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第23話 貞操とチートは引き換えですか?

一部に際どいと思われる表現があります。

苦手な方はご注意下さい。

 どれくらい気を失っていたのかは判らない。


 意識が戻った俺を迎えてくれたのは、えらく豪華な内装を誇る部屋とご主人様だった。

 ベッドの上で大の字にひっくり返っていた体を起こすと、少し離れたソファで寛いでいたご主人様が俺の事を見ていた。

 局部まで完全開放フルパージ状態なので、とても恥ずかしい。


 ん?

 ご主人様?

 いやまてちょっとまて……何で俺にご主人様が……

 ……うん、いるな。何も問題無い、よな?


「お。目が覚めたか、トンパラチェペリ」

「おはようございます、ごしゅじんさま」


 はわわわ。ご主人様に声を掛けて貰っちゃった。

 あれ?

 このご主人様、さっき、俺の事を小突き回したスーツ野郎……

 それに俺の名前は、そんなトンパラチェペリなんて変な名前じゃなくて、しら……じゃなくて、サーウ……じゃなくて、やっぱりトンパラチェペリで良いんじゃないか。

 ごしゅじんさまにもらった大切な名前なのに、ぜんりょくでひていするなんて……いったい、おれ、どうなっちゃって……


 あれ?

 なんか、うまくかんがえが……


「良い子だ、トンパラチェペリ。さっさと、こっちに来るんだ」


 ごしゅじんさまに言われて、ベッドからおりると、かべにあったかがみに、まっぱだかのおとこのこがうつっていた。

 きんいろのメダルがついたくびわがあるから、これは……お、れ……?


「こら、トンパラチェペリ! 何時まで待たせるつもりなんだ! 早く来い!」

「え……あれ? ……は、い……」


 なにかが、おかしい?

 おかしくない?


「チッ……プログラムの影響深度がまだ浅かったか……良いから来るんだ、トンパラチェペリ!

 子供はご主人様の言う事を聞かなければならないんだろう?」


 いや、まて。

 そのりくつはおかしい。

 幾ら何でも45のオヤジをとっ捕まえてお子様扱いは無いだろう。大体、何だ「ご主人様」って。俺はお前の奴隷じゃねぇぞ。

 しかも、先程ちらりと見えた下卑た表情かおは、お子様にはやっちゃいけない事をやろうとしている奴の表情それだった。

 ゲームの中で貞操の危機とか、そんな洒落にならないプレイはお断りだ。


 ともあれ、先ず考えなければならないのは、どうすればここから無事に逃げられるか、だ。

 考えろ。考えろ。何をやっても良いから、傾向と対策を導き出さなければ。


 鏡に映る、どうやら今の俺の姿らしい男児の目を睨みながら、とにかく考える。

 だが、幾ら考えても良いアイデアは浮かばない。それどころか雑念が脳の中を右往左往して、思考が混沌に塗れていく。

 畜生。何が何だか――


「命令だ、今すぐ俺のところに来い! トンパラチェペリ!」


 ご主人様(変態野郎)の言葉も耳に入らない位、脳の血管に気合を込めて情報を求めて――


 何かが臨界点を突破した瞬間、ジグソーパズルのピースが嵌まる感覚が脳から全身に広がり、首輪に付いているメダルが金色に輝き始めた。

 アイテムボックスに収めてあるアクセス端末がボックス内から勝手に起動し、研究施設のネットワークへリンクする。

 それを経由して、リンク先から辿れる限りのありとあらゆる情報が、滝壺の一点(おれ)へと降り注ぐ。


「糞ッ! 何でGOOの拡張能力エクストラ・スキルが勝手に起動するんだ!?

