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第24話 説明会

 それから俺と山田部長、ゼファ、トリアージで喧々諤々の話し合いが行われた。


「――つまり、あの二人の言っていた『実験』と言うのは、所謂『催眠誘導』って奴を使ってプレイヤーを操る事だった、と?」

「はい。この領域シェル――ここはゲームとは別のプログラム領域になるのですが――内での行動記録ログを追ったところ、その様に判断出来るプログラムの実行記録が残っていました」

「ええと……催眠誘導って、二昔かそれ以上前の映画に仕込まれてたって言う?」

「それはサブリミナル効果って奴だな。昔、それを利用した殺人事件の起きるドラマを見た事がある」

「映画館でコーラとポップコーンがバカ売れしたって言うのは、嘘だったそうですけどね。

 実際のサブリミナルは、かなり限定された条件でしか効果が出ないそうですが」


 ゼファと俺の会話に重々しく落ちを付けてから、幼女――もとい、山田部長は説明を続けた。


「それはそれとしまして、今回使用が確認されたプログラムでは、指定された対象の命令を聞く事で脳内の快楽神経を刺激する処理ルーチンが見付かり――」

「ちょっと待ってよ。それじゃ催眠どころか洗脳じゃない?」

「想定どうりに作用すれば、確かにそうなりますね」

「いや、確かにそうなるじゃなくって――」

「実際には、そこまで強い刺激は与えられないんですよ、コネクター(ハード)の仕様上」


 訝しげなゼファの視線を、至極真面目な顔で受け流した山田部長がトリアージへとパスする。

 受け取ったトリアージは空中に脳の立体模型を表示した。


「それに付きましては、私の方からご説明致します。

 まず、こちらのモデルをご覧下さい――」


 と、脳内における感覚器からの情報を処理するメカニズムの解説を皮切りに、コネクターから出力される電磁波による刺激が如何に微弱な物であるかを懇切丁寧に語っていく。

 その様子と説明の内容からして、VRコネクターを悪用した洗脳を考えた人間はかなり居たのだろう。その対処についても色々と考えられ、実行されている訳だ。


「――と、この様に標準規格のプロトコルではニューロンネットワークへの影響は最小限に収まっています。勿論、個人差による影響の大小はございますが、それを加味しても洗脳と呼べる程の効能は期待出来ません。

 納得頂けたでしょうか?」

「ええ、多分……」


 狐に鼻を摘まれた様な表情を浮かべて、ゼファは納得した――と言うか、専門的な話で煙に巻かれたみたいだ。


「それでは、二人の今後の処遇に付きましては、どの様になりますか?」

「先程説明しました通り、調査が済むまではGMとしての仕事からは離れ、調査結果によって処分を検討すると言う事で――」

「本当に、そう出来ますか?」

「――」

「ここだけの話にして頂きたいのですが、我々では彼等を処分出来ません」


 俺の質問に思い当たる節があるトリアージが言いよどむと、山田部長が部下の言葉を引き継いだ。それに慌てたトリアージが部長に視線で訴えるが、部長の方は彼女の訴えに片手を挙げただけで更に続ける。


「実は、このプライベート・マップの管理に付きましては、業者へ委託した形になっています」

「え……新マップ開放クエストなんて、重要な部分の管理を外注してんの?」


 素人考えだと、ゼファの疑問どおり、今後の重要な展開に繋がるであろう部分を自分達で管理しないのはおかしく思える。


「しかも、委託先がワンポー・エレクトロニクスときてるからな」

「え?

