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第28話 そんなクエストもあったねと

投稿が大幅に遅れてしまい、申し訳ございません。

 ナグール市内に入ったところで、俺とゼファは別れた。曰く、流石に疲れたのでこのままログアウトする、との事である。

 彼女を見送りながら俺も後に続こうかと考えていると、視界の隅にあるインフォメーションに「未達成クエスト終了時間のお報せ」なる文字を見付けてしまった。


「やり残したクエストなんかあったっけ?」


 呟きながらメニューからクエストを表示してみると、既に時間切れで終わっていると思っていたクエスト「忘れ物を届けに」が、本当に時間切れになるまで2時間を切っていた。

 まだ大丈夫だったのか……。


 ともあれ、間に合うのならばそれに越した事はない。

 届け先の住所を確認しようとクエストのインフォメーションを見たら、「住所はぬいぐるみに取り付けられているタグにあります。」としか表示されない。不親切極まりないシステムである。

 仕方なく、俺は公園の片隅にあるベンチに座って、忘れ物のぬいぐるみをアイテムボックスから取り出した。受け取った時にも大きいと思ったが、この体では更に大きく感じる――って、相対的に大きくなってるわな、実際。


「……これが住所か」


 山羊の角に巻き付けられていたタグに書かれた番地は確認出来た。だが、そこへの道順が判らない。前回はスプーンがナビゲートしてくれたが、今回彼女はノータッチだ。ならば地図か案内板を探すか……


「もしくは拡張能力で見つけるか、ってね」


 地図を探す手間を惜しんで、拡張能力を起動する。

 首元が光ると共に、ありとあらゆる情報が毎度の如く降り注ぐ。その中から周囲の情報だけをピックアップして、更にナグール市の住所を見つけて番地と照合し――ん、何だこりゃ?


「……よくもまあ、こんな方法が通用してるな……」


 溢れ返る情報中から、ぬいぐるみの中に隠されている違法ドラッグ――オリジン星系第3惑星サラマンダーの特産品――を見付けてしまった。



 アイテムボックスから出してきたコンバットナイフで背中の縫い目を切り、見付けたブツを引っ張り出す。重量にして5百グラム程。末端価格で百万クレジット、らしい。


「大体、ごおくえん、か」


 ホテルのモーニングから逆算してみて、思わず溜め息を吐いてしまった。


 さて、どうしようかねぇ、この麻薬。

 見なかった事にして、ぬいぐるみごと届けてしまうか、それとも……


「何にせよ、買い物を済ませてからだな」


 俺はぬいぐるみをアイテムボックスに戻して立ち上がった。

 まず手始めに、この悪目立ちする首輪とメダルとセーラー服を何とかしよう。他の衣装もネタ系ばっかりなんだよなぁ。詰襟半ズボンくらいなら可愛げもあるが、ジャンパースカートの制服っておれに着せてどうするんだ……?


 市内の服屋を10軒ほど回って、タートルネック(とっくり)のシャツとデニムのパンツ(ジーパン)を買う事に成功した。「子供服」と言うジャンルを思い出すまでに9軒掛かったのは内緒である。

 現在、ナグール市周辺は春になるのだろうか。長袖だと少々暑いが、半袖だと肌寒く感じる。

 もう少し寒ければコートなりマフラーなりで首輪を隠せたのだが……まあ、着慣れていないだけで、それ程変なコーディネートではない筈だ――多分。


 服装が何とかなったので、次は消耗品と一緒に催涙弾と裁縫道具を買い込む。ぬいぐるみから取り出した包みの中身を催涙弾と入れ替えてから、もう一度ぬいぐるみの中に戻して縫い合わせた。ふふふ……独身チョンガーオヤジの縫い物スキルに不可能の文字は無いのだよ、ワトソン君。


 悪乗りしながら準備を済ませ、改めてお届け先――現実世界でも良く見かけるアパートの一室――のドアの前に立ったのは時間切れになる2分前だった。


「ふう、危なかったな。

 ごめんくださーい」


 日本のアパートとさして変わらない呼び鈴を押して声を掛けると、中からバタバタと慌てた様な足音が響いて来て、いきなりドアが開けられた。


「遅ぇんだよ、手前ぇ!」


 現れたのは、不良少年からチンピラへクラスチェンジしたばかりと思しきあんちゃんだった。どう見てもぬいぐるみを抱きしめる様な風体ではない。


「ええと、貴方がレスキュワ・タングリスさん?」

「……妹は今、外出中だ! 俺が代わりに預かってやる!」


 切羽詰った顔で俺の抱えているぬいぐるみを毟り取ろうとする兄ちゃんを、軽いバックステップで避けてやる。

 たたらを踏んだ兄ちゃんの歯が剥き出しになり、噛み付かんばかりの勢いで俺を襲い始めた。それを躱しながら、アパートの通路で鬼ごっこを始める。

 暫らくそうやって遊んでいると、兄ちゃんはとうとう懐から拳銃を出してきた。流石チンピラとしか言えない沸点である。まあ、時間が無いのもあるんだろうけどな。


「このガキ、ふざけやがって!」

「お兄ちゃん! 何やってんの!?」


 兄ちゃんの指がトリガーを絞り掛けたナイスタイミングで、レスキュワちゃんと思われる女の子がドアから顔を出した。今の俺よりも更に年下の、所謂未就学児童っぽい外見である。


