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(9) 【サクヤ視点】

 二人の戦いが終わった頃、サクヤはまだ近距離での斬撃を続けていた。

 余裕のサクヤに対し、鬼面きめんは多少息が上がっており、集中力が次第に欠けてきているのか、服をかする程度のダメージを負い始めていた。それでも鬼面は引こうとはせず、その場に留まり、サクヤと張り合い続ける。

 純粋にこの戦いを続けたいという気持ちの他に、男が女に負けるわけには行かない。そんな気持ちもあったのだろう。

 だが、この近距離での斬撃も予想外の出来事で終わりを迎えた。

 ドスーン!

 それは上空から落ちてきた『何か』の音である。

 鬼面は思わず、一瞬意識がそちらへ向けさせられてしまう。


「なっ!」


 その一瞬の隙をサクヤが見逃すはずもなく、刀を持つ鬼面の右腕を切り捨てようと振り下ろす。

 自分のせいとはいえ、さすがにその攻撃を受けたくなかった鬼面は後ろにジャンプし、距離を取ることで躱す。それでも肩口に切っ先が当たったらしく、着地した場所に膝をつくと左手でその傷口を押さえた。


「ったく、あれぐらいの落下物に気を取られてどうする。それでもお前は自分に負けかけていたというのに」


 サクヤも改めて落下してみた物を一度見た後、「あ?」という感じで二度見。

 その落下物とは天狗が入った氷塊だった。


「お主も二度見しているではないか」

「予想外なものだったからな。斬撃している最中に見るお前と一緒にするな」

「だが、あれはいったい」

「ああ、犯人はあいつだろうな」


 サクヤは上空を指差す。

 鬼面はその指先に合わせて、視線を上らせていくとアラベラがゆっくりと下りてきているところだった。


「ちっ、仲間が集まって来たか」

「集まった所で手は出させないがな。お前は自分にケンカを売ったんだ。そのケンカの始末は自分が付ける。それだけのことだ」

「だろうな。お主に限って、それはないと分かっていた。そろそろ――」

「あっれー。サクヤお姉ちゃん、まだ終わってなかったの?」


 アラベラが呑気そうにサクヤの隣に降り立つと、鬼面の言葉を遮るような大きな声で質問した。

 サクヤはアラベラを睨み付けた後、情けないようにため息を漏らした。

 なんていうタイミングで声をかけてくるんだ。間が悪すぎだろう。あいつが決着を付けようとか言いだす、最高の盛り上がりだったのに。サクヤは遠慮なくアラベラの頭を叩いて、場の盛り上がりを壊したことを咎める。


「いたっ! な、何?」

「場の空気を壊したアラベラが悪い」

「え? そんな空気だったの?」

「最後の激突という感じの話をあいつが話そうとしてたんだよ。ほら、あいつの顔を見てみろ」


 サクヤは鬼面を指差す。

 指差された鬼面は少しだけ白けたという表情をしていた。

 アラベラは頬を掻きつつ、苦笑い。


「あ、あのごめんなさい。じゃ、じゃあ、サクヤお姉ちゃんが頑張ってね」


 そう言って、サクヤから離れるアラベラ。

 サクヤは長刀を構えて、無言で仕切り直しの合図を送る。

 鬼面もサクヤの雰囲気を察して、刀を杖代わりにして上がる。そして改めてサクヤに向かって最後の激突の言葉を発そうとした時、


「あら、まだ戦っていましたの?」


 というクサビの声。

 サクヤと鬼面は再び邪魔されてしまったことに対し、盛大のため息を吐いた。もはや隠すつもりさえない全力のため息。

 アラベラは「あーあ」と言いたそうに、自分の顔を手で押さえていた。

 クサビは何のことか分からず、首を傾げている。

 白けすぎて口を開く気にもなれないサクヤの代わりにアラベラが口を開いた。


「クサビお姉ちゃん、タイミング悪すぎ」

「え? 何がですか?」

「今ね、最後の激突って雰囲気だったんだよ? それをクサビお姉ちゃんが邪魔――」


 そこでサクヤの視線に気付くアラベラ。


「ううん、違う。それをまずはわたしが邪魔しちゃったから仕切り直しって感じだった雰囲気を、クサビお姉ちゃんがさらに邪魔したんだよ。私と同じ質問して」

「あら、そうでしたの。それはすいませんでしたわ。わたくしに構わず、最後の激突をしてくださいな」


 クサビはペコリと頭を上げ、二人に再度最後の激突をやるように促す。

 しかし、サクヤの方は完全にその気持ちがなくなってしまっていた。もう一回したところでまた何かの邪魔が入りそうな気がしてしかたなかったためである。

 だからこそ、長刀を背中の鞘へ納めて、鬼面にこれ以上の戦闘継続の意思がないことを伝えた。


「あら、止めますの? 魔物には容赦しないとか言っていましたよね?」


 その原因を作った一人でもあるクサビがそう尋ねた。

 アラベラの方も似たような気持ちらしく、「あれ?」というような表情をしている。


「誰さんたちのせいでな」


 二人を交互に睨み付けた後、


「鬼面とか言ったな。自分たちは当分ここにいる予定だ。その傷を治し、腕を磨いてからまた挑んで来い。相手になってやる」


 と、鬼面へ背中を向けて、二人に近寄る。

 鬼面の方もそれに納得したらしく、刀を腰にある鞘にしまう。


「お主がそれでよいのならな。拙者をここで殺さなかったことを後悔してもしらんぞ」

「うるさい。自分の気まぐれが変わらないうちにさっさと家に帰れ」

「そうですよー。サクヤは本当に気まぐれなんですから。一秒もしたら気が変わる可能性もありますから」


 クサビがフォローするつもりは一切ないらしく、鬼面に向かってそう言い、


「そうだよ! サクヤお姉ちゃんは頑固者なんだから、今の内だよ! 早く行った行った!」


 それに乗っかるようにアラベラもそう言った。

 二人の発言に対し、サクヤは眉間をピクピクさせながら、背中の長刀に再び手をかける。


「気が変わりそうだな。鬼面のせいじゃなく、お前らのせいでな」

「ふっ、素直に逃がしてもらおう。そんなお前らに良いことを教えてやろう」

「良いこと?」


 サクヤは改めて鬼面の方へ振り返る。

 そこには生き残らせてくれることに対し、恩を感じている視線がサクヤへと突き刺さる。

 しかし、それが違和感でもあった。

 このタイミングだと間違いなく悪いことだな。だが、聞かないわけにもいかないか。サクヤはさっきまで愉しい戦いを提供してくれていた鬼面の言葉を聞く気になっていた。

 クサビとアラベラにサクヤが視線を向けると、それに了承するように頷く。表情から察するに、自分と同じ考えに至っていることに気付く。


「聞いてやろうじゃないか。その『良いこと』ということやらを」


 サクヤがそう言った瞬間、鬼面の口端が吊り上るのがサクヤには見えた。


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