 ロックは掛けてる筈だぞ!」


 何かを叫んでいるスーツ野郎バカの事は放置して、俺は荒れ狂う情報の波を受け止め――と言うよりは、浴び続ける。


 ゲーム用に構築されたVR空間上での現在位置。

 現在の俺のPCのステータス。

 プログラムが稼動しているサーバー上でのアドレス。

 俺達に何かをやらかした馬鹿二匹の、PC情報から現実での個人情報一式。

 今現在の俺の家の周囲の天気。

 隣の部屋で、サーファー野郎に歩み寄ろうとしているゼファの様子。

 俺とゼファに降り掛かっている状況。

 サンフランシスコの株式市場の値動き。

 いきなり発現したついでに暴走している、情報収集機能(能力)の概要スペックと開発経緯。

 3年後受け取りの小豆の先物取引の相場予想等など……


 要る情報もの、要らない情報、全てが取捨選択する暇も無く雪崩れ込んでくる。


「な、何……が、何だか――」


 結局何も解決出来ないまま、俺は訳の判らない光の荒波に呑み込まれていった。


――――――――――――――――――――


 どれくらい気を失っていたのかは判らない。


 酷い疲れと既視感に苛まれながら目蓋を持ち上げると、正面に見知らぬ女の顔があった。あと、首に負担を掛ける高さの枕が絶妙な弾力で最高である。


「こ――」

「あら、やっとお目覚め?」


 ここは何処で、あんたは誰だ――そう聞こうと思ったら、先を越された。


「今回のクエストの隠し部屋マップの一つらしいわ。

 私の事、判らない?」


 口振りと覚醒してきた思考能力が、漸く女の名前――「ゼファ」を脳味噌の奥から引っ張り出してきた。言われてみれば彼女の顔だが、何と言うか……家族とか親戚とか言われた方が納得出来るな。


「……顔付きが最初とは別人に見える」

「あー……まあね。パーツの配置とか微妙に変えられてるっぽいし」

「前は切羽詰って尖ってる風だったけど、今は男前って感じだな」

「……何よ、それ。

 さあ、それは置いといて、そろそろ起きて(装備)(戻し)てくれない?」


 言われて現在の状況を確認する。

 ……うん、素っ裸に首輪一丁のままでゼファに膝枕をされているな。唯一の救いは局部のボカシが復活している事くらいか。

 可能な限りの素早さで膝枕に別れを告げて、俺はメニューから防具の装備を選択した。――が、体のサイズが全く変わってしまったので装備どころではない。ズボンなんぞ、何処の松の廊下だよ、ってレベルである。

 とりあえず上半身はダブダブのシャツ――防御力の無い、装飾アイテムだ――の袖を捲くる事で誤魔化したが、下半身は腹回りのサイズが違い過ぎてお手上げだった。グレンからスカートを貰った時は、あちらも男性PCだったお陰ですんなり着れたんだが……って、良く考えたら男性用スカートかよ、アレ。


「仕方ないわね。はい、これ」

「……無いよりはマシ、か」


 ゼファが差し出した半ズボンに渋々と足を通す。尻回りはかなり緩めだが、胴は何とかずり落ちずに済む様だ。


「何よ、その言い方。

 まあ良いわ。可愛い物見せて貰ったし」


 ん?

 何だ、このゼファの「全部知ってるわよ」的な生暖かい視線は……ハッ!? ま、まさか――!?


「なあ、もしかして……見た?」

「年相応に被っちゃってるのまで、バッチリ」


 嗚呼。

 チェシャ猫が実在していたら、今のゼファみたいな顔で笑うんだろうなぁ……

 俺は背中を壁に預けながら座り込み、大きく溜息を吐いた。


「で、これは何がどうなってるんだ?」

「そちらに関しましては、私からご説明致します」


 言われて、第三者(もう一人)が居る事に初めて気付いた。

 こちらも何処かで見た様な顔付きと服装だ。


「……スプーン?」

「あら。チュートリアルをプレイして下さった方でしたか。有り難うございます。

 そうですね。このアバターは、当ゲームのマスコットであるSPOON(スプーン)標準頭身フルサイズモデルです。

 申し送れました。私は当ゲームのGM(ゲームマスター)を担当しております、トリアージと申します」


 ああ、道理で見た事があると思った。サイズが違うから直ぐには判らなかったが、成る程、そのメイド服はスプーンと同じデザインだな。


「最近、まともにチュートリアルをプレイしてくれる方がいなくて――」

「俺も途中で投げ出してますけど」

「……」

「で、今のこの状況はどうなってるしょうか?

