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ⅡLive ≪セカンドライブ≫  作者: 工藤 遊河
一章 異世界
19/56

生き霊デザイア

 デュッセのメインストリートを西から東へ走る。涼しい風が体を通り抜ける。すれ違う人も少なく人とぶつかることもないと思い、晄は物思いに耽った。

 昨日のことだ。鞘で吊りあげられるところが脳裏に浮かぶが、その先がどうにも空白だ。どうやってここに戻ってきたのかすら教えてもらっていないが、優奈が訊きたいことがあると言っていたのだから自分に訳ありなのは解った。

 しかしどうやっても思いだせなかった。その時、


『よう!随分思いつめてるじゃねぇか』


とあの時と同じ声が頭の中に響いた。

 あれは幻聴じゃなかったのかと思った。走りながら晄は何と返そうかと迷った。しかし、どうにも腑に落ちない。

 声のことも分からずにまともに返事をしていいのかと。あの時は返事をしたはずだ。もっと言えばあの後意識が無くなったのだ。

 対処の仕方が分からない。まずはお前はなにかと問うてみようか思った。


『お前の考えてることは筒抜け何だがな……』

(は?)


 晄は絶句した。考えていることが筒抜け?今さっき思っていたこともか?それに今もか?

 

『安心しな。この俺がお前に話しかけようとしない限り、お前の心を読むことはできない』


 人の体に入っておいてかなり一方的だが、要は彼が読もうと思わない限り読めないし(読まないの間違い)、話しかけようと思わないと話しかけられない(話しかけない)ということだ。

 晄の側から話しかけることは今のところ不可能で、彼の気が向くのを待つしかない。


『それで、お前が今さっき思っていたことを説明するとあの後俺がお前の体を乗っ取った』

(乗っ取る?)


 昨日みたいに心の中で思い意思疎通をした。


『そう、お前の人格をハネのけてお前の体を使わせてもらった。あのガキの相手も俺がこの体でやった』

(殺したのか!?)


 自分の体を勝手に使い、人殺しをされては堪ったものではない。


『初めはそのつもりだったんだが……、そこはあの女に感謝しろよ』


 このことに関しては優奈が止めてくれている。晄を人殺しにしたくないと願ったのは彼女だ。


『この後の事はアイツに聞け。それと俺はなんなのかと言われればだな……』


 声は少し発言に困ったように一拍置いた。

 声自身がこの事を信じてもらえるか確信が無かったからだ。


『生き霊だ』

(うん!?)


 晄は困惑した。生き霊とはどういうことだ?

 彼にとって生き霊というのは、死んだ時の怨念から霊という信じ難いものになってこの世をさ迷う者という認識程度だった。もちろん好印象ではない。そしてその生き霊が自分の体に……。


(取り憑いているのか?)

『そうなるな。お前に取り憑く前はとんでもない富豪に六十年くらい取り憑いていたんだが、ソイツが死んだ際に追い出されたんだよな。それでウロウロしていたらお前がいたから入ってみたわけよ、そしたらピッタリドンピシャ』

(ピッタリドンピシャア?)


 お化けと相性が良いと言われても嬉しくもない。そして、既に存在を肯定している自分が腹立たしい。


『あぁ、前の奴は体を乗っ取ることができなかったからな。六十年いたのうちの幾度かは惜しいところまで行けたんだよ。そこで気付いたのが、ある程度欲がないとダメだということ』

(え?欲?)


 急に解説し始めた彼に晄は戸惑う。


『そう、前の奴はコレクターみたいなところがあったから自分が欲しい物を見つけると欲が出て、隙ができた。けどすぐに金で解決するし、金さえ積めば手に入ると思ってやがったから欲が小さかった』


 金持ち特有の独占欲や購買欲という欲が隙を作り、その隙間に入り込むようにして人格を顕現させると生き霊は説明する。しかし欲が出た途端に金銭を積んで欲を満たしてしまうために、すぐに撥ね出されてしまうと言うのだ。


『あの時お前は力が欲しいと思っただろう?力なんていう形のないものはそう易々と手に入るものじゃない、だから俺が顕現することができたんだ』

(それは俺が悪いっていうことなのか……?)