「レスキュワ!?」


 兄ちゃんは妹を振り返って思わず叫んだ。弾みで撃ち出された弾丸が、しゃがんだ俺の頭上を通り、丁度後ろに現われた女性を掠めて飛び去る。


「あらあら。

 これはつまり、組織ウチに愛想を尽かした、と言う事で良いのかしら、シャルビー?」

「え……ど、ドーラさん!?

 ち、違うっす! 全然違うっす!!」


 現れた女性は兄ちゃん――シャルビーを表面上はにこやかに睨み付けている。どうやら彼女が荷物まやくを受け取りに来た組織の人間らしいが……PCだよな、彼女。


「あら?

 坊やはどうしたの?」


 ドーラと呼ばれた女性は、自分を見ている俺に気付くと、視線以外は魅力的な笑顔を向けてくる。その笑顔に気圧されて、俺は思わず偽名を使ってしまった。


「えっと、トオルって言います。レスキュワさんにおとどけものをもって来ました」

「ふぅん。トオル君は偉いのねぇ。

 荷物はお姉さんが預かっても良いかしら?

 クエストには問題無いと思うけど?」


 俺がPCである事に向こうも気付いているか。そうなると、俺の外見年齢をどう考えてくれるかだが……まあ、それはさて置き、ここは真面目な勤労少年の振りでもしておくか。


「でも、うけとりにんはレスキュワさんになってますから」

「だから俺が受け取るって言ってんだろ!

 さっさと寄こせ!」

「お兄ちゃん、またわるい人たちの手伝いをしてるの!?」

「お前は引っ込んでろ!」

「あらあら。大変ねぇ」


 ドーラは兄妹喧嘩に加わるつもりはないらしく、言い争いを始めた二人を微笑ましそうに眺めている。彼女も時間に余裕は無い筈だが、急かす素振りは見せていない。


「……こりゃあ、さっさと中身ブツを渡してトンズラするべきだったかな?」


 長引きそうな状況を見て思わず漏らした呟きが思いの外大きかったらしく、シャルビーとドーラの視線が俺に突き刺さった。


「手前ぇ――」

「あらぁ。気付いちゃってたの?」


 シャルビーが問答無用でぬいぐるみに飛び掛って来ると同時に、ドーラが背後から撃ってきた。当てる気は無かった様で、弾丸は俺の直ぐ横を掠めてシャルビーの足元を抉る。

 俺は足の止まったシャルビーの襟首を捕まえると、廊下の手摺りを飛び越えて地面に降り立った。ここが1階で良かったぜ。

 そのままシャルビーが我に返る暇を与えず、ぬいぐるみと一緒に担いでアパートの敷地から逃走する。

 背後では、俺の残した足跡を辿る様にドーラの撃った弾丸が数発、地面を抉っていた。


――――――――――――――――――――


 暫く路地を右に左に曲がりながら駆け抜けると、町外れの公園に出た。

 ナグール市も、フォーチュンと同じく街の外周を高い壁で覆っていて、その街壁の直ぐ内側を公園が帯の様に巡っている。

 偶々なのか、見回した範囲内に人影は無かった。


「糞。このガキ、何て事してくれんだよ」


 そんな公園の中の人気の無いベンチで、シャルビーが頭を抱えていた。

 結果的に組織の資金源である麻薬を持ち逃げした事になってしまったのだから、まあ、気持ちは解かる。


「そんなにあせっても仕方ないですよ?」

「五月蝿ぇ! 手前ぇがさっさと配達しねぇからだろが!

 自分のミスを棚に上げるんじゃ無ぇよ!」

「そう言われると、何も言い返せませんね。ごめんなさい」


 小生意気なお子様を装って、一応頭を下げておく。これなら向こうも怒るに怒れないだろう。


「ご免で済んだら警察も犯罪組織も要らねぇんだよ!」


 おっと、シャルビー君、殴り掛かってきました。これだから近頃の若い者は……。

 俺は彼の拳をタイミングと勢いと無責任に任せて受け流し、身体ごと空中で半回転させてから地面に下ろしてやった。外見ローティーンの子供ガキに己のパンチを捌かれた彼は、戸惑った表情を浮かべている。


