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ⅡLive ≪セカンドライブ≫  作者: 工藤 遊河
一章 異世界
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拘束

 一 刻も早く向かってやらねばと人体強化までして跳んできたにも関わらず、曰くの四階に着いた時には既に戦いが終わった後だった。

 そして驚くべき光景がカイリを迎えた。

 当人の晄が座り込み、アルバロが倒れているという構図だ。

 見ての通り、晄がアルバロを倒している。逆はあり得るが「これは一体」と理解が追い付かないカイリは不用意に晄に近づいた。


「おい……、どうなってる?」

「カイリか……。俺が倒したんだよ」

「しょうもない冗談言うなよ」

「冗談で言うか、こんなこと」

「……マジか」


 世にも奇妙な出来事だ。大陸五指に入る実力者アルバロがたった十七のドがつく素人に負けるという珍事。本当に嘘臭くて信じられないがアルバロに付いた傷を見るとそうなのだろうと認めてしまうほどだった。


「そういやさお前、イルミニアの時のアレはどうした?」

「アレ?」

「二重人格みたいなやつ」

「デザイアのことか」

「デザイア?」


 人の名前だった。だがその名前は初耳だ。


「俺に取り憑いた霊の名前だ。それが俺のなかで人格を作ってるんだと」

「いやいや、いきなりそんなこと言われてもな」

「霊っていうのは……意思を持った魔力で……その、何?」


 歯切れの悪い晄は突然見えぬ人物に問い掛けるように呟いた。 

 少しの間硬直した後、目蓋を一回閉じる。ゆっくりと目蓋を開けると途端に顔付きが変わった。それに呼応するように剣とコートから赤い靄が浮かび出す。


「なんだ!?」

「説明すると面倒だから、こうやって見せんのよ」


 どこか自信げに満ちていて田舎臭い喋りは晄のものではなかった。声色も少し変わってた。


「ほー、な~るほど」

「およ?驚かない。そりゃ一回見てるもんな」


 晄もといデザイアは立ち上がって剣を鞘に納めた。

 しかし出で立ちは様になっていた。人格が入れ代わったからか。


「それで、コイツをどうするんだ。これからがややこしいと思うんだが?」


 倒れたアルバロを指差して処理を訊いて来る。


「そうだな、レギオンの上層だからこうなったら色々と」


 その時、部屋の外から騒々しい足音と共に「貴様らッ!」と言う怒鳴り声が部屋に充満する。


「そこで何をやっている!?」


 三角に斬られた狭い入口からぞろぞろと数人、血相を変えて入ってくる。


「アルバロ技術長!」

「レギオンかッ」


 カイリが毒突く。

 駆けつけてもおかしくはないがタイミングが悪い。


「お前ら動くなよ!」「外にいた連中とお前らには公戦罪の容疑が掛かっている」「傷害もだ」


 各々が矢継ぎ早に怒鳴りつけてくる。そして誰もがデザイアとカイリに向けて拘束の魔法の下準備をしていた。


「いつから、レギオンってのは……」


 デザイアが頭を振って両手を上げた。

 余りの往生際の良さにカイリは呆気にとられたが、同じようにしてカイリも両手を上げた。


「不味くね?これ」

「アレがまともに喋ってくれたら助かるぜ」


とアルバロを顎でしゃくる。

 アルバロがしっかりと供述すればデザイアたちは逆に謝罪をもらえることになる。

 カイリのギルドもアルバロの暴挙を暴いたとして広まれば株は上がる。

 だがそう簡単にはいかんだろうと言うのがデザイアの心中だった。

 まず、施設一つを使っていたにもかかわらず、誰も気付くことのできなかったレギオンは弾劾されるだろう。今や治安維持隊とでも呼べるレギオンには痛いことだ。

 もう一つがカイリが見つけた子供の遺体もある。下手をすればこれだけで転覆騒ぎに成りかねない。

 ただし、どう転んだとしても二人には関係が無くなるどころか利になる。名誉と謝礼金が……。


「お前今汚いこと考えてるだろ」カイリが言う。

「んなことないない」デザイアがいけしゃあしゃあと答える。


 そしてアルバロを抱えたレギオンの隊員にリーダーらしき人物が指揮する。


「いいな?外の連中とコイツらを連行する」

「外のはどうなった!?」


 カイリが怒鳴る。


「連行だ。怪我人もいるみたいだがそれはお連れの人が必死こいて治療してたさ」

「他人事かよ」

「何故そこまでせにゃならん。行くぞ」


と言うと凄い勢いで小突かれる。

 カイリからすれば警察に連行されているのと同義に近い。

 デザイアも愚痴を垂れていたがレギオン自体、元はギルドとフリーの依頼屋の集まりでメイゼルを新興するための集まりだった。しかしそれも昔の話で新興後もそのまま住み着いた彼らが周辺地域を治める形で組織し、展開の大きくなったメイゼルで治安維持に務めたことが始まりだ。

