表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ⅡLive ≪セカンドライブ≫  作者: 工藤 遊河
一章 異世界
34/56

未練

 優奈が言う。


「アンタ他に言うことなかったの!?」


 突然優奈が怒りだしたので晄はきょとんとした。


「だからってな……、他に何が言えたんだ? アイツの言ったことは正しいんだよ。俺もずっと思ってた、死んだ子供はアイクを蘇らせようって集まった有志じゃない。それなのにお前は自分が生きたいように生きろって言えるかぁ? 不幸な子供の命もらっといて楽しく生きろなんて言えねぇよ」


 やれやれと言わんばかりに自分の言い分を捲し立てるカイリ。普段の気だるさは何処へやってこうした場面ではいつも冷静だった。


「それでもッ」

「優奈、俺はそれも正しいと思う。それに本人が決めたことを他人がとやかく言って変えさせるのは後腐れができる、そうなったら一緒だろ?」

「ほら見ろ、お前の相方のほうがイッパシなこと言ってるじゃねーか」

「う……」


 珍しく口をつぐむ。そのことを見ると優奈も同じことを考えていたから別の道を進めたかったのだろうか。


「あの時俺らが出来たことは、背を押してやることぐらいだ。アイクも決心がついてなかったんだろうな、だから親にも言えなかった。背を押して迷いを払しょくしてやればアイツの選んだことを支えられる。それに自分の人生を捨てることで生まれる未練は俺らがよく解るだろ?」


 カイリが言っているのは自分たちが一度死んで転生したから前世への未練で理解できるだろと言う事。

 カイリは立ったまま続けた。


「俺でもな、未練くらいはあったんだよ」

「アンタの事なんて誰も訊いてないわよ、自分語りの多い奴ね」ごもっとも「だいたいアンタがいつ死んだかも歳も知らないのに」

「歳? 見て分かれよ」

「三十路?」

「しばくぞッ! 二十三だ! 死んだのが十六!」

「短命だこと。それでアンタの未練って?」


 カイリよりもさらに若い十四で亡くなった優奈が言うなと言いたい衝動に駆られたが、そのあとを追う様に十七で亡くなった晄はじっと我慢した。


「志半ばで死んだら未練になるだろ。やっと見つけたんだぜ? やりたい事を、そしたら死ぬんだから」


 残る残ると言いながら何の未練なのかを言わないのは何故なんだろうと晄は思う。

 特に気になる訳でもないのだがカイリの性格を考えて、将来に悩んでいた事が意外だった。


「死んだ後もよ、長い間引きずったんだよ。自分の人生捨てるとそんな蟠りがしこりになってか上手くいかないもんで……。だから自信を持たせたんだ」

「そんなに兄貴風吹かせたいのかしら?」

「うるせ、胸糞悪い女だな」

「なッ!」


 晄にはいつまで経っても言えない悪口だ。末恐ろしくて言う気にもなれない。


「さーて、帰るか。あんまりうろついてると出歩いてんのがバレそうだ」


 そう捨て台詞を言って戸口へカイリが向かう。


「話し終わってないわよ!」


 知らん知らんと言って出ていく。ところが戸が閉まった途端に

 あ!てめぇこんな所で何してやがる!

 げぇ!?ナーシブ!

 騒がしくこの家を去っていくカイリだった。


「ざまぁ見ろー」


 優奈が悪態付く。かなり口が悪くなってるかなと晄は感じた。未だに自分は前世の優奈と比較している。受け入れられないのか?


