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開幕《ハジマリ》のゴング

 自衛団。それは日本全国の主要都市の中で選ばれた高校に置かれる、一種の自警団のようなものである。

 しかし自警団と違い、公的機関にも認められており、特に警察とは連携を取っている程である。


 そんな自衛団、表向きには人の役に立ちたいという有志の生徒を募り、彼らに活躍の場を与えるというのが目的となっているが、それは真の目的のほんの一部分でしかない。本来の目的は、常人とは違う能力を持った若者達に力の使い方を指南することで、善き道にへと導く事にある。

 2000年代に入ってからというものの、超能力等の何らかの能力に目覚める者、特に思春期の少年少女の発現者が急増し、更にはそういった少年少女達の多くがその力を犯罪に使用するケースが増え、世間ではそういった能力を持った子供達に対する偏見が増えてきていた。何の力を持たない人々にとっては、彼らは恐怖の対象以外の何物でもないのだ。だからこそ彼らに自衛団への入団を勧め、彼らに社会的に認められるような活躍をさせる事により、彼ら人とは異なる能力を持った者達への見方を改めさせ、尚且つ彼ら若者に善き人生を歩ませる事が、自衛団の最終目標である。


閑話休題。


 三条ヶ原高校に置かれている自衛団も例外ではなく、超能力を持った人間と極少数の非能力者で構成されており、古賀勇作もまた超能力を持った団員の一人である。

 彼が能力に目覚めたのは、丁度二年前、彼が中学三年生だった頃。

 誰にも負けないと自負するほど強い正義感を持ってはいたが、常に空回りしてばかりであったゆえに悩む毎日だった。そんなある日、彼は突然超能力に目覚めた。

 彼が目覚めた能力、彼自身が『鎌鼬かまいたち』と率直なネーミングセンスで名付けられたそれは、文字通り風を操る力である。それもただ風を操るのではなく、風そのものに刃物のような切れ味を持たせ飛ばすのだ。

 風というものは本来大気そのものであり、物体を動かす目に見えない力である。ゆえに、砂などの不純物が混じらない限り風が物体を切るという事はまずない。

 だが、彼の能力により生み出されたその無色透明の風には、紛れもない『切断能力』がある。それが真空を内包した風だという事を知ったのは後々の事なのだが、少なくとも勇作が己に恐怖するには十分足りえるものだった。


 この能力を発現したての頃、彼はこの能力に恐れを感じた。透明ゆえ、風を飛ばして傷をつけたとしても彼自身が白状したりしない限り決してばれないこの能力だが、生憎彼の正義感がそれを許さなかったのだ。

 それ故に、自衛団が超能力を持った人間を特に団員として募集しているという事を聞いた時、光が差したように思えた。

 その後、お世辞にも平均的とは言い難い成績だった彼は持ち前の根性をもって猛勉強し三条ヶ原高校に入学できるレベルにまで学力を上げ、入学後すぐ自衛団に入団。本来自衛団は中学生以下であっても仮入団という形で入団する事が可能であるし、他校の生徒であっても顧問及び団長に認められさえすれば入団可能なのだが、前者はともかく彼が後者を選ばなかったのは、一重に彼の決意の表れである。だからこそ、彼は団長に認められ、今があるのだ。



―そうして自衛団に入団して様々な事件―といっても、万引きや不良の取り締まりといった小規模なものだが―を、他の団員達と共に解決してきてはや二年弱。


―彼は生まれて初めて、脅威というモノを知った。






「おいおい、まじかよ」


 先程から驚きを隠せないでいる勇作。当たり前だ。確かに自衛団に入り訓練に励み、先輩の団員達の助力もあって自分の能力をある程度までコントロールできるようになり、今では風による衝撃波めいたモノを放てるようになりはした。それでさえ人命を奪う程の威力はないが、腕に当たったのならよくて打撲、酷くて直撃した箇所が骨のみならず肌も含めズタズタになるレベルの威力を持っている。

 咄嗟に放った突風は、彼ができる限り威力を抑えたものだが、咄嗟ゆえ下手をすれば骨が折れているかもしれない。


 だが、果たして彼の放ったそれは効いているのか。


 明らかに人のツラではないソレは、同じようにどう見ても人の物とは思えない、白く指の関節部分がくっきりと見えるその手を全く動かさず、その白い顔をこちらに向けている。


―確かに自分は、風の衝撃波をその腕に当てたハズ。


―にも関わらず、相手は呻き声の一つどころか、怯んだ様子すら見せない。


 これが顔だけならマスクを被った変質者扱いになっていただろうが、露わになった手、そして相手の無反応っぷりを見る限り、只者ではない事には相違ない。


(ここで俺がまずやるべき事といえば…)


