表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/68

(23) 【クサビ視点】

「まったくリニスったら、面倒なことをしてくださいますわね」


 例の『どちらかが勝てるまではこの部屋から出られない』というセリフを聞いた後、突如として魔力を吸われる感覚を受けたクサビは、口元を鉄扇で隠しながらため息を漏らした。

 きっとロクなことに使わないことは分かっていますけど、シュウちゃんは純粋な分だけ面倒なことになるかもしれませんわね。リニスの性格を考えると、自分の魔力を利用して何かロクでもないことをしでかすとクサビは思ったため、


「申し訳ありません。ちょっとだけこちらに野暮用が出来てしまったみたいです。なので、あなたに悪いのですが、少しだけ早めに終わらせてもらいますわ」


 と、改めて宣言した。

 すると、目の前にいる青年は何が面白いのか、「くっくっく」と笑い始める。


「ほう、簡単に終わらせることが出来るのか?」

「どういうことですか?」

「俺は貴女あなたの戦い方を見ていた。最後の最後であの少年のことを想ってしまう貴女が、俺にそう簡単に勝てると思わないが?」

「ああ、見ていらしたのですか。私が手を出さないで良いのなら、勝手に自害でもしてくださると助かるのですが」

「舐めたことを言っているようだが、そう簡単に俺が引くと思っているのか?」

「いいえ、まったく思っていませんけど?」

「だったら、俺に勝てることだけを考えろ。あの少年のように甘く見ていると足元をすくわれるぞ!!」


 青年はそう吠えると、青年の左右の指先から糸のようなものが伸び、それをひゅんひゅんと動き始める。


「なんですか、それは?」

「分からないなら、攻撃してみたらいいだろう?」

「まぁ、そういうことでしたら」


 クサビはそれに応えるように、開いていた鉄扇を閉じ、開いた空間に投げ入れる。その代わりに袖から出した「火」と書かれた護符を取り出し、目の前に差し出す。そして前回の戦闘の時と同じく、クサビの目の前に五亡星が現れ、そこから一筋の炎が青年へと向かい、噴射される。

 青年はクサビの攻撃を避けるような素振り一つ見せず、そのままの立ち位置で指先から現れた糸で「水」という文字を作り上げると、その場所から大量の水が噴出される。

 そして、クサビと青年が出した火と水がぶつかり合うと、案の定クサビの火の方が負けてしまい、水によって消火されてしまう。が、青年の攻撃の方も小手調べだったらしく、クサビの方まで水が届くことはなく、火を消火するだけで終わる。


「あら、うまい具合に消火しましたわね。ちょっと意外でしたわ」


 クサビは袖から新たに出した護符を口元に当てながら、期待外れのように唇を少しだけ尖らせた。

 予想以上に舐められていますわね。青年の行動は、まるで魔王としての実力を確かめているような感覚を受けたため、クサビはそう思ってしまう。


「陰陽師だったか? これでお前の術は通じない。それに、これは俺にとって直接武器にもなる。そんなあっさりと勝てる相手ではないんだよ!」

「はぁ、そうですか……」


 クサビは残念そうに目を細めて答えた。

 実際、興味がなかったという方が良かったのかもしれない。

 それを青年は敏感に感じ取ったのだろう、青年の右手が振るうと、ヒュンと鋭い音を立てながら、クサビへ向かって伸び、横から飛んでくる。

 クサビは先ほどの攻撃時に用意していた護符の能力を発動させ、自分とその糸の間に一本の木を召還。それで、青年の攻撃を防ごうとした。

 しかし、クサビの思惑は外れ、その木はあっさりと両断され、糸はクサビの元へと届く。

 木が両断されていると知ったクサビは、完全に切られる直前に頭を下げることでその攻撃を躱す。


「おっと、危なかったですわ」

「だから言っただろう? 『舐めてかかると足元をすくわれるぞ』ってな」


 青年はその糸の長さを元に戻しながら、クサビを指で差して再びその忠告の意味を教える。

 何を偉そうに言っているのだか……。逆にクサビは、青年の認めてほしいような雰囲気にうんざりとしていた。


「はいはい。警戒をすればいいのですね。そのご忠告を素直に受け入れますわ」

「それでいい。さあ、命を懸けた戦いを始めようか」

「でも、実際勝てると思っていますの?」

「どういう意味だ?」

「貴方みたいに私は自分の手の内を出してないのですよ? それなのに勝てるとお思いで? 何より前回の戦いの様子を見ておいて、私が全力で出していると思っているのが大間違いですわよ?」

「あ、れで……全力じゃないと言いたいのか?」

「当たり前じゃないですか。あんなの陰陽術と体術を少し使っただけです。あれで全力だと思われるのが心外ですわ。ま、これぐらいで自慢しているのですから、貴方の底なんて知れましたけどね」


 「ふふっ」と笑うクサビに対し、青年は顔を真っ赤にしていた。

 それは今までの自分の行為を恥じるかのような雰囲気であり、口でクサビに負けてしまったことに対し、悔しそうにしているものでもあった。

 挑発するつもりはなかったのですけどね。クサビの思惑とは別に勝手に自滅してしまった青年を見ながら、そう思うクサビ。

 その隙を突くかのように青年の攻撃がいきなり始まる。

 青年は左手で文字を「氷」という文字を作ると、そこからデカい先端が尖った氷塊を出現させ、放つ。そして右手で先ほど同じように横殴りの一撃が放たれる。


「不意打ちですか」


 クサビはその攻撃に対し、焦った様子もなく袖の中から「火」と書かれた護符を二枚ほど取り出し、先ほどと同じように放ち、氷塊を解氷。そして右手からの横殴りの一撃に対しては、空間から取り出した鉄扇で受け止める。


「大したこと――」

「それはどうかな!!」


 クサビの余裕を消すかのように、氷を溶かした際に出来た水が足元からクサビへと襲いかかる。グネグネと身体をくねらせるように動き、先端の方は口が開いている様はヘビのようなものとなっていた。

 追加で何か魔法を使ってみたいですね。そう冷静に判断したクサビはその攻撃に対し、動こうとする様子は見せなかった。

 そして、その水で形成されたヘビに足を噛まれる。


「食らったな! そのヘビには毒が――」


 噛み付いた手ごたえが青年の元へ伝わったらしく、喜びに震える声と共にそのヘビに能力に含まれる毒について説明しようとした矢先――クサビの足に噛み付いたヘビは弾け飛び、ただの水へと強制的に戻される。


「つまらないですわね。貴方が見たという少年との戦いの方が、手ごたえがありましたわ。どれほどの敵かと思っていたら、思った以上につまらないとは……。さすがに口だけの貴方には飽き飽きしました。もう終わらせましょう」


 今までは穏やかだったクサビが少しだけ怒った口調でそう言うと、鉄扇で受け止めていた糸がボロボロと崩れ始める。同時に氷解していた火の勢いが増し、水ではなく一瞬にして蒸発した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