「あー、冷めてる……。淹れ直すけど晄もいる?」


 お茶がいるのかと訊いてくる。何だか分からない緊張で口が渇いていたようなので貰う事にする。


「ああ……頼む」


 優奈はカップを持ってキッチンのある奥へと消えて行った。やっとソファに着けた晄は深く座ってぼんやりと今日までを振り返った。

 転生して、優奈と再会して、お世話になって、イルミニアにデザイアに乗っ取られて、流されるままにメイゼルで戦った。

 剣と銃と魔法が飛び交っても今のところ自分の血は流していない。優奈ら辺りのおかげでどうにかなっている。

 強くなりたいというのは今でも思っている、だからアルバロと戦った。とは言ってもアレは怒ったからだ、戦おうと決めて戦ったわけじゃない。じゃあなんで怒った?引き金になったのは優奈が傷ついたからか……?どうであれ自分を何処かへやったのは確かだ。

 何処かへやったまま戦って、終わってみたら倒していた。実感が今でも沸かないが世間ではそうなっている。


(馴染んでないんだろうな……この世界に)


 知らなさすぎるからアルバロがどういう人物でどうすごいのかが解らない、そう考えればこの虚無な感覚も納得はしやすい。


(どこでもしんどいな……)

「何ボケてんのよ」


 優奈が二つのカップを持って戻ってきた。考えていたことは全て何処へやら。

 随分早かったなと差し出された陶器のカップを持つと(ぬる)かった。淹れられたお茶もあまり湯気が立っておらず、そのまま啜るとやっぱり(ぬる)かった。

 そして晄はそういやと思いだした。


「猫舌はまんまなんだな」


 そう言って茶化すと優奈は顔を赤くして言った。


「うるさいわね、転生しても変わらなかったのよ!」


 何が悪いかと優奈はソファに座りこんでお茶を啜った。


「それで、アンタには未練も何にもないの?」


 眼に見える話題のすり替えに晄は辟易した。彼女にとっては触れられたくないところだったのだろう。


「え!? 未練? 未練か……。あったっちゃあったかな」

「うそぉ?」

「何でだよ、自分から訊いといて」

「だって何の未練もないみたいに後腐れなく生活してるから」

「そりゃそうだろ、世界が違うんだから」

「そ、そう……」


 こちらの世界であちらの世界の話をしても絵空事にしかならないのだからそこはキッパリと分けて捨てることができる。それに晄とてこちらの世界へ馴染むので必死なのだからそんなものは邪魔でしかない。


「で、あるならどんなことよ」

「それは……そりゃあ……?」

(あれ……本当にあったのか……俺)

「なに……?」


 晄は長考した。自分はあの金髪天使に此処へ放り込んでやると言われて何も迷うことなく、臆することなく転生を望んだはず。あの空間では意識は朦朧としていたが何もそこまでだったわけではなかった。なのに何も感じなかったのか。なにも感じられなかったのか。それどころか望んだ。優奈がいると解ったからか?

 

(それなら俺の未練って……)

「ちょっと、どうしたのよ」


 (ふけ)っていると優奈に腕を小突かれる。ハッとして意識が現実へ戻る。


「それでなんなのよ?」

「え!? あぁ……あの時の千円返してなかったとかー……ゲームソフト返してもらってないとか? あ、でもあれは遺品整理の時に」

「くだらない」一刀両断「……そうか?」


 言ったことは事実だが今の今まで忘れていたことだ。未練でも何でもない。


「アンタらし過ぎて面白くないわ」

「じゃあお前の面白い未練を教えてくれよ」

「はぁ!?」


 なんで反撃される事を想定していないのか。 


「あー……それは……ね?」

「で?」


 優奈が額に手をやって考え込む。本当に思いだしているのかは怪しいが。


「あ、そうだ! アンタ魔法使えるようになったんだって?」

「あッお前!汚いぞ!」


 自分の都合が悪くなると強引に話題を変える。本日二度目だ。


「これからは魔法の使い方も教えないと」

「おい、聞けよ!」


 知らん知らんとお茶を飲み始める。

 そうまでして言いたくないのか。だが優奈はそんな奴だったと思いだす。この世界へ来て優奈の変貌ぶりに驚かされていたが、こういう日常的な所は変わっていないんだと懐かしく思った。

