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「あのさ……、三人に自己紹介してもらったのは嬉しいんだけど……」


 サクヤの自己紹介により途切れてしまった大事な話を口に出そうとするシュウ。しかし、なんとなく躊躇ってしまい、すぐに口を閉ざしてしまう。

 シュウの申し訳なさが含まれた雰囲気に気付いた三人の視線が、シュウへと浴びせられる。


「どうした? 不都合なことでもあったか?」


 と、サクヤが尋ね、


「気楽に言ってください。先ほどの会話で『魔王と勇者は分かり合えない』と言いましたが、今回私たちはシュウちゃんの従者です。間違ったことに対しては反発しますが、ある程度のことは了承するつもりですから」


 クサビは優しい言葉をかけ、


「私たちみたいにもうちょっと気楽にしていいと思うよ?」


 アラベラもクサビと同じようにシュウの戸惑いを和らげるような言葉をかけた。

 ここまで三人に言われたため、さすがのシュウも戸惑っているばかりいるわけにいかず、素直に自分の気持ちを伝えることにした。


「三人には悪いけど、ボクは勇者にはなれないし、三人の手伝いを出来るとは思えないんだ……」


 シュウの勇気を出した告白に対し、三人は大した驚きは見せなかった。というよりも、その理由を知りたそうな目で見つめるばかり。言葉を発する様子もなかったので、シュウは続けて、その理由を話すことにした。


「だって、ボクは剣術の練習したことがないし……」

「ああ、それぐらいは知っている。だから、それは自分が旅をしながら教えていこう」


 すかさずフォローを入れるサクヤ。

 それに反応することなくシュウは言葉を続ける。


「本に書いてある勇者のような、リーダー的素質がないし……」

「それぐらい分かっていますわ。それは徐々に、という形でいいでしょう。なんとかなると思いますし……」


 今度はクサビのフォロー。

 それすらも無視してシュウは続ける。


「それに魔法を使えない」

「大丈夫だよー! 魔力はかなりあるみたいだし、そっちは私が教えるよ! 魔法の種類は似てるし、呪文さえ唱えれればなんとかなるよ!」


 その弱音に対してもアラベラが即座にフォローを入れた。シュウがこうやってウジウジすることを三人は分かっていたらしい。

 が、最後に発した魔法に関することだけはどうにもならない事実があった。


「違うんだ、アーちゃん。魔法の呪文を覚えてないとか、魔法の種類を知らないとか、そういう問題じゃないんだよ」

「え? どういうこと?」

「ボクは……呪文を唱えられない……。唱えようとすると言葉が出なくなる。発音しにくいとかじゃなくて発音出来ないんだよ」

「もしかして――」

「うん。分かると思うけど……魔法を扱う資質が抜け落ちてるんだ。だから、僕には勇者にはなれない」


 三人ともそのことに対して驚いてしまっていた。

 言葉が詰まりすぎて、何も発することが出来ない状態。どう反応したらいいのか、それすらも分からないほど困っていた。

 沈黙すること数分。

 最初に口を開いたのはクサビだった。


「それは……事実なのですか?」

「うん。事実だよ。ボクも勇者の血筋を引いているから、魔法を覚えようと努力をしたんだ。でも駄目だった。お医者さんにも見てもらったんだけど、先天性の問題らしい。原因は分からないんだけど……」

「そ、そうですか……」

「ごめんね。だから、ボク以外にも勇者の血を受け継いだ人がいるから、その人を――」

「そいつらは全員殺されたぞ。魔王の配下たちの手にかかってな。今はもうシュウ、お前しか残ってないんだ」


 サクヤは淡々と語る。

 そのことを調べた結果、シュウの元へ来たというような言い方だった。


「う……そ……」


 まさかそんなことになっているとは思ってみなかったシュウは、今まで以上に心の中に孤独感が生まれてしまう。この一年間、親戚の人がシュウを引き取りに来てくれることはなかったが、いつかは来てくれると心の中でそう思っていたからだ。だから、今まで頑張ることが出来ていた。なのに、その希望さえも潰えてしまったことを信じたくなかった。

 それ以上に違う疑問がシュウを襲った。


「な、なんでボクは殺されてないの? 親戚の人たちみたいにボクも殺されてないとおかしいはずでしょ?」

「心が弱いからだろう。手をかけるまでもなく自殺する。そう思われていたからじゃないか?」


 サクヤの遠慮なく心を貫く。

 ボクってそんなに弱いんだ。お婆ちゃんが亡くなってから、独りでなんとかしてきたつもりだったのに。それでもまだ弱い部類に入るんだ……。今までの頑張りさえも否定された気がしたシュウは情けなく笑った。いや、笑うことしか出来なかった。

 そんな冷たい一言を言い放ったサクヤをクサビとアラベラは咎めるような視線を向け、今の発言に撤回するように促していた。


「あ、あくまで自分の仮定だから真に受けるな。もしかしたら違うかもしれないから。とにかくだ、今の自分たちが頼れるのはシュウしかいない。だから、戦えるようになんとかしてやるから安心しろ」


 その二人に促されるようにサクヤは自分の発言に対するフォローと、その話題から話を変えるように促した。

 そこまでして、サクヤに向けられていた二人の視線がようやく外れる。


「……そっか……。どっちみち逃げ道がないんだ……。もう好きなようにしてよ。どうでもいいからさ」


 力なく言い放つ。

 親戚もいない。

 知り合いもいない。

 孤独の状態で生きている意味がない。

 そう思ってしまったからの投げやりの発言。


「お兄ちゃん」

「シュウちゃん」


 アラベラとクサビは名前を呼ぶことが精一杯だった。

 現状を知ってしまったシュウの気持ちは痛いほど分かるからだ。

 そして、これから一緒に魔王退治の旅に出ようとしている仲間からの冷たい一言のせいで、心が壊れてしまっても仕方ない状態だと気付いていたから。

 その原因を作ってしまったサクヤも口を閉ざしていた。

 どういうフォローをしたらいいのか、どうやったらさっきのような笑顔を見せてくれるのか、それが全く分からない状態。何を言っても傷付いてしまうことが目に見えて分かっていた。


「……すまん……」


 シュウに聞こえたのか、聞こえていないのか、それは分からない。だが、サクヤは己の失言に対する謝罪を小声で行い、自分の罪から逃れようとした。


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