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(1) 【サクヤ視点】

 三人は玄関からある程度離れた位置に横に並び、向かってくる人間たちと魔物を待ち構えていた。

 松明や複数見えることから、ある程度の人数で来ていることをサクヤは視認した。


「クサビ、結界の方頼むぞ」

「分かっていますわ。そのための準備ですから」


 サクヤの指示にクサビは頷き、自分の目の前に指を二本立てて、「はっ!」と気合を入れる。すると、玄関に貼られていた「結界」と書かれた護符が呼応するように光り、家を包み込むようにして、結晶のような六角形がいくつもの組み合わせられたような角張った球体が完成。しかし、その結界は何もなかったかのように透明になり、姿を隠す。


「これでシュウの安全は保障されたな」

「ですわね」

「でもさ、どういう感じでやっていくの。見る限り、空中にも魔物いるみたいだけど……?」


 アラベラは額に手を置き、松明の灯りでも見えないさらに上空を確認しながら、サクヤへ尋ねた。

 アラベラが見ている部分を確認しつつ、サクヤは腕を組んで考える。


「ま、そこはアラベラ。お前の出番だな。翼がある分、自分たちよりは飛びやすいだろう?」

「吸血鬼だからね。じゃ、もう空中にいようか? どうせ、戦闘は免れないんでしょ?」

「たぶんな。引いたら引いたで戻ってくればいいだけの話だ。地上戦は自分とクサビに任せろ。っていうか、自分だけでもいいんだがな」

「んじゃ、気配を消して上がっておくね!」


 サクヤにそう言って、アラベラは頭と背中の羽をパタパタと羽ばたかせながら、空中に姿を消していく。容姿だけではなく、アラベラが発言した通りに、気配さえも完全に消しながら。


「私はどうしましょうか? 見学でもしておきましょうか?」

「おい、なぜ自分だけに任せようとする?」

「さっき、『一人でもいい』って言ってたじゃないですか」

「確かに言ったが、真に受けるな」

「本当はシュウちゃんのことを一番に心配してるくせに」

「それはお前だろう?」

「接し方が分からないから、あんなツンケンな態度取っているんでしょう? というより、厳しくしているのは、立派になってほしいからって知ってるんですよ?」

「知った風に言うな」

「境遇が似てる私たちがこうやって選ばれたのも、そういう風な意味合いがあるんじゃないですか?」


 その問いに対し、サクヤは口を閉ざした。 

 勝手なことを言い過ぎだ。自分にそういうつもりはない。勝手に見透かしたような憶測を言うな。あながち間違いではない気持ちを、勝手に暴露していくクサビにサクヤは睨み付けることで反論。

 しかし、クサビの方は楽しそうに笑みを浮かべているばかりで、反省するつもりはないようだった。


「ほら、もう来ますわ。交渉、ちゃんとしないと駄目ですよ?」

「そう思うなら、クサビがしたらいいだろう?」

「そこはサクヤちゃんのお仕事でしょ?」

「ったく、面倒なことを押し付けるな」

「はいはい」


 クサビは言うことを聞く様子はなく、完全に聞き流している。

 この時点で自分がやるしかないのか。サクヤは諦めたようにある程度の距離までやって来た人間と魔物の集団を見つめる。


「こんな遅くに、この家に何か用か?」


 サクヤの質問に対し、一人の中年のおっさんが前に出る。顔は少しだけ怒りに満ちている様子だった。


「この家のガキが何者か知って庇ってるのか? それを知らないんなら、悪いことは言わん。今すぐ出ていけ。他人であるあんたらを巻き込みたくない」

「ほう。この家の少年が何かしたのか? 自分たちが見る限りでは、あんたらのガキたちに石を投げられていた記憶はあるが、それ以外の記憶はないんだけどな?」

「ガキたちは自分の身を守るために――」

「待て待て、少年は身体を縮めて身を守っていたが、反撃する様子はなかったぞ。な、クサビ」


 同意を求めるようにサクヤはクサビの方を見つめる。

 扇子で口元を隠し、この茶番を愉しんでいたクサビはちょっとだけ面を食らった様子で、


「そ、そうですわね」


 と、慌てた様子で反応を返す。

 その様子を見ている限り、話を振られると思っていなかったらしい。

 こいつ、本当に自分だけに任せるつもりだったな。そのことに対しての突っ込みを入れれる状況ではないので、視線だけで文句を言いつつ、再びその中年とおっさんへと向き直るサクヤ。


「――というわけだ。それに、『この少年が何者か知っているのか?』って意味はなんだ? 何か呪われた血筋だとでも言いたいのか?」


 瞬間、人間と魔物の集団がざわつき始める。

 その言葉が禁句とでも言いたそうな雰囲気をサクヤは感じることが出来たが、あえてそれを尋ねる。


「もしかして勇者の血筋を継いでいるのか?」

「そこまで分かっているなら、離れてもらえないか? そいつの一族は諸悪の根源なんだ。俺たちは魔王の認識を改めたんだ」

「都合の良いことばかり言うんだな」

「何? どういうことだ?」

「お前らもどうせ最初は、『勇者が魔王を倒してくれる』なんて期待してたんだろう? なのに負けて、魔王がこの世界を平和にしてくれたら、そっちになびくというのか? 戦いに参加せず、他人任せの奴らがよく言う話だな」

「おま……お前に俺たちの何が分かる!」

「分かりたくもないな。分かろうともしていない、が正しい言い方なのかもしれないが。とにかくだ、こんな風な長ったらしい話は止めにしないか?」


 サクヤはそう言いながら、背中にかけている長刀を鞘から抜き、切っ先をその中年のおっさんへと向ける。

 クサビの方も袖の中から何枚かの札を取り出し、やる気であることを示す。


「この家の少年を殺すつもりで来たんだろう? 村のガキを襲ったという名目で。だったら、自分たちはそれを認めるわけにはいかない。無実の罪でこの少年を殺させるわけにはいかない。だから戦う。それだけだ。引くのか? それとも戦うか? どっちだ?」


 中年のおっさんは何か言いたそうに口を開こうとするが、隣にいた牛の頭をした魔物によって肩を掴まれ、


「もう止すんだ。あいつらは何を言っても聞きやしない。しょうがないが、なるべく傷付けないようにするしかないぞ」


 首を横に振って、駄目だということを伝えた。

 その言い分を反論することもなく、中年のおっさんが持っていた鍬を肩辺りに構え、戦闘の意欲を態度で現す。

 交渉決裂か。分かっていたことだがしょうがないな。だったら、遠慮なくやらしてもらう! 最初からこうなることを分かっていたサクヤは笑みを浮かべて、


「じゃあ、人間たちは自分の命を心配してろ! 魔物、お前たちは殺す!」


 そう言い残し、集団へと向かい飛び出す。


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