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ⅡLive ≪セカンドライブ≫  作者: 工藤 遊河
一章 異世界
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目覚めたサイボーグ

 カイリとツバキは敷地に侵入したところから見て、奥にある施設を当たった。

 作りどちらも似たようなもので砂埃がへばり付いたガラスドアが特徴的な施設だった。入口に受付から待合室に応接室に事務室と客をもてなすフロアが一階だ。

 躊躇することなく侵入するもドアにロックが掛かっていないのでいよいよ怪しくなってきた。

 一階をある程度物色した、しかし目ぼしい物は一つもなかった。結局後にして施設中央の比較的光量の多い所に出る。どうやら吹き抜けの構造になっているらしく四階までが磨りガラスと鉄棒を組み合わせた柵で囲まれていた。雰囲気こそ前世で言う総合病院に近いが角の多いシャープなデザインの所為か医療機関には似つかない。埃臭いのも否めない。


「一階は特に無いし二階か……。そもそも何の研究所だ?」

「書かれてはいないようだな」


 ツバキも散策をしているようだが空振りばかりのようだ。

 あらかた調べ終えたので二階へ向かう。勿論エレベーターなど動いておらず、設置されているエスカレーターも止まっている。

 物珍しい停止したエスカレーターで上へ上がる。一階と大して変わり映えのないフロアだが、この階からが研究室を設けているようでナンバリングがされている部屋がある。四角のフロアの角に四つの部屋を設けているようで部屋同士に繋がりはない。ここは番号通り一号室から覗くことにした。


「アレ、ああもう、めんどくせーな」


 カイリが不満をぶつけたのは一号室のドアだった。自動開閉式になっており、動力が通っていない今では開くはずもない。ドアは隙間一つ作らず閉じており、取っ手すら付いていなかった。

 どう開けるものか。カイリは雷属性の魔法を使う。毎回やるわけではないが溶接の要領でアークを発生させて溶断したりさせられたりするのだが生憎、発生する熱に耐えられる媒体がない。そもそも溶断する必要があるのかどうか、槍で穴を空けるだけでもと思案しているとツバキから太刀を抜き去る鞘走りの音が聞こえた。


「え?」


 カイリが驚いていると彼女は刺突の構えから凄まじいキレを持った突きを放った。豪快に太刀の切っ先がトビラの中へ抉り込まれていった。中腹まで差し込むとツバキは刀と平行に並び、さらに右膝で下を向いている峰を蹴りあげた。トビラが拉げ斬れる騒音とともに十五センチほどの裂け目が出来た。


「思ったより硬いものだな」

(なんじゃコイツ……)


 硬いとは言うが刀本来の切り口と違って、押し切ったような切り口を見てカイリは絶句した。いともたやすく貫く技術は素晴らしいがとんでもない力押しに感じられた。その使用に耐えた刀は刃こぼれ一つ落としていない。

 刀を抜いて切り口に手を掛けようとする。


「あ、手袋でもしとけ」


 乱雑に斬られた扉は鋭いトゲを作っていた。腕時計から手袋を取り出しツバキに差し出す。

 「すまない」と言って受け取り装着する。再度隙間に手を掛け右にスライドさせた。ガリガリと騒音を立てて開き、中が見える。結局最初から最後まで一任してしまった。


(もういいや、コイツにやらせよ……)


 納得のいかない力に呆れながら中へ入る。


「ほー」


 内部には研究所らしいコンパネが並び、それらから伸びる配線が四つのガラスポットにそれぞれ繋がっていた。ポットの中は空で人一人は十分に入ることができる大きさだ。

 窓のない室内は湿気と埃のおかげで息苦しい。


「これはどういうものなんだ?」


ツバキが気味悪がって訊いてくる。


「生物を液体に浸して……、経過を見るとかじゃないか」


 詳しくは知らないので適当に答える。けれどもこれらが決して風当たりのいいものではないということは察しがいった。


(一から臓器とかを作るならまだしも……。最悪薬物投与による人体強化とかだろうな)


