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「『魔王は勇者を生かすために存在している』。それが組織の理念だよ」


 サクヤの代わりにアラベラが答える。


「それって……」

「たいていは勇者に殺されるって運命が大半だけどね。魔王の存在意義は悪でしょ? なんで悪が必要なのかって考えた時に、魔王っていう生き物は便利なんだよ。悪を象徴した存在そのものみたいなものだからね。共存という方法もないわけではないけど、基本的には勇者の考えに反発するってのが役割になると思う。全部が全部ってわけじゃない。けど、やっぱり理解し合うのは難しいんじゃないかな?」

「言いたいことは分かるけど、最終的に勇者に殺されちゃうんだよ? それでも平気なの?」

「少なくとも私たちはそれを望んでるからね。魔王になって、自分の目的を果たした際に……」


 アラベラは少しだけ寂しそうに言った。

 果たした目的に対し、何かを悔やんでいるかのように。

 逆にシュウはそんなアラベラを見ていて、悲しい気持ちになってしまっていた。いや、アラベラだけではなく魔王全員に対してだった。

 そこまで悪という概念に縛られる必要はない。自らが悪になる必要もない。魔王にならないといけなかった理由があったとしても、そこまでして犠牲になる必要はない。シュウはアラベラたちにいつの間にか同情の念を抱いてしまっていた。

 それを見透かしたようにサクヤがシュウへと語る。


「シュウのその気持ちが、魔王アザスが考えていることだ」

「え?」

「魔王という存在が自己犠牲の元、悪に縛られる必要はない。勇者じゃなくても魔王が世界を世界統一、平和へと導けばいい。あくまで結果論の話だ」

「で、でも……」

「本当にそれでいいと思うのか? 勇者の血を引いているシュウの立場は良くなっているのか?」

「なってないけど……」

「そういうことだ。自分たち、魔王が人間たちを導くなど愚かな話ということさ。極論だが、自分たちが分かり合えることなんてありえない。いや、分かり合えたとしてもどこかで溝が生じる。それが自分たちと人間たちの差だ」

「……よく分かんないよ。ううん、その理屈は分かるけど、魔王が本当に世界を平和に出来るのか。それとも出来ないのか。それに対する答えがボクには分からない」


 シュウの素直に自分の答えをサクヤへと述べた。

 何が幸せなのか。何が不幸せなのか。立場上、ボク自身は不幸そのもの。しかし、他の人たちは幸せそうに笑顔を見せている。だからこそ魔王アザスの考えそのものが間違っている、とシュウには断言出来る術は全くなかったのだ。


「だろうな。これは魔王にならないと分からない話さ。単純な話、会長の命によって反逆しようとしているアザスを倒しに来た、っていう認識でいいだろう」

「うん。あのさ、聞きたいことがあるんだけどいい?」

「ああ、なんだ?」

「組織の理念は分かったんだけど、それに反抗しているのは魔王アザスだけなの?」

「違う。少なくとも数名いる。そのリーダーが魔王アザスというわけだ。リーダーというか魔王派遣委員会副会長がアザスなんだがな」

「……立場、そんなに偉いんだ……」


 アザスの立ち位置はもっと下っ端だと思っていたシュウはかなり驚いてしまう。

 それに割り込むようにアラベラが、


「たぶんだけど、この世界の勇者を倒すことに成功したのも、他の世界の魔王が力を貸したからだと思うんだよねー」


 と、さらに衝撃的な発言をあっさりと言い放つ。


「根拠はないですが、本来魔王と対峙する正義の味方は意外とその力に匹敵もとい上の人物が多いのです。だからこそ、勇者が倒されたと聞いて、私たちはこういう判断をしたのですわ」


 次にクサビがシュウの質問を先読みして、その理由を述べた。

 勇者が負けてしまった理由をしたシュウは、どんな反応を取ってしまえばいいのか、分からなくなっていた。というよりも驚きの展開が多すぎて、三人の話に付いていくことが必死な状態。


「そいつら――いわゆるタカ派の連中が組織の内部革命を企んでいるということ知ったからこそ、ハト派である会長の命で自分たちがシュウに力を貸して、魔王アザスを倒すということになったのさ。それに、さっきクサビが言ったように他の魔王がこの世界に来ている可能性があるからな」


 あっさりとサクヤの爆弾発言。


「ほ、他の世界の魔王も来てるの?」

「クサビがそう言っただろう? それに革命を起こそうとしているリーダーの元に同志が集まることは何の不思議もない。そもそも異世界の魔王である自分たちがこうやってシュウと接触しているんだ。異世界の魔王が来ててもおかしい話じゃない」


 シュウは絶望した。

 いくら異世界の魔王である三人に力を貸してもらったとしても、異世界の魔王たちに勝てると思ってもいなかったからだ。それにシュウ自身、自分が勇者になれない理由があるためである。

 そのことを言おうと思った先にサクヤが口を開いた。


「改めて自己紹介をしようか。詳しい自己紹介を、な。自分の名前はサクヤ。刀剣が栄えた世界の魔王だ。能力までは説明する必要はないが、刀剣類に魔力の付与などの能力が使える」


 サクヤの説明が終わると、アラベラが「はい! はい!」と手を挙げて必死にアピールし始める。

 その様子を見ていたクサビは「はいはい」と姉のように扇子でアラベラを指して、順番を譲った。


「私の名前はアラベラ! って、さっき言ってるよね! 呼んでほしい名前も!」

「アーちゃんだよね?」

「うん。私の世界は吸血鬼が敵とされる世界なんだ。これで分かると思うけど、私は吸血鬼の魔王。能力はこの世界に似た魔法と吸血鬼の能力だよ! あ、ちなみに変化の能力使える!」

「もしかして、今も?」

「そうそう。本当はナイスバディなの!」

「へ、へー……」

「あれ、疑ってる?」

「アーちゃんが自分で言っても説得力が……」

「じゃあ、変化す―――」


 疑っているシュウのためにわざわざ変化しようとしたところを、クサビの「コホン!」という咳で止められる。

 順番待ちしていることを急かしている様子だった。


「あ、あはは……。まぁ、そういうことで……」

「う、うん。今度見せてね……」

「うん!」


 アラベラにそう言って、フォローをしておくシュウ。


「じゃあ、次は私ですね。名前はクサビですわ。世界は陰陽師が主体になっている所です」

「おんみょーじ?」

「はい。難しい説明はしても分からないと思うので簡単に説明致しますと、この世界のように魔力だけではなく――」


 そう言いながら、袖の中から二、三枚取り出した紙――シュウの背中に付けられていた紙を見せながら、


「こういう護符または呪符と呼ばれる物を使って、様々な魔法を使うと思ってください。これを使っての術を使う者を陰陽師と呼ぶのです」

「そういう世界もあるんだ! 道理でボクもそんな魔法を見たことがないはずだったよ!」


 道中で思ったことに対しての疑問の一つが解決され、シュウは少しだけすっきりしたような気がした。


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