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第20話 ダンシング・テーブル

 がしゃぐしゃごっとん

 がしゃぐしゃごっとん


 聞こえてくる足音を文字にすると大体こんな感じだろうか。

 今、俺達が居る場所は、エレベーターと俺が進んで来た曲がり角のほぼ中間。廊下はここから19メートル先で右へ折れている。その途中、4メートル先にある左の曲がり角から足音は聞こえていた。

 天井までの高さは、およそ3メートル。

 ノーランとその相方は、既に明るさにも慣れて持っていた短機関銃を曲がり角へ向けて構えている。俺も急いで突撃銃を二人と同じ方向へと向ける。

 足音の重量感から判断して、やって来るのはかなりの大物だと思われる。戦車みたいな重装甲のロボットだったらどうしよう。はっきり言って、結構怖い。だが、どんなロボットが出てくるか、ちょっとワクワクしているのも事実だ。


 がしゃぐしゃごっとん

 がしゃぐしゃごっとん


 やっとロボットが角を曲がって俺達の前に現れ、姿を目撃した俺達3人の動きが固まってしまった。

 現れたのは、予想通り高さ2.5メートル程の2足歩行の円形テーブルだった。厚さ50センチメートルの円盤の下で、筋肉質の下半身――最初に思い浮かべたのは、ロダンの「考える人」のそれ――をメカっぽくした「脚」が阿波踊りもかくやなステップを披露している。中々柔軟な関節機構だ。


「……何ですか、アレ……」

「何だろうねぇ……」

「うーん……あんなタイプの情報、掲示板にも無かったよ……」


 曲がり角から現れたテーブル・ロボは、進行方向にある壁の手前で歩みを止めた。テーブルの側面――円筒部分と言うべきだろうか――を何色かの光が往復し始める。侵入者に気付いたのか、往復していた光が俺達を睨み付ける様に集まりだした。


「先手必勝だ。攻撃開始!」

「おっけぇ!」

「了解!」


 ノーランの叩き付ける様な合図で、3人揃って2脚テーブルに向かって引き金を引く。

 実弾とレーザー弾が側面に集中して着弾した勢いで、テーブルが向こう側へ傾き始めた。

 そのまま倒れてくれるかと期待したのだが、テーブルは股を大きく広げて踏ん張りきる。

 ならばと、俺達はテーブルの裏へ更に銃弾を集中した。

 テーブルも左脚をじりじりと摺り足で広げながら耐えているが、トップへビィらしく傾きはどんどんと大きくなり、とうとう右脚が浮いて左脚だけでバランスを取り始めた。小銃3丁の集中砲火でバランスが崩れるとか、かなりアレなんじゃないだろうか?

 それはそれとして、ここがチャンスだと確信した俺は、フォーチュンの雑貨屋で買い込んだ高級銃弾――内部に火薬が詰まっていて、着弾後に爆発するらしい――を詰めた弾倉を装てんする。


「食らえ!」


 単射モードで撃ち出した弾丸は、バランスを取る為にもがいていたテーブルの右太腿で爆発した。命中箇所を中心にしたクレーターが出来て、右脚の動きが止まる。そこへノーラン達の銃弾が集中した。

 結果、右脚は本体と泣き別れ、バランスの立て直しに失敗した本体と左脚が床に倒れ込み、そのまま動かなくなった。


「おお……流石、値段が高いだけの事はあるな」

FMEフル・メタル・エクスプロージョン弾か。豪気だねぇ」

「豪気……って?」

「知らないのかい?

