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(11) 【サクヤ視点】


 しばらくの間、その空間を見つめ続けた三人。

 その雰囲気を壊したのは、サクヤの長刀を背中の鞘に納刀した時に発する音だった。

 同時に三人は小さく息を吐いて、緊張感を解いた。


「いやー、緊張したー!」


 その場にペタリと座り込むアラベラ。


「全くですわ。心臓に悪すぎです」


 クサビも同じく扇子で自分の顔を仰ぎ、緊張をほぐし始める。


「自分の策略に乗ってくれたことに感謝する。というか、二人もそれなりの準備はしていたみたいだが……」


 と、さっきまでの苛立ちが全くなかったようにサクヤは腰に手を添える。


「まーねー。陽動作戦があることぐらい頭に入れてるよ。今回、相手にするのは礼儀正しい勇者とは違うからね」

「そうですわ。魔王同士の戦いなんて言うのは基本騙し合い。そう考えておいて、ちょうどいいぐらいですからね。ただ、サクヤがこんな風に仕切って来るとは思いませんでしたけど……」

「ねー。サクヤお姉ちゃんのことだから怒りに任せて、敵に突撃するのかと思ったー。っていうか、空間移動される前の攻撃もそんな感じだったし」

「あれは本気でした? それとも演技ですか?」

「うんうん! それ気になるから教えてよ! それを聞くのと聞かないとじゃ、これからのモチベーションにも影響するからさ!」

「お、お前らなー……」


 勝手なことを言い、勝手に本心を聞き出そうとする二人にサクヤは呆れを隠すことなく、自らの頭を掻いて考え始める。

 リニスに苛ついていたのは本当だ。しかし、何に対する苛つきなのか、それが分からない。シュウを惑わしていたことに苛ついたのか、それとも口調に対する文句に苛ついたのか。どちらかであることは間違い。しかし、少しの間考えてもサクヤはその答えを見つけることは出来なかった。

 その間、クサビとアラベラが期待した目で見つめていたため、二人の想像している答えを言いたくなくて、


「口調に対する文句を言われたことに腹が立ったんだよ」


 と、ぶっきらぼうに答える。

 そう答えた瞬間、アラベラは隠すことなく笑いだし、クサビは扇子で口元を隠して笑い始める。


「な、何がおかしいんだ!?」


 それが気に食わなくて文句を言うと、


「だって思った通りの答えですもの」

「そうそう、サクヤお姉ちゃんは絶対そう答えると思った!」

「私たちの予想した答えの反対を言ったつもりでしょうけど、それぐらい読んでいますわ」

「逆に『お兄ちゃんを誘惑した』ってことに苛ついたのなら、驚いたけどさ!」


 二人は再びそれぞれの考えを口に出した。

 クサビはそれほど笑っていなかったが、アラベラはその場で転がり始めるほどの大笑い。

 まさか、ここまで考えが読まれていると思っていなかったサクヤの顔は恥ずかしくなり、顔が紅潮。そのことをからかわれたくなかったので、サクヤは無理矢理話題を変えることにした。


「えーい! そんなことよりもこれからどうするかってことだ! 相手はリニスだぞ!」


 そう言うとクサビは瞬時に真面目な表情になった。


「最初の敵にしては、また面倒な魔王が来ましたね」

「別名『心惑の傀儡師』だからな」

「――ということはだよ? 村の人たちも操られている可能性があるのかな? 直接見た二人はどう感じた?」


 村民を見ていないアラベラが二人に尋ねる。

 サクヤとクサビはその質問に対し、お互いが顔を見合わせて、


「たぶん操られていると思いますよ? 魔物と仲良くなる可能性はないと言い切れませんが、少なくともここまでシュウちゃんを拒否する理由もないですからね」

「そうだろうな。どの村にも一人や二人はシュウを庇う奴が居てもおかしくないはずだ。つまり、この……何年だ?」

「三年です」

「そうだそうだ。三年間で別名通り、時間をかけてゆっくりと『勇者は悪』と仕込んだんだろうな。アザスの正義面した行動も相まって」

「結論、操られている可能性の方が高い。自然とこういう解答になりますわ」

「オッケー! ま、そうなるよねー」


 二人の言葉にアラベラも納得し、頷く。


「村人ならず、シュウも操られてしまったんだけどな」


 そして、一番重要なことをサクヤが困ったように天井を見ながら、重苦しそうに吐き出す。


「だねー。まさか、この短時間にあそこまでリニスの話に乗るとは思わなかったよ」


 アラベラも困ったように笑い、自らの頭を掻いてみせる。


「一応、正義感が強いですからね。それを逆手に取られたのでしょう」


 クサビはシュウの性格を考え、そうフォローするも、


「いや、あれは優柔不断なだけだ。だから、自分たちの目的に対しても納得しなかったわけだしな。シュウは何が悪で、何が正義なのか、それを見極める力も必要だな」


 と、サクヤはクサビの言葉に突っ込みを入れた。

 アラベラはその反応に軽く笑いながら、


「なんだかんだ言って、やっぱり一番お兄ちゃんのことを考えてるのは、サクヤお姉ちゃんじゃん」


 からかうわけでもなく少しだけ褒めるような言い方。

 クサビも似たように「ふふっ」と笑いを溢している。

 なんか言わされた感が強いのは気のせいか? いや、絶対こいつらは自分をからかうつもりで誘導したんだろうな。サクヤは二人を再びジト目で見つめながら、そう考えた。


「そんな目で見ないでください。でも、今の発言はサクヤらしいと思いますよ?」

「どういう意味でだ? どうせ、ロクでもない意味でなんだろう?」

「失礼ですよ? ちゃんとした意味で、ですわ」

「……」


 サクヤは無言でジト目をクサビ一人に向け、目で「答えてみろ」と促す。


「頑固親父的な意味で」


 悪気もなく、真顔で答えるクサビ。

 アラベラは再び大笑い始める。


「ふひひ……が、がんこ……お、おや……おやじ! あははははは! や、やっぱり……さ、さくや……お、おねい……ちゃんは……そういう……ははははは! ながれ……に……なっちゃうんだよ……! だ、ダメ……わらい、すぎて……おなか、いたくなりそう………!」


 最終的にアラベラはお腹を押さえて、涙を流しながら転げたり、足をバタバタとさせたりして笑い続けた。

 こ、こいつらはぁー! 怒りを必死に抑えつつ、サクヤはアラベラを睨み付ける。

 が、笑いが止まることはなかった。

 クサビもアラベラが大笑いしてくれたことに対し、満足そうにクスクスと笑っている。

 サクヤは疲れたようにその場に座り込み、アラベラの笑いが止まるまで口を開くことはなかった。

 このタイミングで真面目な話をしようとも、この笑いのせいで真面目な雰囲気にならないことを悟ったからだ。


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