 その手の話が昔上がったような事もあった。今はこの有様なので最悪の事態には至ってはいないだろうと思うことにする。

 動力も落ちているのでコンパネからは何も吸い出せない。「出るか」

 そうやって二階を先ほどと同じように刀を刺して開け回った。二階は何もなかったが三階の六号室に変化があった。


「うわっ、臭せぇっ」


 刀を刺し、切り込みを入れたはたから上げそうになる腐臭が鼻に付いた。


「うぅッ……」


 ツバキが軽く嘔吐(えず)く。流石にこれは入れそうにもない。しかしこの部屋だけが唯一の変化があるところだ。不思議が沸いて仕方なかった。

 カイリはツバキの傍まで寄って肩に両手をやるついでに魔法を練った。途端に視界が、薄いブルーの膜が頭上から足元までを覆った。分解魔法を組み込んだ全方位バリアだ。

 この空間内にいれば臭素は膜で分解される。それによってまともに吸える空気が出来る。


「何だ……、今のは」

「魔法だ。この中にいればある程度動けるだろう」


 落ち着いたツバキの肩を押して中に入っていく。異質なのは明らか。

 部屋の中は一階のガラスポットを横にしたようなカプセルが複数並んでいた。今までの部屋にはこの手の機材の上にはなにも乗ってはいなかった。けれど今回は違った。恐る恐る一番近いところに近づくと目を見張る物体が横たわっていた。


「!?」


 カプセルの上に寝ていたものは骸だった。その姿は一部が白骨化して皮膚と肉が削げ、ミイラ化していた。


「なんでこんな……」


 辺りを見回すと全てのカプセルの上に人の亡骸が横たわっていた。床を見ると変色した血痕がこびり付いていた。壁にもコンパネにもこびり付いており悲惨そのものだった。


(むご)い……」


 ツバキが率直な感想を口にする。


「確かにな……、ちょっと待てコイツら……」


 目の前の死体をまじまじと観察する。見たいものではないが少し気になることがあった。

 それは死体の寸法。そしてそれからカイリは死体が生きていた時の年齢を推測する。辺りの死体も見回って途轍もない事実に至った。

 頭部の大きさ、身体の小ささ……。

 普通見たときに気づくであろう事が悲惨さで何も気付けなかったがこの死体たちは……。


「子供かっ!?」

「なに!?しかしそうなれば人を探すという話では無くなってくるぞ」


 人探しに来て別の問題が出てくる、それも恐らく明日のニュースペーパーを埋め尽くす内容。不用意に近づくべきではなかったか、それともこのまま葬り去られる方がいいのか……。


「まず、ここから出よう。この部屋は後回しにする」

「いいのか?こんなこと放っておいて」

「良いも悪いもなぁ、今ここで騒ぎになればアルバロは引っ張り出せるかもしれない。けど俺らにも主義って言うのがあってな……。お前にはわからんだろうけどな」

「ああ、さっぱりな」


 聞き分けのいい彼女はすんなりと賛成してくれたように見えた。

 ところでカイリたちの主義と言うのは依頼主の依頼を穏便にこなすというギルドの方針のことだった。事勿れ主義とも言われる。依頼の影響で今後の生活に支障がないように遂行するというところだ。

 曰くの部屋を後にする。魔法も解いて一旦落ち着く。すぐまた探索を開始してついに最後の十二号室まで来てしまった。六号室だけが悲惨なものになっていて他は何もなかった。


「ここが最後だ、何もなけりゃアッチに期待するしかない」


 アルダたちも今頃は探索に勤しんでいるだろう。そう思っているとツバキが慣れた手付きでドアを抉じ開けにかかった。もはや何も思うまい。

 通りにならって扉を右へスライドさせると中が見える。薄暗いことに変わりは無かった。しかし他と違うのは光源があったことだ。

 部屋に二本のコンクリ柱。それに一周するようにライン状のランプが、そして中央付近の柱の間に一つだけぽつんと置かれたベッドタイプのカプセルの淡い光。この三つがフワリと浮かんでいる。今までの部屋と違うのはここだけ動力が復活していることだった。

