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第25話 ラスボス前にウォーミングアップ

 ゲームにログインする時と同じ光に包まれる。

 それが消え去ると、研究所の廊下に佇んでいた。隣に居るのはゼファだけ。トリアージと山田部長の姿は無い。


「ここにラスボスが居るのね」

「ちょっと待ってくれ」


 キョロキョロと周囲を見回しているゼファを横目に、俺は拡張能力を起動した。起動コマンドを叫ぶ必要も無く、起動したい旨を考えるだけで良いのは助かる。その手のヒーローっぽいノリをやらかすのは年齢的に辛い。


 「GOOシステム TYPE-Y」と呼ばれるサイボーグボディの特徴は索敵能力にある。

 現在の俺のスペックで、半径数百メートル内の地形や移動物の状況が把握出来る。更にINTや習熟度が高くなれば、範囲が広がったり、通信内容の傍受まで可能になったりするらしい。

 そして拡張能力を利用すると、その範囲が格段どころではなく広くなる――なり過ぎる。説明書が間違っていなければ、半径10万光年内の物体を恒星やブラックホールから蟻まで全て認識し、通信の傍受どころか介入・改竄もお手の物。更には対象物の内部構造の解析が素粒子レベルで可能になる。……それって意味あるのか?

 その内、アカシックレコードにもアクセス可能とか言い出しそうで、ちょっと怖い。


「……目の前の大通りを百メートル真っ直ぐ行けば、ラスボスの待ち受ける格納庫だ。途中の枝道から備品室や研究室に入れる。そこである程度の装備は整えられそうだ。

 フロアからの出口は背後うしろのエレベーターと格納庫の出口だけだな」

「便利ねぇ、拡張能力。敵はボスだけ?」

「いや。50メートル地点から向こうには警報装置がある。引っ掛かれば警備用ドローンが出て来る様だが……残念ながらドローンの種類までは不明だ」

「つまり、こちら半分で戦闘準備を終えてから、向こうに現れる雑魚を掃討。それから御本尊メインディッシュって訳ね」

「多分な」


 首もとから黄色い光が萎んでいくのを感じながら、斜め上から降ってくるゼファの声に答える。中々に新鮮な感覚だ。

 今回の拡張能力使用時間は1分5秒。残り使用可能時間は18分55秒となっている。因みに、この使用可能時間は拡張能力を2時間使わなければ10秒回復するらしい。長いのか短いのかは判らないが。


 ともかく、俺達は索敵結果を基に装備を整えていく事にした。

 ゼファについては、それ程問題は無かった。今までの装備がそのまま使える上に、置いてあるのが通常の店でも買える物が殆んどだったからだ。まあ、今回に関しては、もう一つ理由があるんだが――それは後程。

 だが、俺の装備については丁度合うサイズが皆無だった。こういうボディを用意しているんだから、それに対応する装備も置いてあって然るべきではなかろうか。


「結局、使えそうなのはコイツくらいかよ……」


 よっこらしょ、と左脇に抱えたのは、直径10センチメートル、長さ2メートル弱の金属パイプ風の武器だ。片端が若干太くなり穴も塞がれて、小さな矢羽の様な突起が3ヶ所付いている。

 名称を「60mm携行型リニア・ガン」と言うらしい。昨日聞いた話が既に過去の物になっていたとは、正に科学は日進月歩である。

 

 リニア・ガンは、矢羽の少し前にある穴から砲弾を込め、中央付近にあるグリップと引き金で発射する仕組みになっている。砲弾の供給は、伸び縮みする帯状の給弾コンベアでパイプとランドセル――サイズ、デザイン共、今のボディにぴったり過ぎるんだが――を繋ぐ事で自動化出来るらしい。因みに、ランドセル一つにつき砲弾20発だそうだ。

 ……グリップの太さと言い、ランドセルと言い、お子様ボディに合わせているとしか思えないのだが……あれか? アンバランスにでかい得物をぶん回すのが格好良いとか、そんな話か?

 それともランドセルか? ランドセルなのか!?