 あそこ、ハードウェア・メーカーじゃない……しかも良い噂を聞いた事が無いわよ?」


 眉を顰めるゼファと、目尻が痙攣しているトリアージ。山田部長は流石にポーカーフェイスだが、一度だけ眉が上下している。

 ワンポー社はこの数年で急速に伸びて来た企業だ。俺が使っているIHEL社のVRコネクターもワンポー社が製造している。本社こそ台湾にあるものの、主要な工場や研究所は全て中国大陸に置き、実質は中国政府が最新技術の研究開発と外貨獲得の為に設立した国営の組織だ。


 しかも開発したと言われる技術の大半が外国企業から不法に入手した物と言われている。とある電子機器メーカー――ここも黒い噂の耐えない、だが世界でも有数の大企業だったのだが――がワンポー社の技術情報を盗もうとして逆に自分達の持つ情報を吸い上げられてしまい、倒産寸前にまで追い込まれたのもここ最近の話だ。


「……よくご存知ですね」

「先程気絶する直前に、そんなデータを見掛けたもので」


 半音下がった声の山田部長に、出来るだけ何でもない口調で答える。何故あんな情報が見えたのか全く不明なのだが、知ってしまった物は仕方がない。

 暫く俺を見詰めてから、山田部長は溜め息を吐き出した。


「ご指摘の通り、今回の開放クエストの管理は、IHEL社からワンポー社を使ってほしいとの依頼がありました」

「そして、それがそのまま通った、と」

「断る理由がありませんでしたから。

 それに、当ゲームがサービスを開始した時とIHEL社が新型コネクターを発売した時期が近い事もあってタイアップ企画を行っていた事もありましたし……」

「私もそのタイアップコネクターを買ってゲームを始めたのよ。

 最初はアメリカ1サーバに居たんだけど、日本サーバが稼動する時に、こっちへPCを転送(引越)したんだけどね」


 腕を組んで眉間に皺の寄った頭を左右に振る幼女を眺めながら、ゼファがしみじみと呟いている。そんな昔の事でもないだろうに、懐かしいのだろうか。

 と、思ったら――


「えええ!? あの、全世界で5千セットしか販売しなかった、ウルトラスーパーゴールデンデラックスレアを買えたんですか!?」

「偶々、アラバマの電気屋に行ったら最後の1個が残ってたのよ」


 トリアージが憧れ全開の熱視線をゼファに照射し始めていた。いや、そこまで珍しいのかよ……って言うか、何故アラバマの電気屋?


「日本に回って来たのは10個あるかないか。殆んどはアメリカで売れたとは聞いていましたが……私も初めてお会いしましたよ、ラッキーコイン・バッヂのオリジナルを持っている方に」


 山田部長までしみじみと語り始めた!?


「……そのラッキーコイン・バッヂってのなら俺も持っているんだが、それとはまた違うのか?」

「ええ!? まさか貴方も!?」

「いや。俺のは知り合いが雑誌の懸賞で当てたそうなんだが……」

「それでしたら、日本サーバが稼動した時に国内のゲーム雑誌とタイアップした第2期のラッキーコイン・バッヂですね。性能(パラメータ上)の差はありませんが、そちらは国内に5百個程出ていますから、オリジナル程珍しい訳ではありません」


 何か、山田部長がダイザみたいになってるぞ。その内、「説明しよう!」とか言い出さないだろうな。


――――――――――――――――――――


「……そろそろ元の話題に戻っても宜しいでしょうか?」

「「「はい。お待たせ致しました」」」


 初心者には良く判らないレアハードの話題が一段落して、三つ並んで下げられた頭の旋毛を眺めながら、俺は溜め息を吐いた。VR歴5日目の俺には理解出来ない謎の連帯感が盛り上がって消え去るまでに、10分少々の時間が費やされている。


くだんの二人への対処としては、現在GMの業務からは外れており、今後も関わらない様に直接の雇い主であるワンポー社へ依頼する、と言う事で宜しいでしょうか?」

「はい。その方向で善処して参ります」


 重々しく頷いた山田部長に、俺は次の質問をぶつけた。


「それで、この首輪ですが――」

「申し訳ありませんが、外す事は出来ません。それは、そのサイボーグボディがクエストで入手したレア装備である事を示す証明ものですから」


 今度は部長の代わりにトリアージが答える。

 俺は疲労感を混ぜた生返事を返しながら、咽喉もとの首輪にぶら下がっているメダルを触ってみた。自分では見えないが、5百円玉とほぼ同じ位の大きさで、表には「GREAT OBJECT ORGANIZE SYSTEM」、裏には「TYPE-Y sirwood」と刻まれているらしい。