『そうとは言ってはいない、むしろ普通だろう。そこにたまたま俺がいたっていうのがイレギュラーだっただけだ』


 晄は確かに力が欲しいと願った。そして力というものは晄が悩んでいるように即席で手に入るものではない。手に入らないからこそ強く望んだのだ。

 望んだ結果、彼が隙間に入り込んで晄は見事に乗っ取られてしまった。

 生き霊は晄の望みを叶えるように力となった。しかしそれは晄自身の力ではない。生き霊が力、強さという形になり晄を助けたが言ってしまえば他人の力である。晄が望んだものは自分自身の力だった。


(けど、俺が欲しいのはお前みたいな他人の力じゃない……)

『そうだろうな、誰も他人の力なんか力じゃないって言うよな。けど俺はお前がこうなりたいと思えばその形に変わることができるんだ、いや、変えられちまうんだ』

(どうして?)

『そういうのに影響を受けやすいのが俺という存在だ。お前が想えば俺の在り方が変わる、それはお前が俺を自在に操れると言うことだ』


 生き霊は慰めるように言った。

 実際に行動に移すのは生き霊である彼だが、その彼を変化させて多種多様な形に作り変えるのは晄だと言った。つまりこの力は自分の力だと言っても申し分ないと遠回しに伝える。

 だが晄という人間はどうやら頭の回転が遅いらしく、いまいちピンと来ていないのが彼の中に入っていてなんとなく分かる生き霊だった。


『昨日のことを例に挙げて言うとだな、お前は力が欲しいと思った、そしてそれを戦闘欲とする。そしたら俺が戦闘欲を増幅させる形でお前を乗っ取り、俺が戦う』

(増幅させるのは分かるんだけど増幅しただけでまともに戦えるのか?)


 もっともな疑問だ。

 ああしたいああなりたいという願望だけ強くても、それが本当にそうなるかと言えばそうはならない。

 彼の言い方だと欲を強くしただけで事が実現するというような口振りだ。


『そこは俺の経験と腕だけが頼りだし、お前自身の体の限界もあるから出来ることは少ないだろうな。あの時助かったのは羽織袴が未熟でパワーで押してくるだけの奴だったからどうにかなったんだ』

(俺も鍛えればそっちが出来るようになることも増えるのか?)

『確信はないが増えるだろうな』


 これはいいことなのではと晄は思った。生き霊に取り憑かれていると思って悪い方に考えていたがむしろ心強い、この世界で数少ない味方なのではないかと思った。彼がどう思うのかは知らないが晄はそう思う。

 自分が力不足の間、彼がその穴埋めを行ってくれるのならば少々汚いような気もするが安全安心に自分自身の力が付けることができるはず。

 晄自身が強くなれば彼の本領が少しずつ開放されても行く。


『……だから、お前の考えてることは筒抜けなんだって』


 突然生き霊が晄に苦言を呈した。


(え?ああそうか、今の筒抜けだったのか)

『別に悪いことじゃないとは思うが、ちょっとばかし夢見すぎだな。そりゃいくらかは助けてやらんでもないが俺だってその場気分でほったらかしだってあるんだぜ?』

(そ、そのときゃその時でアドバイスくれたら……)

『やるくらいなら自分でやる。忘れたか?俺はいつでもお前を乗っ取れるんだからな』


 流石に都合よくならなかった。しかし、助けてやるとは言ってもらえたので晄は少し安心した。自分に害だけをもたらさないと知って。

 ここで晄は思ったことがあった。


(ところでさ、俺の体から出ていくことはないのか?)

