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(12) 【サクヤ視点】

 アラベラの笑いが完全に止まるまで約三十分かかった。

 それぐらいアラベラの笑いのツボにハマったらしい。

 からかわれた本人であるサクヤと先に笑いを止めたクサビはその間、これからの今後のことを考えていたのか、ただ破壊された壁から見える景色を見たりしてぼんやりしていた。


「私の笑いも止まったということで、これからどうしようか考えよっか!」


 さっきまで大笑いしていたアラベラが突如として仕切り始める。

 クサビはともかく、サクヤはそれをジト目で見つめていた。しかし、これからのことを話さないわけにもいかないため、素直にその話に応じた。


「問題としてシュウの居場所だ。ニモネラにいることは間違いないだろうが、どうやって居場所を探るんだ?」


 そのことが一番の問題だった。

 ニモネラにいるからと言っても、村そのものを襲うわけには行かない。かと言って、村人がそう簡単にシュウの居場所を教えないは分かりきっていること。脅迫まがいのことをして、聞き出す手段がないわけでもなかったが、それでは本来の魔王としての行動と何も変わらない。それではシュウが守ろうとしている人間を傷付けるだけになるだけ。なるべくそれは避けたい。

 いくら考えてもサクヤは良い考えが思いつかず、次に頼りになりそうなクサビを見つめる。

 サクヤの視線に気付いたクサビは、同じように良い考えが思いついていないらしく、首を横に振って否定。

 そんな中、一人の笑い声がサクヤの耳に入る。

 アラベラだった。

 自慢気に「ふっふっふ」と笑い、呼び声がかかるのを待っていた。

 サクヤは視線でクサビに聞くように促すと、クサビは苦笑いを溢し、アラベラへと尋ねた。


「まるで良い考えがあるみたいですね。よろしければ、それの考えを聞かせてもらえませんか?」

「ん、いーよ。というか、居場所が分かるってことしか答えられないけど」

「あれ、そうなんですか?」

「おい、そういうことは先に言え!」


 クサビは冷静に驚き、サクヤは声を荒げて驚く。


「ごめんごめん。っていうか、二人ともその行動を見てるから気付くかなって思ったんだけど……やっぱり気付いてない?」

「見てた?」


 天井に目を向けて、今日一日の行動を思い返し始めるクサビ。

 サクヤも同じように思い返し始める。

 先に思い出したのはクサビだった。


「あー、そういうことですか!」

「あ、思い出した?」

「どういうことだ? そんな行動したか?」


 サクヤはまだ分からないらしく、教えて欲しそうにアラベラを見た。


「したよー。三人に邪魔されかけたし」

「邪魔されかけた? あ、食事か! って、それが何の関係……魔力を追えるのか!?」

「あ、今頃気付いた? そういうこと。私はお兄ちゃんの魔力を食べたから、探知が可能になったんだよ! いきなり使う状況になるなんて思わなかったけどさ!」

「でかした、アラベラ!」


 サクヤはアラベラに近寄ると、頭をわしゃわしゃと撫で始める。


「ちょっ! 髪が乱れる! 止めて!」

「おっと、すまん! テンションが上がりすぎた!」


 必死に手の動きを押さえようとするアラベラの静止に、サクヤは素直に謝りながら手を放す。

 これで場所が分かった。あとはリニスを倒すだけだな。いや、その前に鬼面がいるか。あいつに借りを返してやらないとな。そう思いながら握り拳を作っていると、


「今すぐ行くのは色々と迷惑ですから、深夜にしませんか?」


 サクヤのやる気を一気に削ぐようにクサビが二人に提案を出した。


「なんでだ? ……って聞くまでもないな」

「ねー、私たちが魔王としてやりそうな行動を考えて、その反対の行動を取ればいいだけだもんねー」


 サクヤとアラベラはその提案にあっさりと乗ることを決めた。

 基本的に勇者を倒す時の流れとして、一番効果があるのは見せしめ。それは人を歓喜させたり、絶望させたりするには打ってつけの行動であり、魔王としての立場としてやらないわけにはいかない行動の一つだったりする。

 この流れから考えれば、シュウの命は明日までは無事という考えなのだ。

 それにシュウの願いである人間は傷付けないで欲しい。この願いを実行するためにも村人が寝静まっている深夜が、三人にとってうってつけの時間帯だった。


「あっ、そうだ。お前たちに言っておくことがある」


 ふと思い出したようにサクヤが二人に呼びかけた。

 二人は何事か、とサクヤへと視線を向ける。


「鬼面だが、あいつは自分が倒すから手を出すな」


 サクヤの頼みに対し、二人は分かっていたように頷く。


「ま、あれだけ侮辱させられたら任せないわけにはいかないよね」

「ですね。たぶん他の魔物たちも出ると思いますから、そいつらは私たちがなんとかしますわ」

「だね。というより、私が戦ったのは雑魚かったから、次は鬼面っぽい人並みに強い人が来そうだなー」

「私が戦った人もそこまで強くありませんでしたし、アーちゃんと同じように強い人がきそうですわね。ちょっとだけ楽しみです」


 サクヤの思惑とは別に、二人とも別の強敵が出てくることを期待しているようだった。

 やはり二人も魔王ということか。二人の魔王としての反応が少しだけ面白くて、サクヤはクスッと笑ってしまう。


「どうかしましたか?」


 その様子に気が付いたクサビはサクヤへと問いかける。


「やっぱりお前たちも魔王なんだなって思ってな」

「どういうこと?」


 意味が分かっていないアラベラは不思議そうに首を傾げる。


「人間だったら普通は求めないだろう、強敵なんて。それを普通に求めてしまうことがおかしくてな」

「そういうことね! やっぱりこれぐらいの修羅場がないとつまらなくない? 村人なんて滅そうと思えば一瞬なんだし」

「ああ。ま、シュウには悪いが楽しませてもらうか」

「うんうん」

「それは少し非常識ですよ?」


 呑気に構えている二人に、クサビは咎めるように言う本人の表情もそこまで深刻そうに状況を取られているようなものではなかった。

 しかし、そのことについて誰も突っ込むことはしなかった。したところで意味はないからだ。

 手ごわい相手程燃え、それを余裕で倒して、実力差を思い知らせる。

 そして、心の底から恐怖に陥れる。

 この行動こそが本来の魔王としてのふさわしい行動だからだ。

 三人はそれ以上喋ることなく、時間が過ぎるのを大人しく待った。

 リニスを倒す。

 シュウを救い出す。

 その時が来るのを待ち遠しいように、心をウズウズとさせながら。


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