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 シュウが下りる階段もまた悲惨な状態になっていた。

 このお城に勤める執事・メイドたち全員が無残にも殺されているらしく、『吸血鬼だから殺した』というよりも、『誰でもいいから殺したかった』と表現していいような状況になっていた。

 なんで、なんでこんなことになってるの!? 理由は分かっているにも関わらず、シュウはそう思うことしか出来なかった。意味のない殺戮が起きているとしか思えなかったからである。

 そんなことを考えながら、シュウは導かれるように一階のエントランスに辿り着く。


〈アーちゃん、どこにいるの!?〉


 一階に下りるまでに全部の部屋を確認したわけではなかったが、どこかの部屋にアラベラが居るような気配がなく、エントランスに下りてきてしまったのだ。

 シュウでさえクサビやサクヤの過去を見たおかげで、なんとか悲鳴を上げることはしなくてすんだ。だが、アラベラの立場を考えると、悲鳴をあげないはずがない。物音一つ鳴ることを期待して探していたのだが、そんな様子もなく静かなままだった。


〈さあ、これからショータイムの始まりだよ〉


 シュウの質問にリニスが答えた直後のことだった。

 お城の扉が開けられたのは――。

 そこから姿を見せるのは、お城で惨劇が起きたことを全く知らず、呑気そうに鼻歌を歌うアラベラ。


〈入っちゃダメだ、アーちゃん!!〉

「ただいまー、遅くな――」


 そこでアラベラは持っていた荷物を床に落とし、動きが完全に固まる。

 目を見開き、現在の状況が飲み込めずにその場に立っていた。


「どうしたんだ、アラベラ?」


 アラベラの違和感に勘付いたらしく、ジャックが家の中を覗こうと顔を扉の隙間から覗き込もうとした。

 が、ハッと意識を取り戻したのか、アラベラは玄関の扉を慌てて占めると鍵までかけて、


「ごめん、帰って! い、今は駄目!」


 と、扉越しでそれだけジャックに怒鳴りつけるように言って、その場から慌てて駆け出した。

 シュウの場合、床に転がっている死体をすり抜けることでエントランスまで邪魔になることなく進んで来られたが、アラベラの場合はその死体に足を絡ませてしまい、何度かこけたり、こけそうになったりしながらも目的の場所を目指した。

 こけてしまった先にある死体の一部や絶望した死に顔を見たりして、恐怖から涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも進み、目的地に着く頃には表情も服装も血で濡れ、ボロボロになっていた。


「や、やっぱり……だよ、ね」


 目的地である部屋――リビングに辿り着いたアラベラは部屋を覗くなり、その場に座り込んだ。

 その部屋はシュウが見た中でも一番悲惨な状態になっていた。

 シュウが見た兄の部屋で見た兄の姿と同じように、両親だろう人は同じように釘を全身に打ち込まれて宙吊りされていた。そして、両親を守ろうとした執事やメイドたちは廊下に倒れている人たちに比べて、酷い有様であり、部屋全体が赤の絵の具で塗りつぶされたように赤に染まりきっていた。


「うぅ……!」


 さすがのアラベラも我慢出来なくなったらしく、口元を押さえ、胃の中にある物を吐き出し始める。

 ただクサビの時と違い、こうなる予感が少しはあったらしく、ショックはあまり受けていないようにシュウは見えた。


〈アーちゃん、大丈夫?〉


 シュウはアラベラに寄り添い、クサビの時と同じように背中を撫でる。

 その時だった。


「あー、もうほぼ終わってるじゃん」


 と、二人の背後から信じられない人の声。

 いや、シュウにはすでにその人物がジャックであることは分かりきっていた。何よりもそうなることを直感とリニスによって教えられていたから。だからこそ、当たり前のようにジャックの方を振り返る。

 しかし、アラベラは驚いた表情をしていた。


「じゃ、ジャック……な、なんで? 違う、ど、どういうこと?」


 アラベラは二つの意味を混乱しつつ、ジャックへと尋ねる。

 一つは、どうやってお城の中に入ったのか?

 一つは、どういう意味の発言なのか?

 この二つである。

 ジャックはまずお城の中に入った理由を説明し始めるかのように、人差し指に乗せてあるリングの付いた鍵を見せながら、


「じゃじゃーん、これはなーんだ」


 ゆっくりとクルクル回し始める。


「う、うちの……カギ、だよね……?」

「正解。いやー、こっそり盗んで、合い鍵作って、こっそり元に戻すのは骨が折れたな。でもさ、アラベラのおかげで何とか出来たわ。惚れた相手に盲目になるって本当だったんだな」

「え……?」

「いや、こっちの話。とにかくさ、これはもういらないから返すわ」


 クルクルと回していた鍵は遠心力を利用して投げ飛ばされ、それはアラベラの目の前にピシャと血の水溜りの中へと落ちる。


「ね、ねぇ? 聞きたいことが――」

「俺も言いたことがある」

「な、なに……?」

「俺、お前のこと好きじゃないんだ。いや、付き合ってると思うだけで反吐が出そうだった。だから守るって言ったのも嘘。理解したか?」

「…………うん。理解出来た」

「お、察しが良いのはいつも通りだな」

「あんたが『吸血鬼ハンター』だってことが分かっただけで十分。私の両親やお兄ちゃんを殺したのも、あんたたちの仲間ってことね」


 今まで気持ち悪そうにしていたアラベラはゆっくりと立ち上がり、口元を自らの袖で拭う。目の前にいるジャックが、家族を殺した敵だと認識したのか、さっきまであった悲しみから憎しみが徐々に溢れ始めたらしい。


「それはこっちのセリフだ。お前らのせいで、俺の家族は殺されたんだ。その仕返しをして何が悪い」


 ジャックも自分の過去を語ると、アラベラと同じように憎悪を含んだ目に変わる。

 そして、二人は同じ目を持った二人は睨み付け合う。


「私たちは関係ないもん。人間を襲ってない。ううん、襲いたくなるほど吸血鬼の血が濃くないから襲いたいとも思ってない。そのことは今までの私から考えれば分かるでしょ?」

「そんなのはどうでもいいんだよ。吸血鬼の血を持ってる者が憎いだけだ。どんな理由で化け物として目覚めるかも分からないだろう」

「そっか。お互いに憎しみで動くんだね。分かった、安心して。家族の元には私が送ってあげるよ。家族に秘密にしてた力を使ってもね!」


 アラベラはそう言うと背中から漆黒の翼と尻尾が服を突き破るように飛び出し、普通の人間ではないことをジャックへと見せつける。


「アラベラ、やっぱりお前は人間じゃなかったんだな!」


 ジャックの方もポケットから十字架を取り出し思いっきり握りしめると、その十字架は銀色に変わる剣へと変化した。そして身構え、戦闘準備を整える。

 アラベラの方も右手に炎を宿し、左手に冷気を宿して戦闘準備を整えた。


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