 何かある、直感的にそう感じた。

 カイリは一歩一歩慎重に踏み込んだ。コンパネ系統はなく、カプセルからでる大量の配線が部屋の壁、地面に突き刺さっている。

 配線の行方ばかり気にしているとツバキがジャケットの袖を引っ張って、左手でカプセルを指差した。再びカプセルへ目を向ける。その向こう、カプセルの裏側に小島が揺れていた。


(何だあれ……、髪の毛か?だとしたら)


 咄嗟にカプセルに向かって走り出す。走り出したカイリだがそれと同時に小島が上にのび上がり、人のシルエットを作る。どうやら座り込んでいたようで立ち上がった人影を見てカイリは立ち止った。

 小柄で華奢なシルエットは女性のものだった。飴色のナチュラルストレートの髪を揺らしてカイリへ振り返る。小さな顔が髪型のおかげもあってさらに小さい。そんな顔には綺麗なフェイスパーツが収まっていて、誰しもが美人だと思うだろう。

 しかし彼女の大きな眼は恐ろしく冷たい色をしていた。けれどその眼には何故か涙が溜まっている。

 病人かと思う青い検査衣に身を包んだ女性にカイリはどうすべきか迷った。

 自分の中で何かが「彼女から離れろ」と警告を出しているように感じる。そもそも生きた人がいると言うことを想定していない。いや、可能性としては考えていた。今回はアルバロだけではない、その娘も主要人物だった。しかし一人で置き去りにされているとは考えにくいと頭の中で破棄していたがまさかここでアルバロ以外の人をお目見えすることになろうとは……。

 カイリがどうするか固まっていると彼女からアクションがあった。

 彼女の検査衣が光り出し、一瞬なくなったかと思えば次の瞬間にはある服装に包まれていた。


(これは……、レギオンのサポートスーツかっ!)


 身体のラインを浮かび上がらす黒のライダースーツというべきか、その上から半袖の白ジャケット、腰回りに白マントと浮かんだラインを隠すように身に纏った装備。

 カイリが知る限りではレギオンの連中が装備する戦闘用装備に近かった。

 それを纏った女性は明らかに此方を敵視している。そうでもなければこんな服装を拝めるはずがない。

 彼女から距離を取ろうと下がろうとした時、カイリと彼女の間にトリコロールの光が現れた。カイリは咄嗟に右手を顔の前まで持っていき静止させた。途端、三色の光が光線となってカイリの右手を襲った。しかし手に直接当たらず魔法という壁が光線を阻んだ。

 魔力を散らし、水を散らし、火花を散らし、光が視界を奪う。


(なっ……水に火だと!?)


 カイリは驚愕した。我の目を疑った。青白い光は自分のものだとわかる、だがそれ以外の変に色付いた液体と火花はなんだ?

 カイリがこの世界に来てから学んだ常識が崩れた。思考が止まる。何も考えることができなくなる。それが隙になった。

 唐突に止んだ光に我を取り戻されながら彼女を見る。すると彼女はベッドの上に左足を掛けていた。


「カイリッ!」


 ツバキが叫んだと同時に、前の彼女が左足を蹴ってカイリに右拳を突き出した。そのままカイリに突進をした彼女は彗星のように光を纏って、カイリを殴った。けれどもカイリの反射神経も負けてはおらず今度は左手で彗星となった右手を掴んだ。今度は左腕全体に強化魔法を掛け、防いだ。そうでもしなければ腕を飛ばされそうになる破壊力だった。

 何事か彗星は二撃目を加えようとはせずに右手をさらに押し込んだ。するとなんと長身のカイリを身体を地面から浮かしたのだ。


(!?)