 弾丸の中に火薬を詰めてるから、最悪銃身内で暴発する可能性があるんだよ。

 命中してから、その火薬に火を着けて弾頭を再加速させるから貫通力は高いし、爆発の衝撃で周囲も破壊出来るから威力はあるんだけどね」


 ノーランの説明を聞いて、今更ながらに背筋に冷たいものが走った。今時の軍隊は、そんな危険極まりないハイリスク・ハイリターンな弾丸を使っているのか……


「因みに、これは実在しない弾丸だから。現実でやるにはリスクが高過ぎるからね」

「へ?」


 ……ゲームだけの武器なら、ロシアンルーレットみたいな設定は無しにして欲しかったぜ。

 怖ろしくなった俺はFME弾の弾倉を取り外すと、通常弾の弾倉を装着した。


 動かなくなった片脚テーブルを眺めながら、俺達はこれからの行動について話し合った。

 二人からの情報によると、この施設には10階層のフロアがあり、ここは最下層になるらしい。他の階層は、同じバスに乗っていた人達が手分けして回っているそうだ。


「そういえば、このクエストのクリア条件はどうなってるんです?」

「うーん……元々マルチエンディング、つまり終わってしまえばどんな結果でもオーケーなクエストだからね。具体的に『これをしなければならない』と言う物は無いんだよ」

「はあ……そういう物ですか」

「敢えて言えば、エンディング毎に得られるポイントが高くなる条件ですかねぇ。

 現時点で判っているのは、建物の何処かにあるサイボーグパーツと設計図の発見が高ポイントに繋がる、って事くらいですかねぇ」


 ノーランと一緒に居たもう一人――ショウエイと名乗った、人の良さそうな太肉中背こぶとりの兄ちゃん――がのんびりとした口調で教えてくれる。

 未だ情報不足で確実な攻略法は見付かっていない様だ。


「なるほど――って、サイボーグ?」

「ああ。掲示板に上がっていた情報だとサイボーグ関連の技術だそうだよ」

「……あんな物を出してきて?

 てっきりアニメに出てくる様な人型ロボットを造る技術かと」

「どう見ても、所謂リアル系ロボットの製造技術に見えるんだけどねぇ」

「ただ、あの脚の動きはロボットと言うよりも、人間の動きなんだよね。ロボットなら、あそこまで凝った間接にしなくても良いんじゃないかな」


 改めて向こうでこけている片脚テーブルに目を遣る。言われてみれば、あのステップは余りにも人間臭かった様に思える。

 ……それにしても、あのサイズは無いと思うが。


 ともあれ、ここで設計図と部品を見付ける必要があるのは理解出来た。

 待てよ。と言う事は――


「アレをお持ち帰りしちゃえば良いんじゃないかな……」


 俺は呟きながら、動く気配の無いテーブルへと近付いて行った。サイボーグ向けのサイズではないが、何らかの技術解析には使えるだろう。


「待て! 未だそれは早い――」

「破砕エフェクトが無い以上、動く可能性が――」


 二人の警告に振り向いた時、テーブルの裏板がスライドする音が聞こえた。慌てて前に向き直ると、テーブル裏に開いた穴から小型ミサイルっぽい弾頭が覗いている。

 大した狙いは付けられなかったにしろ、突撃銃の引き金を引けたのは褒められても良いと思う。そして弾倉を交換した時にフルオートモードにしていたのも、ナイスな判断だった。良くやった、俺。

 だが、それらが齎したのは、最悪としか思えない結果だった。

 引き金を引かれた突撃銃が大爆発を起こしたのだ。弾倉にあった弾も次々と誘爆して、俺を床に叩き付ける。

 死なずに済んだのは、新しい防具の性能が良かったからに過ぎない。


 因みにミサイルは発射されなかった。

 攻撃目標である俺が急に爆発して姿を消した――実際には床に倒れ込んだだけだが――為、次の攻撃目標を探すのに時間が空いてしまい、その隙にノーラン達からの銃撃を受けて誘爆させられたのだ。

 仰向けに寝転ばされた俺の目の前を爆風と破片が通り過ぎて行った。

 最も被害を負ったのは自爆してしまった俺で、二人は伏せてからテーブルに撃ち込んだ事もあってほぼ無傷だった。


「い……一体、何があったんだ……?」

「多分だけど、FME弾が暴発したんじゃないかな?」

「弾倉は交換してたんですよ?」


 俺は仰向けのまま、ノーランに疑問をぶつけた。ちゃんと通常弾である事を確認してから新しい弾倉を装着したのは間違いない。これで違う弾倉を装着していたのなら、ゲームを止めて医者に掛かるべきだろう。

