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ⅡLive ≪セカンドライブ≫  作者: 工藤 遊河
二章 ハーティミリー
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ハーティミリー

二章突入です!

 日が完全に落ちた時間でもここは明るい。目にも心にも夜の不安は感じない。

 今の時代となっては子供の工作の方が出来がいいような白熱電球の灯りと笑い声が部屋を満たして、楽しくしてくれている。

 子供の数は六人、皆四、五歳ほど。いつまでも遊び足りないのかこんな時間になっても騒げる子供たちを見て、この場で唯一の大人、トラフィス・カスタルは苦笑した。

 子供一人がすっぽりと収まる恰幅の良い身体は四十後半になっても維持できている。初めは彫りの深い顔から怖がられていたものだが今では誰も怖がらない。


「トラはやめろって言ったのに、サンがね、アッハハ」


 さっきからずっとトラフィスの胡坐をかいた脚の上に座っている。ユリィが楽しそうに話しかける。それに元気よくサンが反論する。


「だって危なくないって言ってたから遊んだんだ! でもいきなり上から被さってきて!」


 サンが必死に説明しているのは二枚貝のような大きな葉を持った植物のことを言っている。森へ行けばどこにでも生えている植物で触れると倒れるという性質をもつ。茎を振るわせて倒れたり、立ち上がったりするものだから気持ち悪く、トラフィスはあまり近づくなと言った。

 害があるわけでもないのだが歳が大きくなるにつれて気持ち悪く思えてきた。けれど子供はそうでないらしい。


「よく触ったな、アレに。俺には出来んな」

「こわがりだー」

「このあいだ夜におどろかしたらスゴイ驚いてた!」

「それは言うな! と言うよりアレは誰でも驚くぞ!?」

「驚かなーい!」

「俺も!」「当たり前だろ!」


 子供が次々と驚かないと言う。


「そうかそうか、だったら今度誰が一番怖がりかやってみよう」

「やったー!」「ぜってぇ負けねー!」

「よしそれじゃ、上の二人起して良い子は寝ろ!」


 「はーい」と一斉に返事をしてドタドタと二階へ上がっていく。忙しない。

 少しの間待っていると二人の少年少女が眠そうに下りてくる。


「もう交代……?」


そう言ってくるのは十七の少女レイスル。


「もうちっと寝たかったなー」


 同い年のケイは髪を弄りながら言う。


「そりゃ無理な相談だ」


 トラフィスは素っ気なく返す。無理だと言うのは彼らはこれから見張り番という重要な役がある。そのため彼らの服装は動きやすい人工レザーアーマーに個性的な剣と、少々物騒げ。だがそうでなくてはならない。

 法が無いのだからこうして自衛するしかない。今も外で見張ってくれている同年代がいる。


「よし、行くか」


 お粗末な蛍光灯を消して外へ出る。星の明かりだけが闇を払っているが、それでも払い切れない闇の中に点々と小さな灯しが見えた。

 その灯りを目指して歩く。


「そろそろ交代だ」

「よ、待ってました!」


 灯しの元はカンテラだ。魔力の結晶である魔法石をガラスで包んだだけの優しい光を出すカンテラを持った少年は歓喜を表す。


「いつも通りか? 何もないか?」

「ぜんぜん」

「だったらいい」


 この辺一帯は森や山の麓があるため原生生物の宝庫だ。夜行性が多いため、街の安全を守るためには警備が必要だった。

 だが彼らが警戒しているのは主に悪党などの下賤の輩だ。この街が街としてあるのならばそんな奴らを気にする必要はないのだが、如何せんこの街には法がない。

 存在しない理由はレギオンに街として認可が下りていないからだ。

 悪党は法のもとで裁かれる。しかし無法地帯の街の外はそんな法から逃れてきた奴ばかり。気を抜けば葬られる。

 そしてそのような連中が集まり、自らのルールで秩序を作っているのがこのドロップタウンと言われる法のない街。

 さらにトラフィスがこのような場所で保育所紛いのことをしているのかと言えば、トラフィスの思い上がりがそうさせたのだ。

 もう十七、八になるのだろうか、こうやってわざわざ苦労して子供と暮らしているのは。


「どうした? 最近よくボーっとしてるな」

「いや、大きくなるもんだと思ってな」

「なんだよ? それ」

「もういいだろ、早く戻ってやれ」


 カンテラの受け渡しだけ行って連れてきた二人と警備をしていた少年ともう一人の少女と交代する。


「よし、任せるぞ」

「了解~」

「任された」


 素直でありがたい。年齢的に反抗期かそれくらいだろうに。


「じゃ、俺は反対を見てくる」


 一々言わなくてもローテーションで分かるものだがトラフィスは言うのだ。

 街の反対、入口とすれば出口だ。街の構造は一方通行となっているため見張りはそこ二か所でいい。

 少し早歩きで向かうとカンテラの灯りが見えた。


「交代だ」

「今日は少し遅いんじゃないの?」


 文句を言って振り返るのはトラフィスと一番年の近い女性ユーリ。近いと言っても二十代なのだから二倍は違う。

 後ろで一括りにまとめた髪を解きながら彼女は言った。


「本当に始めるの?」


 凛とした彼女に言われると尻込みしそうになるが、決めた事を今更やめるつもりもない。


「当たり前だ。もう力づくでやるしかない」

「それでも変わるとは思えないけど?」

「確かに一歩間違えれば落ちるところまで落ちる。だが今も変わらんだろ」

「もう一度考え直さない?」

「いや、これは責任だ」


 そう責任なのだ。この秩序のない街でわざわざ子供を育てて、巣立出せていく。それがトラフィスのやるべき事。だが簡単にできることではない。思い付きで始め、一念発起したものの全くのサラの状態で実行してしまったツケがやってきているのだ。

 子供が元気に育ったとして、教養がない、親がいないことをコンプレックスとして持っている子供たちはあの法の中でうまくやっていけない。その事はトラフィスが送りだした先達から耳にしている。

 彼らなりに頑張ってはいるようだがそれでもまだ満足に生活していないようだ。そしてどうしてもうまくいかず此処へ帰ってきたレイスルとケイもいる。


「ドロップタウンで育った事をとやかく言われてしまうのは、ドロップタウン故なんだ。ならばここを変えるしかないだろう」


 不可能ではないと思っている。ドロップタウンと言えど、かつては栄えた街が衰え、人が居なくなったからそうなっただけ。それを復活させるだけだ。

 しかし、信じてもらえない、取り合ってくれないのだ。


「どう転んでも私はアナタに付いていくけれど」

「悪い。ありがたいと思う」


 失敗は出来ない。それは悲劇を招く。今のレギオンに認めさせるためには強引な手段を使わざるを得ない事をトラフィスは承知している。これは経験だ。

 実行は明日。この事は皆に伝えている。何としても成功させなければならない。

 全ては自分の責任、子供たちの将来を思って。

読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字などがありましたら報告ください。

二章に入ったので設定を追加、改稿しました。

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