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第17話 お使いは家事の後で

明けましておめでとうございます。

 無事にフォーチュンへ戻った俺達はドロップアイテムを換金し、分配した金で装備の修理と補充を行った。

 ただ、母狐を呼び出した子狐からドロップしたガラス玉っぽい物に関しては、「そのサイズは珍しいから記念に持っておけ」との意見がチームの75パーセントを占めたので、有り難くアイテムボックス内に祀っている。

 それらが全て終わって、最後にダイザの車を駐車場に入れると、近場にあったホテル・ヴァルロン・ノース・アネックスのロビーでチーム「いちごみるく」は解散となった。全員、ログアウトする予定なので、それぞれチェックインをする。


「……すみません、このホテルって、ミドル・エリアにもありませんでしたか?」

「はい。あちらが本館になっております。当ホテルは、その別館でございます」

「なるほど。本館はいつも利用しているのですが……」

「ご贔屓にして頂いて、有難うございます。

 お部屋はシングルで宜しかったでしょうか?」

「……それでお願いします」


 デュクーン・アーマーストアで使ったは、流石にチェーン店には通じない様だ。

 下の階の部屋になったヤーウィ達をエレベーターから見送り、指定された1105号室に入る。部屋の作りは本館とほぼ同じだったが、別館の方には本物の窓があった。カーテンと一緒に西向きの窓を開けると、星の瞬く濃藍色の空に浮き出た山脈らしい漆黒の凹凸が、隣のビルの屋上越しに見えた。

 その風景を眺めながら、俺はベッドの上に倒れ込んだ。流石にシャワーを浴びる余裕は残ってなかった。自分で思っていた以上に疲れていたらしい。

 ログアウト操作を行う前に、俺の意識は薄れて闇の中に消えていった。


――――――――――――――――――――


 次に気が付いた時、目の前には暗闇が広がっているだけだった。

 思わず周囲を見回すと、頭が妙な遠心力に振り回される。体中が凝り固まっていてまともに動かない。そして、背凭れと肘置きの感触……どうやらログアウトと同時に寝落ちと言うやつをやらかしたらしい。

 肩や首、腰等を動かして解し、被っていたVRコネクターを脱ぐ。椅子の上で大きく伸びをしてから時計を見ると、既に5時を回っていた。道理で窓の外が明るい筈だ。


「あ痛ててて……クソ、まさか椅子に座ったままで一晩過ごしちまうとは……」


 ぼやきながら椅子から立ち上がり、まず手始めに――おっと、自然が俺を呼んでるぜ。


 朝も早いので、洗濯だの掃除だのは後回しにして飯でも食う事にする。

 冷蔵庫を漁って有り合せの材料を掻き集め、麻婆豆腐モドキ丼をでっち上げる事に成功。適当に作ったわりには美味しゅう御座いました。

 それで腹は一杯になったが、騒音を撒き散らすには未だちょいと早過ぎる。

 仕方が無い。ニュースチェックでもして時間を潰そう。

 ニュースサイトのヘッドラインを流し読みしていると、「VR」の文字に引っ掛かった。何々……「ミツヤ順調なすべり出し。VRコネクター、三つ巴の戦いへ」?

 詳細記事を読むと、今まで海外大手2社が競合していたVRコネクター業界に、国産VRコネクターを引っ提げて参戦したミツヤ・プロダクツが発売2ヶ月で好調な売れ行きだとの記事だった。最初の機種が売り出されてから10年程経っている筈だが、これが3機種目とは……結構作るのが大変なんだなぁ。


「因みに俺のは……」


 押入れに放り込んだ、遠金から貰ったVRコネクターの箱を引っ張り出してみる。箱に書いてあったメーカー名は、|IHEL《インターナショナル・ホーム・アンド・エレクトロニクス・ラボラトリー》社だった。家電やパソコンでは世界トップクラスのメーカーだったと記憶している。もっとも、VRコネクターに限って言えば、最初に開発したVRCヴァーチャル・リアリティー・コネクター社の方が上らしいが。

 まあ、ミツヤのVRコネクターは発売して半年かそこららしいし、遠金が懸賞に応募したのが1年前だったそうだから妥当なところではある。


「そういえば、新マップがどうとか言ってたな……」


 思い出してSOOスペース・オペラ・オンラインのサイトを覗いてみると、トップページに大きく「新マップ開放クエスト始動!!」と書いてある。リンクをクリックすると、昨日読んだ記事のページに飛ばされた。

