第12話 狐狩りに行くなら
「あ、サーウさん、こっちッス、こっち……」
軌道エレベーターから降りた俺は、ヤーウィの声のする方へ身体を動かして、3人との合流に成功した。
「一体……何があったんだ、サーウッド……」
「いや、本当にどうしたんスか、サーウさん……」
「初めての死亡で気分が悪くなっちゃった……とか?」
初めての死に戻りから復帰したばかりの俺を心配してくれているのか、皆表情が硬い様に見える。
「すまん、ヤーウィ……例の、サンゾックの連中に連絡を取って貰いたいんだが……出来るか?」
「そりゃ連絡くらいは出来るッスけど、何があったんスか?」
「使い込んでる方の銃がドロップしてた……」
「……」
「ええと……この度はとんだ事で……」
ダイザもグレンも口が重い。
お通夜並みに重い沈黙をたっぷり味わったところで、ヤーウィから悲しいお知らせが追加された。
「今、サンゾックの奴と連絡取ったんスけど……サーウさんの銃、ナグール市のアイテムショップで売っちゃったそうッス」
「そうか……」
「ま、まあ、習熟度一桁だったんでしょ? まだまだ挽回出来るわよ。頑張りましょう!」
すまんなグレン、気を遣わせて。
とは言え、確かに落ち込んでばかりいても仕方がない。そろそろ割り切らねば……。
「……そうだな。気持ちを切り替えていく、か」
「そういう事なら、これからもう一狩り行きましょうよ、サーウさん!」
「これから……?」
「ほら、今日は金曜ッスから、明日は休みじゃないッスか! 少々遅くまで狩りやっても大丈夫ッスよ!」
頑張って俺のテンションを上げてくれようとしているヤーウィの言葉に、視界の片隅に表示されている時計を確認する。現実時間で22時30分過ぎってところか……明日は別に予定も無いし、多少の夜更かしは大丈夫だろう。だが、その前に――
「俺達は大丈夫だろうが、ダイザとグレンはどうなんだ? 二人とも休みとは限らないんだろ?」
「俺達なら大丈夫だ。普段でももう2、3時間は遊んでいる」
「右に同じ」
若いって良いなぁ……
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そんな訳で俺達は、早速フォーチュン市の北側防衛壁の近くにある雑貨屋パーキンスで消耗品の補充を済ませた。いくら時間に余裕があるからと言っても、早めに終わらせる方が良い。
それにしても、何で雑貨屋に缶詰や救護キット、野菜なんかと並んで予備弾倉が置いてあるんだ? 確かに一箇所で買い物が済んで便利なんだが……まさか、宇宙空港の売店で時限爆弾を売ってたりしないだろうな……?
補充が終わると、次は破損した防具の修理である。パーキンスから程近い場所に店を構えるデュクーン・アーマーストアへ移動して、修理を依頼する。防具の山を預かった店主は、腕が良いのかシステム上のご都合主義なのか、10分かそこらで全ての修理を終わらせて店の奥から姿を現した。
丁度良い機会なので、会計の時に疑問をぶつけてみる。
「……ええっと、ミドル・エリアで会った事ありませんか?」
「いいえ? 私はここに店を構えて47年です。宇宙空間なんざ行った事はありませんね。
――もしかしてお客さん、私の従兄に会ったんじゃないですか?」
「その従兄ってのは、ミドル・エリアで武器屋をやってます?」
「ええ。じゃあお客さん、デュクーン銃砲店で買い物されたんですか。それなら、少々サービスさせて頂きますよ」
ミドル・エリアの武器屋の店員と瓜二つだったので聞いてみたのだが、どうやら親戚らしい。
修理費用も3パーセント程割り引いてくれたので、若干お得だった。
「いやあ、言ってみるもんスねぇ。自分なんか、キャラクターデータ使い回してるんだろうくらいにしか思ってなかったんスけど、まさか割引して貰えるとは」
いや、うん、言った当人も驚いてるよ。ミドル・エリアのホテルや店の店員は皆、容姿が違ってたから、地上で同じ顔を見た時につい聞いてしまっただけなんだが……まあ、ちょっとだけでも儲かったって良かった良かった。
「それで、今度は何処へ行くんだ?」
「ちょっと遠出になるからな。車で行こう」
ダイザはそう言うと、アーマーストアから3軒隣の立体駐車場へ俺達を連れて行くと、受付で出庫手続きを始めた。
車が出て来るのを待機スペースで待つ間に、ヤーウィが妙に良い笑顔でこれからの予定を説明してくれる。その表情はパラメータのINT極振りを言い出した時のダイザ達を髣髴とさせるんだよなぁ。
「今度は南へ車で10分程行った所にある森で狐狩りッスよ」
「森って、まさか例のメタンガスの森か?」
「こっちのは普通の森ッス。その分、狐が凄いんスけどね」
「凄い、って?」
「サイズが馬鹿デカイんスよ。現実の狐に似てはいるんスけど、サイズが全然違うッスから最初は皆吃驚するッスね」
「なるほど……」
つまり、熊かそれ以上の大きさの狐が獲物って事か。ゲームっぽくて良さそうな感じだな。……SFとかスペースオペラとかとは全く無縁そうだが――
「――まさか、宇宙生物と融合したミュータント狐とかじゃないよな?」
「おお、正解ッス」
「マジか!?」
「この惑星は資源を粗方採り尽くしていて、惑星だけじゃやっていけない状態なんスよ。まあ、今のところは星系内の小惑星帯から鉱物資源とかを運んで来て何とか遣り繰り出来てんスけど、それが止まったら即終了ッスね」
その辺は、昨日スプーンから聞いた通りだな。
「それと狐のミュータントがどう繋がるんだ?」
「確か百年くらい前だったと思うんスけど、生態系や資源の回復とか言って他の星からテラフォーミング用の生物を幾つか、何も考えずに輸入してばら撒いたらしいんス。で、その外来種が原住生物と交配なんかして各種モンスターが蔓延った――って言う設定ッス」
「大丈夫かよ、この星」
「あんまり大丈夫じゃないッスね。人口も最盛期の百分の1とかって設定ッスし。地上には、ここも含めて大きな都市が8つ。後は小さな集落が点々とあるだけッス。殆んどの人はスペースコロニーか、テラフォーミング中の隣の惑星――サラマンダーって言うんスけど、そっちに移住してるッス」
「……駄目じゃん」
「実は惑星にも鉱脈が若干残ってて、時々それが見つかるんスけど、それが結構大き目の鉱脈だった時はフォーチュン以外の都市から軍隊が出張って戦争イベントの開始になるッス」
「えげつないな。リアルっちゃリアルだが」
「待たせたな。車の準備が出来たぞ」
ダイザの呼びかけに応えて待機スペースから移動した俺の前にあったのは、どう見ても戦車だった。いや、キャタピラの代わりにでかいタイヤが12輪付いているから、装甲車扱いになるのか……?
