(24) 【クサビ視点】
青年は驚愕していた。
不意打ち気味に使った水蛇がクサビを噛んだ瞬間に弾け飛び、さらには自分に向けられた怒りが今まで感じたこともない恐怖として襲いかかったからだ。普通の恐怖ならばたいしたことはなかったが、フラッシュバックとして何かの生物に吠えられたような映像が浮かび上がったからである。
「な、何をした?」
おそるおそる青年はクサビへと尋ねた。
「大したことはしてないですわ。っていうよりも、貴方は私の思惑に引っ掛かっていただけじゃないですか」
「思惑?」
「陰陽師だからと言って、護符を取り出して相手に差し向ける必要なんてないですから。今回の蛇に関しては、私が袖の中で発動させた護符の影響で弾け飛んだだけですしね。だから、先ほど『私の全力は見せていない』と言ったばかりじゃないですか」
「そ、そういうことか! ネタさえ――」
「分かったらどうかなると思っていますの? だから、貴方は死んでしまうのです。ま、もう確定事項なのですけど」
「な、ん――!?」
青年はその瞬間、地面へと倒れ込み、いきなり苦しみ始める。ゴロゴロと転がりながら、胸元辺りを押さえ、原因を作ったであろうクサビの方を見つめた。
そんな青年に見せるようにクサビは袖の中から「水」と書かれた護符を取り出していた。
「な……に……を……うぷっ!!」
尋ねながら、青年は慌てて口元を押さえるも盛大に吐血。
自分の身体に何が起きているのか、まったく分かっていないらしく、恨めしい目でクサビの方を見つめ続ける。
「簡単なことですわ。貴方の中にある水――血のスピードを加速させてあげただけです。だから、心臓がそれに耐えきれなくて破裂したんでしょうね。いえ、それだけが狙いってわけじゃないんですけど……。これからもっと面白いことが起こると思いますわ」
クサビのその言葉を待っていたかのように、身体の至る所から血が噴き出し始める。心臓を破裂させることではなく、本当はこの現象を狙っていたらしく、クサビは満足そうに笑う。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
青年は最期の絶命の声を上げて、力尽きた。
出血多量による死なのか、全身の血管が破裂したことによるショック死なのかは分からない。唯一分かることは、人間より強い魔物の身体だったせいで、あっさりと死ぬことが出来なかったということだけだった。
「あ、ちなみに言っておきますけど。貴方の死体は故郷に送るマネなんてしませんからね。だってする意味ないですし……。するのは子供だけですわ」
そういうクサビの目は少年に見せていた同情の目ではなく、汚い物でも見るかのような冷たい目。
そして、青年に向けて背中を向けると同じタイミングで、クサビもまたサクヤと同じように元居た部屋に戻る転送が始めるのだった。




