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(1)

 三人はほぼ同時のタイミングで、シュウとリニスのいる部屋に戻ってきた。そして、それぞれがそれぞれの様子を確認するように見つめた後、


「さすがに幼児体型では辛かったみたいだな」


 サクヤがアラベラへと問いかける。

 しかし、アラベラは首を横に振り、


「そういうわけじゃないの。どっちかって言うと、リニスがお兄ちゃんに他人ひとの魔力を利用して変なことをしてたみたいだから、急いだ結果がこの姿ってだけよ」

「あら、アーちゃんも感じましたか。私も同じですわ。何をしていたのかまでは分かりませんけどね」


 と、クサビもその流れに乗るように答える。


「なんだ、二人もか。自分もだ。それでシュウ、いったい何を見たんだ?」


 サクヤもまた二人の言葉に頷き、自分たちの魔力が利用されて、『何が行われたのか?』、その内容をリニスではなくシュウへと尋ねた。

 直接、シュウに尋ねたのはリニスに聞くのがしゃくだったからである。

 話を振られたシュウはゆっくりと何歩か歩き、前に出ると三人の無事をそれぞれ確認するように見回す。それから、ゆっくりとシュウは口を開いた。


「ぼ、ボクは三人の過去を見てきたんだ……。魔王になったきっかけを……」


 シュウはそう言って、身体を縮こませた。

 怒られるっ! 強制的ではあったが、他人の一番思い出したくない過去を見てしまったのだ。シュウがそう思ってしまうのは仕方ないことだった。

 しかし、三人からは怒りの声などは聞こえてこず、それどころか困ったようなため息が聞こえる。


「そうか、見たのか……」

「まぁ、見られてしまったものは仕方ないですわね」

「そんなに気にしなくてもいいのに……。あっ! だから、この姿見ても驚かなかったのね」


 サクヤは自らの頭を掻き、クサビは鉄扇で口元を隠し、アラベラはあまり興味がなさそうに自ら髪を撫でて、あまり興味がなさそうな反応を示した。


「お、怒らないの?」


 三人の反応がシュウの思ったものとは違い、思わず困ったように尋ねると、


「何に対して怒りますの?」


 と、クサビの返事が返ってくる。


「だって、三人の過去を見たんだよ? 一番、嫌な記憶を……」

「見たからと言って何か変わるわけじゃない」


 そうサクヤがばっさりと切り捨てて、


「ちなみにわたしたちの過去を見て、どう思ったか、感想を聞きたいぐらいね。どうせ、リニスに何か言われて説得しようとか思ってるんでしょ? 話ぐらいは聞いてあげるわ」


 リニスの思惑を完璧に読み取っているアラベラが少しだけ面白そうに、その挑発を素直に乗ることをシュウとリニスへと伝える。

 なんか、説得出来る気がしない。三人の様子を見て、シュウは直感でそう悟った。三人とも自分の過去を見られて動揺する気配が一切もなく、それどころか自分の過去を受け入れているからか、または開き直っているような気がしたからである。

 しかし、シュウは三人の過去から得た人間の持つ果てしない悪意に嫌気が差していることだけは事実だったため、そのことを伝えることにした。言うならば、それがシュウの感想だったから。


「感想だけどね、ボクは三人に言いたいことがあるんだ」


 三人からの返事は頷く仕草だけだった。


「あのさ……、ボクは人間を救いたくない。あんな自分勝手な人間を救いたくなくなった。だって、サクヤさんやクサビさん、それにアーちゃんをあんなに簡単に傷つけたんだよ? 救いたくなる方がおかしいよ! あんな風に傷付く世界なら、ボクが救わなくても魔王アザスが世界を救ったっていいと思ったんだ……」


 シュウはその想いを必死に伝える。

 サクヤ辺りからそのことについて怒られる。そのことは分かっていても伝えないわけにはいかなかったから。今後の展開がどうなろうとも、その気持ちだけは変わらないと思ったから、恐怖から泣き出しそうになりながらも必死に伝えた。

 三人もシュウがそんな風に怯えながら話すと思っていなかったのだろう。ほんの少しだけ動揺していた。


「ほら、三人ともどうするの? シュウくんはそんなに必死になってまで言ってるのに、三人はシュウくんの意見も聞かずに無理矢理旅に連れて行くのかい? ここはシュウくんの気持ちを優先に――」


 リニスがタイミングを見計らい、三人に茶々を入れ始める。三人をシュウから引き離すことが狙いかのように言うセリフに、


「お前はうるさい。黙ってろ、リニス。これは家族の問題だ」


 サクヤがキッとリニスを睨み付け、その言葉を遮る。しかし、シュウの気持ちに対することが見つかっていないのか、サクヤはすぐさま口を閉ざす。

 代わりに口を開いたのはクサビ。


「シュウちゃん、当たり前のような質問をしますが、わたくしの過去も見ましたよね?」

「……うん、見たよ」

「どこまで見たのかは分かりませんが、私は義経と領主、その他にも様々な人を殺しました。なんで殺したか、分かりますか?」

「憎かったから」


 シュウは自信をもってそう答えた。

 過去の映像と現在いまのクサビの様子を見ても、無意味な折衝をしないと思ったからである。だからこそ、自信を持って答えることが出来たのだ。

 しかし、クサビはその答えを聞いた瞬間に首を横に振っていた。

 いや、それよりもっと早い段階で振っていた。クサビの方もシュウがそう答える確信があったかのように。


「少なくとも義経と領主には憎悪がありました。しかし、他の人には何の怨みもなく殺しましたわ。いえ、そうすることが正しいと思っていましたの。逆らう者を殺して、私自身が世界の秩序を作る。それで平和な世界を造る。なんて、夢を見ていたのですが、ある時気付いたのです」

「きづ……いた……?」

「力で支配した姿は、私を犯した領主そのものということに。この姿こそ、お父様が逆らってまで言っていた間違いだって。だからこそ、私は勇者に殺されることを望んだのです。こんな私なんかが……いえ、怨みもなく関係のない人たちを殺した魔王が平和を望んではいけない、と……。何か間違ったことは言っていますか?」


 クサビは優しくシュウへと問いかける。

 シュウは何も言うことが出来なかった。

 ここでシュウは体験者と傍観者の考えの差を改めて思い知らされてしまったからである。


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