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(7)

 しかし、三人はその高ぶった気持ちを抑えるようにゆっくりと深呼吸をして、再び冷静な表情へと戻る。


「危ない危ない。自分のコピーに欲情して、本来の目的を忘れてしまうところだった」


 というサクヤの呟きに、


「私としたことが簡単な挑発に乗りそうになってしまいましたわ。魔王のさがみたいなものだから、どうしようも出来ないのでしょうけど……」


 クサビはそのことが嘆かわしいらしく、少しだけ項垂れる。


「こればかりはしょうがないわ。落ち着けるだけの理性が保てただけ良しとしないと、ね」


 困ったように苦笑いを溢しながらアラベラが、クサビにフォローを入れた。


「そんなことは実際どうでもよくて、問題は自分たちのコピーだ。さて、どうしたものかな……」


 リニスを庇うように集まる糸人形の自分たちを見ながら、サクヤはクサビとアラベラに漏らす。コピーといえどまだ見せていない能力がある時点で勝てることは間違いがなかった。が、倒すとしてもほんの少しだけ時間がかかりそうなことをサクヤは予想していた。

 さっきの接触で筋力などの能力面を完全にコピーしていることを気付いたからだ。

 サクヤの質問にアラベラが面倒くさそうに答える。


「能力をフルに使って、圧倒的な力で戦うしかないんじゃない?」

「こんな最初の段階で能力をフルに使っても、後々自らを破滅に導きそうだけどな」


 サクヤはそのことが心配のため、自らが保有する能力を使えずにいた。

 勇者と部下の戦いの時、魔王たちはその時の映像を見ることがある。それは、勇者の実力を確認するためである。『どれぐらい強くなっているか?』、『次はどれぐらいの強さの奴と戦わせたら勇者の力が上がるか?』の二つを考えないといけないからだ。倒すだけならば、自らが出向けばいいだけの話であり、部下をあてがう必要はどこにもないのだから。

 しかし、今回はそんな甘い話ではなく、隙さえあれば全力で殺しにかかってくる。そのため、なるべく能力は隠しておきたいのだ。切り札は多ければ多いだけ、ピンチを切り抜ける確率が上がるから。

 そのことをアラベラもちゃんと分かってはいるようで、首を縦に振る。


「それもそうね。もう少しで夜も明けそうだし……、あまり時間はかけられそうにないわ。クサビお姉ちゃんの術もそんなに長く持つタイプではなかったみたいだったから。そういうわけで他に考えはある?」

「――ありますわよ。お互いに気分は悪くなるかもしれませんが、これしかありませんわね」


 アラベラの質問に対し、クサビはあまり納得がいかない様子で答える。思いついてはいたが、自分的に好ましい考えではなかったらしい。


「ほう、じゃあ聞くだけ聞いてやるか」


 サクヤの声に返事を聞いたクサビは、二人の間に入るように一足飛びで近づき、耳元でその考えをリニスに聞かれないように囁く。

 その考えを聞いた二人はクサビと同じようにあまり納得いかなそうな表情を浮かべるも、しょうがないと言った感じで頷く。


「じゃあ、そういうことでよろしいですか?」

「よろしいもよろしくないもないな、クサビ。それで行くしかないんだからな」


 考えが思いつかなかったこともあり、サクヤはクサビにフォローを入れた。

 アラベラもまた不安そうにサクヤへと質問をぶつける。


「恨みっこなしということでいいのよね?」

「恨みっこも何も時間短縮のためだ。そもそもコピーどもを倒さないと意味がないんだからな」

「オッケー。じゃあ私がサクヤお姉ちゃんのコピーをぶっ殺すから安心していいわ!」

「そこで喜ぶな!」

「えー、仲間同士では戦えないんだから、こういう時ぐらい楽しんでもいいでしょ? そういうサクヤお姉ちゃんだって、クサビお姉ちゃんのコピーでも倒せると思うと、ちょっと楽しそうって思うでしょ? っていうか、ちょっとだけ笑ってるし……」


 アラベラはサクヤの顔を凝視しながら、その不満をぶつける。

 対してサクヤは、見抜かれると思っていなかったらしく、慌ててクサビの方を見つめながら、言い訳はし始めようとしたが――。


「そのことに関してはもういいですから、早く仕掛けましょう。リニスさんの方も待ちくたびれているみたいですしね」


 どうでもいいことで揉め始める二人を呆れた目で見ながら、リニスを指差すクサビ。

 リニスの方も暇そうにそれぞれの指を動かし、糸人形のサクヤたちの動きを確かめていた。が、クサビの視線に気が付いたのか、サクヤたちの方へ視線を向け、


「作戦タイム長すぎじゃない? こっちの準備は整ってるのにさ~」


 と、呑気そうに話しかける。


「そう言っていられるのは今の内ですわ! ちゃんとあんたを斬り裂いてあげるから安心しなさい!」


 その挑発に乗るようにアラベラがサイズの先端をリニスへと突き付ける。


「はいはい、そんなことが出来るのならやってみなよ。同じ魔王形態ならともかく人間形態のサクヤたちに負ける気が一切しないし~」

「そう思っていられるのも今の内ですわ。なにより、人間形態だからと言って甘く見ていると本当に負けますわよ?」


 と、クサビまでもが余裕の表情を作る。


「そういうわけだ。きっとこれで終わる。だから安心して、自分の世界に戻るがいい。っていうか、先に礼を言っておいてやる」

「お礼? 何のこと?」

「共闘だよ。リニスのおかげでそのコツがつか――」


 そう言いかけたところでクサビに肩を、アラベラに頭を叩かれるサクヤ。行動だけではなく、「これ以上、何も言うな」という視線までもが向けられていた。

 最後まで聞き取れなかったらしいリニスは首を傾げている。

 なんでかな……? この戦闘に緊張感が一切感じないのは……。四人のやり取りを見ていたシュウはそう思ってしまっていた。

 シュウ自体は戦闘に一度も参加したことがないのでよく分からなかったが、サクヤたちの過去の戦闘を見た限りではそれなりの緊張感を感じた。なのに、四人からはこの状況を楽しんでいるようにしか見えなかったのだ。だが、それを注意することも出来なかったのは、戦闘に参加出来ない自分が余計なことを言っては駄目だと思ってしまったからである。

 そんなシュウの気持ちを知らない三人は再び戦闘態勢に入る。

 クサビは元居た位置までバックジャンプで戻り、サクヤは持っていた燃え盛る剣を投げ捨てながら空間に片づけると、長刀を肩に担ぐいつもの体勢になる。アラベラもバサッと大きく翼を広げて飛行する体勢に変わる。

 そして、また三人とリニスの間にピリピリとした空気が溢れ始めた。


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