上げられた蓋に釣られて、銃撃が上空へとずれる。
隙らしい隙でも無いが、稼げた数秒の間に梯子を登り切った俺は、その場でクルリと一回りしながら、大した狙いも付けずにリニア・ガンを連射した。拡張能力で測定済みの彼我の距離を基に速度調整された榴弾が、マンホールを取り囲むボルド達の至近で爆発する。
対人だと近接信管が働き辛いらしいが、射出速度を調整すれば時限信管で何とか出来るのが磁力制御の便利なところだな。
地上に居た20人と増援部隊の皆様を纏めて無力化出来た俺は、下水道の底に声を掛けてシャルビーを地上へ呼び寄せた。
「あんた、本当に何者だよ……?」
「だから只の観光客だって。
……だが、この快感は癖になりそうだな」
俺の返事を聞いたシャルビーが、声を掛けた相手が実はのっぺら坊だったみたいな表情をうかべている。
それを寛大な心で許しながら、俺は、一仕事を終えた爽快感を満喫していた。呻いている怪我人とガラス片になった奴等のドロップアイテムが散乱する街角が清々しいぜ。
その時、頭上で響き始めた重金属が降下する音と共に、ドーラからボイスチャットの要請が来た。
更新が滞りまくっております。申し訳御座いません。
無双描写って難しいなぁ……。




