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(4)

「待ってください」


 全員が戦闘態勢に入っていく中、クサビがそれを遮るように全員の意識を自分へと向けさせる。


「どうした?」


 サクヤは再び肩に長刀を置くような体勢に戻り、クサビの方へ顔を向ける。


「あ、そっか。お兄ちゃんか」


 クサビの説明の前にクサビが言いたいことに気付いたアラベラが、指をパチンと鳴らしながら答える。

 ボクを巻き添えにするぐらいの戦闘が起こるんだ。アラベラの言葉からシュウもそのことに気付く。

 しかし、そのことが分かっていたようにリニスがにっこりと笑い、


「あたしとしても、こんな戦闘の巻き添えでシュウくんを殺しちゃうのは嫌だから、そのことはちゃんと分かってる。だから、安心しなよ」


 三人の質問に回答する。


「なるほどな。それなら問題ない。ここだけリニスの狙いに乗ってやるとするか。気に食わないけどな」

「まぁまぁ、あっちが用意してくださってくれてるんですから。これで気楽に戦えるじゃないですか」


 サクヤは敵の策略に乗ることが面白くないらしく、その表情を隠そうともしないまま言うも、クサビによって宥められる。


「とにかくさ、早くその場所へと送ってよ。どうせ、リニスのことだから目の前の敵と戦って勝つまでは出られないような仕組みにしてるんでしょ?」


 リニスはそれに答えることなく、指をパチンと鳴らす。

 すると、シュウの目の前にいた六人の姿が消えてなくなり、この場にはシュウとリニスだけが残される。

 シュウはどこに行ったのか、周囲をキョロキョロト見回そうとすると、


「あの三人はこの画面で見えるよ」


 そう言うと同時に、現れた三人の道中を見ていた大きな画面の中で三分割された状態で現れ、そこに六人の姿が映される。

 サクヤは鬼面、クサビとアラベラはそれぞれがマーキングしていた青年と対峙していた。


「アラベラの言う通り、そこからはどっちかが勝つまでは出られないからいいね。さあ、それぞれが好きなタイミングで戦闘を始めてね。あたしとシュウくんはその様子をちゃんと見ててあげるからさ」


 三人にも伝わっているような発言に、シュウはそんな真似をする必要はないじゃないか、と思ってしまっていた。

 どう考えても、リニスの部下たちが勝てる見込みがなかったからである。

 シュウの考えを見越したようにリニスが椅子に深々と座り、腕と足を組んで、勝手に話し始める。


「きっと、あの三人は勝てないんだろうなー。でも、勝ち負けよりももっと大事なことがあるんだよ。分かる、シュウくん」

「もっと大事なこと?」

「そうだよ、鬼面たちに期待していない、って言ったら嘘になるね。勝てたら勝てたで、一人戦う相手が少なくなるからね。それに勝った相手を残った二人の内、どっちかにぶつけてもいいし。それよりもあたしが狙っていることがあるってだけの話」

「それはさすがに卑怯なんじゃ……」

「魔王だからね。サクヤたちは今回、勇者側の立場って考えだから分からないけど、あたしの立ち位置は変わらないんだよ? だったら、卑怯なことしたっていいじゃない。だって、敵なんだからさ。それとさっきの質問の答えも教えてあげよう」

「う、うん」

「『サクヤたちに傷を負わせること』だよ。それが一番重要であって、それ以外は望んじゃいない」

「そ、それって……っ!」


 シュウはそれを聞いて、気付いてしまったことがあった。いや、気付くように仕向けられているような感覚さえあった。

 鬼面さんたちの命はどうでもいいってこと! ぶ、部下なのに!? 見ず知らずの他人ならまだ簡単に見捨てることが出来てもおかしくなかったかもしれないが、部下をこうもあっさりと見捨てようとする行為がシュウには信じられなかった。


「何を驚いてるの?」

「だって、み、味方をっ!」

「そんなの鬼面たちだって知ってるよ。ううん、知らないはずがないじゃない。何度も言うようにあたしたちは魔王なの。魔王は味方を見捨てでも勝ちを取りに行かなきゃいけない存在なんだよ? だったら、見捨てるぐらいはあっさりしないと」


 シュウは改めて画面を見つめる。

 すでに戦闘が始まっており、勝敗は明らかにサクヤたちに向かっていた。見た感じはそれなりに苦戦しているような雰囲気を出しているが、表情が笑っている時点で余裕があるのは目に見えている。


「シュウくんにはそんなものより、他に見てもらいたいものがあるんだよ」


 リニスの言葉にシュウは画面を外し、リニスの方を見つめる。

 その顔は明らかなほど悪い笑みだった。

 人間が悪巧みを考えている時に出てしまう笑みより、さらに上にある笑み。サクヤたちが戦うことを利用して、何かアクションを起こすことを望んでいた。それが叶って嬉しいとでも言いたそうなものだった。

 そこまでして見せたい物って何だろう……。このタイミングで言い放った言葉にシュウは興味が惹かれないわけがなかった。だからこそ、尋ねた。


「何を見せたいの?」

「シュウくんだって気になっていたものだよ」

「ボクが気になっていた?」


 その答えにシュウは今日一日の記憶を必死に思い出そうと試みた。

 しかし、ある程度の疑問にはサクヤたちが答えてくれていた。それはリニスも同じである。改めて、『気になっていた物』と言われても分かるはずがなかった。


「おや、分からないの? それもそうだね、身近にありすぎて分からないと言った具合かな?」

「身近に……ある……?」

「そうだよ。答えは、『サクヤたちが魔王になった過去』を見せてあげようということだよ」

「え、ええ!?」


 シュウは思わず大声を上げてしまった。

 サクヤたちが魔王になったきっかけを知りたくないわけがなかった。が、それ以上に三人が答えてくれそうにないから、聞くことを諦めていたのだ。まさか、このタイミングでその経緯を知れると思っていなかったため、シュウは興味が一気に湧いてしまう。

 しかし、瞬時にその興味を抱いてしまった自分自身を自己嫌悪し始める。

 三人が答えてくれそうにないと思ったのは、三人がそのことを悔やんでいるということを知っているからである。

 だからシュウはリニスに、


「そ、そんな勝手なことをして許されるはず――」


 と、反論するも、


「うるさいなー。いいの。シュウくんにはあたしたちの過去を知る権利がある。サクヤたちが勇者側になるんだとしたら、それだけ重要なことなの。あたしたちが悪に染まった理由も分かるから」


 おかまいなしにリニスは言い放つ。

 そして、リニスの真っ赤な目からシュウの目に向かって、眩い閃光が放たれる。


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