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第26話 戦女神と勝利の女神

 意気揚々と乗り込んでみたものの、格納庫の中にはラスボスらしい影は見当たらなかった。


「入ったら即登場、って訳じゃないのね」

「センサーらしい物は見えなかったけどなぁ」


 ゼファと二人で周囲を見回すが何も見付からない。外へ続いているシャッターとは別に、やはり天井まである巨大な扉が右手の壁に張り付いている。ここからラスボスが現われるのだろうが、今のところ動きだす気配が無い。


 とりあえず中央辺りまで移動してみたら、床に一辺10センチメートルの正方形が真っ赤なペンキで描かれていた。まさかと思ってその周囲を叩いてみると、一部がスライドしてボタンが出てきた。


「……これで髑髏でも描いてあったら自爆ボタンだな」


 呟きながらボタンを押したが……


「……何の反応も無いわね」

「違ったかな――」


 ぼやいた俺達の頭上の空間が歪んで、光り始めた。

 光は膨れ上がり、五つに枝分かれする。その内、下へ伸びた2本は俺達の左右で巨大なサンダルを履いた足になった。上へ向かった3本が頭と左右の腕を形作ってる。


 光が収まった後に残っていたのは、全長7メートルのギリシャ彫刻だった。ただし今回は女性像で、古代ギリシャ風の鎧と盾と槍を装備している。盾の中央には髪が蛇になった女性の頭部が彫刻されていた。


「えっと――戦女神アテナ?」


 俺達を跨ぐ形で現れた巨大な彫像っぽいラスボスを見上げながら、ゼファが呟く。俺も釣られて上を眺める。

 ――どうやら、この戦女神は鎧の下には何も着用しない派らしかった。


「わぁお……ファンタスティッ――」


 思わず零れた賞賛の言葉が終わる前に、強力なプレッシャーが真横で膨れ上がった。即座に距離をとろうとしたが間に合わず、体重の乗った良い蹴りが胸に炸裂する。気が付けば、床を3バウンドして壁際に到着していた。


「ぐふぅ……死ぬかと思ったぜ……」

「他に言い遺す事は?」


 蹴り飛ばした俺を壁際で待っていたゼファが、絶対零度以下の視線で見下ろしていた。俺の喉仏に当てた大太刀を、ゆっくりと食い込ませてくる。


「ま、待て! 話せば解かる!」

「問答無用」


 ヤバイ。この眼力は本気マジで刈る気だ――主に俺の首を。


 だが、その時、奇跡が起こった。


 足元に居た筈の俺達を探していた戦女神が漸くこちらに気が付き、近寄って来たのだ。

 ゼファは響いてくる足音を不満たっぷりの鼻息で出迎えて、大太刀を俺の首筋から戦女神の方へと向け直した。


「私が囮をやってあげるから、貴方は援護をお願いね」


 言い残したゼファの姿が消え、代わりに黄色とピンク色の光の筋が、戦女神の周囲を絡め捕る様に飛び回る。時折巨体に当た(ヒットす)る斬撃が派手な光を散らしているが、大したダメージにはなっていない。

 戦女神が巨体に似合わないステップと槍捌きで斬り付けられる大太刀の一部を弾き返しているのと、攻撃が当たっても引っ掻き傷程度にしかなっていない為だ。


「ったく、そんな無茶苦茶に動かれて、素人おれが避けながら撃てると思ってるのかよ……

 砲弾たまはそっちで避けろよ!」


 俺は戦女神目掛けて砲撃を開始した。

 砲弾は上半身に命中するが、やはり大したダメージにはならない。


「畜生!」


 毒づきながら2発3発と撃ち重ねるが、命中はしてもダメージにならない。

 戦女神のHPバーは、二人の攻撃を合わせても5パーセント削れただけだ。

 もっとも、こちらもダメージは貰っていないから、双方共に決め手を欠いている状況である。


「何処かに弱点があると思うんだが……」


 俺は足を止めて、もう一度拡張能力を起動した。このままでは手詰まりのまま疲労を蓄積して凡ミスを犯す未来しか考えられない。そうなる前に戦女神の攻略方法を見つけなければ。


 頭の中に雪崩れ込んでくる情報から戦女神に関する物だけに意識を集中するが、俺のパラメータが低い為か有益な情報が見付からない。ゼファがあいつの背中に付けた傷の大きさと数なら直ぐ判るんだが――


