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(4)

 ニモネラから歩くこと三十分。

 四人はモネラの村の中を歩いており、三人は興味深そうに村の様子を観察していた。

 観察と言っても周囲に存在している家はすでにボロボロ。外で何かをしている人すらおらず、廃村と言ってしまってもいい状況になっているため、観察という言葉は似合っていない。


「ねぇ、お兄ちゃん以外に誰も居ないの?」


 さすがに気になったのか、アラベラがシュウを見上げながら尋ねた。


「ボク以外いない……かな? 家に残ってる物を取りに来る人がたまにいるけど、最近は見ないし……」

「そっか……。みんな、どこに行ったの?」

「さっきの村だよ。もう町でいいのかな? その区別がどこからなのか、分からないけど。あっちにみんな移動したんだ。この村がモネラって名前なんだけど、二番目に出来たモネラってことで『ニモネラ』って呼んでる」

「ふーん」


 アラベラはシュウの苦笑の入った説明から全てを察したらしく、少しだけ気に食わないような表情をしていた。

 この内容の会話が終わったことを気付いたシュウは、三人にさっきから気になっていたことを尋ねることにした。


「それより、なんでボクを助けてくれたの? 昔は違ったけど、今では勇者は悪者扱いされてるのに……」

「その話は後にしましょう。いえ、話すことがたくさんあります故、歩きながらではゆっくり話せませんわ」


 クサビがそれに対しての答えを後回しにすることを提案した後、


「それよりも自己紹介をしましょうか。わたくしの名前はクサビと申します」


 自己紹介を勝手にし始める。

 シュウの質問に対する疑問や文句、似たような話題を出させることもさせないような強制的な話題の変更だった。


わたしはアラベラだよ。気軽に『アーちゃん』って呼んでくれて構わないからね!」


 シュウの手を握っている反対の手を挙手しながら、その流れに合わせるアラベラ。呼んでほしいニックネームを言うあたり、見た目通り子供だな、って感じてしまうシュウだった。


「分かった。アーちゃん。よろしくね」

「うん!」


 あれ? なんで、今「よろしく」って言ったんだろう。付き合いがそんなに続くと思わないのに……。流れでなんとなく言ってしまった言葉に、シュウは首を傾げつつも残った一人――サクヤを見る。

 この流れが面倒と言わんばかりの様子だったが、仕方ないといった感じで、


「自分の名前はさっきからこの二人が呼んでいるように、サクヤと言う。覚えておけ」


 と、淡々と答える。

 シュウはさっきの子供たちとのやりとりが怖かった印象が強く、「はい」とサクヤに聞こえるか、聞こえないかのギリギリの小声で返事を返す。


「サクヤお姉ちゃん、怖すぎー。もうちょっと感情を込めて、自己紹介をしたらいいのに。ねぇ、お兄ちゃん」

「え……、別にそれは気にしてないけど……」

「さっきの子供たちに見せた怖い印象が拭いきれないんでしょう? 可哀想に。最初からあんなに飛ばさなくてもよかったんですのよ? それともシュウちゃんにかっこいいところを見せたかったんですの?」


 シュウが返答の裏に隠していた恐怖に気付いたクサビが、遠慮なしにサクヤへと突っ込む。

 クサビの突っ込みに、サクヤはシュウの目にも分かるほどの動揺した態度を見せ、少しだけ回答に困った表情を浮かべる。


「シュウ、そんなに自分が怖かったか?」


 閉ざされていた口が開いたのはクサビへの返答ではなく、シュウへの質問をするためだった。

 シュウも自分に尋ねられるとは思っていなかったため、少しだけ驚いてしまう。

 あの時のサクヤさんは本当に怖かった。向けられた殺気はボクにではなかったけど。でも、サクヤさんはボクを助けるためにああすることしか出来なかったんだ。つまり、ボクが怖がるのは間違いだ。

 シュウがそう考えていると、不安そうに見ていたサクヤはため息を漏らし、


「そうか。怖かったか。すまんな」


 返事を返す前に勝手に自己判断してしまう。

 だから、


「そ、そんなことはないよ! あの時はタイミング的に怖がっても仕方ない場面だし! 今は普通だよ! うん、今は怖くないから落ち込まないで!」


 間髪入れずに答える。

 サクヤはそのことに対しての答えを自分で見出していたため、シュウのいきなりの返事に「お、おう」と驚き、頷く。

 アラベラとクサビはサクヤを見ながらニヤニヤしていた。


「サクヤお姉ちゃんもお兄ちゃんと仲直り出来たみたいだし、良かった良かった!」

「け、ケンカはしてないだろ」

「じゃあ、なんて言うの?」

「わ、和解。和解だ!」

「それ、一緒の意味ですよ?」


 クサビが再びサクヤに対し、突っ込みを入れる。

 意味が同じだと思っていなかったサクヤは「ぐぬぬ」と悔しそうに顔を歪ませ、二人に負けたことを示していた。

 サクヤはこれ以上、この話題を蒸し返さないようにするために、


「いつになったら、あの札は取るんだ? もう治癒をするには十分じゃないか?」


 と、シュウの背中にいつの間にか貼られている護符を指差す。

 何のことを示しているのか全く分からないシュウは「え? え?」と困った反応をしていると、


「ちょっと動かないでください。今、取りますから」


 クサビがシュウの背中に貼られている護符を取り、それをシュウへと見せる。しかし、その護符はシュウが見ている間に右端から発火し、そのまま燃え尽きる。

 魔法? え、こんな魔法もあるの? シュウは見たことのない紙を使う魔法を見て驚いてしまう。

 なぜなら魔法とは『呪文を唱え、魔力を消費することで発動する』が当たり前となっていたからだ。


「ねぇ、身体の痛みはどう?」

「え?」


 アラベラに質問された身体の痛みについて聞かれたことにより、シュウは魔法についての考えを中断させられてしまう。それどころか、何に対する痛みなのか、考えさせられてしまった。

 そして、考えた末に気付く。

 なんで、何発か石が当たったのに身体に痛みを感じなかったのか。

 なんで、今まで普通に歩けていたのか。

 この二つに。


「もしかして……クサビさんが?」

「そうですわ。あのうずくまってる時に貼らせてもらいましたの。色々と疑問に思い、聞きたいことがあると思いますが、それも家で話しますわ」

「え、あ……それもそうだね。分かった」


 シュウは今すぐ聞きたい気持ちなっており、初めは追究しようと思っていた。が、それも周囲の風景から家にもうすぐ着くことに気付いてしまった。だからこそ、必然と我慢するハメになってしまう。

 なんでかな。なんとなくだけど、ボクの家の場所を知ってた気がする。クサビのタイミングの良い発言に対し、シュウはそう感じた。そう感じてしまったせいか、さっきまではなかった三人に対する不信感が湧き上がってしまうのだった。


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