『あぁ……、ないとも言い切れないけど、つもりはない』


 変に歯切れが悪いと感じた。

 ピッタリドンピシャなどと言っていたので、てっきりそのつもりはないのかと晄は思った。変に言葉を詰まらせられると疑問が出てくる。けれどもここで問い詰めることはしなかった。

 ところが生き霊のほうが話を変えるように仕向けてきた。


『そうだ、結構重要なことを言ってないや』


 晄は聞き返すことはせずに心の中だけで疑問符を浮かべた。


『俺はどうやって顕現しているかについてだ』

(え?霊なのに?)


 何かを媒体として存在しているような口振りをする生き霊に晄は聞き返した。

 晄は勝手に霊は霊という概念で存在しているものだと思っていた。しかしそれは間違いだ。

 この世界でも霊などの類のものは非科学なものと言われている。けれどもこの世界の人間は誰しも魔力という概念が創る感性がある。

 その感性とは魔力を感じ取る機能。この感性が繊細な者は魔力以外の何かを感じ取る。何かとは意思を持った魔力のこと。晄の前世ではこれらを霊感、霊という扱いだ。

 この世界で霊は、意思を持った魔力なのだ。


『俺はお前の魔力の半分を借りて顕現している』

(へぇ)


 晄はこのことをそれ程に気しなかった。どうでもいいとさえ思った。

 この思ったことに対して生き霊ががなった。


『あぁ!?それがどういうことか分かってんのか!?半減してんだぞっ!魔法の使用回数が激減するだろうが!』

「痛って」


 走っている最中に声を出してしまったが、辺りに人が少ないのが幸いして咎められることも注目を集めることもなかった。

 彼の声は晄の頭の中に響いて聞えるため、大きな声を出されるとその振動が頭痛に変わる。

 そして彼はかなり具体的なことを叫んでいた。


(って言われても俺、魔法使えないし。それに魔法の使用回数が減るっていうのはお前が心配することでもないだろ)

『俺をなにかの悪魔かと思ってるのか、人へ思いやりくらいはある』


 現状晄は魔法は使えないし、魔法の使用回数が減って困るのも晄だけなので生き霊が心配することでもない。申し訳程度に良心のある生き霊だった。


『それにな魔力っていうやつは第二の体力みたいなもんだ。体を動かさなくても魔力を減らすごとに体感できる疲労がでるんだよ。ということはだな、そこいらにいる連中と比べて体力的に劣ってるということなんだよ』


 その魔力を使って顕現しているのは彼ではないかと晄は思った。

 ここで晄は生き霊が自分の魔力を使って顕現しているということを再認識する。彼が自分の魔力の半分を使っている、そして彼が自分を乗っ取った時その魔力はどうなるのかという疑問が浮かんだ。この疑問の答えは皮肉なものじゃないかと晄は薄々感じたが試しに聞いてみた。


(お前が俺の体を使ってる時、その魔力ってまさか)

『そのまさか、俺がお前の体を使っている時は魔力は元の量に戻る。皮肉だよな、自分より生き霊が満足に使うって、イヒヒ』

(ふざけんなよッ!)


 晄はこの世界に来て初めて腹が立った。


☆☆☆


 デュッセの東端までなんとか走り切る。前世では運動が苦手というわけでも得意というわけでもなかった晄だが流石にしんどい。この世界の街がどれだけの規模が普通なのか知らないがデュッセは東西南北に二キロほどあり西から東まで往復すると約四キロにもなる。


『もうちょっと体力つかないもんか?』

(うるせぇ、そんな簡単に付くならお前に乗っ取られることはなかった)

