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(5)

 家に辿り着いたシュウたちは、まずはシュウがドアを開けることによって、三人を家の中に招き入れる。

 三人ともそれぞれに「お邪魔します」と言いながら家の中に入ると、靴を脱いで居間へ上がり、村の時と同じように周囲を確認し始める。


「あの……、そんなに見ないで欲しんだけど……」


 シュウはその様子を確認する三人を見ていると恥ずかしくなってしまい、遠慮がちに注意した。自分の全部を見られているような気がしてしまうような感覚があったからだ。それと同時にこうやって誰かを家に招くなんて思ってもいなかったため、普段から掃除に関してサボり気味だったことを少しだけ恥じた。

 お婆ちゃんに言われた通り、掃除って大切なんだね。今度から気を付けるよ。三人がいるため、箪笥の上に置いてある祖母の写真を一瞥し、台所へと向かう。


「あの……水でいい?」


 そう聞いたところでハッとして、


「ごめん、水しかないんだった」


 改めて言い直す。


「気にしないでいいよー」

「別にお水を貰おうとは思っていませんから、安心してください」

「それよりも先に砂まみれの肉をなんとかした方がいいと思うぞ」


 三人の返答に対し、


「うん。分かった。サクヤさんの言葉に甘えて、お肉だけ葉で包ませてもらうね」


 シュウはサクヤの言う通り、先に肉のことをすることにした。

 朝の内に汲んである井戸水が入った大きな壺の蓋を開けて、その水で肉に付いてしまっている水を流す。そして、こんなこともあろうかと思って準備していた大きな葉にそれを包んで、台所の日陰置いておくことにした。

 それが終わると改めてコップに四人分の水を注ぎ、お盆にそれを乗せて居間へと戻る。


「ごめんね、お待たせしました。って、あれ?」


 居間へ戻るとそこにはアラベラの姿しかなかった。

 アラベラは興味深そうに箪笥の上に飾ってあった祖母の写真を見つめていた。


「他の二人は?」


 お盆をテーブルの上に置きながら尋ねると、


「外に行ったよー。することがあるんだってー。これ、お兄ちゃんのお婆ちゃん?」


 と、写真に写っている祖母を指差しながら、シュウへと見せた。

 シュウはアラベラに近づき、その写真を奪い取ると元あった位置へ戻す。


「うん。優しくて、強いお婆ちゃんだよ」

「そっか。大好きだったんだね」

「あれ、分かるの?」

「目が優しそうになって、すぐに悲しくなったからね」

「あ、あはは……よく見てるね……」


 慌てた様子でシュウは目元をコートの袖で拭う。泣いた実感はなかったが、涙目になっている可能性があったからだ。そして、涙を拭いたことにより、コートをまだ着ていたことに気付く。あまりこのコートを汚したくなかったシュウは急いで脱ぎ、たたむと部屋の隅っこに置いた。


「じゃ、二人を呼んでくるから待ってて。お兄ちゃんに話したいことがたくさんあるからさ」

「あ、ボクが――」

「いいよいいよ。今日は疲れたでしょ?」


 アラベラはそう言いながら玄関の方へ向かい始める。が、いきなり途中で止まるとシュウの方へ振り返り、


「大丈夫だよ。変なことはしてないから。そんなに警戒しないで。お兄ちゃんが気になってることもちゃんとこの後の説明で話すからさ!」


 再びシュウの感情を読み取ったようにフォローし始めた。

 なんで分かるの。アーちゃんの言う通り、感情に出やすいのかな。そんなこと、今まで言われたことなかったのに……。クサビと同じように的確にシュウの気持ちを言い当てるアラベラに困ってしまうシュウ。

 それを言い当てた本人は靴を履きながら、


「お兄ちゃんの味方だよ、私たちは。そこだけは信じて欲しいな。じゃあ、呼んでくるね!」


 それだけ言って、シュウの視界から姿を消した。

 しかし、すぐにアラベラの姿が視界の中に戻ってくる。


「大声で呼んでくれたら良かったのに。わざわざ、アラベラまで外に出る必要はなかったと思うぞ」


 入って来るなり、サクヤがアラベラにそう言うと、


「せめて近くにいるなら、近くにいるって言っておいてよ。裏まで言ったのかと思ったじゃん」


 少しだけ不満そうにアラベラが言い返すと、


「さすがに裏までは行きませんわ。行くとしたら、せめてシュウちゃんに説明が終わってから行きます。それでなくても私たちがここに来たことによって、問題が起きることは間違いない事実なんですから」


 クサビによって反論される。

 そのことが分かっているらしいアラベラは「それはそうだけど……」と言葉を濁しながら、不満の顔を隠そうとはしていなかった。

 シュウは三人のやり取りを聞きながら、また一つ新しい疑問を発見する。

 ボク、いつ自己紹介したっけ? 三人には確かに自己紹介をしてもらったけど、ボクはそのタイミングをなくしていたような気がする。なら、なんでクサビさんはボクの名前を知ってるんだ?


「どうした? 不思議そうな顔をして。また一つ疑問が増えたのか?」


 サクヤが背中の長刀を床に置き、その横に座りながらシュウへと尋ねた。


「なんで、ボクの名前知ってるの?」

「ああ、そのことか。シュウのことを知ってるから、あの子供たちから助けたに決まってるだろう? 自分たちは慈善事業のためにシュウを救ったわけじゃないからな」

「え? どういうこと?」

「そこら辺はクサビ、お前の出番だ」

「そういう面倒なところを私に丸投げするの止めてくれません? 結構、説明難しいんですから」


 重要な部分を丸投げされたクサビは、サクヤへの不満を漏らしつつ、サクヤと同じように適当な場所に正座で座る。


「ほら、お兄ちゃんも早く座って!」


 アラベラはシュウの腕を掴み、引っ張るように無理矢理座らせて、


「私はここ!」


 と、最初から決めていたかのように言い、シュウの膝の上に座る。

 アラベラが膝に座ることに対しての文句はシュウにはなかった。アラベラの幼女みたいな体型から体重もあまり重くないことは分かっていたから。

 ただ、違う意味で不安になっていた。

 まるで、『これから話す内容を最後まで聞くまで逃がさないよ』とアラベラが身体を張って、重石の役割をしているように感じてしまったからだ。

 サクヤもクサビも先ほどと変わった様子は見せていない。なのに、どことなく威圧感を発されているような気がした。


「そんなに怯えないでよー」


 膝の上に乗っているアラベラが敏感に察知し、場を和ますように笑みを溢れさせる。

 しかし、その笑みも今のシュウにとって悪い笑みを浮かべているようにしか見えなかった。

 アラベラは困ったように頬を掻き、クサビへ首を横に振って、「和ませることを失敗した」と無言の合図を送る。


「仕方ないですわね。さすがに不信に思われても仕方ない状態ですから、簡潔に説明しますわ。私たちはあなたを利用しようと思っています」


 悪びれた様子もなく、クサビはあっさりと言い切った。


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