「サーウッド、危ない!」


 弱点探しに夢中になり過ぎていた俺は、ゼファの叫びに気付くのが遅れてしまった。

 目の前に迫る戦女神の盾の中央にある女性の顔――メデューサの瞼が持ち上がっていく。顕になる瞳からは毒々しい緑色が溢れている。


「拙い!」


 慌ててバックステップで距離を取ろうとしたが、間に合わない。メデューサの瞳から発せられたレーザーが俺に襲い掛かる。


 交通事故とかでぶつかる瞬間はスローモーションになると言うのは本当だったんだなぁ、なんぞと迫り来る光を見ながら場違いな事を考えていると、それ以上の速度で真横に引っ張られた。

 獲物に逃げられそうになったレーザーが逃がすまいと左足に追い縋る。

 視界の片隅に「部分麻痺」のステータスアイコンが点き、赤い太文字のヘッドラインが左足の機能停止と回復までの時間を報せてくる。


「何ぼうっとしてんのよ!?」

「悪い、助かった」


 戦女神から大きく距離を開けた場所に俺を運んでくれたゼファに礼を言いながら、リニア・ガンを向ける。彼女のメダルが黄色く輝いているのを見ながら、その向こうにいる戦女神を狙って引き金を引く。

 砲身から砲弾が飛び出ると同時にゼファの体が掻き消え、彼女を貫き損ねた砲弾は妙に動きの鈍い戦女神の右肩に命中した。戦女神のHPが5パーセント程削られる。

 残り9割強、といったところか。


「ちょと、当たったらどうすんのよ!

 全力(マッハ10)で避けなきゃ危なかったわよ!?」


 ゼファのクレームに戦女神を指差して答えると、振り向いたゼファが息を飲んだ。


「一体、何やったのよ……?」

「何にも。さっきのレーザー攻撃で奴の防御力が下がっただけだ」


 俺は砲撃を続けながらゼファの質問に答えた。戦女神が動きを止めてビームで浪費したエネルギーをチャージしているこのチャンスを、出来るだけ逃したくない。


「……どう言う事?」

「まず、あいつの防御力の高さはボディの表面にエネルギーを流す事で得られている。一種のバリアだな」

「それって、エネルギーの凄い無駄遣いじゃない?」

「そうだな」


 盾に2発、本体に5発を命中させた時点で戦女神のエネルギーチャージが終わったらしく、ダメージが入らなくなった。チャージに要した時間は約30秒。

 動きを止めていた戦女神が、再びこちらへ向けて近付いて来る。


 左足の麻痺が回復していない俺を庇う為に、ゼファが戦女神に飛び込んで行った。今度は拡張能力を使わず、通常のスピードで戦女神の槍と切り結んでいる。

 麻痺の回復までに、後1分弱。


 戦女神のHPは残り三分の二程だろうか。

 とりあえず、何もやらないよりはと戦女神の背中に砲撃を再開すると、五月蝿そうに上半身をこちらへ捻る。

 その隙を狙ってゼファが拡張能力を使って跳び上がった。音速を突破した突きが戦女神の腰に当たって弾かれる――筈が綺麗に刺さった。


「へ?」


 思わず間抜けな声を上げた俺を尻目に、その場で崩れ落ちる戦女神。HPが一気に減って、残り4割を切っている。


「一体、何をやらかした……?」

『刀身に乗せるエネルギーを増やしただけよ』


 俺の呟きにゼファが無線で回答する。


『貴方、さっき言ったでしょ、『余分にエネルギーを流してバリアを張ってる』って。

 だから、こっちも刀に流すエネルギーを増やしてバリアを中和したの』


 俺のコンバットナイフやゼファの大太刀は、それだけでも良く切れる刃物ではあるが、刀身にエネルギーを注入する事で「切れ味」を高める事が出来る。これらの刃物がピンク色に光っているのは、注入したエネルギーによるものである。

 その注入するエネルギーを増やして、余剰分でバリアーを相殺した訳か……


「出来るのかよ、そんな事」

『出来たじゃない』


 ……凄いね、思い付きの大当たり。


 だが、呆れていられる時間は、それ程長くなかった。

 ゼファが戦女神の腰に、二度三度と斬り付けていると、俺の背後にあった大扉――最初、ここからラスボスが現れるのかと思っていた奴だ――の開く音が聞こえきた。

 奥に並んでいるのは小型の――それでも体長は2メートルありそうだが――の戦女神達だった。武装は大きい方の戦女神と違い槍だけだ。


 敵の増援に気付いたゼファが距離を取った隙に、戦女神が立ち上がった。腰に切り込みが入ったせいでフラフラとしてはいるが、それでも槍をゼファに向けて構えている。


「そっちは任せて良いか?

