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第27話 お家に帰るまでがクエストです

「しかし……これからは、こいつの世話にならなきゃならんのか……」

「他の方法が、早めに出来ると良いわねぇ……」


 何の話かと言うと、サイボーグボディのHP回復(しゅうり)方法である。

 サイボーグボディが受けたダメージに対しては医療キットでは意味を成さず、自然回復も殆ど無し。こんなんでは、おちおちと狩りにも行けやしない。

 何か無いかと格納庫前の備品室を虱潰しに大探索して見付け出したのが、この「サイボーグ用メンテナンスポッド」だった。寝袋と棺桶を足して未来風にデザインした様な形状をしている。

 この中に入っていれば全自動で修理してくれるらしい。材料がある限りで、だが。


 修理に必要な材料は、NPC店で売っている金属インゴットを買うか、自分で掘り出して加工するかした物で良いらしい。ただし、修理内容によっては特殊なアイテムが必要になると、ポッドの説明書にあった。

 色々と面倒臭い事である。


「って言うか、この中に入っている時に襲われたらどうするんだろう……」

「襲われる事の無い、安全な所で使うしか無いんじゃない?」

「町中で誘拐犯と命のり取りが出来るゲームで、何処に安全な場所があるんだ?」

「……ホテルの部屋とか?」


 ホテル部屋で床に置いたメンテナンスポッドに入って回復している姿を想像してみた……


「……旅行に出かけた吸血鬼だな」


 包囲しに来た警官隊をポールに串刺しする破目になりそうだ。


「その分、性能スペックは良いんだから我慢しましょ。諦めが肝心よ」


 そう言うゼファの方も、開かなくても良い悟りを開いてしまった様な口振りだった。お互い、嫌な部分で一蓮托生になってしまったものである。


 まあ、なってしまったものは仕方が無い。

 鬱憤晴らしに持てる限りのアイテムを掻き集めてから、研究所から脱出しよう。


 ――と思っていたのだが。


「そう言えば、やらかしちゃってわね、貴方」

「……てへ☆」

「誤魔化さないで」


 出来るだけ可愛く笑ってみたが、駄目だった。


 今、俺達の前にあるのは、格納庫フロアから上層の階へ移動する唯一の手段であるエレベーターの残骸である。ラスボス前に現れたフル・フロンタルにダビデチックな警備ドローン達と一緒に、60mmAPFSDSで吹き飛ばしたのをすっかり忘れていた。


「どうするのよ、これ。

 まさか、これを登れ、なんて言わないわよね?」


 先に釘を刺されてしまった。

 ええと、他の脱出方法……そ、そうだ!


「大丈夫だ! 俺に良い考えがある!」

「……」


 俺の言葉を聞いて、ゼファは微妙な表情を浮かべた。


――――――――――――――――――――


 と言う訳で、現在俺達は先程まで激闘を繰り広げていた格納庫に戻って来ていた。格納庫の壁――幅100メートル、高さ10メートル――の一面全てがシャッターになっているので、ここから脱出する予定である。

 キュラキュラとゆっくり上がっていくシャッターの向こうから、陽の光が差し込む。格納庫内にも照明はあるのだが、この時間だと外の方が明るい様だ。


 漸く2メートル程開いたので外を眺めると、山水画っぽい世界が広がっていた。

 眼前には深い緑に覆われた急峻な山々。眼下には、その狭間を縫う清流が見える。山の中腹の所々にある帯は、研究所ここへと繋がる道路だろう。来る時には気にしていなかったが、結構長い山道を走っていたらしい。これなら迂回路よりもトンネルを掘った方が早かったんじゃなかろうか。

 真下には襲撃を受けたバス停が小さく見えている。

 それに視線を向けながら、俺は小さな疑問を持った。


「……なあ……」

「どうしたの?」

「どうやって、ここから荷物を入れてるんだよ?」

「さあ……ヘリコプターか飛行機?」

「階高10メートルぽっちで、どうやって進入して着陸するんだよ?

