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(1)

 リニスとの戦闘が終わってから数時間後――。

 時刻は正午前。

 シュウたちはニモネラに向かう方向とは逆の村の入口へとやって来ていた。

 目的は旅立つためである。

 旅立つと言ってもシュウの家には必要最低限の物しかなかったため、シュウが持つ荷物も少なく、リュックサックに入る程度の物しかなかった。そのため、旅立つというよりは少し離れた町に買い物に行くようにしか見えない状態。

 しかし、シュウは遠出をしたことがあまりなかったため、期待と不安が入り混じった複雑な表情を浮かべていた。


「本当に良いのですか?」


 クサビはそんな複雑な表情を浮かべるシュウに何度目になるか分からない質問を尋ねた。

 サクヤもアラベラも、クサビのその質問に賛同しているのか、あまり納得していない表情を浮かべている。

 それは修業云々の話ではなく、シュウの旅立つ理由のせいだった。


「いいんだよ。こっちの方がみんなは安全なんだし……」

「確かにシュウちゃんがこの村から離れることで、ニモネラの皆さんがリニスさんの時のように魔王による支配はなくなるでしょうけど……。でも、それが本当かどうかは分かりませんわ。あくまでシュウちゃんを追うように次の魔王が現れる確率の方が高いというだけですから。それに――」

「ニモネラのようにどこかの村か町を魔王が支配している可能性もあるんだったら、幸せか不幸か分からないけど救ってあげないとね。それが勇者としての使命みたいなものだし」


 クサビの言葉を先読みし、シュウは笑顔で答える。

 シュウが早速旅に出かけることに決めたのは、『ニモネラの皆を守りたい』と『世界で困っている人を救いたい』という気持ちからだった。

 そのことに対し、サクヤたちは複雑な気持ちになっていた。シュウが勇者としての自覚を持ってくれたことは正直嬉しく思っており、異論はなかった。が、シュウは勇者としての自覚を持って、そう決意したわけではなかったからだ。どちらかというと、自分がいることで村に居る人たちに迷惑をかけてしまう。それが嫌で旅に出る決意をしたという意味合いが強いことに三人は気付いていた。

 しかし、三人にはシュウを引き止めるほどの言葉を持っていなかった。いや、自分たちの任務のことを考えると、シュウを引き止められるほどの言葉を持っていたとしても言い出すことが出来なかった。

 だからこそクサビがシュウに尋ねたように、自らの意志で引き止まってくれる発言をすることが精一杯の行動だったのだ。


「そうですか。シュウちゃんがそう言うのでしたら、私たちが無理に引き止めることは出来ませんね」

「……そんな寂しそうな顔をしないでよ。分かってるから。分かって、ボクは言ってるんだから」

「お兄ちゃん、無理に行こうとしないでもいいじゃん! こんな急に旅立とうとしなくてもいいじゃんか!」


 シュウの発言にアラベラは我慢出来ずにそう言ってしまう。

 サクヤとクサビはアラベラの発言に、『とうとう言ってしまったか』と呆れた表情と共に、『よく言った』という気持ちを持ち、どこかでアラベラのことを褒めていた。


「――かもしれないけど……、それはそれで名残惜しくなっちゃいそうだから。だから、今から行くんだよ。うん、大丈夫。ボクにはサクヤさん、クサビさん、アーちゃんがいるから。寂しくなんてないよ」

「お兄ちゃん」


 シュウのその言葉にアラベラは口を閉ざす。

 「寂しい」と口に出してしまったことでシュウの表情に曇りは増すが、それ以上に『サクヤたちがいるから大丈夫』、と自分たちの存在を出されることで否定されることを拒まれてしまったからだ。

 サクヤはもう無理と分かり、シュウに向かって「行くぞ」と言いかけた時――。


「シュウー!!」


 と、一人の女の子の声がシュウたちの耳に届く。

 シュウたちは自然とそちらの方向へ向くと、シュウと似たような服装を着たお団子を一つ作った少女が息を切らしながら走って来ていた。

 サクヤたちはその少女を見た後、シュウを見つめる。

 シュウはその少女を見ながら、動揺を隠しきれない様子でその少女が近くにやって来るまで見ていた。が、すぐに決意が固まった表情に変わる。


「はぁはぁ……やっと追いついた!」


 その少女はシュウたちの元へ辿り着くと、膝に両手を置き、息苦しそうに肩で息をし始める。


「ご、ごめんね! なんか今までシュウのことを悪者扱いしちゃって! ううん、それ以前にシュウがおさな――」

「誰、君?」


 シュウはユリの言葉を遮り、冷たく言い放つ。

 少女の方が今度は動揺を隠しきれない様子で、目を泳がし始める。


「え?」

「だから、君は誰? ボクは君のこと分からないんだけど」

「え、え……え……?」

「君はボクのことを知ってるかもしれないけど、ボクは君のことなんて知らないんだ。知り合いでもないのに、気安く話しかけないでくれるかな?」

「ゆ、ユリはシュウのお、幼馴染だよね? 昔はいっぱい遊んだよね。ううん、そんなことを言う資格なんてないのは分かってる。両親に連れられて、ニモネラに行ってからというもの、ずっと会いに行こうともしなかったんだから」

「ふーん、そうなんだ。知らないや。サクヤさん、クサビさん、アーちゃん、もう行こう」


 シュウは関心すら持っていない様子で答えると、そのまま背中を向け、森の中に姿を隠すように歩き始める。

 三人は何も言うことはなかった。いや、シュウのことを思えば口を挟むべきものではない、と思ったからだ。


「ね、ねえ! どこに行くの? すぐに帰ってくる? は、話したいことがたくさんあるんだよ! ねえ、シュウ!! 謝りたいの! 謝りたいことがたくさんあるの! シュウ! シュウ! シュウ!!」


 ユリの言葉はちゃんと聞こえていたが、シュウは振り返ることはなかった。それどころか逆に足を速めて、モネラから離れようと動く。

 ごめん、ごめんね! ユリちゃん、ごめんね!! シュウはユリのことをしっかり覚えており、ぶっきらぼうに言い放った冷たい言葉に対して心の中で謝り続けていた。それは涙となって頬を伝ったが、三人にも気付かれたくなかったので涙を拭う行為を一切行うことはなかった。

 サクヤたちはシュウが隠れて涙を浮かべていることに気付いていた。が、シュウが必死に隠そうとしているため、その気持ちを汲み、シュウの後を黙って追うのだった。


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