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 二人がその答えを出すには、あまり時間はかからなかった。

 シュウが見る限りでは、『魔法を扱えるか?』ということではなく、『どんな風に教えたらいいだろうか?』ということに悩んでいるようにさえ見えた。

 そう見えた根拠は一切ない。

 ただの勘である。


「まぁ、挑戦してみることは大事ですから、やるだけのことはやってみますか」

「そうだな。しかし、そうなると旅に出ること自体が延期になりそうだ。それはそれで仕方ないか」

「ですわね。元より時間がかかりそうなのは分かっていたことですから」

「だな。どっちみち剣術を教えるのも腰を据えてやらないといけないと考えてはいた。今さら、やることが一つ増えようが対して変わらん」


 サクヤとクサビは教える方向で納得したらしく、その確認のためにシュウへ顔を向ける。

 魔法が使えるようになる。今まで願いだけで終わってたことが実現するんだ。現実にすることが出来る。魔法が使えるようになることを半ば諦めていたシュウにとって、二人の申し出は嬉しくて、迷うことなく顔を縦に振った。

 そして、その提案を出してくれたアラベラを思いっきり抱きしめる。


「ありがとう、アーちゃん! もしかしたら、ボクは本当に勇者になれるかもしれない!」

「い、痛いよ! ちょっ、もうちょっと力緩めて! 嬉しいのは分かったから!」

「あ、ごめん!」


 アラベラの背中へのタップにより、慌ててアラベラを抱きしめていた力を緩めた。力任せたことに対して謝罪の表情を作りたかったが、嬉しさの方が強すぎて、その表情を作ることは出来なかった。

 勇者になれる可能性が出来、喜んでいるシュウを忠告するようにサクヤは、


「喜ぶのはいいが、明日からは修業だぞ。そのことをちゃんと理解しているのか?」


 手は一切抜かない、甘やかすような修業をするつもりはない。言葉だけではなく、雰囲気でもそう伝える。

 その雰囲気にシュウは口の中に溜まった唾を飲み込む。

 それでも勇者になりたい。もうこんな思いをするのは嫌だ。ボクは変われる。その可能性を潰したくない。もっと幼い頃から持っていた夢を叶えるために、迷うことなくシュウは頷いた。


「よし、遠慮なく修業させてもらうからな」

「うん!」

「――で、だ。家事をクサビたちに任せないといけなくなるが大丈夫か?」


 一日をなるべく修業に当てたいらしく、クサビとアラベラを見るサクヤ。


「まぁ、料理と買い出しはなんとかなるでしょうけど……問題は畑ですわね」

「ああ、それはシュウに指示して貰うしかないな。そういうわけだ、畑仕事以外はほとんと修業に持っていく方針になった。文句はないな?」

「うん、ないよ!」

「よし! じゃあ、準備に入るか」


 サクヤはそう言って、近くに置いていた長刀を手に取り、立ち上がる。

 それに合わせるようにアラベラも立ち上がり、クサビはテーブルに置いてあるロウソクの灯りを息で消してから立ち上がった。


「え? え? い、今から始めるの?」


 いきなりの展開に驚き、シュウもサクヤに問いかけながら慌てて立ち上がろうとすると――アラベラがシュウの肩に手を置くことによって、途中で阻止される。

 アラベラが止める意味が分からないシュウの頭の中には「?マーク」が浮かんでしまう。


「修業じゃない。人間と魔物たちが攻めて来たんだよ。きっと自分たちがシュウを庇ったことによって、反感を買ってしまったのだろう。『強い味方を引き連れて来た』とでも思ったんじゃないか?」


 シュウの疑問に対する回答をしたサクヤは愉快そうに笑みを浮かべていた。この雰囲気は朝感じた時と同じものであり、今までのような穏やかな雰囲気ではすでになくなっていた。

 それはクサビとアラベラも同じだった。

 これからやってくる人間と魔物たちを敵として認め、手加減をするつもりはない。それを物語っているような雰囲気と目の鋭さ。

 シュウの目の前には『家族ごっこ』をしてくれる三人ではなく、『魔王』としての三人がいた。


「ちょっと痛い目を見させてきますから、この家から出ないでください。すぐに終わらせますから」


 三人は玄関へ歩いてきながら、クサビがシュウへと注意を促した。


「あ、あの!」


 シュウは三人の背中に呼びかける。

 その声に反応するように三人はシュウへと視線を向けた。


「人間を殺さないようにして欲しい……な……」


 甘い。甘すぎるよね。ボクの命を狙って来てるって言うのに。サクヤさんがまた怒りそうだ。文句を言われることは分かっていたが、シュウはそうは言わずにはいられなかった。自分のせいで誰かが傷付くことが嫌だったから。


「分かってるよ。人間たちは気絶させる程度に頑張ってみる!」


 アラベラはそのことに対し、不満はないらしく親指を立てて承諾。


「アーちゃんの言う通り、善処しますわ。怪我は免れない可能性はありますが……」


 少しだけ自信はなさそうだが、クサビも頷いて承諾してくれた。

 そして、サクヤは少しだけ呆れたような腰に手を当てて、


「言うと思っていたが、本当に言うとはな。まぁいい。今の自分たちはシュウの従者だ。それぐらいのこと聞いてやるさ。魔物は殺すぞ。魔王の手先だからな」


 そうはっきりと断言し、それ以上のことは聞くつもりはないらしく、先に外へと出て行った。


「じゃ、行ってくるねー!」

「行ってきますわ。怖かったら、布団の中にでも隠れててください」


 アラベラは遠足にでも出かけるような元気よく手を振りながら外に出て行き、クサビは最後までシュウの心配をしながら外へ出た。

 暗闇の中、独りだけ残されたシュウは不安な気持ちになってしまう。

 大丈夫かな、三人とも……。

 魔王と言っていた分、強いことは分かっている。しかし、それに任せて無理なお願いをしてしまったのではないか? そういう考えが頭を過ぎってしまい、シュウは玄関をひたすら見つめ続けた。


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