襲撃者は幼馴染
自宅のある町から森林地帯を抜け、草原を越えた先にある教会を目指していたが森林の出口で人影が目に入った。
黒とまではいかない茶のコートで身を包んだ少年だった。
少年は右手に剣を持って眺めている。
(草原のど真ん中で何やってるのよ)
優奈は思った。
一瞬同業者かと思ったがここら一帯にある町で彼のような人はいなかったはずだ。
かなり無防備に思える。申し訳程度に剣を持ち、振っているが剣に体を少し持ってかれている。
(一応、素性だけは聞いておこうかしら)と思い戦闘になることを想定するのは4年間で染みついた癖のようなものだった。
加速の魔法の展開と右手に拳銃を取り出し握る。
そして魔法を発動させ、三十メートルはあろう距離を一瞬で詰める。森林の道が整備されているため引っ掛かるものはなく、草原の草の音で気づくときには対象の後ろをとっているだろう。
「動くな」
彼の後ろに付いたと同時に拳銃を突きつける。
「なにっ!?」
情けない少年の声を無視して続ける。
「しゃべるな」
先ほどの情けない声からする察するに、この行動だけで不安を煽るだろうと思ったがそんな素振は見せなかった。
☆☆☆
(しゃべるなって言われても……?)
どこかで聞き覚えのある声に晄は思った。
この場合どうすればよいのだろう?いろいろと考えてみるがどれも正解ともいえない。こういう場合は相手に流されるほうがいいのだろうか。
黙っておくわけにもいかないと思い、口を開こうとしたが相手のほうが一歩早かった。
「剣のほかに何も持ってないでしょうね、あるんだったら剣と一緒に捨てなさい」
ほかというのは武器のことだろう。今のところ剣しか確認していない。
「あ、はい、はいはい……」
情けない返事である。
言われたとおりに剣を下ろして地面に置く。
「ないわね、次はゆっくりとこっちを向きなさい。少しでもあやしい行動とったら撃つからね」
初対面の人間に脅迫とはいささか恐ろしい。晄は前世とのズレを感じていた。
(とんでもない所に来たもんだ……)
項垂れるしかない。項垂れながら体を左に百八十度回る。
目に見えたものは拳銃だった。信じ難かったが想定しなかったわけではない。
拳銃を持っている腕から肩に目を沿っていく。予想通り(はずれていたら恐ろしい)女性、それも晄と年の変わらないだろうという女の子だった。
肩に目がいったところで自然に顔も見える。黒い髪が首の中ほどまで伸び、整った綺麗な顔立ち、黒い眼は鋭く晄を睨みつけている。
身長は百六十センチほど。手足は長く、拳銃を扱うにしては少々心もとない肉つき。
服装は赤いネクタイのついた黒のワイシャツに、上には黒いコート。
下はショートパンツにニーハイブーツという真っ黒というのが相応しい服装だった。
二人の目が合う。合った途端に晄の目が大きく見開く、それは優奈も同じだったが優奈のほうはなんでという顔をしている。
「う……そ……」
四年間顔を見なくなっても忘れる顔ではなかった。前世では毎朝、毎日見ていたのだから。
晄も嘘と言いたかった。だがこの世界に彼女がいることを教えてもらっている。
出会うには低い確率と言われたが青年が気を効かせてくれたのだろうか。
運命ならば面白いものだ。
けれど、様変わりをした幼馴染に出会えたことは大きな特典だった。
そんな彼女と楽しみに慣れ、当たり前に、楽しくもなくなった毎日を再び続けたいと晄は思った。
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