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「なにこれ?」


 シュウが二人にアラベラの帰りを待とうと言ってからしばらく経った時、シュウは今までに感じたことのない変な感覚を感じた。

 キーン。

 耳の中で何か甲高い音が響き、思わず耳を抑えてしまう。しかし、その音が消えることはなく、遠慮なく鳴り続けていた。

 その状態に戸惑っていると、


「帰って来たらしいな」


 サクヤが身体を起こし、縁側の外に出る。


「帰ってきた……って、アーちゃんのこと?」

「アラベラ以外いないだろう? シュウが感じたそれもアラベラの仕業だ。直に分かる」

「う、うん」


 それに頷くと被るタイミングで一匹の巨大なコウモリが上空から降りてくる。そして、ボンッという音と煙を出すと、その場所にアラベラが姿を現した。手には三本程度の紫色の花が持たれていた。


「ごめんごめん。意外と大変で帰るのがこんなにも遅くなっちゃった」


 「えへへ」と困った笑みを浮かべながら、その花をクサビへと差し出す。

 クサビはその花を受け取り、ゆっくりと立ち上がり移動し始める。


「しょうがないですわ。じゃあ、花瓶二つほど借りますわね」

「え、うん」


 シュウはクサビの質問に答えながら首を傾げた。

 サクヤの言っていた意味が分からない。そして、さっきまで起こっていたあの変な感覚がいきなり消えたことの謎が分からなかったからだ。

 その説明を求めるようにサクヤを見つめると、


「アラベラ、コウモリの能力をシュウに教えてやれ」


 さっきまでと同じように言葉足らずな命令をアラベラへと出した。

 さすがのアラベラも意味が分からない、とでも言いたそうにきょとんとした表情をしながらも言われた通りにシュウへ説明し始める。


「コウモリってあまり目が見えないの、知ってる?」

「ううん、知らない」

「知らないかー。じゃあ、ちゃんと説明するしかないね。今、言ったようにコウモリって目があまり良くないから、他の器官を使って位置の把握をしてるの。人間にも聞こえないような音、『超音波』って言ったら分かるかな?」

「あ、それは聞いたことがある」

「じゃあ理解は早いね! その超音波を発して帰ってきた音を察知して、どれくらいの距離に物があるかを把握するんだよ!」

「それで、さっきの違和感と何が関係あるの?」


 未だに分からないシュウはサクヤへ質問する。

 サクヤも「あれ?」と言った様子で首を傾げていた。「まだ理解出来ないのか?」という視線付きで。

 その様子からで気付いたのか、アラベラが「あっ!」と声を上げる。


「お兄ちゃんに超音波が聞こえてて、耳鳴りしてたってことか!」

「みみ、なり?」

「なんかキーンとか、じーんとか……とにかく変な音の総称を耳鳴りって言うの」

「そういうのを耳鳴りって言うんだ。初めて知った! とにかくその耳鳴りがしたんだけど、何か関係あるの?」

「関係あるよ。超音波って人間が聞き取れないほどの音の高さなんだけど、中にはそれを敏感に察知する人間もいるんだ。それでなくても私が変化したコウモリは必然と大きくなるから、そのせいで超音波が他のコウモリと違って大きくなるの。だから、私が発した超音波をお兄ちゃんが聞き取って、耳鳴りを起こしちゃったのかも……。ごめんなさい」

「そういうことだったんだ。だったら、最初から教えてくれればいいのに……」


 アラベラの説明で先ほどの感覚と超音波の関係の謎が解けたシュウは、サクヤを見ながら少しだけ頬を膨らませる。


「いや、すまない。悪気はないんだ……」

「それは分かってます。サクヤはそういう博識じみた説明があまり得意じゃないのは分かりますけど、もうちょっと分かりやすく言うようにしてください」


 戻ってきたクサビは一輪の花が入った花瓶を祖母の写真が置いてある箪笥の上に置きながら言った。そして、残りの花が入っている花瓶をシュウたちの近くに持ってくると、邪魔にならない場所に置き、改めてサクヤに憐みの視線を送る。


「そうなの? ボクに意地悪してるわけじゃないんだね」


 何かを試すために、そんな風な言葉足らずの説明をしていると思っていたシュウは少しだけ安心することが出来た。

 逆にそんなつもりがなかったサクヤが少しだけ動揺していた。


「だ、誰が意地悪するか! そ、そんなつもりは一切ないぞ!」

「戻ってきた私にいきなりコウモリの説明をさせてる時点で、十分意地悪してると思うけど?」


 さりげなく意地悪アピールをし始めるアラベラ。

 「お前は黙れ!」と言わんばかりにサクヤはアラベラを睨み付ける。


「うわーん、お兄ちゃん! あの言葉足らずの魔王が怖いよー」


 アラベラは嘘泣きをしながらシュウに抱きついてきたので、シュウは慌てて受け止める。

 なんか妹が出来たみたいだなー。口には出さないものの、そんなことを思いながらアラベラの背中をよしよしと撫でる。


「ったく、余計なこと言いやがって」

「本当のことなんですけどね。もうちょっと詳しく話さないと誰でも勘違いしてしまいますわ!」

「ううっ……。だからすまないって言っているだろう? 自分がそんな知識を身に付けなくても、部下に博識な奴がいたから、そいつに任せていたんだ。だから、そういう説明はそいつに投げるのが癖になってて……」

「自分の世界ではそれで良かったのかもしれませんが、この世界にいる限りは直すようにしてもらいますからね?」

「わ、分かった。自分もなるべく気を付けよう」


 最初の頃のような威厳に満ちたものが一切なくなり、そこには情けない様子で項垂れるサクヤの姿。

 こんなキャラだっけ? もうちょっと怖かったような……。さすがのシュウもその違和感を隠しきれず、思わず苦笑いをしてしまう。


「な、なんか……魔王としての威厳とかなくなってない……かな?」

「そうか? 別に種族が変わったって、自分は元人間だからな」

「あ、そうなの?」

「基本的にこういう風に人間の身体をしている奴は元人間だぞ。もっとも動物たちから魔王になった奴は顔が獣化してたり、他にも様々な肉体変化が起きているな」

「そういうもんなんだ……」

「そういうもんだ」

「はいはい、そういうことはどうでもいいから食べませんか? 話は食べながらでも出来るでしょう?」


 クサビはシュウとサクヤの会話を打ち切らせるように手をパンパンと叩いて、二人に食事を始めるように促す。

 それを合図にシュウのお腹も自然となり出してしまう。


「じゃあ、食べるか。こいつも帰ってきたことだしな」


 サクヤはそう言って、シュウの胸の中で甘えていたアラベラの頭を鷲掴みすると強制的に引き離す。そして、そのまま放り投げる。


「な、何するの!?」


 落下地点で器用に体勢を立て直し、足から着地したアラベラは不満を漏らす。


「シュウがご飯食べれないだろ。終わるまで我慢しろ」

「うー! あまり納得出来ないけど納得するよ」

「はいはい」


 あまり興味がなさそうにして、サクヤは元居た位置に座る。

 シュウとクサビもそれに倣い、元居た位置に座り、手を合わせる。


「「いただきます」」

「って、私の座る場所は!?」


 三人はそう言って、アラベラの文句を無視して食事を始めるのだった。



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