『それもそうだ』


 そうだ、身体的なスキルが一夜漬けで身に付くなら力が無いと言って悩む必要もない。

 このような会話が出来るほどになってしまったことに多少の違和感を得ながらも西へ引き返す。

 あれからも生き霊はべらべらと喋り、俺はどういう人間だったか?どうなっているのかと情報を開示し始めた。

 一つに彼の名だ。ずっと生き霊生き霊と思っている(口に出したことがないから)が、歴とした名前がある。

 彼はデザイアと言う名前を持つ。

 二つに彼の経歴。

 死亡する前、生前は優奈と同じく依頼屋をしていたと言う。どういう経緯で亡くなったかは言わなかったが死亡後、先も述べていた通り富豪に取り憑きそこで六十年あまり過ごす。彼が亡くなった年は二十代前半でそれを含めると八十にもなる爺さんだと言うことが分かった。この世界の寿命に関する彼是(あれこれ)を知らない晄だがそこは気にしなかった。

 爺さんと言ったが彼自身の老い……、霊に老いがあるのかどうかの話だが彼の感覚として死んでからは何も変わりが無いと言った。死亡してから歳を取らなくなったとも取れた。

 歳を取らなくても経験は蓄積されるようで富豪が様々な人と会うたびに、何もできないから人間観察をしていたと言う。しかし富豪という人間は金持ち同士でしか価値観が合わないのかどいつもこいつも金の話だったそう。

 三つに晄がこの世界に来て身に着けていた剣とコートのこと。

 その二つはどうやら彼の顕現を裏付ける物で、この世界に彼がいるという証に剣とコートを現したらしい。らしいというのはデザイア自身がこのことを試みたのが晄の体に乗り移ってからで、これらが晄からすれば少々イタいデザインをしているのは彼の趣向である。

 長々と話したが一番重要だったことは彼の存在の形成の仕方だ。

 これは彼の存在を現す事がらで、魔力を使って人格を乗っ取ることとは違う。

 先ほどぼやいていた通り、六十年の間富豪に取り憑いていた。その富豪とやらは富豪らしく独占欲と所有欲がすこぶる強かったようだ。

 生き霊は憑体の精神状態で在り方が変わり、その影響下にいたために彼は自分自身が欲という感情に汚染されてしまったと言う。

 優しくなりたいと思えば優しさに満ち溢れたデザイアも見れるかもしれないと推測も添えてくれた。

 又この欲はすべての欲に通じるため、欲情というものならば全て増幅可能とのこと。

 これらの事を喋ったわけだが死因ついては多く語らず、言ったことは『生き霊になるくらいだから碌な死に方じゃない』と今考えれば「そうだろうな」という感想が出てくる。

 さっさと出て行ってもらいたいのも山々だが、如何せん出て行かせる方法がない。望みを叶えて成仏、ならば良いのだが、その望みも分からない上に正攻法とは限らない。(成仏に正攻法というのも可笑しな話だが)

 それに問題はこれだけではない。


(どうやって説明するかな……?)


 優奈に説明を要求され考えてこいと言われてこうして走っているのだが、こんなカルトじみたものを真に受けてくれるといえば、受けてくれないだろう。


『いいんじゃないか?まんま説明して。どうせ嘘も作れない事だろ』


 デザイアの言う通り事が事なだけに嘘ができないのである。只でさえ嘘みたいな出来事なのに、上から嘘を塗っても現実味がない。


『いざという時は俺が説明すりゃいいだろ。まだこれのほう信憑性はあるもんだ』


 下手に隠すより、目立たせた方が良いというのは良くあることだ。妙な事もいきすぎると現実味を帯びてくる。強く出て信じ込ませる、それがデザイアの提案で晄も同意した。


(そうするか……。上手いこと嘘なんかつけないしな)


 晄は腹をくくった。

 そうこう思っているうちにもう折り返しの半分を消化している。

 決断が緩まないうちに、迷わないうちに畳み掛けよう。

 晄は上がってきた日差しと火照った体で、今日は暑くなりそうだと感じた。

 今から優奈に行おうとしている説明のことでさらに体温が上がったような気もした。

誤字脱字などがありましたら報告ください。


表現の下手さから自分でも混乱することがありますが、生き霊は一応晄と会話をしている時には魔力を使っていません。使っているのは乗っ取った時だけということにしています。

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