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(3)

「あれれ? サクヤちゃ~ん。この展開に驚き過ぎて反応も取れないのかな~?」


 クサビとアラベラの反応はリニスにとっても当たり前だったらしく、無表情で反応に困っている雰囲気を出しているサクヤに『ちゃん』付けして挑発し始める。今までにない喜び方をしていた。

 そんなリニスにサクヤは憐みの視線を向けつつ、呆れたため息を漏らした。


「お前は案の定、馬鹿だな」


 そう言葉で叩き斬った。

 リニスは意味が分からないように首を傾げていると、クサビとアラベラはジト目でサクヤを睨み付けた。この展開のノリを分かっていない、と言いたげな視線で。

 その視線から気付いたのだろう、リニスはハッとした様子でシュウを見つめる。しかし、シュウも同じように三人の反応に意味が分からないとでも言うように困っていた。


「な、何かしたのか?」

「何もしてないと思ったのか?」

「何もしてないとお思いですか?」

「何もしてないと思ってるの?」


 リニスの反応に対し、三人はそれぞれに答えを述べる。

 その反応で、リニスは三人が何かをした確証を得ることが出来たが、いったい何をしたのかが全く分からない状態で忌々しく三人を睨み付けることが精一杯だった。


「あらあら、聞くのも悔しいですか? 良いのですよ? 分からないなら分からないで尋ねても」


 クサビが礼儀正しく挑発すると、


「そうだぞ? 分からないなら素直に聞け。元仲間としてのよしみだ。それぐらい教えるぞ?」


 と、サクヤもまたニヤリと口端を歪めて挑発し、


「分からないことは素直に聞きなさいよ。そっちの方がこれから負ける貴女にふさわしい発言よ? あ、ただ聞く前に土下座までとはいかないけど、頭ぐらい下げてよね? それぐらいしてもらわないと割に合わないわ」


 トドメとばかりにアラベラまでもが挑発。

 三人ともリニスが素直に聞いてくれると思っていないからこその挑発であり、こんな挑発をした後では絶対に言わないことを分かっているから、期待もしていなかった。

 だからこそ、それを「言え」とばかりに三人の視線はシュウへと注がれる。


「ね、ねぇ! 早く助けてよ! じゃないと三人とも……っ!」


 そのことを察したシュウは少しだけ真剣に三人向けて、そう発した。


「ま、しょうがない。助けることが最優先だからな」


 サクヤは演技で仕方ないと言わんばかりに頭を掻きながら呟いた瞬間、シュウの身体に付いている糸を、鬼面を倒した時に使った能力――刀剣の召喚を使い、斬り裂く。そして、付け加えるように、


「すまん。自分の言い方は間違ってたな。『何もしてないと思ったか』じゃなくて、『これぐらい、なんとでも出来る』だった。すまんな」


 悪気が全くない「くくっ」という笑いと共にそう言い放つ。


「っ! さすがは『刀剣の花嫁』の異名を持つだけのことはあるね! でも、まだまだだよ!」


 リニスの糸から脱出したシュウは急いで三人の元へと向かっていると、その背中に向かった再び糸を放つ。今度は自らが誘導しているのか、サクヤが放つ刀剣の隙間を縫うように飛んでいき、その糸から逃げようとしたシュウの体にくっついてしまう。


「あっ!」


 驚いた声を上げるシュウだったが、シュウの体はそんなことを知らないようにリニスの糸に操られ、シュウでは絶対に出来ない身体能力を見せて、リニスの隣へ着地。


「ご、ごめんなさい。ま、また――」

「――なんてことが起こると思います?」


 その瞬間、シュウの身体がボンッという音と共に煙包まれる。そして煙が張れるとそこには人型の形をした紙がヒラヒラと落ちる。

 そして、本物のシュウは三人の前に当たり前のように立っていた。


「いつの間に!?」


 紙を使っての身代わりをすでに用意していたと思っていなかったリニスは驚きの声を隠せず、椅子から立ち上がり、今度こそ本当に驚いていたような反応を取った。

 それに対して、クサビはにっこりと笑みを浮かべて、


「リニスさんの手の内なんて読めているのです。これぐらいのこと、造作もないことですわ」


 と、さも当然のように答えてみせる。


「さ、さすがだね、クサビ。『変幻の陰陽師』という異名を持つだけのことはあるね」

「いえいえ、リニスさんのように『心惑の傀儡師』と比べたら大したものじゃないですわ。ここまでシュウちゃんを誘惑しまくったのですから」

「しん……わく……?」


 クサビの言葉に反応するようにシュウはポツリと呟く。


「『心を誘惑する』を短くして、『心惑』ですわ。さっきからシュウちゃんが、リニスの言う通りの行動をしてしまうのはその影響のせいです。そうでなくてもリニスさんが生まれた世界は傀儡で有名な世界ですから、他人の心を弄ぶなんて簡単なものなのでしょうね。あいにく、シュウちゃんの中に流れる勇者の血がそれを拒んでいるから、なかなか思い通りいかないみたいですけど……」

「あ、あれ? 意外と勇者の血ってすごいんだ……」


 シュウはちょっとだけ自分の中に流れる血が誇らしげに思い、嬉しくなってしまう。

 今までは勇者の血のせいで不幸になることが多かったけれど、こんな風に役に立つと思っていなかったからだ。

 それに反応にするようにリニスはイライラとした表情を浮かべていた。


「本当だよ。その血さえなければ、シュウくんなんかもうちょっとあっさり殺せてたのにね。いや、それは違うか」

「え?」

「その血だけのせいじゃないって言いたいのさ」

「どういうこと?」

「シュウくんの親戚たちは全滅させた話をしたよね? その親戚たちは、人数は多かったけど強くはなかった。つまり、あたしの誘惑に簡単に乗ってくれたんだよ。だから、あっさりと殺すことが出来た。なのに、シュウくんがこんなにも手こずっているか、理由が分かるかい?」

「それはサクヤさんたちが――」

「関係ないね。それは君が勇者の血に選ばれたからだよ。次世代の勇者としてね! だからこそ、シュウくんの元にこの三人が集まったのさ! もし、サクヤたちが来なかったとしても、違う人たちが集まってたはずだよ。どのタイミングでそうなるかは分からなかったけどさ」


 シュウはその言葉を信じられなかった。

 事実としては嬉しいことだったが、選ばれたということはこれから戦闘などの危険な場面に遭遇するということを知らされたからだ。そのことでさっき決意したことが一気に重石のように肩に乗っかったような気がして、急にシュウは緊張し始めてしまう。


「シュウ、今さらブレるな。今のがリニスの策略だぞ。誘惑して相手の心を弄る。それが奴の常套手段だ」


 と、サクヤがシュウに注意を促す。


「そうですわ。しっかりしなさい。もう一人ではないのですから」


 クサビも少しだけ厳しめに注意をし始める。


「安心しなさいよ。お兄ちゃんは私たちが守るわ、絶対にね。勇者の血に選ばれたとか関係なく、私たちは守りたいと思ってるの」


 アラベラにまでそう言われたシュウは、


「ごめんなさい。またブレるところだった」


 と、三人に素直に謝罪を行った。

 本当にボクは駄目だな。こんなことでブレるなんて。シュウがそう思いながら、自分を叱りつけるように握り拳を作った。そして、それをサクヤへと容赦なく放つ。


「ん!?」


 サクヤはその拳が止まって見えていたのか、あっさりと受け止める。が、表情は少しだけ驚いていた。

 それはサクヤ以外の二人も、そして拳を放ったシュウも同じだった。


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