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ⅡLive ≪セカンドライブ≫  作者: 工藤 遊河
二章 ハーティミリー
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ボール

 ボール遊びと言っても特にルールは無く、ひたすらに投げるなり蹴ったなりしたボールを子供たちが大挙になって取り合うという大雑把な遊びだ。

 ルールも目的もない球遊びは妙に疲れる。何処かにボールを入れるなりの終了条件がある方が先が見える分気が楽なのだが……。


(コイツら楽しいのか? これで)

『楽しんだろ』


 デザイアから適当な返答が来る。

 一度ボールを投げるもしくは蹴ると二十メートルは追わされることになる。それが往復するように何度も行ったり来たりするものだから体力的に辛いものがある。

 その証拠に普段から子供と遊んでいるであろうケイという少年も少し疲れが見えてきている。そんな晄もいい加減辛くなってきたところだ。

 ボールを追う子供ら数人は今でも一所懸命で疲れを知らない。


「そーれっ」「キャッハハ」「ねーそろそろ違うことしようよ」


 本当に楽しそうに笑う。これからもずっとそうやって成長していくと言わんばかりにわんぱくで健やかだ。


(今はそんなときじゃないよな……此処は)


 トラフィスが言った理想。レギオンに支配されない街を作り、子供たちの働き口と暮らしを確保するというもの。

 まだこの世界の現状を分かっていない晄にでも、あるだけの知識で推し測っても無謀と思える。今までこのドロップタウンと同じことを理想とした街があると言った。しかしそれらを無情にも排斥してきた様な組織に一つの街がデュッセを包めた程度で声を挙げたところで何になると言うのか。寧ろデュッセごと消されてしまうのではないか。そうなってしまえば更に難民が増える。

 一体トラフィスにはどのような意図があってレギオンに仕掛けるのか。

 それが晄には理解できない大人のやり口だった。


「ケイちゃん、アッチで違うことして遊ぼうよ」

「えぇ? あー……そうだな。天気も悪いしぃー……小屋に戻るか!」

「うん!」


 女の子が一人ケイに提案する。それを快くケイが頷いたのは流石に疲れたからか。そしてその承諾に男の子らが不満を漏らした。


「何だよ、いっつも俺が誘っても遊ばないくせに」

「タイミングが悪いんだよ」

「ちぇ……。あ、でもコッチの大きい兄ちゃんは遊んでくれるよな?」


 一人が目に期待を込めて晄を見上げてきた。

 流石に晄も子供を期待を無碍にすることに気が引ける。


「あぁ……そうだな。別にいいけど」


 どちらかと言えば休みたいがこの流れでケイら室内組の肩を持つことが躊躇われるほどに熱い眼差しを送ってくるので今一つ釈然としないが頷いた。

 その返事にケイは訝しんだが流し目で呟くように言った。


「まぁ、任せる」


 それだけ言うと女の子らを連れて小屋へ戻っていく。

 晄としては反対してもらいたかったが監視が許すならば相手をしなくてはならない。


(俺って人質だよな……?)


 自分の立場が彼らからはどうなっているのかよく分からない。

 ここへ来てから度々思い出すが、他所からきて何をしだすか分からないような者に子供の面倒を一任させるのだろうか。それだけ信頼されているのかと言えばあり得ない。今日を含めて二日いただけだ。信頼など得られるはずもない。

 それとも年相応の警戒の無さだろうか。それにしても軽薄すぎる様な気がする。

 晄にはこのままより逃げる算段を考える思考がまだ残っている。常に黒髪の女性に監視されているらしいが、いきなり何も無いところから湧いて出てくるわけではない。

 自分を身体を分解して再び構成するという奇天烈なこともいくらの魔法でも出来はしない。

 ここら一帯に何らかの魔法を張っていたとしても晄の元に辿りつくまでには時間を要する。

 土地勘は彼らにあってもその間に距離を稼ぐことはできる。ましてや今は辺りに戦闘をこなせるような人物はいない。流石に子供が伏兵ということもないだろう。


(もしかして……今が好機か?)


