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愚者の夢Ⅰ

お久ぶりです。大学の課題やらなにやらであまり手がつけられないどころか、まさかの他のネタが思い浮かんでそっちのほうばかり思いついてしまったもので...


...仕舞いにはネタをノートに書いたりする習慣がないせいでこの作品の設定とか一部忘れてしまってるのは内緒な!(小声)

「本当にお前って奴は、どうしてそこから離れようとしないんだ?ここにはソレ以外にも、面白いモノは一杯あるのに」


 父親の呆れたような声。それを聞いてもなお、視界の持ち主はしゃがんだ体勢のまま、その場から離れようとしない。


 その視線の先にあるのは、いつもの光景。家具も何も置かれておらず飾り気のない、真っ白で、殺風景な部屋。そして、そんな部屋の真ん中で体育座りをして、ただじっとこちらを見つめてくる、見た目は少女のようなナニか。


「…いい。ここがいい」


 幼い男の子の声が、自分の口から漏れ出る。


 そう、これは夢だ。自分は今、幼い頃の夢を見ている。今から大体、十年程前だろうか。

 当時、母親が事故だかなんだかが原因で死んでしまった事で、元より積極的な性格ではなかった彼は更に塞ぎこむ事となり、それを気に病んだ父が「流石に家に一人と言う訳にもいくまい」と、よく彼を研究所に連れてきてくれたものだ。勿論、機密に触れるような事は一切合切教えてくれはしなかったが。

 しかしながら、機密だのなんだのというものは彼にどうでもいいものだった。


 ひたすらに空虚で真っ白な部屋を見る少年の瞳は、かつては光すら感じさせなかったというのに、今では無表情でありながらも活き活きとしている。


「はぁ…ま、お前がそうしたいんなら、それでも構わないか。でも、帰る時間になったらちゃんと帰るんだぞ。それと…」

「…実験?」

「…ま、そんなところかな」


 父の気まずそうな声。顔を見なくてもその表情がありありと脳裏に浮かんでくる。目を逸らしがちに頬を掻き、苦虫を噛み潰したような、そんな表情。

 正直なところ、彼にはそんな事はどうでもよかった。問題なのは帰ってしまっては彼女を見られないという、今考えてみると何やらむずかゆくなるような心配事をしていた。

 確かに彼の父は彼に良くしてくれていたが、それ以上に彼女の存在は、彼の中でとてつもなく大きなものとなっていたのだ。


 父が助手を連れて何処かへ去っていく。すると、世界がどんどん真っ白になっていく。壁も、床も、彼女のいる部屋の中も。自分がどうなっているのかまるで分らないが、彼の目の前にある強化ガラスと、そしてその向こう側にいる彼女の姿だけは変わらずそこにあった。


 自分が彼女の目をじっと見つめ、彼女もまた、こちらの目をじっと見つめ返す。会話をしたり近づいたりすることもなく、ただそれだけしかしない。それだけで、どんどん時間が過ぎていく。そのうち、時間を忘れ、永劫の時が流れたかのような感覚に襲われ―







「…ん」


 気が付けば目の前に広がるのは、どこかの部屋の天井。といっても、全く知らない部屋ではない。

 ここは紛れもなく、彼、御堂愛斗の部屋だ。


(…俺、そういえばいつの間に寝たんだったか)


 夕暮れ時のあの出来事から数時間。あの後そのまま気絶してしまった勇作を病院に担ぎ込み、自衛団に連絡を入れた。その後やけに重くなった体をガラテアに支えてもらいつつ自分達が住む予定の寮に辿り着き、寮長と軽く挨拶を交わしたのち部屋に足を踏み入れたところまでは覚えているのだが…


(…その時、俺も気絶したってところか)


 気だるげに上半身を起こすと、ぼんやりと部屋の風景を眺め回す。部屋のすぐ近くに玄関とトイレがあり、その付近に台所と冷蔵庫が見える。壁に何かが掛かっているわけでもなく、特別ファンシーな置物があるわけでもない。最低限の家具があるだけのシンプルな部屋。強いて違うところを挙げるとするなら、玄関とトイレの扉とはまた別に、もう一つ扉が増設されている、といったところだろうか。


(…下見に来た時にあんなのあったか?)


 そういえば、と。数日前に入寮の手続き云々の処理の際に叔父から何か質問をされたのを思い出した。内容は良く覚えてはいなかったが、普段通り《・・・・》の返答をした気はする。


「…ま、いいか」


 叔父が何かしら手を回してくれていたのかどうかは知る由もないが、自分にとって得となり得るのなら、どうでもいい事だ。少なくとも、彼のベッドに寄りかかるようにうつ伏せで寝ている少女―ガラテアの姿があるだけでもう十分満足だ。

 思わず口元を緩ませると、ガラテアの頭に手を伸ばす、が―


「マナ、ト?起きてる…?」


 触れる直前に、ガラテアに名前を呼ばれる。どうやら目が覚めてしまったようだ。


「あれ、起こしちゃったか?」

「ううん、この時間に起きるようにしてただけ」


 ガラテアは、むくり、と上体を起こすと、やや眠たげな目をこちらに向けてくる。

 そういえば彼女には強制目覚まし機能のようなものが搭載されていたというのを、愛斗は思い出す。彼が覚えている限り、その機能はスリープモードに突入していても有事の際に対応できるようにとあったはずだったのだが。


