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(25) 【アラベラ視点】

 アラベラはため息を溢しながら、


「本当に私が言ったとおりになってるし。勝てるまで出てくるな……ねぇー」


 一緒の部屋にいる青年を見つめる。

 青年は殺気だった目でアラベラを見つめており、いつでも戦闘が出来ると言わんばかりに左右の指を個別に動かしていた。


「なんかすごい殺気が溢れてるなー。そんなに戦いたかったの、お兄さん?」

「うるさい。早く俺に殺されて、俺の人形になれ」

「……」

「……」

「ごめんね、もう一回言ってくれる?」

「俺に殺されて、俺の人形になれ」


 アラベラは違う意味で背筋にゾゾッとした寒気が走る。

 よ、よりにもよって、そういう趣味を持った人が相手なんてやりにくい……。思わずアラベラは、自分の身体を腕で隠した。

 しかし、青年は興味がなさそうに自らの手首に顔を近づけると噛み千切る。そして、溢れ出る血を地面に押し付ける


「召還系の魔法かな?」


 アラベラはその様子を見ながら、ほんの少しだけ身構える。ふざけて身体を隠したわけではなかったが、殺る気満々な相手に少しでも隙を見せたくなかったからだ。

 そしてアラベラの想像通り、地面に押し付けられた血はどんどん広がり、大きな円が出来上がる。その円から一体の魔物が這い出るように出てきた。

 しかも、それはアラベラの見たことのある敵――天一郎の首なし状態だった。


「え、えー……よ、よりによって、そいつー?」


 もう一度戦うと思っていなかったアラベラは、天一郎の見た目の怖さから一歩だけ後ろに下がってしまう。戦うことに関しての問題はなく、見た目が問題なのだ。


「こいつの恐怖と怨みを晴らしてやらないと成仏なんて出来ないだろう?」

「成仏ねー。そう言って、そいつの躯を使ってるお兄さんに言われたくないんだけど。そういうのを死者の冒涜って言うんじゃないの?」

「気にするな。俺は手駒がいればいいんだ……」


 青年はアラベラの文句に対し気にする様子もなく、召還した天一郎の身体へと手を伸ばす。すると指先から糸が射出され、それが天一郎の身体に張り付く。そして感触を確かめるように指を動かすと、その動きに従うかのように天一郎の身体も動き始める。


「傀儡師ってやつね。だから、召還したんだ」

「それだけじゃない」

「ん?」

「戦ってみたら分かる」

「そか。じゃあ、様子見で攻めさせてもらおうかな!」


 青年の挑発に乗るようにアラベラは天一郎に向かって突撃。持っているサイズを振り上げ、ちょうど刃が天一郎の肩口を捉えるように振り抜く。

 天一郎の身体はそれを見透かしたように持っていた刀を構えることで受け止める。そして弾き返し、そのままの流れでお返しと言わんばかりの横薙ぎの一撃が、アラベラの首に向かって襲いかかる。

 アラベラはその攻撃をしゃがむことにより余裕で躱し、次の攻撃を繰り出そうと顔を振り上げた時――そのことが分かっていたようにアラベラの顔面に向かい、天一郎の手の平が差し向けられていた。


「えっ!?」


 そして、アラベラへと放たれる閃光。

 その閃光が終わると、アラベラは自らが天一郎を始末する時にしたように、今度は自らが氷漬けにされていた。それも簡単に脱出出来ないようにかなりの厚めの氷塊。


「その氷の中は絶対零度にしてある。これでお前も身動きが取れないはずだ。こいつに自分の弱点を言ったのが間違いだったな」


 そうアラベラに話しかけるも、アラベラは完全に動きが止まってしまっているらしく、青年に対する返事はなかった。

 しかし、青年はそんなアラベラに関係なく独り言を続ける。


「本当は焼き尽くしてやりたかったんだが、あのメンバーの中で適役なのがこいつしかいなかったのが残念だったな。ま、結果としてこんなにも簡単に封印されたのが唯一の救いだったかもしれないが」


 その時、ピキッと氷にヒビが入るような音が部屋中に響き渡る。

 青年はその音の元凶であるアラベラの氷を見つめた。本来、ありえないことだったが、アラベラは魔王であり、脱出出来る可能性を否めなかったからだ。そのため、天一郎の死体を操り、刀を構えて警戒を強める。

 しばらくして青年の思惑通り、アラベラは氷塊から脱出したところを遠慮なくアラベラの心臓を狙い、刺突攻撃。

 脱出直後のアラベラは躱す暇も防御する暇もなく、直撃を受ける。

 しかし、アラベラは口から軽く血を流すも、追撃が繰り出されることを考えていたらしく、口端を歪めて笑う。


「そうくると思ったよ。当たり前だよね。お兄さん、警戒心が馬鹿みたいに強いし……」


 そう言い残してコウモリに分かれ、少し距離を取って身体を再形成させる。

 青年は少しだけ悔しそうに「ちっ」と舌打ちをしながら、さっき以上に殺気が強めながら、アラベラを睨み付けた。


「どうやって脱出した?」

「ん? お兄さんが私の弱点をその死体から聞き出したように、私もその死体の能力を分かってるから手の打ちようはあるよね。単純に封印された直後には、まだ意識があったから火の魔法の中で強めのやつを発動して、徐々に溶かしていっただけの話だよ」

「なるほどな。もうちょっと考える余地があるか」

「あはは! ないない! さすがにそんな余地を与えるはずがないでしょ?」

「どういうことだ? お前の弱点が分かった今、この死体を滅されようが次の手段を出せばいいだけの話だ」

「それをさせないって話だよ! その準備は最終段階に入ってるよ」

「なんだ……っ!?」


 青年は言葉を途中で止めると、痛みが走った部位――首筋に手を置く。そして、原因を確かめるように手の平を見つめると、そこには少量の血が付いていた。血の量としても、普通は気にしない程度のもの。しかし、それを忌々しげに見つめた後、アラベラを見た。


「ふっふーん、正解」


 悪戯が成功した時のようにアラベラは笑っていた。


「何をした?」

「私の血をお兄さんの身体の中に入れてあげたの」

「血を? それに何の意味がある?」

「あれ、変化がない?」

「何がだ?」


 アラベラは不思議そうに青年と天一郎を交互に見つめる。しかし、どこの変化もなく、以前変わらないままだった。


「んー、おかしいなー。もしかして、この容姿のせいかな?」

「つまり、それが発動する前にお前を倒せばいいというわけだな」

「え、ちょっ!? そ、そこは待たない? 勝てないわけじゃないけどさ! まだ私が本気を出すタイミングじゃ――」

「問答無用!」


 そう言って、青年は天一郎を操り、アラベラの方へ突撃させる。左手には光が灯り、魔法発動待機状態にさせていた。それは右手に持つ刀も同じであり、ほんの少しだけ刀身に光が灯っていた。


「えー! なんか刀の方にも魔法をかけてない!?」

「素の刀で攻撃しても意味がないみたいだからな。氷の魔法で斬ったそばから凍らせたら、再生は出来ないだろ?」

「うそっ! 再びピンチ!?」


 目の前に天一郎が到着し、アラベラに向かって刀を振り下ろす。

 その攻撃をアラベラは持っているサイズの長柄に火の魔法をかけて無効化しようとした時のこと――。


「あ、あれっ!?」


 一瞬、長柄にかけようとした魔力が一瞬にして消えてしまい、刀にかかった氷の魔法によって長柄が凍り、そのまま刀がヒット。その一撃により長柄は両断され、アラベラはその一撃をモロに受けてしまう。


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