「……よくこんなのが駐車場に入ってたな」
「そこはゲームの都合って事で追求しないのがお約束ッス。駐車可能台数なんて無制限スから」
「初めてで狭い車内はきついでしょうから、後部の積載スペースに乗ってね」
一足先に乗り込んで砲塔の上部ハッチから上半身を出しているグレンに促されて、俺とヤーウィは砲塔の後部に取り付けられている広い篭みたいなスペースに乗り込んだ。
それを見届けたグレンが砲塔の中に声を掛けると、奥からダイザの返事が聞こえてきて戦車が動き出した。想像していたよりは静かなエンジン音が辺りに響き渡る。
ダイザの12輪戦車はゆっくりと駐車場の敷地から道路へ出て、フォーチュン市街の中心部へ向かった。
フォーチュン市街では、東西南北の交易路がそのままの幅で軌道エレベーター周辺まで延び、同じ幅でエレベーターの周囲を一周する環状道路に接続している。もっとも、最近日本でも増えてきた所謂ラウンドアバウトとは違って信号はある様だ。
俺達の乗った戦車は、その環状道路を半周して南門へ続く通りに入った。高層から中層、低層と、だんだん低くなっていくビルを眺めながら南門を出て、狩りの獲物が住んでいると言う森を目指す。
街の周辺に広がっていた畑が消えていき、周囲には荒野だけ広がっている。西の山脈は地平線を不規則に盛り上げ、南には平らなままの地平線まで続く青い空と白い雲。東の森の側を流れている河が、のんびりと蛇行しながらこちらへと寄って来るのが見えた。
河は更に先で交易路と交差して西へと消え、長さが1キロメートルはあろうかという橋を渡り終えた戦車は、そこから舗装された道路を外れて、東南の方向へ荒地をひた走った。
今までよりは上下に揺られながら、遥か前方に見える西部劇で御馴染みの形をした岩山を眺めながらのドライブである。
「安全運転ってのもあるんだろうが、思ったほど揺れないな!」
「サスペンションが良いッスからね! 最高速度は百キロを超えるんスけど、そこまで出すと流石に揺れも凄いッスよ!」
「その前に俺らは振り落とされてるだろ!」
直ぐ後ろで轟くエンジン音に負けじと声を張り上げながら話をしていると、右斜め前方に黒々とした森が現われた。黒い鳥の様な粒が数羽、その上空で跳ねる様に飛んでいるのが見える。
戦車はその森へ向けて進路を変更し、エンジン音と速度を少し上げた。
「ヤーウィ! ちょっと相談があるんだが!」
「何スか!?」
「PPが後3ポイント残ってるんだが、STRはどれ位まで上げておけば良い!?」
「そうッスねえ……HPを優先するならSTRに全部ッスけど、命中率を採るならAGIに3ポイントが良いと思うッス!」
なるほど。それならば、新しい銃の訓練もやっていない事だし、少しでも命中率を上げる方が良いか。
「サンキュー! じゃあAGIを3ポイント上げとくわ!」
「それで良いと思うッスよ! 次にPP貯まったらSTRを上げれば良いんスし!」
そんな訳で今の内にパラメータを成長させ終わった頃には森の入り口に到着していた。先に着いて森に進入しているらしいチームの装甲車や戦車が10台位だろうか、線が引かれている訳でもないのに綺麗に並んで停められている。俺達の戦車も見えない線に沿って駐車した。
「おお……皆、同じ獲物狙いとかか?」
「どうッスかねぇ。この森はアーマード・フォックスの他にもアクセル・ベアだのダイビング・バードだの色々居るッスから。
あの台数だと狩場を選べば、かち合う事も無いと思うッスけど」
ヤーウィの説明を聞きながら、予め購入しておいたM-16似の突撃銃をアイテムボックスから取り出して担ぎ上げる。
因みにヤーウィは戦車に乗った時点で俺のと同型の銃にグレネードランチャーを取り付けた奴を抱え続けていた。先程のサンゾックみたいな集団がまた来た時の用心だったらしい。
俺は荷台の手摺りに掴まっているので忙しかったけどな。
そして、ヤーウィ、グレン、俺、ダイザの順で列を作り、昔遊んだRPGの如く森の中へと進んで行った。