「眠たいのなら寝てれば良かったのに」

「駄目。むしろ愛斗が寝てて」


 即答か、と、愛斗は困ったように頬を掻く。


「…一応なんでかぐらいは訊いていいかな?」

「…」

「ティア?」

「…朝…………から……」

「?」


 普段以上にぼそぼそと喋っていて、とてもじゃないが愛斗の耳では聞き取り辛い。

 唯一聞き取れたのは、『朝』という単語。とりあえず時計らしいものはないかと辺りを見渡し、枕元にデジタル式の目覚まし時計があるのを見つけ、時間を確認するが、そこには『AM3:44』と表示されている。朝と言うには些か早すぎる時間だ。となると―


「…ごめん。そんなボソボソと喋られると、流石に聞こえないなぁ」

「…意地悪」


 意地悪も何も本当に聞き取れないのだから愛斗にはそういった意志はこれっぽっちもないのだが、上目遣いのガラテアを見て「まぁ、そういう事にしておこう」と心の中で自分を納得させる。

 彼女が嫌がる事をするのは彼の本望ではないが、少しぐらいなら…と、欲望に負けてしまった瞬間であった。


「だって…朝に先に起きられたから…愛斗に寝顔見られたから…」

「…クフッ」


 思わず吹き出してしまった。要は負けん気が働いた結果、更に早い時間に起きて愛斗の寝顔を見てやろうと、わざわざこんな時間に早起きをしたという事なのか。

 あまりにもくだらない理由過ぎるではないか。


「も、もう。笑わないで…!」

「い、いや、だってな…クッ、クフッ…」


 込み上げてくる笑いをどうしても抑えきれず、口からどんどん音が漏れていく。そんな彼を見て、ガラテアは頬を膨らませ、「私、怒ってます」といった表情を浮かべている。


「いいから、もう一度寝てください!」

「はは…んな無茶な。もうすぐ4時だぞ?」

「寝てください、今すぐに」


 ああ、知っている、知っているとも。彼女は基本的に内気ではあるが、同時にかなりの意地っ張りである事を。しかし、従わないという選択肢はない。ここは大人しく、彼女に従って寝るとしよう。


 ははは、と苦笑しつつ、愛斗はもぞもぞと身じろぎしつつ布団を被ろうという時に、ふと首をぐるりとガラテアの方に向け、一言。


「…子守唄とかは」

「な・い・で・す」

「ですよねー」


 もしかしたらと思い訊いてみたが、やはり歌うのは彼女にとって未だにNGらしい。一年程前に叔父が「たまにはこういうのもいいんじゃないか」と言ってカラオケに連れていってもらってからというものの、歌を聞くのはともかく、歌を歌う事に関してはずっとこうだ。

 叔父曰く「お世辞にもうまいとは言いづらい」らしいが、愛斗にとっては意外と好みだったりする。…単に彼女であればなんでも構わないとも言うが。


 あの時の貴重な歌っているガラテアの姿を思い出しつつ、彼は再び眠りについた。







「…ようやく、寝ましたね」


 何故かやや心拍数が上昇した後、数分経つと愛斗は再度深い睡眠状態に入った。

 普段から寝相の良い方である愛斗は、基本的に仰向けで寝る。その為彼の顔が見やすく、彼の安らかな寝顔を見るだけでガラテアの顔が緩んでしまう。彼が起きている時や外出している時には、到底こんな顔はできまい。


「…ふふ」


 普段は仏頂面と言っても過言ではないほど真顔な彼女が、あり得ないほどニヤニヤしているのは、別に今日に始まった事ではない。彼女が『可愛い』と認識したものなら、大体ニヤニヤしている。ただ、普段はそれを表に晒さないだけで、人目がなくなると途端にこうなってしまうのだ。

 その証拠に、彼女の私物としてたった一体、妙に歪なバランスでツギハギデザインなぬいぐるみがあるのだが、一人で部屋にいる時はその人形を眺めてニヤついているか、もしくは彼女と愛斗のツーショット写真のアルバムを見てニヤつくかのどっちかをしている。というか、部屋にいる間はそれ以外の事を滅多にしない。

 …余談ではあるが、実は愛斗、彼女のこうしただらしない笑顔というのは、未だに見た事が無かったりする。彼女とて、只者ではないという事だ。持てる能力の利用の仕方がどこか間違っている気がしないでもないが。


 と、そんな風にじぃっと愛斗の事を見つめていたガラテアだったが―


「…!?」


 不意に背筋や胸の奥を走る疼きに似た感覚に驚愕の表情を浮かべ、勢いよく背後を振り向く。

 当然ながらそこにあるのは殺風景な部屋と、それから三つの扉。彼女の視線は、その内の一つ―玄関の扉に注がれている。

 扉に何かがあるわけではない。その方角から、かつて感じた事のある反応を感知した、気がしたのだ。


(…気のせい、かな)


 たった一瞬の感覚の為、彼女が気のせいだと感じたそれ(反応)は―


(…だって、あの時みんないなくなっちゃったんだから)


 ―まるで、自分がかつていた研究所にて研究されていた、自分の同類―装甲機人と同じようだった。

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