「おこるのは分かりますけど、落ちつきましょうよ」


 そう言って、立ち上がったシャルビーをもう一度ベンチに座らせると、彼は狐に摘まれた様な表情を浮かべて腰を下ろした。

 さて、これからどうするかねぇ。


「また会ったわねぇ。お元気だった?」

「ひぃ!?」


 二人揃って気を抜いていたところに、ドーラが銃を構えて登場した。のほほんとした口調とは裏腹に、瞳と銃口がこちらをめ付けている。

 抵抗するタイミングを失ってベンチでガタガタとお祈りを唱え始めかねないシャルビーを尻目に、俺はドーラと向き合う破目になった。


「どうして、ここが分かったんですか?」

「貴方の背中に、ね」


 言われて手を伸ばすと、2ミリメートル角の板が肩甲骨の間に付着していた。


「……ありゃ。こいつぁ、うっかりだ」

「貴方のお名前は?」


 見事なオウンゴールに肩を落としていたら、ドーラから本名を聞かれてしまった。

 ……まあ、隠す必要も無いか。


「サーウッド、です。

 で、こちらはどうすれば見逃して貰えるんですかね?」

「あらあら。聞いていたのとはかなり違うわねぇ。

 もしかして、外見とは裏腹に、実はショタジジイってジャンル?」

「せめて合法ショタにして貰えませんか?」


 俺の要請に「はいはい」と笑いながら答えて、ドーラの視線だけが鋭さを増す。

 こりゃやばい。


「予定の時間を過ぎちゃったし、こちらとしても、それなりの言い訳も無しには帰れないのよ。だから、ね――」


 銃を腋のホルスターに収めながら、ドーラが近付いて来る。こちらも逃げる準備を――


 始める前に、残っていた距離を一気に詰めた彼女の脛が頭の直ぐ左に出現した。左腕で上へ弾きながら身を屈めると、弾いた右足の踵が降ってくる。それを右に跳ねて避けた勢いで彼女の懐に跳び込み、石畳を右足で踏み抜きながら、掌底を無防備な腰に突き出すが、突きは彼女の腰に張り付いていた衣服ウェアを掠めただけだった。

 体を躱したドーラが俺の伸びきった右肘を支点に押さえ、軸足を払った勢いも乗せて、俺の体を中に舞わせる。視界がぐるんと回って、背中に衝撃が叩き付けられた。


 追撃に一瞬の間が空いたのを利用して、俺は寝転んだ状態から2メートル程跳んで体勢を立て直した。VRで、しかもサイボーグボディだからこそ可能な技である。


「……ふう、凄いな、あんた」

「猫は被らなくて良いの?」

「そんな余裕が無くなったんでね。

 ともあれ、どの辺で方を付ける?」

「そうねぇ……

 私としては、このままぬいぐるみを受け取ってお終いにするのも良いけど……」


 互いに油断無く身構えながらの会話で、何と言うか、場の雰囲気が煮詰まっている気がする。また余計なイベントに頭を突っ込んで、ログイン時間だけが降り積もる落ちだろうか。流石に辛くなってきたんだが……やっぱり、素直に麻薬ごとぬいぐるみ渡してトンズラが正解だったかなぁ。


「ただ、今更『はい、返します』って差し出されても、こちらの評価が遅刻した分下がるだけで困るのよね」

「……」

「そんな訳で、貴方達、もう少し逃げ惑ってから殺さ(やら)れてくれないかしら?」

「そいつぁ、お断りの方向で」


 俺の即答と同時に、それまでじりじりと詰め合っていた距離をドーラが一気に縮めた。迫る左のローキックを跳んで避ければ、地面に突き刺さる筈だった足がローからハイへと俺を追尾してくる。

 蹴りが当たる直前で、それを足場にして更に跳べば、ドーラの手が俺の足首を掴んで引き摺り下ろす。

 地面に叩きつけられる前に、俺は体を回転させて足首を彼女から開放し、空中を転がって着地する。と同時に彼女の懐へ再度跳び込み、今度は左へ直角に跳んだ。

 俺の右腕を追っていたドーラの視線が、急な方向転換に釣られて右に逸れる。それを振り切る様に、今度は右に跳び、もう一度反復横跳びをして彼女の正面に戻ると、両手を地面に突いてドーラの頭を両足で挟み切る。

 蟹ばさみをスウェーで避けたドーラの前髪が数本、俺の両足が巻き起こした鎌鼬に切断されて舞い落ちた。


 脳が焼き切れそうな攻防が一段落したところで互いに距離を取り、再び仕切り直しの睨み合いへと移行する。


「フフフ……VRとは言え、ここまで動ける人って久し振りだわ。

 貴方、何か格闘技をやってるの?」

「残念ながら、何にも……まあ、若い頃に漫画や映画の必殺技を真似してただけだな。

 そう言うあんたは何かやってるのか?」

「私? 私は……そうね、バリツを少々」

「麻薬中毒の名探偵かよ!」


 薬中ヤクチュウが運び屋やってりゃ世話無いよな。

思い出したのが運の尽き……(マテ

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