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第11話 銃撃戦、怖い

 そんなこんなで畑の害獣駆除もノルマを達成し、俺達は軌道エレベーター都市フォーチュンへの帰路に就いていた。畑から車2台がすれ違える程の砂利道を経て、フォーチュンへ続く交易路――都市間を結ぶ、数十メートルの幅を持つ道路――を南へと歩く。

 西には先程まで俺達が居たのと同じ様な畑の向こうに延々と続く荒野、その更に奥には蒼白い山脈が横たわっていた。東には軌道エレベータから見えていた灰色の森林が広がっている。進行方向である南にはフォーチュンのビル群が歪な円錐形を形成し、その中央から立ち昇る軌道エレベーターが澄み切った空の高みへと吸い込まれていた。


「……う~~ん」

「どうしたんスか、サーウさん?」

「いや、この光景、どっかで見た記憶があるんだが……ああ、思い出した」


 思わず、ポンと手を打つ。これは、ミドル・エリアのホテルの窓に映っていた景色だ。


「角度が違うから、すぐには気付かなかったな」

「それは角度の問題なのか?」


 のほほんとした会話を繰り広げながら広過ぎるアスファルトの上を歩く。アメリカあたりの映画にありそうなシーンだ。

 暫らく歩いていると、装甲車が1台、俺達と擦れ違った。ハッチの上に上半身を出していた奴が歓声を上げながら俺達に手を振る。釣られて俺も手を振り返すと、更に歓声を上げて去っていく。

 それを見送ったダイザが、よっこらしょとばかりに巨大な機関銃――所謂「重機関銃」と言うよりも「機関砲」と言われた方が納得出来そうなサイズだ――をアイテムボックスから取り出した。

 他の二人も同じく短機関銃サブマシンガンだの突撃銃アサルトライフルだのを取り出して構えだす。


「え? 何だ?」

「今の奴ら、『サンゾック』って言って、銃撃戦マニアで有名なPK(対人戦専門)チームなんスよ」

「何処の追い剥ぎだよ!?」

「現実じゃサバゲーやってるそうッス」

「そら、連中、引き返して来たぞ。迎撃準備!」


 ダイザの言葉に振り向くと、2百メートル程先まで進んでいた装甲車がユーターンをしている最中だった。そのまま百メートル程戻った所で急停車して、プレイヤー3人がわらわらと飛び降りている。

 3人はそのまま道路脇の畑へと踏み込み、俺達へ向けて銃を構えた。

 ダイザが機関砲を腰だめにしてサンゾックに向けて発射する。ほぼ同時にあちらの突撃銃っぽい銃口にも火花が上がった。

 次の瞬間、頭の直ぐ横で巨大な音と衝撃が発生して、ヘルメット越しに俺へと襲い掛かった。身体がふらついたところにベルトが急に引っ張られて、思わず尻餅を搗いてしまった。


「サーウさん、頭を下げて!」


 ヤーウィの怒鳴り声でやっと我に返り、慌てて道路に腹ばいになる。頭上をピンク色のレーザー弾や実弾らしい影が通り過ぎていくが、それを気にしている余裕は無かった。

 敵は二人が畑の中を右へ左へと走り回りながら、俺達を銃撃している。傍目には無駄に見えるが、いざ狙うとなると目標が定まりきらない。俺が撃ったレーザー弾は全て奴等が通り過ぎた場所に命中していた。ヘルメットが予想外に鬱陶しい。

 腹ばいで撃つから狙いにくいが、少しでも身体を起こすと残りの一人が遠距離から撃ってくる。

 横を見ればグレンとヤーウィも腹ばいのままで機関銃を3発くらいずつ撃っていた。

 ダイザだけが立ったままで、機関砲を撃っている。あんなデカ物を、よく振り回せるもんだ。

 敵との差は何時の間にか50メートルを切っていた。拳銃の射程は20~30メートルと聞いた事があるが、俺のモスキートもそれより遠くまで飛んでいる。レーザーの分だけ射程が延びているのか、それともゲームとしての面白さを優先しているのか……当たらなければ意味は無いけどな。