 中東某国の外人部隊でも無理だぞこんなの」

「着艦フックとか?」

「奥行き百メートルじゃ、それでも短すぎるだろ常識的に考えて!」

「別にどうでも良いじゃない。SFなんだし、重力制御でもしてるのよ」

「良いのかよそれで!?」

「サーウッド……貴方、疲れてるのよ」


 ……。


 ゼファに促されるまま大きく深呼吸を繰り返してから、俺は脱出経路について改めて考え始める。まさか格納庫の出口が断崖絶壁の只中にあるとは想定外だった。

 何処かの道路に繋がっていると勝手に思い込んでたからなぁ。


 まあ、それはさておき。

 格納庫から下のバス停までは2百メートルの高さがある。傾斜もアイガー北壁よりはましだが鵯越ひよどりごえよりはきつそうに見えた。


「落下傘か、それこそ重力制御装置でも探して来るか……」

「その必要は無いわよ」


 もう一度アイテムを漁りに戻ろうかと踵を返しかけたところで、ゼファに遮られた。


「どうするんだ?」

「こうするのよ」


 ひょいと横抱きに抱えられる。

 有無を言い出す間も無く、そのまま格納庫から飛び降りられた。急激な浮遊感に続いて降下する感覚に三半規管が翻弄され、思わず彼女の首筋にしがみ付く。


 ゼファは途中にある出っ張りを足場に、左右に跳ねて落下速度を殺しながら下っていった。長い様で短い時間を掛けて、バス停の近くに着地する。


「はい、ご到着」

「あ……あぁ、すまん」


 少しよろめきながらも道路に立って、周囲を見回す。ここで山賊達に襲われてから、現実の時間で約3時間が経過していた。

 濃密過ぎるイベントの連続と、その割りに経っていない時間のギャップに、我知らず溜め息が零れる。


 と同時に頭の中にファンファーレが鳴り響き、眼前に【おめでとうございます! 特別クエスト「研究所の謎を探れ!」をクリアしました!!】とのメッセージが表示された。


「やっと終わったわね」

「ああ。

 全く酷いクエストだったぜ」

「本当、色々ね……」

「特にあの18禁な敵は何だったんだよ……」


「それに付きましては私から説明しましょう」


 ぼやき合っていた俺達の背後から、聞き覚えのある声が掛けられる。

 振り向くと、見覚えのある幼女――山田部長が立っていた。


――――――――――――――――――――


「まずはクエストのクリアおめでとうございます。お疲れ様でした」

「はあ……」

「どうも恐れ入ります……」


 深々と頭を下げてくる部長に釣られて、こちらも何となく丁寧に返してしまう。


「さて、先程頂いたご質問ですが……実は、現在、当社では大人専門アダルトのVRコンテンツを開発中でして、例の二人はそのデータを勝手に持ち出しておりました」

「……本当マジですか?」

「年齢確認とかどうすんのよ……」

「その辺りの検証システムが現在の課題となっております。

 それと平行してコンテンツの開発も進めていたのですが……社内でのセキュリティの不備により、お二人には不愉快な物をお見せしてしまいました。改めてお詫び申し上げます」

「はあ……」

「どうもご丁寧に……」


 もう一度深々と下げられる頭に、こちらまで似た様な返答をしてしまった。

 だが、これだけの為にわざわざ足を運んだとも思えないんだが……


「それで、こちらに来られたのは……何か問題でもあったのでしょうか?」

「いえ、実はお二人にお渡しするの忘れていた物がございまして、それをお持ち致しました」


 山田部長の言葉と共に、目の前にアイテム取引を行うウィンドウが表示された。


「……設計図?」

「はい。これをメンテナンスポッドにセットして頂かないと修理が出来ない仕様になっております」

「えー面倒臭ーい」


 確かにゼファの言うとおりだが、別の考え方も出来そうだ。


「一つお聞きしますが、設計図さえあればサイボーグボディ以外……例えば、リニア・ガンや拳銃等といった物でも修理可能ですか?」

「そこに気付かれるとは流石ですね。

 ポッド内に収まるサイズであれば可能です。

 更に言えば、新規に制作も出来ます。勿論、材料と設計図が揃っている必要がございますし、完成品の性能もPCやNPCが製作した物に比べてかなり劣る事になります」

「ほほう……」


 これは便利な事を聞いたな。

 山田部長の台詞にゼファも好奇心を隠せない様だ。


「それで、その設計図は何処で手に入るのかしら?」

「主な所ではNPCの経営する一部の店舗が扱う事になります。

 後は設計設備を入手したPCに依頼するか、ですね」

「その設計設備は何処にあるの?」

「流石にそれは……今後公開されるクエストやマップで入手して頂く事になります、としかお答え出来ません」

「あっそ」


 確かに、ばらされ過ぎても面白みが無いか?

