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 死に方を教えられたと同時に、シュウにはリニスのセリフの盲点にも気付いていた。

 それは三人にも話したように、シュウが勇者になりえない致命的な部分である。


「ボクには反乱を起こす力なんてないよ。こんな子供に何が出来るのさ」


 リニスの死の誘惑に勝てる唯一の部分。

 勇者になれない。そんな指導力もない。そんな味方も今はいない。そんなことをする前に死を迎える。それが、シュウ自身が気付いていることだった。

 そのことを予想していたのだろう。

 リニスは考えるまでもなく、即答。


「今、いるじゃない。シュウのために戦ってくれている三人が。力なんてものは、今はなくてもいつかは身に着けることが出来る。指導力もあの三人の行動を見ていたら、いつかは手に入れることが出来る。そんな未来がシュウくんには見えないのかい?」

「え、あ……っ!」


 その盲点を突こうとしたシュウの頭の中に、リニスに言われた映像が克明に映し出される。三人が言っていたように、シュウの従者となり手足のように動いてくれているそんな場面。圧倒的物量の魔物に対し、三人は苦戦している様子は見せない。何よりもその戦いを愉しんでいるようにさえ見えた。

 その映像が本当に未来のもの何かは分からなかったが、想像出来てしまった時点で、『もしかしたら』の可能性が出来てしまった。


「で、でもっ!」

「争いなんて簡単に起こせるんだよ。いくらシュウくんが望まなくても。あの三人の誘いを断ろうとも……。いいかい、シュウくんはそれに気付いていないだけで、すでに『勇者の血』が世界を自分の物にしようと君を導いているんだよ。シュウくんが望もうが、望んでなくてもね」

「っ!」

「ああ、言い方が悪かったね。でも、あたしたちからしたら勇者もそうとしか思えないんだよ。この世界を魔王が手に入れるか、勇者が手に入れるか。どっちが平和にするかの競争みたいなもの。でも、君の親戚は負けた。だから魔王が今、平和にしようと奮闘にしてるのさ。それでもどこかには助けられない人が出てくる。そこを突くように現れるのが勇者の血筋の人ってことなんだよ」

「――ぼ、ボクは……」

「『そんなことはしない』なんて言い切れるの?」


 シュウは口を閉ざされた。

 リニスの言う通り、言えなかった。

 何よりも想像でも映像に出来てしまった時点で、近い将来あんな風に戦うことが定められてしまったような気がしてしまったから。

 そして、現在いまのニモネラに住む人たちの幸せそうな表情を壊してしまう可能性がある自分自身が怖くなってしまったから。

 同時に村人たちが過去に言っていた言葉が脳裏に蘇る。


『この呪われた血め!』

『悪の根源め!』

『さっさとくたばってしまえ! この悪魔め!』


 ボクは死ななきゃいけない存在。勇者は悪の存在。悪は完全に滅びなきゃダメ。世界の平和を願うなら、悪は全滅させなきゃいけない。今まで考えてもこなかった自分が存在する意味を完全拒否する考えが、シュウの中でどんどん溢れ出す。

 それは尽きることがなかった。

 湯水のように溢れ出し、シュウの心を蝕んだ結果、


「ボクは……生きていちゃいけないんだ……」


 そう小さく呟く。

 リニスはシュウの決断を聞いて、にっこりと笑う。


「じゃあ、あたしと一緒に来てくれる?」

「うん。分かった。でも、あの三人にお別れはしたいんだ」

「それぐらいはしないとね。きっと三人はまずはあたしに突っかかってくると思うから、それまでは口を開かないでほしいな」

「うん」

「ここは危ないから居間の方に移動しようか」

「うん」


 シュウはリニスに手を握られ、言われるがまま居間へと移動した。


「そうだ、今までここに来るのが遅れてごめんね?」

「え?」


 ぼんやりと自己嫌悪に浸ってしまっているシュウには訳が分からなくて、リニスの言葉はどうでも良かった。だから半分聞き流してしまっていたので、聞き返す意味で尋ねた。

 しかし、『質問の意図が分からない』という意味で解釈したリニスは勝手に説明をし始める。


「一番、最後にシュウくんの元にくることになっちゃって。勇者の一族の力が強い順に殺していたら、どうしてもここが最後になっちゃったんだよ。三人が接触する前に思ったら、こういう順番になっちゃんだ。だから、辛い思いをさせちゃったね」

「そ、そういうこと……なんだ……」


 親戚の人の死とかシュウの中ではどうでも良くなっていた。

 どっちみちこれから自分自身も死ぬのだから、目の前に仇がいた所で復讐をしようと思っていなかったからだ。

 そんなことよりも楽に死ぬことを望んでいた。

 居間の中央あたりで三人が来るのを待つこと二分ほど。

 軽快な音を立てて、玄関の扉が蹴り破られる。


     ◆◆◆


「あはは……死にたくなってきた……」


 あの時の会話と光景をなぜかしっかりと思い出すことの出来たシュウの心の中には、あの時の同じように罪悪感に包まれる。

 サクヤたちに期待を持たせてしまったことへの罪悪感も今は生まれていた。

 こんな風な情けない感情に支配されているボクを見たら幻滅するかな? 幻滅して、ボクのことは諦めて欲しいな。というか、顔見たくないな。怒られることの恐怖さえも湧き上がってしまい、シュウはさっき以上に身体を丸める。

 そして、ゆっくりと目を閉じた。


「なんか……どうでもいいや……。今日は……疲れた、よ……」


 シュウはもう寝ることにした。

 三人に怒られる恐怖と少しだけまだある死への恐怖から逃れるために。

 現実逃避をするために。

 なかなか眠れないと思っていたシュウだったが、今日は色々ありすぎて精神的に疲れていたのか、すんなりと眠りに入ることが出来た。


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