 内容を箇条書きにして、もう一度確認すると――


1.対象となる開放クエストは全部で5件あり、それぞれマルチエンディングとなっている。

2.各クエストをクリアするとエンディングによって設定されたクリアポイントが加算される。

3.このクリアポイントが一定数貯まると、各クエスト毎に割り振られた要素――資源、システム、もしくは新マップ等――が解放される。

4.どのクエストでどの要素が開放されるかは実際に開放されるまで不明となっている。

5.クエストと開放される要素の組み合わせは、各サーバ毎にランダムで設定された。

6.新マップへ移動する為には、マップ解放後に移動許可クエストをクリアしないといけない。


 ――と言う事らしい。

 記事の下には各サーバ――アメリカに3台、ヨーロッパに1台、日本に1台、太平洋地域に1台、インドに1台の計6台が設置されている――毎に、各クエストの進捗状況がグラフで表示されている。

 現在、一番進んでいるのはアメリカ3サーバの平均34パーセントで、日本サーバは平均23パーセントで4位に着けている。

 因みに各クエストの開始条件や概要については、「ヒ・ミ・ツ☆」とだけ書かれていた。本当に新マップを開放す()る気があるのだろうか……。


 一通り調べ終わったら、ちょうど良い時間になったので洗濯機に洗い物をぶち込んで回し、掃除機をかけ始める。掃除が終わって昆布茶を1杯啜ったところで洗濯が終了したのでベランダに干し、もう1杯、今度は煎茶を淹れる。

 そして時計を見れば10時を回ったばかり……買い物は昼か夕方からにして、ゲームの続きを始めますか。


――――――――――――――――――――


 ログインした俺はベッドの上に装備を着けたままの状態で目を覚ました。開きっぱなしの窓からは、どんよりとした雲からの生温い風がゆるゆると吹き込んでいる。昨日の青空とは違い、その内一雨来そうだ。

 ベッドから起き上がった段階で、そういえば現実リアルで風呂に入るのを忘れていた事に気付く。とはいえ、今更ログアウトし直してシャワーを浴びるのも面倒くさいので、ヴァーチャル(こっち)のシャワーで誤魔化す事にした。

 メニューから装備を外してシャワーを浴び、またセットすると体が乾いた状態で装備が現れる。昨日のジャイアント・アーマード・フォックス戦で胃液塗れになった時は、暫く全身が嫌な感じでヌルヌルだったのに、今回(シャワーの後)はあっさり乾いてしまうのは、どういう理屈なのだろうか?


 ともあれ、気分だけでもさっぱりしたのでフロントへ行ってチェックアウトする。

 打ち上げのバーベキューパーティーで結構飲み食いしたので空腹度はまだ百のままだ。それでも気分的にサンドイッチでも摘もうかとホテル内のレストランを見ると、「新鮮! ジャイアント・アーマード・フォックス肉入荷しました! サーロインステーキ 2780クレジット  モツ煮 380クレジット」と言う張り紙が見えた。


「……すみません。あの張り紙についてなんですが……」

「ああ、あれですか。昨日、最高級のジャイアント・アーマード・フォックスが緊急入荷致しまして、本日より数量限定でお召し上がり頂ける様になりました。

 この都市の名物料理ですので、一度ご賞味頂ければ幸いです」

「……なるほど。どうも有難うございます」


 何とか返事だけしてホテルを出る。自分が飲み込まれた内臓を食べるだけの気力は、流石に戻っていなかった。


 ホテルから北交易路へ続く大通りへ出て、俺は街の中心――軌道エレベーターの麓――へ向かう。降りそうで降らない空模様の下、買い物を済ませて目的地である公共事業対策所に到着し中へ入ると、昨日フレンド登録をし合ったプレイヤー――確か、カール・グスタフ氏だったか――が声を掛けてきた。


「よう、今日は一人か?」

「あ、どうも。ええ、他のメンバーは、この時間は別のゲームに出張するそうで」

「一緒に行かないのか?」

「流石に始めて4、5日で二つも掛け持ちは無理ですんで」

「なるほど。それなら、これからどうするんだ?」

「一人でもこなせるクエストをやってみる予定です」


 ふむ、とカールは天井を見上げ、それから俺に視線を戻した。


「俺はこれでログアウトす(あが)るんだが、さっき聞いた情報だとナグール市内で開放クエストらしいプライベートマップが見つかったそうだ。良いクエストが無かったら行ってみると良いぞ」