 ふむ、と小首を傾げた後、ノーランは口を開いた。


「弾倉を交換した時、薬室内に送り込まれていた弾を出さなかったからじゃないかな?」

「……はい?」


 漸く起き上がって、本日2本目の治療スティックを首筋に打ち込んでいる俺に、ノーランは説明を続けた。


「小銃にしろ、拳銃にしろ、オートマチックの場合は弾倉を装着してから手動で1発目を薬室に送り込まないといけないよね」

「はい。弾丸を1弾倉分全部撃ちつくした場合も、そうですよね」

「うん、そうだね。それで今回の場合なんだが、君は1発だけ撃って弾倉を交換した。つまり、薬室内には未だFME弾が残ったままになっていたんだよ」

「あぁ……」


 言われてみれば、単純かつ当たり前の話だった。弾倉を交換した時、俺は薬室内の弾も排出しなければならなかったのだ。それを忘れてしまった結果が、このざまである。


「とは言え、幾らFME弾でも暴発する確率は1パーセント未満の筈なんだけどね」

「それを2発目で引き当てるなんて、運が悪いのか良過ぎるのか……微妙ですねぇ」

「……いや、どう見ても運が悪いだけですって」


 胡坐を掻いて落ち込んでいると、テーブルが転がっていた場所へ足を運んだショウエイが、何かを俺に向かって投げてきた。何とか取り落とさずに受け取って、掌に収まる位の、板なのか角材なのか微妙な厚みがある物体を眺める。


「何です、これ?」

「スマートフォンかと思ったんだけど、スイッチらしい物が見当たらないんだよねぇ」

「それが例の設計図とかじゃないんです?」

「いや。設計図は長さ1メートル位の筒に入った紙だそうだよ」


 何と言うか、未来世界の癖に古風な設計図だ。せめてメモリカードとかフロッピーディスクとか、それっぽい物に出来なかったのだろうか?


「ついでに言っておくと、サイボーグパーツは腕とか脚とか、纏まった部位そのままらしいよぉ」

「これのアイテム名を見ても『アクセス端末』とは表示されているんだが、使い方が全く解らないんだ。

 それで悪いんだが、これは君が持っていてくれないか」

「……どうして、俺に?」

「今回、一番活躍したからねぇ」

「活躍とは違う様な気がするんですけど」

「一番体を張ったのは確かだろ。

 今、ここでドロップアイテムを巡って揉めるのも面倒臭いし、君が持っていてくれ。

 その代わり、次のドロップは我々が優先して貰うよ?」


 ノーランの言葉を勘繰ると、用途不明でイベント必須でも無さそうな怪しいアイテムは素人に押し付けて、次のドロップに期待しよう、と言う事になるだろうか。単に独り相撲(アホ)やらかした初心者を慰めようとしただけかもしれないが……。

 体よく押し付けられた気もしないではないが、初心者なのは事実だし、ここは甘えておこう。……別に考えるのが面倒になったからではない。絶対にない。


「それじゃ、お言葉に甘えて。有難う御座います」


 俺は礼を言いながら怪しいスマホもどきをアイテムボックスに仕舞い込むと、立ち上がってノーラン達に近付いた。これからの行動をどうするのか話し合おうと思ったからだ。彼らの方も俺と同じ考えらしく、ノーランが俺に向かって口を開いた。


「さて、この辺りで君の方の事情を聞いても良いかな?

 色々と大変だったみたいだけど」


 ノーランとショウエイにバスを降りてからの出来事を簡単に説明して、クエスト自体は大して進んでない事を詫びると、二人は「仕方がない」と言ってくれた。他に答え様も無いとは思うが。

 それから二人の話を聞いたのだが、こちらの方は中々に大変だったみたいだ。


 俺を除く特別クエスト参加予定者26名は、煙幕と共にバスから降りると手近な山賊から順に倒しつつ前方へ集合し、お頭を攻撃し始めたのだそうだ。

 想定外の人数に反撃されて手下の殆んどを失ったお頭は、乗って来た装甲車であっさりと逃走し、参加者の一人が持ち出した対物ライフルで狙撃されて短い生涯――享分30――を終えたとの事。

 26名はそのまま研究所へと突入し、警備員と見られる武装集団の波状攻撃を犠牲者1名で突破。そのついでに掲示板で得ていた情報を基に電源施設の破壊に成功した。

 その後、10層に分かれる研究所内を二人ないし三人のチームで手分けして捜索する事になり、最下層であるこのフロアの捜索にノーラン達二人がやって来た。


 ――と言うのが、その大まかな内容である。


「……そちらも色々大変だったんですねぇ」

「まあ、お互い様だったね」

「ところで、掲示板には研究所ここの見取り図は載ってなかったんですか?」

「それがねぇ、一応、何パターンかは掲載されてたんだけど、どうも研究所内の配置はランダムっぽいんだよねぇ」

「……そりゃまた難儀な事で」

「お陰で、皆で虱潰しさ。さて、君はどうする?

 我々と一緒に来るかい?」


 さて、どうするべきか……と考え込み始めたところで、背後の曲がり角の向こう――俺がやって来た方向――から嫌な感じの物音が響いてきた。

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