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(21) 【サクヤ視点】

 時間はほんの少し遡る。


『アラベラの言う通り、そこからはどっちかが勝つまでは出られないからいいね。さあ、それぞれが好きなタイミングで戦闘を始めてね。あたしとシュウくんはその様子をちゃんと見ててあげるからさ』


 リニスの言葉が聞こえたサクヤは呆れたようにため息を吐きながら、長刀を肩に打ち付けるようにしてリズムよく動かす。


「なあ、鬼面よ。魔王と戦う側になってみて、初めて分かることがあるんだが聞いてくれるか?」


 一度相対し、少しだけ会話したことのある相手――鬼面へと話しかけると、


「なんだ?」


 と、意外にも返事が返ってきたので、その悩みを口に出す。


「なんで魔王の立場はこんなにも面倒なことをするんだろうな? このタイミングでお前らのような部下を出したところで、倒されるのは分かりきっている事じゃないか」

「少しでも手負いにするためではないのか?」

「それは分かる。もしかしたら、倒せる可能性もあるからな。だからこそ、お前みたいな厄介な部下を差し向けるんだろうが……、最後のセリフはいらないんじゃないかって思ったんだよ」

「そうかもしれんが、それも常套句というやつだ。話はそれだけか?」

「ん、そうだが?」

「じゃあ、早く戦おう。今回は拙者も本気で行かしてもらう」


 戦うことが待ちきれない、とでもいうように鬼面は身体をウズウズとさせていた。

 もちろん、そのことはサクヤも気付いている。

 それ以上にさっきまでとは何か雰囲気が違うことも。

 リニスに何か追加能力で貰ったか? サクヤは鬼面を観察しながら、そう考える。剣術は一流であり、それに関する能力を貰った場合に厄介な相手になることは間違いなかったからだ。


「ま、考えていても仕方ないか。よし、かかって来い。前に言ったように次は殺す。こればかりは変わらんから、覚悟を持ってこい」

「ふん、そんなことを言っていられるのも今の内だ!」


 鬼面はそう言って、鬼面は右手の人差し指と中指を立てて、気合を入れる。それに応えるように、鬼面の身体から結界のような物が放出。その中に無数のうっすらと光る線のようなものが目を凝らして分かる程度に現れる。


「ん? なんだ、これは?」


 サクヤは近くにあるその線に軽く触れた途端に、サクヤは少しだけ顔をしかめる。そして、触った指を口に咥える。

 その姿は指を何かで切った時にする行動そのもの。


「なるほどな。このうっすらと光る線が刃物と同じようになっているのか」

「よく分かったな」

「指を切ったんだ。それぐらい分からないでどうする。また厄介な能力を手に入れたものだな」

「主に貰った能力だ。しかも、この能力は便利でな。拙者が『斬りたい』と思うものにしか反応しないのだ。だからこそ、お前には攻撃一つ出来まい!」


 そのことを指し示すように鬼面はサクヤに向かって駈ける。

 触っただけでサクヤの指が切れたのに対し、鬼面はその線がなかったようにあっさりとサクヤへと辿り着き、斬撃を繰り広げ始める。


「ほう、便利だな」


 しかし、サクヤは大した驚いた反応を示さなかった。

 逆に少しだけ失望したかのような棒読みの返答。

 そして、鬼面の攻撃をあっさりと斬撃を持っている長刀で防ぐ。

 光る線が邪魔になっているのか、サクヤは前回のように身体を動かして避けるような行動は一切取らず、長刀だけで鬼面の斬撃を防いでいた。


「な、にっ!?」


 サクヤが身体を一切動かさず、自分の攻撃を防御し続けることに鬼面は驚いた表情を浮かべる。それ以上に自分の太刀筋が、サクヤが『防御したい』と思っている方向に斬りつけにさせられているような感覚さえあった。

 その感覚が正解とでもいうように、サクヤはニヤリと笑いつつ、


「いくら、こんな術を使おうとも意味はないということだ。っていうよりも、お前の太刀筋はすでに見切っているんだぞ? ほんの数時間の差で太刀筋が変わるほど、魔物という存在も便利ではないだろ?」


 と、長刀を振るい続ける。

 「いつでも反撃が出来るんだぞ」、とサクヤは口に出さなかったが、鬼面はそう言われたような感覚を受けてしまう。その瞬間から余裕なんてものは一切なくなり、どうにかして太刀筋を変えようとする考えのみだった。


「っ!」


 そう考えていた時のこと、サクヤの身体が一瞬バランスを崩し、隙が生まれたことに鬼面は気付く。そして、唯一生まれた隙を逃さないように腹部に向かって横薙ぎの一撃を渾身の力を込めて放つ。

 しかし、サクヤもそのバランスを崩れた瞬間から、鬼面が渾身の一撃を放つことが分かっていたため、即座にバックジャンプ。後ろに目でもあるかのように光る線の隙間を縫うように人間の常識を超えた身体の動きで回避し、見事に着地してみせる。


「危ない危ない。今のは本当に危なかったぞ」


 口ではそういう言いつつもサクヤの表情は危機感に溢れたものではなく、今の隙を見逃さなかったことを褒めているような満面の笑みを浮かべていた。

 ったく、リニスめ。シュウに余計な物を見せているのか? 人の魔力を利用してロクなことをしない奴だな。鬼面ではなく斜め上にある天井を見つめながら、今出来てしまった隙の原因のことを考えながら、サクヤは心の中で毒舌を漏らした。

 逆に鬼面はそのことに少しだけ怯えているようだった。

 剣術も通じず、リニスに新しく貰った能力もまたサクヤの前ではほぼ無意味であることを知ったからだ。せめて服の一部でもどこから切れているのなら救いもあっただろう。それさえ、見た限りでは付いていない。薄皮一枚すら届きはしなかった現実が、鬼面にとってそれほどの衝撃を与えてしまっていた。


「なんだ、その顔を見る限りでは戦意喪失のようだな」

「お、お主……」

「今頃、気付いたのか? お前の貰った能力では自分には一切通じないことを。というよりも、貰うなら貰うでもっと他の能力を貰えば良かっただろうに。こんなくだらない『結界内に圧縮した刃物を展開する能力』を貰うよりな」


 鬼面が発動した光る線の正体――ギリギリまで圧縮した刃の正体に気付いていたらしく、サクヤはその刃を長刀で縦に振るい、あっさりと切り裂く。その様は圧縮した刃ではなく、素振りをして空を斬るようなあっけなさだった。だが、確実に切断していることを知らせるように、鉄を斬った時になる独特の音――キィンと言う音が周囲に広がった。


「別に斬らなくても、自分にはこういう系は通じないんだけどな。とにかくだ、そろそろ決着を付けようか? ほんの少しだけ楽しませてもらったお礼に、自分の能力の一つや二つぐらいは見せつけてやるよ。だから安心して逝け」


 怯える鬼面に、サクヤは遠慮なく言い切り、長刀の切っ先を向ける。

 瞬間、鬼面が人生の中で一度も感じたことのない本気の殺意が全身を突き抜けた。


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