「何を今更。ランドセルでしょ」

「……駄目を押すんじゃねぇ。それと、他人の思考を読むな」

「読まれる様な表情をしない事ね。

 似合ってるわよ、ランドセルにセーラー服」


 うぷぷぷ、と言わんばかりに良い笑顔を見せるゼファを、俺は睨み上げる事しか出来なかった。現在の俺の格好――セーラー服に半ズボンとハイソックスの組み合わせ――はゼファの強制リクエストに依るもので、俺の趣味では決して無い。

 対するゼファの方も、「一人で恥ずかしい格好は嫌だ」と言う俺の主張が通った為、セーラー服に、こちらはミニスカートの高校生っぽい姿である。流石にルーズソックスは却下されたので、オーバーニーソックスが絶対領域を主張している。確かに似合ってはいるよな。体形も顔も結構若づく――


「何か言った?」

「――いいえ、何も申し上げておりません」

「ならば宜しい」


 視線以外は笑顔のまま、ゼファは俺の首筋に当てていた大太刀を鞘に納めた。刃渡り2メートルの得物で見事な居合いである。当人曰く剣道2段だそうで、サイズはともかく現実でも持ち慣れている分使い易いらしい。


 安堵の溜息を吐き出した俺は、リニア・ガンのグリップの先端からケーブルを引き出して、左腕の内側に隠れているコネクタに差し込んだ。このコネクタはサイボーグボディの特徴の一つで、接続された機器とはエネルギーやデータのやり取りが出来たりする。

 因みにリニア・ガンの消費電力はエネルギーパックで賄える量ではなく、使用する為には外部電源を別途用意するか、俺みたいにボディのエネルギージェネレータ――小型核融合炉なのか、もっとSF的な、ぶち凄いエネルギー発生システムなのかは知らないが――から供給するしかない。実質サイボーグ専用火器と言う事なのだろう。


 ゼファの方も、流石に通路で大太刀を振り回すのは控えたのか――一応、通路の幅は3メートル位はありそうだが――鞘についているベルトで左肩に掛け、右手にはレーザー短機関銃を持っている。


「さて、それじゃ往きますか」

「そうね」


 一通りの準備を終えた俺達は連れ立って大通りを進み、格納庫までの中間点で足を止めた。

 ここから20センチメートル先に、赤外線のトラップが張っている。このトラップを作動させると、警備用のドローンが出現する筈だ。


「敵の出現位置は判る?」

「天井からだな――いくぞ」


 拡張能力を使った時に得た情報を思い出しながらゼファの質問に答えて、俺はリニア・ガンの砲身で赤外線を遮った。

 途端、大通りの天井が一斉に消え失せ、警備ドローンが大量に落ちて来る。古代ギリシャの彫刻の様な、全長180センチメートルの男性像だった。しかも全裸で謎の修正エフェクトは無し。唯一の救いは行動がゾンビ顔負けに緩慢な事だろう。


「キャァァ露出狂へんたいぃ!!」


 ゼファが悲鳴と一緒に短機関銃を乱射する。露出狂ドローン達は幅3メートルの通路一杯に林立しているので、適当に撃っても外れる事は無かった。ただ、その筋肉(装甲)は結構頑丈な様で、2、3発を当てた位では大したダメージにはなっていない。

 加えて、俺達の背後――歩いて来た通路――にまで露出狂達が大量落下して来たのがレーダーで確認された。無理に拡張能力を使わなくとも、周囲の状況が生身だった時に比べて判り過ぎる。


「前は任せた!」


 俺は、後ろの通路に落ちて来た露出狂達に対処する為に反転し、腰だめに構えたリニア・ガンの引き金を引いていた。思ったよりは小さな反動と振動を残して打ち出された60mmAPFSDSが、運悪く射線上に立っていた露出狂達を木っ端微塵にしながらスタート地点のエレベーターに着弾し、爆風を返してくる。

 音速を超えた砲弾の衝撃波ソニックブームとエレベーターを破壊した衝撃波に翻弄された露出狂達が、バランスを崩して倒れた。


 ランドセルから砲身へ送り込まれた砲弾が射撃可能な状態になったのを確認して、露出狂の固まっている所を狙って次弾を撃ち出す。ケーブルでリニア・ガンと接続しているので、給弾プロセスや射撃プロセスといったリニア・ガンの状態は視界の片隅に常時表示されている。ついでに言えば、引き金を引かなくともケーブル経由で射撃命令を送る事も可能だ。