 チラリと一瞬だけ、背後に庇っている二人―転校生の御堂愛斗と大槻ガラテアの姿を確認する。

 民間人がいるのであれば、それを身を挺して守る。彼ら自衛団の鉄の掟の一つだ。

 一瞬見た限りではなにやらボソボソと話しているようだが、その会話の内容までは耳に入ってこない。だが会話を呑気に聞いていられる程、余裕はない。


「…お前らは早くここから離れろ。んで、できるなら警察か自衛団の誰かを連れてこい。いいな?」


 勇作はそれだけを言うと、再びソレと対峙する。

 愛斗も少し何かを思案すると、「わかった」と一言告げ、ガラテアの手を引きその場を離れる。

 これで、多少は楽になるはずだ。


「つっても、周りに被害出さないようにやんないとな…」

『警告スル』

「ッうぇ!?喋った!?」


 今まで沈黙を保っていたソレが、唐突に声を発する。声を出さないままでも、それはそれで不気味な事この上ないのだが、ソレの発する声は別の意味で不気味なものを感じさせる。

 ソレの発した声は人の発する声でもなく、ましてやマスクを被っている為になっている籠った声ですらない、機械仕掛けの音声。


『当方ニ対スル妨害行為ヲ行ッタ場合、実力行使ヲ以テ強制的ニ排除スル。繰リ返ス。妨害行為ヲ行ッタ場合、実力行使ヲ以テ強制的二排除スル』


 機械らしく酷く単調な声質だが、少なくとも友好的ではない事は確かだ。だが、はいそうですかと引き下がる事はできないし、彼自身が許さない。

 もしかすると、相手は最近この街で起きている不可解な傷害事件の犯人かもしれないのだ。とても常人によって行われたものとは思えないその事件の被害者は、重傷とはいえ一命は取り留めているものの、そのこと如くが人の手によるものとは到底思えない怪我を負っている。複雑骨折どころか、その骨が露出する程の大怪我もあったし、稼働限界を遥かに超えたあり得ない角度に曲がった関節など、凄惨の極みである。

 被害者の目撃証言にある単独犯は、捕まらないどころか未だに手掛かりの一つすら見つけられないという事から当初から超能力者だと思われていたが、今対峙しているこのロボットらしきモノならさもありなんと思える。


「うるせぇ、ロボット野郎!とりあえずテメェをぶっ飛ばして、色々と吐いてもらうかんな!」


 そう言って勇作が右手を前に突き出すように構えるのと同時に、辺りに機械独特の駆動音が響き渡る。


『敵意アリト判断。コレヨリ強制排除ヲ開始スル』




******



 勇作に言われ、現場からどれだけ離れただろうか。


 愛斗は現在、ガラテアの手を引き学校への道を逆走している最中である。

 このまま走って学校に戻り、先程乃々葉と勇作に言われたように自衛団に助けを求めに行くのか?


 否。彼らは唐突に立ち止まった。どちらかが急に止まったわけではない。両者共に、同時に泊まったのだ。


「で、アイツには助けを求めろって言われたけど、どうする?」


 そう切り出した愛斗の顔は、学校に通い、勇作達と会話していた時と違い、酷く穏やかだった。

 そんな彼に対して話しかけられたガラテアは、酷く思い詰めたような表情をしている。


「一体全体どういう偶然かは知らないが、さっき見た奴が十年前の時のと同じ連中の手先なら、きっと狙いはお前だ。…不覚にも、手を出されそうにもなったしな」

「うん」

「アイツがどういう能力を持ってるのかはよく分からないけど、奴に勝つのは難しいだろうな。アレが俺達の知るドロイドと同じなら」

「うん」

「で、今俺達があいつを助けに行けば、連中、本格的に追い回してくるだろうな。そうなれば、俺達が求めていたものを、手に入れる前から失う羽目になっちまう」

「…うん」


 遠回しながら否定的な意見を述べる愛斗。だが、その語調は厳しいものではなく、寧ろ諭すようなものだ。

 その言葉に頷くガラテアだが、その語気はどんどん弱弱しいものになっていく。


 愛斗には分かっている。彼女は、あの勇作という、今日知り合ったばかりのお節介な同級生を助けたいのだと。


 人命を守り、脅威を排除する。それこそ彼女が本来生誕と同時に与えられた使命であり、彼女自身の願いである事も。勇作が超能力を持っていても、それは変わらない。


 正直に言えば、愛斗にとっては出会ったばかりの勇作の事などどうでもいい。ただ、自分達が安穏たる日々を送れさえすれば、その他の何を、ましてや育ての親すら失っても構わないとすら思っている、自己中心的な考えの持ち主だ。だが、それ以上に彼は、ガラテアの事が大事であった。彼にとってまず第一に優先すべきは彼女であり、己の意思よりも遵守すべきものなのだ。否、遵守する事こそが己の意志であると言っても過言ではない。

 だからこそ、彼は直接否定するような事は言わない。自分と同じように彼女もまた、愛斗こそが最優先されるべき存在だと思っている。そんな彼が「駄目だ」と言うのなら、思案はすれど彼に従うだろう。