 ――ナグール? 何処かで聞いた様な……


「ああ、ナグールってのは、北の交易路かいどうを行った先にある都市まちだ。ここから一番近い都市だな」


 俺が頭を捻っているのを見てカール氏が教えてくれる。例のサンゾックが俺の銃を売り払ったのも、この都市だった筈だ。

 そういえば、開放クエストは参加する事に意義があったよな……うむ、オリンピック精神で行ってみるか。


「では、そのナグールのクエストに挑戦してみます。教えてくれて有難うございました」

「開放クエストは早くクリアしたいからな。お互い様さ。

 それとナグールへ行くのなら、ここのクエストをチェックしてから行くと良いぞ。向こうへアイテムを運ぶだけのお使いクエストが登録されている事があるからな」

「へぇ。そんなクエストもあるんですか」

「クエストの件数が決まってるから早い者勝ちになるけどな。他の奴が受けた後の可能性はあるぞ」

「確認してみます。色々とすみません」


 俺が頭を下げると、カール氏は照れた様に口元を歪めた。


「だから、お互い様だって。

 それと無理に敬語を使わないでくれ。見た感じ俺の方が年下みたいだし」

「――じゃあ、お言葉に甘えて。

 ログアウト前に色々手間を取らせてすまなかった。でも助かったよ」

「何、これ位良いって事さ。じゃ、お疲れ」

「お疲れ様」


 互いに軽く手を上げてカールと別れ、俺は端末に向かった。

 端末を操作すると、確かにカールが言ったとおりのお使いクエスト「忘れ物を届けに」が見付かった。詳細を読むと、ナグール在住のNPCノンプレイヤーキャラクターがフォーチュンへ来た時に忘れて帰ったぬいぐるみ――どうやらクライアントは女の子らしい――を家まで届けて欲しい、というものだった。


「なるほど。こりゃ重要任務だな」


 俺が呟きながら端末の「受諾」ボタンを押すと、視界の左隅にクエスト名が表示された。と同時に端末に「窓口で荷物を受け取って下さい。」とのメッセージが表示される。周囲を見回すと、入り口から一番遠い壁に郵便局の夜間受付窓口に似たカウンターを見付けた。

 人の姿の無い窓口にあった呼び出しボタンを押すと、事務服を着たおば――中年の女性が出て来た。


「すみません。今、荷物配達のクエストを受けた者ですが――」

「身分証明書を提示して下さい」


 良くも無ければ悪くも無い愛想の女性に昨日作った滞在許可書を渡す。項目を確認した女性は滞在許可書を俺に返し、「暫くお待ち下さい」と言い残して奥に引っ込んだ。


「……クエストを受ける時には名前の入力とか無かったのに、良く判るな……」


 思わず口に出してしまったが、これもゲームならではの「お約束」と言う事なのだろう。多分。

 お目当てのぬいぐるみ――結構でかい、2頭身のデフォルメされた山羊――を受け取り、俺は建物から出た。

 ナグール市行きの長距離バスが出ていると聞いたターミナルへ向かうと、窓口には長蛇と言う程ではないが、そこそこ長い列が出来ている。しかも、ほぼ全員がナグール市へ向かうらしい。やはり開放クエスト目的なのだろうか。

 俺もナグール市行きバスの乗車券を買い、。後10分程で出発だそうなので、そのまま乗り込んだ。長距離バスの中は現実とさほど変わらず、中央の通路を挟んで二人掛けの席がフロントガラスまで15列ずつ並んでいた。乗客は30人弱。知り合いと一緒に乗っている人が多いらしく、二人掛けのどちらもが空いている席が目立つ。

 切符の座席番号をもう一度確認して、中央付近右の窓側の席に座る。後ろの席には誰も居なかったので、シートを思い切り倒して大きく息を吐き出す。


 結局、俺が最後の乗客だったらしく、それ以後は誰も乗り込まないままバスは定刻通りに発車した。

本年も宜しくお願いいたします。



本文内の名称を修正。

そこを間違えてどうする、自分……


ネタに合わせて更に修正。

自己満足の窮みですな。

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