「何よこれ! こんなの出て来るなんて聞いてないわよ!」


 俺への文句を叫びながらゼファは弾丸を吐き出した弾倉を落とし、太股に巻いたベルトから新しい弾倉を装着した。どうやら、それで打ち止めらしい。


「知るか! まさか後ろからも来るとは、一生の不覚だぜ!」

「あんた、一生の不覚を後何回するつもりよ!?」


 全ての弾丸を撃ち尽くしたゼファが短機関銃を投げ捨てる。

 俺は丁度発射準備が完了した3発目を慌てて撃ち出して、その場に伏せた。

 間髪を入れずに、俺の胴体があった空間を刃渡り2メートルが駆け抜ける。右手だけで大太刀を構えたゼファが柄頭からケーブルを引っ張り出し、自分の右腕のコネクタに接続した。刀身が鮮やかなピンク色を放ち始める。


「覚悟しなさい、変態共!」


 ゼファが全裸で蠢く彫像達に向かって吐き捨てると、彼女の首輪にぶら下がっているメダルが黄色い光に包まれた。同時にゼファの姿が消え、黄色とピンク色の光の帯が通路内に出現する。

 縺れ合う様な軌跡が薄れ始めたところでゼファの姿が消える前と同じ場所に大太刀を振り抜いた体勢で現れた。尾を引いたメダルの光が、マントかマフラーをたなびかせている様に見える。

 刀身を彩っていた光が消え、体を起こしたゼファがケーブルを外した大太刀を鞘に納める。

 鍔が鯉口に当たる音を待っていたかの様に、露出狂達のボディが切り口に沿って崩れていった。


「ほんと、詰まらない物を斬らせてくれるわねぇ」

「俺に言うな、俺に」


 何処ぞの大泥棒の子孫みたいな愚痴を吐くゼファの声を聞きながら、俺は体を起こした。目の前では彼女の残した黄色とピンクの軌跡が消え去りつつある。

 ほんの数秒余りで通路に居た全てのドローンを――前方だけでなく後方まで――大太刀の錆にしてしまったらしい。


「それにしても、とんでもない速さだったな」

「あれでも、せいぜいマッハ2かそこらよ?

 習熟度が上がれば、光速の99.9パーセント位までは出せるみたい」

「いや、その理屈は可笑しい」

「私に言わないでよ。

 それから何で笑うのよ?」

「笑うしかないだろ、光速近くまで加速するとか」

「……意味解かんない」

「大体、何処で使うんだよ、そんなスピード」

「……宇宙空間?」

「推進力は?」

「その時になれば、何か見付かるんじゃないの?」

「笑うか呆れるか以外の感想が出て来んな」

「良いじゃない」

「悪いとは言ってない。

 使った弾薬は補給しとくか?」


 むくれるゼファに声を掛けると、当たり前のように頷かれた。

 まあ、無料タダだからな。遠慮したら罰が当たるってもんだ。


 可能な限りの武器弾薬を補充し直した俺達は、ラスボスが待つ格納庫への扉の前に並んだ。

 ゼファは大太刀を抜き放った鞘を短機関銃と共にアイテムボックスに仕舞い込んでいた。ラスボスには大太刀一本でいくらしい。

 俺も使った分の砲弾をランドセルに補充して、更にもう一つのランドセルを重ねた。それぞれのランドセルから伸びた給弾コンベアを別々の給弾口――このリニア・ガンには合計3個の給弾口がある――に接続して、40発を連射出来る体制にしておく。

 そういえば、子供の頃にも友達のランドセルを使って、似た様な事やって遊んでいたなぁ……。


「忘れ物は無いか?」

「無いわよ。

 往きましょうか」

「了解」


 二人して観音開きの扉を開けると、10メートル程の高い天井と百メートル四方のだだっ広い空間が現れた。扉と反対側の壁は全面がシャッターで、巨大な荷物も楽々と搬入出来る様になっている。


 果たして、どんなラスボスが待っているのか――

 期待と不安に包まれながら、俺達は格納庫の中へと足を踏み入れた。


「あ、そうだゼファ。お前、今後は赤い服禁止な」

「……何でよ?」

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