「糞ッ! 当たらん!」

「そりゃそうッスよ! あちらは、こういうのを専門にやってる連中ッスから!」


 俺の独り言にヤーウィが返事をしてくる。解っちゃいるが、こうも当たらないと――


「うぎゃ!?」


 突然、畑の中を走り回っていた一人が妙な悲鳴を上げて転んだ。足元にガラスの破片が飛び散っているところを見ると、どうやらポップン・ラビットに躓いたらしい。

 動きの止まったそいつに、グレンとヤーウィが弾を集中させる。俺みたいに着込んではいないが、それでも身に着けている奴の防具が弾を弾くのが見える。

 ダイザの砲撃が止めとなって、人間サイズのガラスのオブジェクトが出来て破裂した。


「ジョー!?」


 もう一人の奴は仲間の名前を叫ぶと、器用に後ろへと跳ねて距離をとった。グレンの撃った弾が奴の右足に命中したらしく、走るテンポが悪くなっている。俺達は更に追撃を始めたが、後方からの援護射撃に邪魔された。

 その時、畑の中を薄灰色の何かが蠢いているのが見えた。全長2メートル程の不恰好な人型っぽい物が、畑の黒い土の中で良く目立っている。


「……ありゃ何だ?」

「あれは宇宙服を改造した装甲服だな!」


 ダイザが解説しながら機関砲を発射する。匍匐前進しているらしい妙な人型に命中した弾は、しかし甲高い音と共に弾かれた。


「全長3メートルの二人羽織じゃねぇのかよ!?」

「俺もあのタイプは初めて見る。だが、30ミリを跳ね返すとは面倒だな!」

「まあ、宇宙服自体が防弾装甲みたいなもんッスからね」

「しかも匍匐前進で狙い難いときたもんだ!」


 ヤーウィも加わって二人してつるべ撃ちにしているが、命中した弾は全て弾かれている。

 ……そういえば、昔読んだヤクザ漫画でそんな事言ってたな。超音速で飛んで来るデブリから宇宙飛行士を守る為とかナントカ。


「何か、手榴弾みたいなのは無いのか!?」

「それは流石に……勿体無いかな!」

「大して儲けの出ないPvP(対人戦)で爆発物を使っても損ッスからね。後、手に持てる火器だけで戦うってのが、こいつ等との暗黙の了解みたいになってるッス」


 後ろに下がった奴を牽制しながら、グレンが答えた内容をヤーウィが補足する。そうすると、ダイザの機関砲もギリギリのライン(グレーゾーン)になるのだろうか?


「とは言え、流石にこれは手が出んな!」


 砲撃を弾かれ続けているダイザがぼやく。

 そんな俺達に配慮する事も無く、宇宙服野郎は仲間が倒された辺りまで這い寄って来ていた。このまま、此方まで来られるのも時間の問題だろう。

 奴の得物は短機関銃だが、今のところ撃ってくる様子は無い。匍匐前進の練習のつもりなのか、再びこちらへの接近を始めた仲間から俺達の目を逸らす為の囮なのか。

 どないしたろかと眉を寄せた俺は、奴の進路に何かが転がっているのに気付いた。先程倒した奴のランダムドロップと思われるエネルギーパックだ。

 そういえば、この手のアイテムを撃ちぬく事で手榴弾代わりに使う話が、昔読んだ小説スペースオペラにあったな……。


「サーウさん!?」


 急にヘルメットを脱ぎ捨てて膝立ちになった俺にヤーウィが声を掛けるが、それを無視して俺はモスキートを構えた。宇宙服のヘルメットとの距離が10センチを切ったエネルギーパックを、よぉく狙って――撃つ(シュート)

 勿論、1回で命中するなんて甘い考えは持たない。レーザー弾は周囲の土を穿ち、奴のヘルメットに当たって跳ねているが、気にせず撃ち続ける。

 俺の目的に気付いた奴がエネルギーパックを回収しようと手を伸ばし――


 その時、奇跡が起こった。


 エネルギーパックを挟み込む様にウサギの耳が現れたのだ。ポップン・ラビットの頭に載せられたまま持ち上がったエネルギーパックが、ヘルメットのガラス面に映り込む。

 エネルギーパックに吸い込まれていく、外れる筈だったレーザー弾。

 エネルギーパックは俺の予想を大きく上回る爆発を見せ、爆煙の中から宇宙服野郎の起き上がった姿が垣間見えた。とりあえずヘルメットを破損させる事は出来た様だ。そこへ目掛けて俺達の銃撃が集中する。