 目の前のウィンドウに並んだアイテムの名前を確認して、俺は【了承】ボタンを押した。

 ゼファの方も設計図を受け取ったのを確認した山田部長は、「後一つ」と続ける。


「先程ご説明したアダルトコンテンツの事なのですが、出来るだけ内密にして頂きます様、お願い致します」

「率先して喋るつもりは勿論ありませんが、他のプレイヤーさん達にも気付いた方がいるのでは?」

「はい、その可能性はございます。

 とは言え、現在開発中の物ですし、あまり大っぴらに漏れて欲しくはないですから、こうしてお願いに上がっております」

「因みに、導入の予定は何時頃でしょうか?」

「未定です。開発の目処は立っておりますが、発表出来る段階ではございませんので。

 更に言えば、SOO(このゲーム)に導入するかも確定しておりません」


 あー……それで下手な噂が流れると、そっち方面の団体とかが面倒臭い事になりそうだな。


「解かりました。アダルトコンテンツに関する情報は極力漏らさない様に気を付けます。

 ――で、良いよな?」

「ええ、勿論」


 ゼファも流石に神妙な顔で頷いている。まだまだこのゲームを楽しみたいのだろう。


「ありがとうございます。

 それでは、私はこれで失礼致します。

 お引き留めしてしまい、申し訳ございませんでした」


 山田部長が三度みたび、頭を下げる。


「こちらこそ。

 新マップ、楽しみにしてますよ」

「これ以上変なアクシデントは勘弁して欲しいけどね」

「……ご期待に沿える様、精進します」


 こちらもお辞儀を返して、ゼファの電動バイクへと向かう。偶然なのか運営のサービスなのか、バイクは無事に残っていた。しかも大したダメージも被ってなさそうだ。手榴弾の爆発を至近距離で受けていたのに。


「貴方はどうするの?」

「バスで帰る事にするよ」

「ナグールの方で良いなら乗ってく?」


 バイクに跨ってスイッチを入れたゼファから声が掛かった。バイクのヘッドライトが点灯し、カウルに光の線が走る。現実ではお目に掛かった事の無いイルミネーションのギミックだ。

 


「生憎、手持ちのヘルメットが無いんで、また今度に――」

「取り締まる警官は都市まちの中だけよ?」

「……そう言う問題か?」


 結局、次のバスが来るまで10分程待つ必要があったので、お言葉に甘える事となった。


「しっかり掴まった?」

「お……おう」


 本来は一人乗りであろうシートに無理やり跨って、ゼファの腰に手を回す。体格ボディサイズのお蔭でシートには何とか納まる事が出来たが、手の長さがギリギリ過ぎだ。こいつの腰がもう少し細――


「何か言った?」

「――いいえ、何も申しておりません」

「宜しい」


 何時の間にか俺の旋毛に突き付けていたリボルバーをアイテムボックスに仕舞って、ゼファはアクセルをゆっくりと開けてた。バイクが静かに動き出す。


「心配しなくても飛ばさないから」


 言葉通りの丁寧な操縦で、バイクは谷沿いの道を滑らかにのんびりと走っている。

 格納庫から見下ろした時にも思ったが、ここの景色は田舎の県道を髣髴とさせた。俺の中で懐かしさが広がっていく。


「今度は自分で走ってみるかな……」


 バイクか車の購入を検討してみるか。ヴァーチャルだから税金や車庫代なんかの余計な出費も無いだろうし、多少の無茶をやらかして事故っても怪我する訳でもないし、未運転者ゴールデン・ペーパーでも大丈夫だろう。


 そんな事を考えていると、目の前の山と山の隙間の向こうに都市らしい物が見えてきた。フォーチュンと違って高層ビルの少ない、平たく広がった都市だ。あれがナグール市なのだろう。


「後10分くらいでナグールに着くわ。ちょっとペース上げるわよ」


 風越しにゼファの声が聞こえる。

 俺はゼファの腰に回した手に少し力を込め直した。

 バイクのスピードが少しずつ速くなる。


 緑の匂いが荒地の砂っぽさに紛れていく事に後ろ髪を引かれながら、俺達は新たな都市を目指していた。

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