 ケイの姿がある程度遠ざかった時、晄は状況を確認した。森に囲まれているが人影は無い。閑散としている。今は子供だけ。

 万が一ケイ以外の構成員が森に潜んでいたとしても見つかるまでに正面からはち合わせなければ猶予はあるはず。

 これならばここから……。


「兄ちゃん」

「ッん!?」


 足が既に逃走に動きだろうとしていた時、急にジャケットの裾を掴まれて驚いた。まさか本当に子供が伏兵なのかと晄は肝を冷やしたがそうではないようだ。


「な、なんだ……?」

「何して遊ぶんだ?」

「は?」


 振り返ると子供らがガラス玉の様な目を輝かせて言った。


「何だよ脅かすなよ……」


 単に遊びを訊いてきただけだった。バツが悪い。


「どうするの?」

「え? 何するって……」


 子供の人数を数える。五から七才ほどの子供が三人と、何をしようにも迷う人数だった。

 自分を入れても四人でゲームをするためには後二人は欲しい。しかしいないものは仕方がないので今いる人数だけで出来ることを考える。


「そうだな……出来ればボールも使いたい」


 ボールを使ったゲームといっても辺りは木と雑草ばかりで目印になりそうなものも乏しい。


「森って入って大丈夫なのか?」

「全部じゃないけど真ん中までは」


 森の真ん中とかなり大雑把だが入っても問題は無いらしい。

 だったら少しだけ遊べそうだった。


「よし、森へ行こう」


 晄はそう言って子供三人を引き連れて森へ向かう。


「何すんのさ」

「着いてから説明する。つってもかくれんぼと変わらない」

「なんだよ、かくれんぼかよ」

「まぁそういうなよ。普通とは違うから」


 晄がやろうとしているのは缶蹴りだ。蹴るものは缶ではなくボールだが。あれこれ考えてみたが日ごろから行動的ではなかった晄では遊びのレパートリーが少なかった。無い知識を選りすぐんで思い至ったのが缶蹴りだ。

 鬼を決めそれ以外の誰かが所定の缶を蹴り、鬼がそれを拾い元へ戻す。その間にそれ以外が隠れ、元に戻った缶を蹴る。そして鬼は缶を守りつつ隠れた人を見つけ、「誰々見つけた」などの掛け声とともに缶を踏み、捕まえる。

 細かなローカルルールがあるようだがこのくらいでいいだろうと晄は思っていた。ボールを缶に見立てても大丈夫なはず。

 晄らは森へ踏み行った。天気が曇りなのが効いているのか鬱蒼さが増している。日常からハーティミリーらの通りがあるためか適度に道が出来ている。


「ここらでいいか」


 立ち止まったのは比較的平らで木々が少ない所。対象の遮蔽物に岩や切り倒された大木があるため隠れるには不自由しないだろう。


「それでおもしろい?」

「やってみてからのお楽しみだ」


 と言ったものの気に入ってくれるかは分からない。


「よし、じゃあ説明するぞ」


 晄は子供たちにボール蹴りもとい缶蹴りの概要を説明する。

 手短に説明を終えると実際に始める。こういうことはやりながらの方がいいだろう。

 始めるにあたり、鬼を決めなければならない。


「鬼は誰がする?」


 何気に晄は訊いてみる。その途端に三人ともが「ん」と言って指差してきた。


「……………」


 そうなるか。

 此処で断るという大人げない事も出来るわけなく晄は引き受けた。


「分かった、俺がやろう。そしたら誰か蹴ってくれ」

「よーし、オレが蹴るぞ」

「あ、ちょっとまて」


 一つうっかりしていた。それよりも何故最初に訊かなかったのだろう。


「お前ら名前は?」

「オレはフリット」ボールを蹴ろうとしていた少年。恐らく三人の中で最年長だろう。

「ボク、テル」「……カリア」


 温厚そうなテルと寡黙そうなカリアか。


「じゃあ俺は」と言おうとしたところで「コウ!」と三人から言われる。「知ってるか……」


 昨日散々弄ばれたからか、名前は覚えられているようだ。


「なぁ、蹴っていい?」

「ん? ああいいぞ」


 フリットは距離をとって、ボールに向き直った。「行くぞー」

 勢いよく走り出し、フリットはボールを蹴った。

 やや高めに飛んでいくが所詮は子供か程度が知れている。

 晄はボールを拾いに三人に背を向ける。だがその時に同時点に三つ魔法が発動する兆候を感じ取った。


(は?)


 思わず振り返ると子供三人が各々の属性色の付いた魔力を撒き散らして脱兎の如くその場から消えた。


(使えんのかよ……魔法)


 晄は思わぬ事態に辟易とした。これは一筋縄ではいかなそうだ。



読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字などがありましたら報告ください。

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