 だが、それは愛斗の望むところではない。互いの事を心配はすれど、相手の意思を捻じ曲げるような事は絶対にしない。ゆえに、完全に否定するのではなく、迷いから答えを導き出させる。ただ自分は、それに従うだけ。


「…それでも」


 そして、きっとそれはガラテアも分かっている事だろう。


「それでも、助けたい」


 だから彼女がそう決意した時、彼は、ふっ、と微笑むと、静かに右手を差し出した。


 何故あのドロイドが今更彼らの目の前に現れたのか。それは彼らの関知するところではない。だが、一度見つかってしまったのなら、みすみす放っておくわけにもいかない。それに何より、彼女に嫌われる事以上に嫌な事など、この世には他にない。その為ならば、今まで欲していたものを捨てる事すらしてみせる。


「そう来ると思ってたよ」


 さらば、来るはずだった平穏な日常。恨むべきは、早すぎた終焉そのもの。


 ガラテアが、差し出された手に自分の手を重ね、ぎゅっと握りしめる。その表情は、いつも通りの無表情そうに見えて、心なしか嬉しそうで。


 そして愛斗も握り返し、ただ一言呟く。





******


 その頃、勇作は危機に瀕していた。


(チックショォ!なんで当たんねぇんだ!?)


 彼が心の中で毒づくのも無理はない。先程から対峙しているロボットのようなソレ―愛斗達の言うドロイドに、『鎌鼬』の威力をある程度まで弱めた風の衝撃波を撃ち続けてはいるものの、一向に当たる気配がしないのだ。

 彼の放つ衝撃波の精度が悪いのかと言われればそうであるともいえるが、その最もたる理由はやはり、相手の驚異的な身体能力、そして予測能力にある。



――敵対者ノ右手周辺ヨリ、大気圧ノ変動ヲ検知。


――先程ノ攻撃ヲ加味シ、敵対者ノ攻撃手段ヲ予測―風ニヨル衝撃波ト断定。


――攻撃ノ効果範囲・射程距離ヲ予測・・・回避可能。



「…ンのやろォ!!!」


 再び勇作が風の衝撃波を放つ。が、またもや避けられる。

 ドロイドに搭載された電子頭脳が、カメラアイを通して勇作の攻撃の予兆を瞬時に察知、及び演算処理を行い、速やかに回避行動に移らせる。それだけならまだしも、ドロイドの持つ常人の数倍にも及ぶ身体能力がある事で、勇作の反応が追いつかない速度での移動、そして衝撃波の範囲外への離脱を可能としているのだ。


(畜生ッ!なんで当たんねぇ!)


 しかし、そんな事を彼が知る由もなく、また、捕縛する事ばかりを考えている為に本気の『鎌鼬』を撃つこともできず、まさにジリ貧状態になるまで追い詰められていた。

 そして、先程から回避に徹していたドロイドも、勇作の衝撃波を見切ったことで遂に打って出る。


 回避を続けていたドロイドが、突然動きを止める。


(お、もしかしてチャンスか!?)


 これを好機と捉えた勇作は、すかさず衝撃波を放とうとするが、それよりも早く、ドロイドが動き出す―勇作に向かって。


「ッ!?しまッ―」


 しまった、と言い切る前に、ドロイドの突撃が勇作に直撃する。腹部への激しい衝撃が、彼の胃腸を激しく刺激し、さらにその衝撃は頭にまで到達、脳震盪のうしんとうすら引き起こす。


「う…がぁ…」


 あまりもの衝撃、そして苦痛に、声を上げることすらままならない。突撃を受けた腹部を抱えて崩れ落ち、苦悶の表情を浮かべる勇作。だが、ドロイドは彼が苦しむ様子を眺めている事もせずバックステップし、再び突撃の構えを取る。

 ドロイドの電子頭脳は、この状況において既に勝利を確信していた。あとはこの敵を再起不能に追い込み、一刻も早く対象ターゲットを追わねばならない。



 まさに絶体絶命の状況―だが。





――…北ノ方角ヨリ、急速接近スル反応アリ。


――接触マデ、4、3、2、1、…





 耐え難い苦痛に、未だに苦しみ悶える勇作。しかし、頭では分かっている。攻撃を防御しなくては、と。だが、今の彼にできる精一杯の事と言えば、精々腹を庇いながら相手のいるであろう方向を見る事。


 この限りなく無駄に思える行動が、しかし、彼にとって人生を大きく変えるような出来事を目の当たりにさせた。


 必死の思いで頭を動かし、勇作はようやく頭をあげ、目に入ったもの。そこには、こちらに向かってくるドロイドの姿は映らず―



「…誰だ、アンタ?」



―頭のてっぺんからつま先まで、全てを純白の装甲で覆った何者かが、ただ無言でドロイドを阻むように立ち塞がっていた。

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