 因みにゼファの場合は、表は同じで、裏が「TYPE-H Zefa」と刻まれていた。

 正に認識票ドッグタグである。


「この、『グレート・オブジェクト・オーガナイズ・システム』と言うのは?」

「『超遺物集積システム』と言う、ゲーム上での設定の一つです。

 このGOOシステムは、超古代文明の遺跡から発掘された遺物を加工した特別な機能を持ったサイボーグの仕様を指します」


 特別機能か……そう言えば――


「拡張能力、って奴ですか……」


 あのスーツ野郎がそんな事を言ってたな。


「ご存知でしたか。詳しい内容につきましてはメニューにありますので、そちらをご覧下さい」

「この『TYPE-H』って言うのは何かしら?」

「GOOシステムのサイボーグには、機能別に9種類のタイプが存在します。その内のH型と言う意味です。

 なお、サイボーグのボディと機能の種類はランダムで決定されますので、変更出来ません」


 トリアージは俺達の質問にサクサクと答えていく。そろそろ切り上げたいのだろうか。

 それならば、ついでに関係の無い質問もしてみるか。


「個人的な疑問なんですが、装備や衣服にサイズがあるのは何故でしょうか?

 素人考えでは、データなんだからPCの大きさに関係なくサイズを自動調節すれば良い様に思うのですが」

「それに関しましては、年齢性別による服装の区別を出来るだけ自然に導入する意図から採用されました。

 ……ここだけの話、『自分の着られなかったサイズが着られた』と、一部のプレイヤーには好評なんです」

「……な、成る程」


 トリアージの説明に頷くゼファを横目に見ながら、俺は納得するしかなかった。本当に、色々な考え方があるもんだ。


「他に質問が無い様でしたら、この辺で終わらせて頂きます。

 それと、これからゲームをプレイしている時に、お気付きの点がございましたら、私かトリアージにご連絡下さい」


 そう言いながら、山田部長は俺達に小さな箱を渡してきた。押し込み式のボタンが一つある以外は飾りも何も無いシンプルな直方体だ。


「このボタンを押して頂けば、専用のアドレスへ直接連絡出来る様になっています。プレイ中に体調の不良等を感じられた時は、是非、お願い致します」

「……万が一、って事ですよね?」

「はい。理論上は何の弊害も無い筈ですが、この件に関するストレスですとか……後、通常のプレイでも乗り物酔い等で気を失われる方もいらっしゃいますから」


 説明を聞いた俺とゼファは、このボタンをアイテムボックスへ片付けた。使う必要が無いとは思うが……まあ、無い事を祈ろう。


「それと、些少ではありますが、このクエストで入手出来るアイテムの一部を差し上げます。サイズ以外は同じ物ですので」


 今度はトリアージが、ファンタジー系のゲームで良く見る宝箱を俺達の前に置いた。俺の宝箱の方がゼファの物よりも一回り小さい。

 嫌な予感を抱きつつ箱を開けると、そこには途中で手に入れたロープ――もとい、コスプレ衣装の詰め合わせが山盛りになっていた。


「……俺にバニースーツを着ろと言うのか……?」

「どっちかと言うと、こっちの方が似合いそうよ?」


 ゼファが俺の宝箱からセーラー服を引っ張り出した。何が嬉しゅうて、この年で女子校生の格好なんぞせにゃいかんのだ……


「大丈夫。ちゃんと半ズボンもあるから」

「俺は少年合唱団じゃねぇ」


 もっとマシな服装は入っていないのだろうか。……まさか、これは山田部長の趣味……!?


「いえ、私ではなく、このマップをデザインした者の趣味です」


 心外そうな顔で否定する山田部長。とりあえずは、それで納得しておこう。

 では、そろそろ帰らせて頂こうか。


「この後、我々はどうすれば良いですか?」

「お二人ともクエストのクリア条件は満たされていますので、このままプライベート・マップから退出頂く事も出来ますが――」

「勿論、ラスボスは居るんでしょ?」

「はい」


 どうやらゼファはやる気満々らしい。

 そんな訳で、俺達はラスボスの待ち受ける最終フロアへ転送される事になった。

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