 こっちの雑魚は引き受ける」

『出来るの?』

「まあ、やってみるさ。

 こんな事もあろうかと用意はしてある」


 ゼファに大口を叩いて、俺はリニア・ガンの弾種を二つ目のランドセルに切り替えた。開ききった大扉からこちらへと行進してくる小型女神の団体に向けて、砲撃を開始する。

 音速を超えて撃ち出された砲弾が小型女神達の前で破裂して、中に詰まっていたベアリングのシャワーを浴びせ掛ける。

 前から3列目までが蜂の巣になって倒れ込み、ガラスの破片になった。


「ううむ。思ったよりも広がらないな」


 ぶつくさと文句を垂れ流しながら、俺は散弾を撃ち込み続けた。1分少々でランドセルを空にすると、今度は残っていたAPFSDSに切り替えて砲撃を続ける。

 だが、全ての砲弾を撃ち込み終わっても小型女神は次々と現れ続けた。既に7百以上は消し飛ばしているのに打ち止めになる気配は無い。


「ふう……しつッこいね」


 俺はリニア・ガンの砲身をランドセルの左横にあるラッチに掛けて、右側の隙間に差していた縦笛――もとい、特殊警棒を引き抜いた。柄からケーブルを引き出して右手のコネクタに接続すると、伸ばしたロッドがピンク色に光り始める。形状が形状だけに切れ味は期待出来ないが、ダメージは増えてくれる筈だ――多分。

 左足の麻痺も既に回復している。


「さて、チャンバラなんぞ久し振りだが、どこまで巧く立ち回れるかな?」


 良く考えたら邪魔なだけのリニア・ガンセットをその場に脱ぎ落として、俺はアイテムボックスからコンバットナイフを取り出した。右手に警棒、左手にナイフを持ち直す間に、小型女神達との距離が5メートルを切る。仕方ない、リニア・ガンは後で拾う事にするか。


「でりゃあああああ!」


 大声で勢いをつけながら、小型女神へ向かって突撃した。

 最前列の小型女神達が持っていた槍を突き出してくるのをスライディングで躱わして、林立している脛を警棒とナイフで刈りまくると、バランスを崩した小型女神達が仲間を巻き込みながら倒れていく。

 意外と警棒の切れ味が良く、まるでビームソードみたいだった。その分エネルギーを浪費している訳だが。


 とにかく小型女神が密集している所に飛び込んで、手当たり次第に斬り付けていく。

 あちらも簡単にやられてくれる訳ではなく、俺から距離を取っては槍を突き出してくる。

 懐に潜り込もうと動き回る俺と、それから逃げて反撃する小型女神達で乱戦が続いた。


 倒し切れていない為に俺のダメージは少しずつ増えているが、全ての小型女神をこちらに足止めする事には成功している。無限かと思っていた小型女神も、どうやら在庫を無くす事には成功した様だ。

 ちらりとゼファの様子を見ると、大女神のHPが残り1割を切っていた。


「よっしゃ、後一息」


 思わずガッツポーズを取ると、動きの止まった脇腹に槍が刺さる。

 硬直する俺に、恐れていた槍衾が――数は減っているものの――襲い掛かってきた。反射で頭を守ったが、全身に20本程が突き込まれる。HPが一気に半分を割り込んだ。


「畜生!」


 体勢を立て直そうとするが、周囲を無傷の小型女神20体に囲まれて、逃げ場を無くした後だった。


「絶体絶命、か……」


 折角ここまで来たのに死に戻りは虚し過ぎるが、HPが急激に減った事による行動制限のバッドステータスが付与された状態では是非も無し、だ。


 小型女神達が、じりじりと包囲の輪を狭めて来る。

 もう駄目かと観念したところで、周囲を黄色とピンクの光が乱舞した。残っていた女神達が、次々とガラスの破片に変わっていく。


「お待たせ。何やってるのよ?」

「……千柱の女神を相手にチャンバラ」


 安堵の余りに腰が抜けた俺を、全ての女神を片付け終わったゼファが呆れて見下ろしていた。

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