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第10話 初心者、大地に立つ

「……ところで、狩りって何を狩るんだ?」


 そう。俺が聞きたかったのは狩りの対象となる獲物だった。突撃銃で対処出来る様なので、せいぜい熊かそこらだとは思うが、逆に猪とか鹿とか、もう一回り小さい可能性もあるか。


「そうッスねぇ……まずは軌道エレベーター周辺の畑を荒らす害獣退治ッスかねぇ」

「だな。野良ウサギとか野良イノシシを狩る事になると思う」

「なるほど。それくらいなら大丈夫そうか。いきなり全長10メートルオーバーの巨大怪獣とかを相手にするのかと心配しちまったぜ」

「そういうのは、レベルが上がってアサルトに慣れてからだね」

「やっぱり居るのかよ、そういうの」


 思わずグレンの方を見てしまったら、余程変な表情をしていたのだろう、くすりと笑われた。確かに女っぽい良い微笑だが、それを男性型キャラクターでやられても……その、何だ、困る。


「流石にいきなりはやらないッスよ。アーマード・レックスなんて出てこられたら、自分達でもかなり危険ッスから」

「……名前だけで回れ右したくなるな」

「ま、おいおい、だな。さて、減速が始まったぞ。後5分程で地上に到着だ」


 ダイザの言葉通り、ゴンドラの降下スピードが体感出来るくらいに落ちてきていた。眼下に見えていた茶色や濃いグレーの迷彩模様が、実は森の色だった事にちょっと驚く。


「あの森は光合成してるのか? そんな色には見えないんだが」

「一応してる設定になってるッス」

「へえ。そんな事も解るのか」

「酸素の代わりにメタンガス出してるって設定が公開されてるッスから」

「危ねえなおい!」


 何で燃えずに残ってんだよ、あの森……


「森の木自体が耐火性高いんスよ。なんで、あの森の木を使えば耐火性バッチリな家が建つんだそうッス」

「それで良いのか木造建築!?」

「まあまあ。地上したに着いたら、まずはパーキンスで消耗品の調達?」

「いや、このまま狩りを始めよう。医療キットならこの前買い込んだのが結構残っているし。皆、弾薬の補充は大丈夫だよな?」


 ダイザの言葉に皆が頷くうちに、エレベーターは地上へと到着した。自動ロックが掛かっていたゴンドラの扉が開き、乗客は降りるように、との放送が流れる。その声に従ってエレベーターから出て、一本道の通路を進んで管理棟に入ると、形式だけの入管手続きと検疫の真似事――ヤーウィ曰く、なまら凄い技術で現実の金属探知機みたいに検査出来るらしい――があって、やっと大地を踏みしめられた。

 ミドル・エリアのビルよりも埃っぽい建物が、どこか地方都市の駅前を思わせる。もっとも、軌道エレベーター周辺のビルは結構高層の物が多く、高くても30~40階建てと思われるビルが立ち並んでいる。


「で、これからどうするんだ?」


 大きく伸びをしてからヤーウィ達に今後の予定を聞くと、「こっちだ」とダイザが案内を始めた。

 皆で軌道エレベーター施設の周囲を半周ほどすると、周囲の開発に取り残されたような雑居ビルが見えてきた。ここが目的地らしい。

 中に入ると市役所のようなロビーとカウンターがあった。


「……ここは?」

「この街の――市役所みたいなもんッス。まずはサーウさんの、この惑星での滞在許可証を作らないといけないッスから」

「へぇ……証明書の発行って、全自動のキャッシュコーナーみたいなのは無いのか?」

「そういうのはミドル・エリアの方ッスね。一応、こっちにも書類発行用の端末は有りますけど、使えるのは窓口が閉まってる時だけッス」


 ……街の住人の雇用対策か何かだろうか?

 ともあれ、他に人が居ないのもあって5分程で滞在許可証は発行された。受け取ってアイテムボックスに入れておく。


「普段は取り出す事はないッスけど、戦争中とか街の警戒レベルが上がってる時は、職務質問で見せるように言われるッスよ」

「なるほど」


 軽く説明を受けながら市役所を後にして、5件向こうのビルに入る。こちらはロビーにATMみたいなのが壁沿いに並んで、正にキャッシュコーナーだ。


「こっちはクエストの依頼を受ける施設ッス。とりあえず、ここで簡単そうな害獣駆除クエストを受けましょう」

「っと、その前にチームを組んでおくか」


 ダイザの呟きと共に、目の前にウィンドウが現れた。


「ええと……【グレンからチームへの参加要請が来ています。】?」

「クエストをチームとして受けるからな。【Yes】と答えておいてくれ」


 ダイザに言われるまま、ウィンドウにある【Yes】ボタンを押す。【チーム「いちごみるく」に参加しました。】とのメッセージが現れ、視界の左上にチーム名が表示された。


「……『いちごみるく』?」

「可愛い感じででしょ?」


 明後日の方向を眺め始めたヤーウィとは対照的に、グレンが良い笑顔で俺の質問に答えた。ダイザは我関せずとばかりに端末を操作し始めている。

 うん、まあ、良いよ……世界にはもっと凄い名前の暴力組織とかもあるそうだし……。


「それで、何か良いクエスト? はあったのか?」

「そうだな……これなんかはどうだろう?」


 ダイザが端末のディスプレイにクエストの依頼表なるものを表示させたのを、皆で覗き込む。


「……『ポップン・ラビット』?」

「地下に穴を掘ってて、そこから急に地上へ出てくるウサギ風のモンスターッス。中々すばしっこいんで面倒なんスけど、HPも装甲も低いッスから、初心者向けッスね」

「モグラみたいな奴だな。初心者オレにも何とか出来る相手なら、それでいってくれ」

「無論、大丈夫だ。じゃあ依頼受けるぞ」


 そんな訳で、まずは腕試しとして「ポップン・ラビット」なるものを50羽程狩る事になった。


――――――――――――――――――――


 この軌道エレベーターの地上側施設グランド・エリアとそれを取り巻く街――起動エレベーターの管理組織の名前をとって「フォーチュン」と呼ばれている――は、静止軌道上のミドル・エリアと同じくエレベーターを中心とした円形になっていた。街の外周には高さ10メートル程の防護壁が廻らされており、東西南北にそれぞれ門が設置されている。