 メイゼルを中心として新たに町が出来ると、そこへレギオンとなった彼らが常駐するというのが定着してしまい気が付けば公共機関として出来上がり、組織が整備されている。

 誰も必要としなかった機関は今やこうして治安維持隊のような機能を持っている。

 ここ百年の出来事とは言え、設置当時からいる主導的なギルドの人員が上にいることを考えれば、当然な組織になっている。

 民衆誰一人の意見を訊かない公共組織とは恐ろしいものだ。


☆☆☆


 外に出るや数人のレギオンがアルダたちを囲っていた。ただ少し騒がしいのが気になった。

 一人の隊員が同じような制服を着た少女を拘束しようと揉めているようだった。

 

「もういいだろ、後は私たちが」

「嫌です!この人は私が治療します!」


 アイクだった。

 彼女は今でも優奈に寄り添おうとしてレギオンの隊員を困らせている。

 彼女をアルダが説得する。


「アイクさん、もうレギオンの方々に任せても」

「それじゃ嫌なんです。これは私の責任の取り方です」


 頑なに断る辺り、よほど後悔しているのだろう。彼女の事情を知らないアルダはどうすれば良いか困っている。

 そんなアルダも傷を負っていたはずだがそれも治っていた。一番の重傷の優奈もベンチに横たわっているが、あらかた傷は塞がれていた。流血による失血も気になるが……。

 そして終始蚊帳の外に見えたツバキもレギオンと揉めていた。


「十五って……そんなわけないでしょう?」

「何度も言っているだろう、その通りだ」

「いやいやそんな」

「十五と言って特があるのか!?」


 どうやらレギオンの職質の年齢確認に疑いを持たれている様子。

 他に比べれば面白い光景だった。


「お前も後で職質だ」

「ヘイヘイ」


 カイリとデザイアを連行したレギオンが言った。


「この後どうなるんすかね?」


 カイリが訊ねる。


「取り調べて処理が出来てからのお楽しみだ。投獄は免れんだろうがな」

「俺たちは悪くないんだがな」


 しっかりと調べるといいとカイリは思った。覆しようのないものが大量に出てくるだろう。

 明日明後日には大きなニュースにもなるはず、そう思えば気負いすることもない。唯一あるとすればサファイアオービタルからだ。 

 車両の無断使用もそうだがそれ以上に依頼申請をしていないことだ。無断使用だけならば厳重注意から始まり使用禁止に終わるのだが、無申請はそうはいかない。

 ギルドリーダーもしくはサブリーダーが依頼書に目を通し、達成の目途が立った場合のみ許可される。そうでない場合は現状を考えて保留、破棄というのがギルドの依頼進行の流れ。

 それをカイリやアルダのような若手が蔑ろにしていいわけは無く、訓示を貰わなければならなかった。

 今思えば過去に例のないことだったとカイリは後悔した。勿論罰則が用意されているが内容は察しが付かない。事の運びによっては追放を喰らいそうだ。


(すまんな、アルダ)


 カイリだけではなくペアのアルダもだ。片方だけでは何のための二組制度か分からない。


「何だ、浮かない顔して」

「……いや、コッチのことだ」


 デザイアの乗り付いた晄の顔は非常に憎たらしく感じる。人格の違いだろうか。


「ちょっと間ここにいることになりそうだ」


 デザイアが両手を頭の後ろにやる。


「疑いが晴れるまでと、あの女が動けるようになってからだな」あの女とは優奈のこと。

「大陸五指の魔法師か。言われるだけの事はあったな」デザイアが軽く言う。

「何で無傷なんだ?」

「このコートはすごいぞ?なんたって魔法を消し去るからな!」

「ズッコ……」


 なんとも信じ難いがデザイアならやりかねんという感じがしていた。


「そう言うなって。本人様は喜んでんだぜ?魔法が使えたーって」

「え、使えるようになったのか?」

「これからだけどな。けどコイツには相当重たいもんが乗っかるだろうな」


 何の事を言っているのかと思いデザイアの目線をなぞるとアルバロがベンチで寝かされてレギオンの隊員に治療されていた。


「そう言うことか」


 晄とデザイア、どちらがアルバロを倒したにしろ、体に変わりは無いのだから「アルバロを倒した若者」という風な肩書を晄の背に掛かることになる。


「化けの皮が剥がれないように糊付けしねーとな」


 そんな短期で晄をアルバロと遜色ない領域に持っていくことなど出来るとは思ってもいないカイリは哀れんだ。


「その糊が俺なんだよ」


 自信満々に言ったデザイア。

 出来るものならやってみろとデザイアを馬鹿にする。

 正直なことを言えば未だにデザイアという存在を信じてはいない。

 迂闊に信用してはダメな存在のような気がしている。

 晄より強い力を持った人格が晄の体を支配できることに危険を感じたからだ。

 それはどう言う意味かと言われれば、晄の全てをデザイア好みに出来てしまうこと。

 晄はこの世界について何も知らない。

 これから生き方戦い方を自分のスタイルに形作る時にデザイアが手を拱いて自分にあった心身にされてしまえば晄は乗っ取られる。ましてやデザイアが晄に取り憑いた理由が真に分からない以上は……。


(止めよう、そう考えてるのが信じてる証拠だ)


 疲労の溜まった体で物事を考えると碌な事を考えない。

 あべこべな自分の気持ちに疑心を入れてカイリはレギオンの命令に従った。


読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字などがありましたら報告ください。

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