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(2)

「いいのか、さっきの子は?」


 モネラからは離れたところでサクヤは先頭を歩くシュウに向かって、サクヤがあまり興味はなさそうな雰囲気を出しながら問いかけた。

 シュウはゆっくり振り返ると、首を縦に振る。


「謝りたいと言っていたが?」

「それは……きっと、サクヤさんたちが解決してくれたことだと思う。リニスさんに操られてたって教えてくれたでしょ?」

「ああ」

「そのせいでユリちゃんはボクに会いに来ることはなくなった。だから、必然と会話も無くなるよね? そのことを謝りたいんじゃないかな?」

「そうか」

「でも、話ぐらいは聞いてあげた方が良かったんじゃないの?」


 今度はアラベラが寂しそうな表情を浮かべながら、シュウに尋ねる。

 これに対して、シュウは首を横に振り拒否の意思を示す。


「駄目だよ。そんなことをしたら、ユリちゃんが大変な目に合うかもしれない。魔王の配下がどこにいるのかも分からないのに、そんなこと出来ない」

「うっ、それもそうだね。お兄ちゃんの言う通り、勇者の現在地を調べたりする時にこっそりと見たりするからね」


 そのことを指し示すようにアラベラがある個所に指先を向けると、そこから雷撃が放たれる。バチバチと木より前にある何かに接触すると、ポトッと軽い音を立てて落下してくる。

 クサビがそれに近づくと踏みつけ、粉々に砕くように足をグリグリと横に動かす。


「そうですね。シュウちゃんの言う通りですわ。申し訳ございません」

「ううん、気にしてないよ。予想が確信に変わっただけに過ぎないからさ」

「はい」


 クサビが申し訳なさそうに頭を下げる。

 サクヤとアラベラも同じようにシュウから視線を逸らしていた。

 どうやらシュウの言葉が胸に突き刺さり、顔をちゃんとみることが出来ないようだった。その行動が指し示す意味は、『自分の世界の勇者を監視している』ということ。


「そんなに気にしないでよ。ううん、監視のことだけじゃなくて優理ちゃんのことも、だけど」

「良いのですか?」


 クサビが頭を上げるも申し訳なさそうに眉を下げたままで返事を返す。


「うん、いいんだ。だって、ユリちゃんとはまた会えるでしょ? ボクにはやるべきことがあって死ぬわけにはいかない。そのためにクサビさんたちがボクを守ってくれるってことだし。違う?」

「そうですけど……」

「だったら平気だよ。さすがにあんな言い方をしたせいでユリちゃんを傷付けちゃったし、ボクの心も痛んだけど……死ななければ、また会える。その時にちゃんと謝るからさ。謝って許してくれない可能性だってあるけど、それでも謝るから」

「はい、頑張ってくださいね。その時、まだこの世界にいるかどうかは分かりませんが、応援はしておきますわ。ね、サクヤ、アーちゃん」


 クサビは巻き込んでしまったことの対してのお詫びの意味を込めて、二人にもそのことを促すと、


「うん、応援する! じゃないと駄目だもんね!」

「ああ。応援ぐらいはしてやるさ。手助けはしないけどな」


 二人もそれぞれに同意を示す。

 サクヤの反応は気に入らなかったクサビとアラベラは少しだけ睨み付けて、相変わらずの空気の読めなさを注意していたが……。


「サクヤさんは相変わらずだね」

「う、うるさいぞ」

「ごめんなさい。あっ、ちょっと――かなり遅れちゃったけど言いたいことがあるんだ」

「なんだ?」


 サクヤは思い当たる節がないらしく首を傾げながら、クサビとアラベラにも視線を向ける。

 二人も思い当たる節がないことを知らせるように首を横に振って、「分からない」と返事を返した。

 やっぱり分からないよね。シュウは三人の様子を見ながら、苦笑い。


「サクヤさんだけじゃなくて、クサビさんもなんだけどね」

「私にも、ですか?」

「うん。じゃあ、改めて……これからの修行、お願いします。色々と迷惑かけるけど、それでも頑張るから」


 シュウはそう言って、深々と頭を下げる。

 サクヤとクサビは「あー!」と声を漏らしながら、自らの両手を叩いて納得の合図。

 アラベラは自分だけが含まれないことに不満そうな表情を浮かべていたが、シュウの内容を聞いた途端、嫉妬していたことを恥ずかしそうに頬を掻いて誤魔化し始める。


「こちらこそよろしくお願いいたしますわ。魔法に関してだけですがどうなるかも分かりませんから、絶対に使えるという保証は出来ませんけども……」

「ううん、それはそれで大丈夫だよ。使えるかもっていう希望が湧いただけでも十分だから」

「はい。それが分かっているのなら十分ですわ」


 クサビは微笑みながらそう言うと、サクヤへと視線を向ける。

 それはアラベラも同じだった。

 二人の目が無言で語っているのは、「余計なことを言わないように」という注意の言葉。

 シュウも二人の視線の意味に気付いており、サクヤに見つめる。

 三人に見られたことにより、サクヤも困ったように頭を掻きながら、


「一応、自分の師匠も言っていたが、一瞬一瞬が生死を分けるシビアな世界だ。だから魔法に関しては知識で学べばいいのかもしれないが、剣術を教える時だけは家族や仲間という考えを消さなければならない。甘やかすことは出来ないんだ。だから、自分もある程度は本気でやることになる。そのことだけは分かってくれ」


 視線だけは真剣にシュウを見つめる。

 自分の身を案じてくれていることに気付いたシュウはその申し入れが嬉しく、「うん!」と元気に答えた。

 他の二人もまたサクヤの真面目な回答に対して、嬉しそうに笑い始める。


「なんで笑うんだ!? そもそも、お前らがこんな回答を望んでいたんだろう! 違うのか!?」

「そうだけどさー。サクヤお姉ちゃんが真面目に答えると、父親みたいな威厳しかないのは私だけかな」


 アラベラは茶化すような雰囲気ではなく、それこそ真剣な様子でシュウとクサビに尋ねる。


「この中で一番厳しい存在ですからね。そうなっても仕方ないでしょう。嫌がっているので、『お父さん』とは呼ばないようにしますけど」

「なっ! 仕方ないだろうがっ! さっきも言ったが、一瞬が生死を分ける世界なんだ! ピリピリしてて当たり前なんだぞ!」

「分かっていますわ。だから、そんなに興奮なさらないでください」

「ま、まぁまぁ、サクヤさん落ち着こうよ。とにかく戦闘での厳しさを一番教えてくれるのはサクヤさんってことは分かってるから」


 このままではまた言い争いが勃発しそうだったため、シュウがそう言って宥める。

 あまり納得していないように腕を組むが、シュウの発言を聞いて少しだけ機嫌を直したらしく、その気持ちを晴らすように大きなため息を一つ吐いた。


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