 彼是四年も話していなかったし、話したとしても重い話ばかりなのですっかり冷たくなったのかと思い込んでいたがこうしてあの日あの時の彼女はここにいたようだ。

 この世界に来て一カ月弱、やっと自分の落ち付けるところができたと晄は小さく笑った。

 知らなければならない知識と身につけなければならない技術がたっぷりある。血を流すことや剣を持って戦うなどの生々しい行為への緊張が晄を身構えさせていたが、こうして幼馴染と心休まるやり取りが出来るようになって少しは肩の荷が下りた気さえする。

 ずっと気を張ることへの心配が先の見えぬものにしていた。でも彼女とこんな会話が出来て、暮らせるならば小さな光になるような……、そんなことを晄は淹れてくれたお茶を飲みながら思った。


☆☆☆

 

 こいつ等の会話は面白い。まるで俺をいないと思って話している。

 俺の存在を今一番に感じ取れるのは宿主であるコウだ。他の連中は一時は信じていても、俺が姿を現さない期間が続くと忘れる。

 ずっと黙っていたのは彼らの会話が不可思議だからだ

 死んだ。

 死んだ人間にしか分からない未練。

 転生。

 まるで死んだ事があるようだ。余りにも御伽話臭いがそれは宿主の記憶が俺を疑らせた。

 宿主が回顧するたび記憶に映る風景はこの世界の何処とも違う文明文化だ。ある一点においては此方より発展し、停滞している。ましてや俺達が普通に使っている魔法が宿主の記憶では存在しない。まるで御伽話。

 死んだ後の世界、俗にいう天界があるらしい。それならば自分もそこへ行けばよかったか?

 自分の姿を理解することが出来ないが、この世をさ迷っている意識が俺を霊としてこの世に縛り付けている。この世界には死んだ後にも何かに真っ当することが出来る。だがそんな真っ当も時が経つにつれて輪郭がふやけたものになり、やがて形が変わり、別物に書き換えられる。

 俺をこの世に縛り付けているモノは当初の形を維持していない。

 人間の脳には記憶を書き換える力があるらしいが、ああでもないそうでもないと維持しようとして弄くり回していると原形が解らなくなった。

 コレが意味するもの、それは長い時間の間で徐々に実感できるようになった自分の形を捉えられる大きさだった。

 体で例えれば死んだ直後はしっかりと四肢を認識できた。それが時を経てつま先から、指先から感覚として解らなくなるような、自分の一部を失うような感じがあった。

 本当に消える……危ないと感じたのは晄に取り憑く寸前。何処かへひっついていれば無くならないような気がして、丁度そこにいた彼へ取り憑いたわけだ。

 迷惑がられたが今はそうでもない。それはそれで少し安心したものだが根本的な解決にはなっていない。しかしこれで少しは解ったものだ、自分がどういう存在なのかを……。

 この世に俺を縛り付けているモノが無くなると自分が消える。この世界にはそんな力が在るのだ。その力によって生み出されたのが所謂死後の自分で、霊だ。そして自分が消えてゆく現象は成仏だ。

 彼ら、主に宿主の記憶に散らばる死後の世界というやつがあるのならばそれに従うのも良いのかもしれない。

 死んだ事を悔むくらいならばさっさと進展すればいいか?だがそんな事が出来るはずもなかった。何せ死んだ後もこの世に存在できるのだから、ましてや体を盗めば人と同じ営みが送れる。

 

(だがそんな事をしたいために居残ってるわけじゃないしな……)


 ふやけてしまった記憶。けれどもハッキリと俺の記憶には戒められている。

 前の宿主とコンタクトが取れなかったため半ば諦めかけていた事が、今の宿主とは意識の入れ替えまで出来ることによって再燃し始めた。

 この程度の同調では燻りが灯りにしかならないが、宿主の成長と共に業火に成れば……俺はまだ戦える。




読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字などがありましたら報告ください。


この話で一章の最後となります。この後は短編を挟んで二章に入りたいと思います。

一章は大幅な改編をしたいと思っていますが話数の半分以上を変えることになるため現状はこのままにします。


これからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