 どれが致命傷になったのかは判らないが、薄れる煙の中に奴の破片が混じった。


「っしゃあ!!」

「サーウッド!!」


 思わずガッツポーズをしてしまったのが、俺の命取りになった。胸に何発かの衝撃が広がり、眉間を鋭い熱が貫く。

 そのまま勢いに乗って後ろへ飛ばされる浮遊感を味わっていると、世界から色が消えた。ダイザが振り向いて何か叫んでいるのが、妙に鮮明な白黒映画みたいで不思議に感じる。

 暫らく眺めていると、目の前にウィンドウが表示された。


【貴方は死亡しました。

 これより、ミドル・エリア「出会いと別れの広場」に転送されます。

 所持アイテムの内、LG-223×1がドロップアイテムとして失われました。】


 どうやらキャリソンから分捕ったレーザー銃を先程のエネルギーパック同様に落としたらしい。ヤーウィ達が拾ってくれれば良いのだが。

 自分も含めた全てが白黒の世界を眺めていると、視界がウィンドウを残して白く染まった。数秒の後に、周囲の景色が白黒のままミドル・エリアの最初に現れた広場に変わる。

 とりあえずウィンドウの【確認】ボタンを押すと、もう一度白い光に包まれる。その光が消えると、俺は色の付いたミドル・エリアに戻って来ていた。


「……これが、死に戻りってやつ、か」


 呟いて見回すと、他のプレイヤー達が白い光に包まれて現われているのが目に入る。時々悔しそうな顔をしている人もいるが、多分、俺と同じく死に戻りしたのだろう。

 とりあえず近くのベンチに座って休んでいると、銃撃戦が終了したのであろうヤーウィからボイスチャットの申し込みが来た。


『サーウさん、大丈夫っすか?』

『ああ、大丈夫だ。それにしても超A級スナイパーに狙撃されるターゲットの気分まで味わえるとは、VRってのは凄いな』

『……普通はあそこまで綺麗に命中しないッスから』


 何か、ちょっと呆れてる?


『まあ良い。それで、これからどうするんだ?』

『そうッスね……まず、サーウさんは、もう一度軌道エレベーターで地上したへ降りてきてほしいッス。自分らは地上側の待合ロビーに居るッスから、そこで合流しましょう』

『了解。そういや、撃ち合いはどっちが勝った?』

『被害は、あちら二人の此方一人で、一応、自分らの勝ちって事で』

『そいつは良かった。後、俺の銃が落ちてた筈だが、残ってたか?』

『あの初期装備のヤツッスね? あれは、あちらに戦利品として渡したッス』

「何ぃ!?」


 思わず声に出してしまい、周りのプレイヤー達の視線を集めてしまった。

 身を小さくしながら、改めて脳内会話に戻す。


『何で態々くれてやったんだよ?』

『基本、ああいうPvP(銃撃戦)でのランダムドロップは、仕留めた相手に渡すのが礼儀ッスから。

 こっちが手に入れたドロップと交換しても良かったんスけど、サーウさん、もう1丁同じ銃を持ってたんで交換は止めたッス』

『なるほど。で、何を手に入れたんだ?』

『レーザーサブマシンガンッス。こっちはそんな事なんで、サーウさん、早く地上へ戻って来てほしいッス』

『了解。これからエレベーターに向かう』

『お待ちしてるッス』


 あんまり待たせても仕方ないので、とっとと起動エレベーターに乗り込む。今回は更に客がおらず、俺一人でゴンドラを借り切っていた。

 しかし、銃撃戦は凄かった。弾丸が側を通過するだけで、あそこまで衝撃が来るとは想像出来なかった。今なら西部劇の登場人物を超リスペクト出来る。


「そういえば、あれだけ派手に撃ち合ったんだから経験値も結構貯まってるよな……」


 ぶつぶつと呟きながら、自分のパラメータを確認してみる。 


「おお、レベルが4も上がってやがる」


 これで先に買っていた突撃銃も使える様になる筈だ。まずはSTRに1ポイント振って、残りはヤーウィ達に相談してみよう。

 防具の習熟度は全般的に上がっており、一部のダメージを受けた箇所の耐久度が減っていた。確か武器屋か何処かで修理が出来る筈なので、これもヤーウィに聞いてみよう。

 そして武器の習熟度なのだが……


「ん? 2? 一昨日と昨日で6にはなってた筈なんだが……」


 てっきり二桁に乗っていると思っていたモスキートの習熟度が、逆に減っていた。これはあれか。バグってやつか? ……いや、待て……


「まさか……これが昨日分捕ったやつで、落としたのが今まで使っていた……」


 脳内で、パイプオルガン――「トッカータとフーガ ニ短調」――が大音量で鳴り響いた。

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