 その北門から出て10分程歩いた、フォーチュンと他の都市を結ぶ街道から離れた場所に依頼された畑はあった。

 今は何も育ててないのか、耕された百メートル四方の地面には緑が見えない。座標による指定が無かったら、ここが依頼された畑だとは気付かなかっただろう。


「収穫後……なのか?」

「ポップン・ラビットに根こそぎ食われちゃったんスよ」

「……なんてこった」


 あまりの徹底振りに言葉を失っていると、畑の中央付近に白っぽい物がにょきっと生えた。


「あれがポップン・ラビットの耳ッス」

「あれを狙い打てば良いのか?」


 俺は脇のホルスターからモスキートを抜いて構えた。


「もう少ししたら耳が動いて、それから頭を地面から出してくるッス。そこを狙って撃って下さい……今ッス!」


 ヤーウィの説明どおり、見えていた耳が左右に揺れた直後にニョキッとポップン・ラビットの頭がせり上がってきた。慌てて引き金を引くが、耳の端を掠めただけで地面に潜り込まれる。


「もう少し早く、耳が揺れたタイミングで、耳と地面の境のやや地面寄りを打って下さい」

「……解った」


 暫らく待っていると、先程の地点から少し離れた所に耳が生えてきた。今度は更に慎重に狙いを定めて――耳が揺れた瞬間に根元を撃つ。出てきたポップン・ラビットの額にレーザー弾が黒い穴を開けると、ポップン・ラビットは透明なガラスのオブジェみたいになってから破裂して消えた。地面には何やらアイテムらしい物が残されている。


「ナイスショット! その調子でお願いするッス」

「よっしゃ。任せろ」


 周囲を見回すと、ダイザやグレンも同じ様に畑に生えた耳を撃っていた。まあ、あちらは俺と違って撃ち方にも余裕が見えるけどな。


 そうやってレーザー銃を使ったもぐら叩きをする事、約20分。

 ポップン・ラビットはランダムにあちらこちらから顔を出していた。耳が出てから数秒後に頭を出す奴や、耳と頭が一緒にニョッキリと出してくるのや、意外と個体差があって、結構大変である。

 視界左上に表示されているクエストインフォメーションには、チーム全員で倒したポップン・ラビットの数がカウントされているが、予定の数まで後一息になっている。

 因みに俺が倒したのは、ここまでで7羽――今、命中させた奴で8羽目である。想定していたノルマの半分……し、初心者だから、これくらいで良いよな?


「これで最後ラスト!」


 グレンが叫びながら50羽目の頭を撃ち抜いた。ノルマを達成したので、後は依頼を受けた施設――正式名称は「公共事業対策所」と言うそうだ――へ報告すれば、報酬の金と経験値が手に入る。それでクエストは終了になるらしい。

 そういえば、ポップン・ラビットを倒した時、畑にアイテムらしい物が落ちていたがあれはなんだったんだろう?

 拾いに行こうと畑に足を踏み入れたところで、転がっていたアイテムが無くなっているのに気付いた。


「ラビットのドロップアイテムなら、もう消えちゃったッスよ?」

「ええぇー」

「いや、そんな事言われても……敵を倒した時のアイテムドロップは、モンスターだと15分で、NPCやネームド・モンスターは30分で、PCは45分で消滅するんスよ」

「何てこった……」

「そうでもないと、きりが無いッスから。特にこいつらみたいな無限に沸いてくるタイプのモンスターは」


 言われて畑を見ると、先程より頻度は低くなった様だが、ポップン・ラビットの耳が時々生えていた。


「じゃあ、あれを撃っても良いんだな?」

「良いッスよ。クエストは終わってるッスから、あんまり意味無いッスよ? 経験値もそんなに高くないッスし」

「経験値よりも、どんなアイテムを落とすのか見てみたいだけだから――な!」


 そう言いながら手近に現れた耳の根元にレーザー弾を1発撃ち込む。少々早過ぎて外したかと思ったがギリギリで命中したらしく、ポップン・ラビットはガラスの破片に変わり、アイテムがドロップした。

 鼻歌混じりにアイテムを拾いに行った俺が見つけたのは、スーパーで御馴染みのプラスティックトレイに載った塊肉――しかも、ナイロンラップで梱包済み――と、畳まれてリボンで十字に縛られた毛皮だった。


「……何なんだ、これは……?」

「ラビットの肉と毛皮ッス。アメリカでやったベータテストの時は、モンスターのドロップは死体のままで、それを捌いて肉とか毛皮とかをゲットしてたらしいんスけど、何処かの団体からクレームが付いたそうで、この形になったそうッス」

「それで良いのか、ばーちゃるりありてぃー……」


 何だろう、この疲労感は……

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