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(3)

「相変わらず浮かない顔をしてるな、シュウ」


 長刀を肩に担ぐようにして尋ねるサクヤ。

 シュウはそれに対して、どう反応をしたらいいのか分からず、俯く形で返事を返す。


「大丈夫だよ、サクヤ。シュウくんにはまだ傷一つ付けてないから」


 シュウの容体についての説明をワザとらしく答えるリニスに対し、


「そんなの見れば分かる。そもそも自分たちがここに来ることを分かっていたからこそ、まだ付けなかっただけだろ?」


 サクヤはリニスに対し、殺気と共にぶっきらぼうに言い返す。


「それは置いておいて、リニスさん。シュウちゃんを返してくれませんか? はっきり言って無駄な戦闘は避けたいですし、今なら引き返すことが出来ますわよ?」


 二人の割り込むように会話に入るクサビ。

 その返答にリニスはちょっとだけ驚いた後、突如として笑い始める。予想外のことに対して、おかしくなってしまったような笑いで、それはすぐに治まる。


「ごめんごめん。まさか、魔王であるクサビがそういうなんて思ってもなかったんだよ。まるで勇者みたいな言い方じゃない」

「念のためです。それと殺気を飛ばしている部下たちを黙らせてもらえませんか? 話し合いで解決したいのに、身体が疼いてしまいますから」


 クサビはそのことを示すように身体がピクピクと反応しており、今にでも誰か一人に襲いかかりそうな雰囲気が身体から溢れ出していた。

 それはクサビだけではなく、サクヤもアラベラも同じである。

 それがシュウの前だから遠慮している、そんな様子。

 あれが三人の本当の姿なの? 本人たちは気付いていないらしいが、今にでも戦いたいという意思がシュウにも伝わり、改めて三人が魔王であることを認識させられ、三人に対する恐怖を抱き始めていた。

 シュウにとって、それ以上にもっと辛いことがあった。

 それは、この部屋を満たしている窮屈感だった。この窮屈感の正体はお互いが自然と放っている殺気というのはシュウも気付いていた。その殺気が自分に対し、誰も向けようとする様子がないことが唯一の救いだったが、何か余計なことを喋れば、いつ自分へと降りかかるか分からなかったため、口を挟もうにも挟むことが出来なかった。


「部下たちに関してはあたしじゃなくて、部下たちに言ってよね。あたしが、『殺気を放て』なんて命じているわけじゃないんだし」


 リニスは白々しくそんなことを言うも、シュウからすればこの状況はなるべくしてなった状況なので、命令しなくても自然に発してしまう、と思ってしまった。


「それもそうだ。敵が攻めてきたら警戒したり、殺気を放って威嚇したり、それは当たり前のことだ。というわけでお前たちは、自分たちと戦うことを望んでいるんだろう? 遠慮はしなくていい。かかってこい」

「サクヤお姉ちゃん、完全に戦う気満々じゃん。ううん、その気持ちは分かるけどさ」


 サクヤの様子を見ながら呆れた様子で突っ込むアラベラ。

 しかし、その視線をシュウへと向ける。


「お兄ちゃん、本当に死んでいいと思ってるの?」


 と、少しだけ寂しそうに尋ねた。

 その様子を見たシュウに再び迷いが生まれ、その問いに対しての回答がどう答えたらいいのか、分からなくて迷っていると、


「迷ってるならいいんだよ。決意されたなら問題だけど、そうやって揺れるなら気にしなくていい」


 アラベラは少しだけ希望が見えた、そう言わんばかりの表情でシュウに微笑む。

 同様にクサビも微笑んでいた。


「そうですね。決意した気持ちは変わらせることは難しいですが、揺らぐなら助ける方法もありますからね」


 ガジッ!

 クサビの発言が重なるように何かをかじる音が横から聞こえたシュウは、リニスの方に顔を向ける。

 面白くない。

 そんな怒りに満ちた表情をしていた。


「お前は馬鹿か。勇者みたいに自分たちがお前の思惑通りに動くと思っているのか? お前の別名を知っているんだ。これぐらいのことで絶望に浸るとでも思っているのか?」


 サクヤは鼻で笑いながら答えると、


「あ~、それもそうだったね~。いや~、ちょっと勇者と対峙していると同じような感覚になってたよ。やっぱり魔王同士、そんな簡単に上手く感情まで操作させることは出来ないか~……」


 リニスが思い出したように言い、


「その思考を少しは捨てた方がいいぞ。というか、お前ら部下たちも自分たちに勝てると思っているのか? 鬼面、特にお前だ。さっきの戦いではお前、自分に負ける覚悟をしていただろう」


 サクヤは長刀を鬼面へと向ける。

 そうなの? なのに、さっきの自信はどこから来たんだろ? 今まで鬼面は誰とも戦ったことがないと思っていたからこその自信なのだ、とシュウは思い込んでしまっていた。

 疑問に思っているシュウとは反対に、鬼面の落ち着いた態度は全く変わらなかった。何よりもその発言を聞いても動じていない様子で、自分の獲物であるサクヤをしっかりと見つめていた。


「さっきはさっき、現在は《いま》は現在だ。さっきまでの拙者と思うなよ?」


 鬼面ははっきりとサクヤに向かって言い放つ。

 挑発じみた鬼面の言い方にサクヤはてっきり乗るかと思っていたシュウだったが、その思惑外れ、


「ほー。それは楽しみだな。というか、この流れ上、戦いは免れないと思っていいのか?」


 と、他のメンバーへと尋ねると、


「免れないんじゃない? っていうか、わたしたちの仕事はアザスを倒すことなんだし、それに組するリニスも倒すことは確定でしょ?」


 その質問にはアラベラが答える。

 アラベラの方も殺る気まんまんなのか、正面にいる青年に向かって持っているサイズの切っ先をその青年へと突き付けて、戦う相手をマーキングしていた。


「アーちゃんの言う通りですわね。リニスを倒す=あの三人が邪魔してくることは間違いないでしょうから」


 クサビも同調して持っていた鉄扇を折りたたみ、残った青年に突き付ける。

 リニスもニィッと口端を歪め、


「その通りだよ。いや、この部屋に入った――違うね、シュウくんを連れ去った時点であたしたちは戦うことは決まっていたようなものさ。さあ、本番を始めようか」


 こういう流れを望んでいたというように拍手をした。

 鬼面たち、その他の部下もそれぞれに身体を低くして身構え、戦闘態勢に入っていく。



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