 簡潔かつ適確に、とっとと説明して頂けると有り難いのですが」


 さめざめと愚痴を並べそうだったトリアージに止めを刺して、説明をお願いする。そこ、慇懃無礼とか言わない。

 暫らく小声でぶつぶつといじけてから、トリアージは俺に顔を向けた。


「まず、お二人には多大なご迷惑をお掛けした事を深くお詫び申し上げます」


 気を取り直したらしいトリアージは、居住まいを正してから俺達に頭を下げた。

 先程のスタッフらしき兄ちゃんズ――少なくとも外見上は――の行為はゲーム上認められるものでは無かったらしい。それが確認出来ただけでも良かった。


「それで、あの二人は何だったのか、説明して頂けますか?」

「はい。

 ……あの二人は、このプライベート・マップを担当するGMです。今回、VRシステムを悪用して、お二人にハラスメント行為を働いた事実が確認されましたので、現在は担当を解いて謹慎処分にしています。後程、改めて処分を下す予定になっています」


 なるほど。初手としては無難な対応だろうか。

 こちらとしては、まだまだ聞きたい事はあるんだけどな。


「我々の他には被害に遭われたプレイヤーは居ないのですか?

 彼等の話では、少なくとも、もう一人は被害者が居るようでしたが」

「……あの二人の被害者、ですか?」


 どうやら彼女には初耳らしい。眉毛の端をピクピクとさせながら、可能な限りの無表情を取り繕っている。

 俺は覗き見ダクトで聞いた奴等の会話を思い出しながら答えた。


「いえ。確か――サブとか言う人物が、我々と同じ実験対象者の一人目を『美味しく頂いた』と言ってましたね。詳しい内容は聞きそびれたのですが」

「そ、そんな事を……」

「我々は8人目と9人目の実験対象者だと言っていましたが、これは何の実験なんでしょうか?

 少なくとも俺には実験に対する説明も何も行われていないのですが、これは御社の方針なのでしょうか?」

「申し訳ありません。暫らくお待ち下さい」


 絶句するトリアージに質問を重ねると、彼女の表情から生気が抜けた。今まで動いていた映像が一時停止で止められた様な感じだ。誰か外部の人間――上司とか――と相談しているのだろうか?


「何よ……そんな話、私、聞いてないわよ……」

「俺だって、まさか自分の事を言われてるとは思わなかったさ。

 しかも思わせぶりな単語がゾロゾロなもんで、クエストのヒントを露骨に羅列してるんだとばかり思ってたよ」


 こちらも同じく呆然としているゼファの声に肩を竦めてみせる。

 実際のところは、情報データの海で溺れる迄に、ある程度の情報ネタは集まっていたので、ある程度の推測は出来ているのだが……。


 閑話休題それはさておき


「お待たせ致しました。わたくし(ワールド)OG(オンラインゲーム)(サプライヤーズ)日本支社、運営管理部長を勤めております、山田と申します」


 どうやら自分の一存ではどうにもならないと判断したトリアージは、上司の召喚に成功したらしい。因みにWOGSとは、このSOOを始めとした、幾つかのオンラインゲームを運営している会社だ。

 兵馬俑もどきの中で見かけたPCが現れて、名刺を差し出してきた。如何にも上級社会人(役職持ち)な隙の無い所作である。と思ったら、受け取った名刺に「部長」と書いてあった。この日本サーバの責任者らしい。

 思わずゼファと顔を見合わせてから、俺は直接関係無いが非常に気になる点を質問する事にした。


「すみません。そのPCは、貴方の趣味ですか?」

「は? ……あぁ――申し訳御座いません。普段、ゲームそのものには直接関与しませんので、手近なアバターを使用したのですが……

 何か不都合が御座いましたら、交換して参りますが」

「いえ。そう言う事でしたら、何ら問題はありません。

 こちらこそ単なる好奇心で変な質問をしてしまい、申し訳ありませんでした」


 俺は自身の姿を確認して恐縮している幼女に向かって頭を下げた。

 名刺には「山田やまだ三郎太さぶろうた」って書いてあるんだが……まあ、良いか……。

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