転生
「特典を付けてといったがその説明は後に回して、今はどの世界に転生するかだ」
金髪の青年は言った。言い回しから察するにどうやら世界というものは複数あるらしい。
「基本的にはお前の住んでいた世界が基準になり、そのほかの世界の評価が下される。お前の住んでいた世界は至って普通、平和もあれば争いもある。あぁ、評価って言っても住んでいる人間の特色や国の抱えている問題なんかは評価に入らない」
文化の違いによって生まれる快適さ、発展の度合いも含まれないというわけだ。だが世界を評価しているといったがそれを含まないのであれば何を基準に評価しているのだろうか。
晄は思った。
(個人の性格か?それとも自然とか環境なんかが対象になるのか?)
此方の疑問や評価の対象などは説明せずに青年は言う。
「俺はお前に提供しようとしているのはこの世界なんだが、お前の世界との違いは概念に魔法があったり、魔物がいたりする、言わばファンタジーだ」
晄はファンタジーという言葉に反応した。彼だって高校生だった。読んだ文庫本に影響を受け、魔法が使えるようになったらと思う時もあった。またあるときは剣を振るって迫りくる悪を倒すことも妄想の中で思い描いた。授業中や通学中はそんな事ばかりも考えていた。
なので晄にはあこがれた世界に見えた。けどそこで生きていくとなると別問題だ。妄想の中だけの都合のいい展開には決してならないだろう。
(それも仕方ないか・・・結局どこでも都合よく生きることはできないわけだ)
内心がっくりとしたがそれも悪くないと期待が少し右肩に上がった。
「世界の話はこれでひと段落な?細かく説明したって理解できんだろうしな」
頭が冴えてきたといってもそれは微々たるものであった。細かく言われてもチンプンカンプンだっただろう。
「もう一つの話としては、特典だな。本来こんなものは付けないんだが一応条件を満たせば付けるようにした。俺の上司は優しいんだかひどいんだか……」
青年は最後に愚痴をつけながら特典について説明する。
「普通、新しい世界に転生するっていうのは胎児からスタートするもんなんだけどな。でも今回はお前のその容姿、記憶を持ったまま転生するんだ。これだけでも十分な特典だろ」
晄は思わず口を開いた。「は、はぁ?」と言わずにはいられない。
「おぉ、しゃべれるようになったか。で、まだ特典は終わりじゃない。はっきり言ってお前の転生しようとしている世界はお前の命を平気で食いつぶす生物だっている。そんな中に丸腰で飛ばすわけにもいかないからな」
「ということは……武器とか持って転生するのか?」
「そうだな……武器もそうだが服装もだな。あとその世界についての少ない知識と身体能力云々」
姿と記憶と武器と知識と身体能力も付けてくれる……それはとんでもなく素晴らしい特典だが、姿がそのまま、記憶そのままということは晄が十七歳の状態で転生されるということ。本来、生まれ落ちれば否が応でもその世界に適することになるため、幼児から成人まで生きればその世界の住人になる。だが晄は元の世界の住人でもある。元の世界の常識が染みついた人間が新しい世界へ適応するにはそれなりの時間がかかるだろう。そのための知識だろう。
「簡単に説明したがあとは自分が転生して自分の体で認識してくれ」
青年の説明はこれで終わりらしく、説明さえ終われば、後は自分でどうにかしろといいたいらしい。
だが晄としては一つだけ聞きたいことがあった。
「質問いいか?」
青年は面喰ったようだがうなずいた。
「じゃあ遠慮なく……。四年前に事故で亡くなった女の子もここに来たか?」
「四年前の女なんていくらでもいるぞ」
言い回しによっては女たらしのように聞こえるが、条件が少ないために絞り込めないらしい。
「うーん、なんていうか……黒髪の……ショートヘアーの……」
「それでも多いぞ、それに俺一人がこういうことをしてるわけじゃないからなぁ」
青年はそう言って顎に親指を当てた。しかしそれも一瞬のことで何かを振り払うように口を開いた。
「お前の聞き出そうとしてることは予想がついてるんだよな。お前のことを何も知らないわけじゃないしな。あれだろ、四年前にお前と同じように事故で亡くなった幼馴染の女だろ。ここにも来たよ。おまえと同じ特典と世界を与えて転生したよ」
晄は驚きを隠せなかった。ある日突然俺の目の前からいなくなった幼馴染が俺と同じ条件で転生したなんて……。
「あ、次の客が来た。まぁ新しい世界で会える確率は低いが希望だけ持っておけ。じゃあ……行って来い」
この青年が巡り合わせたのだろうか?
それとも本当に運命なのだろうか?
なんにせよまた彼女と会えるかもしれない。
それだけでも十分なほどの特典だ。