 予想外の出来事に流されるまま流されカイリは彗星と化した彼女に、あろうことか部屋の外まで押し出された。

 ツバキを視界の隅に捉えても一瞬で、このままではフロアの欄干に衝突すると危惧した。出来ることと言えば背に防御壁を作って生身への衝突を防ぐこと。ぶつかれば背骨が折れるでは済まない。

 カイリは自己最高速度で魔法を練った。練るのは頭で行うのだから頭痛のようなものが奔り、集中を乱すかと思ったがそんな事は無かった。そして何とかして練り終え、展開させるとフロア中央の欄干に早速魔法壁がぶつかった。

 手すりが拉げ、ガラスが割れる。身体自体に痛みは伝わらないが、衝撃は伝わった。


「ガハッ」


 むせ返り左腕に掛けた魔法が乱れ、力負けしだした。そうなれば負けるのは早かった。このままでは腕がやられる、カイリは左手を右手から放した。そのまま空振る右手から繋げに彼女の左手がカイリの鳩尾を狙った。カイリは自分の腹部全体に魔法を張った。発動した魔法に拳が触れた途端に身体が上後方へ飛ばされる。

 防いだ力を受けるのではなく、慣性に任せる。その慣性が自分の身体にも作用するようにした魔法でフロアの丁度中央、吹き抜けの中央から一階まで落下する。

 着地を取り、自分の体の確認もせず上を見上げた。

 翡翠色をした目がカイリを見下し、そこからまたも光を作り出した。しかしそれは彼女の背後から斬り掛かろうとしたツバキによって消滅した。

 振り上げられた刀を彼女は見向きもせずに右へかわし、振り向き様にツバキへ右手でブローを加える。ツバキも当たるかと身を引いたがその時、両足が何かに吸われた。風だった。

 強烈な風が背中を押し彼女の方へ吸い寄せる。姿勢を崩したツバキを射程圏内に収めた彼女は左足でハイキックを繰り出した。ツバキの右脇腹にヒットし、ツバキは拉げた欄干にぶつかりそのまま下へ落ちた。

 宙に放り出されたが空中で見事に立て直すという身体のしなやかさを魅せつけて着地した。


「大丈夫か!?」

「脇腹に食らった……」


 右脇腹を左手で押さえた。まともに食らったのだから無理もない。しかしどうして当たった?

 あの位置ならば間合いの外のはずだ。


「風が押した」

「どういうことだ?」

「そのままの意味だ、追い風が起きた」


 だとすれば風を操ったことになる。カイリの推測が正しければ彼女は信じられない事に複数の属性を操っているということになってしまう。

 人類ではありえないとされた複属性、それを体現した人間がいる。

 最初の光線三つは明らかに水と火、そして光だった。ツバキが言ったことを含めれば風もだ。

 しかし問題はそれだけでない。彼女の魔法発動に前兆を感じられなかった事が不可解だった。

 普通、魔法は式・陣といったものを作りそこに魔力を流し込み発動できる。流し込む量が出力になるわけだが、式で規定した量を上回る量を流すと漏れ出し、空気中へと逃げる。それが前兆だ。

 魔法の打ち合いにおいてはもっとも重要視されるこの前兆、式に規定した量ピッタリに魔力を流し込めばその前兆は起こらない。けれどどれだけの量を流し込むかを目で見ることが出来ない故、感覚だけを頼りにするしかない。

 経験と熟練が必要なことだが人間である以上、誤差のない注入は不可能と言われている。

 しかし実際、彼女の魔法はこれまでに三回以上は使用しているのにもかかわらず、空気中に逃げた魔力は感じなかった。感じ取ったのはカイリ自身の魔力だけだった。

 そうなると考えられるのは……?


 (適正量の誤差がない魔法だと……!?)


 そんな異常な事実を突き付けた彼女はゆっくりと風を放って一階まで下りてきた。風は魔法のものだがやはりこれもだった。


(厄介なんてもんじゃねぇ、これは!)


カイリは過去最大の難局を見る。


読んでいただきありがとうございます。

誇示脱字などがありましたら報告ください。


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