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ⅡLive ≪セカンドライブ≫  作者: 工藤 遊河
一章 異世界
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科学者

 大陸の北部、レギオンの本部がある新興都市メイゼルの近郊は百年以上も前はただの山々が連なる山地だった。それ故、独自の進化を遂げた生物が跋扈していた。

 二足歩行の肉食竜が山の麓に、植物は毒を持ち、強力な繁殖性を持っていた。山の中腹には巨大な翼をもった飛竜や、四足歩行の獣類が生存競争をしていた。

 メイゼルは当初大陸に於いて、他国を凌駕する国だった。人口も経済も技術も追随を許さなかった。そしてある時を境に連なる山地の開拓を開始した。

 だが山地は原生生物たちの生存競争が熾烈を極めて、難航は必至とでる。そこでメイゼル政府は依頼屋、ギルドから猛者たちを引き抜いた精鋭部隊を作り、これをレギオンと称して山地の調査と開拓にあたらせた。

 結果は順調、一年足らずで山一つを原生生物から占領すると本格的な都市建造へ移行した。

 最新の技術と設備で建造された都市は必然、メイゼル国内のどの都市よりも近代化した。それ故メイゼル政府は新しく完成した都市に遷都し、当時のレギオンをそのまま、政府付きにした。

 これが現在のメイゼルの形が出来た経緯だ。百年も前にあった風景は巨大な塔や都市から繋がる郊外行きの路線に変わった。

 路線というのは大部分が研究施設につながっている移動手段だ。一部では廃線も存在し、放置された研究施設さえある。

 もちろん稼働停止はして……なかった。外からでは窺えない。秘密裏に稼働しているのだ。

 立ち入りはもちろん禁止でセンサーが働いているが、それが魔力を動力元として稼働していたのが彼にとっては好都合だった。彼とはアルバロ・シャンド。

 三十代後半ほどで、顔の線が細いが若いというわけではなく、普段を規則正しい生活を送っていればハンサムにも写っただろう。そんな彼は大陸で五指に入る魔法師であり、科学者でもあった。そんな立場からこの研究所のセキュリティーを突破し忍び込むことができた。

そして彼は魔法師、科学者以外に一児の父親でもあった。なぜそんな父親が立ち入り禁止区画まで踏み込んでいるかというと子供、娘のためだった。

 娘は現在十八だが、十五の時にとある事故で植物状態となった。この世界でも植物状態の人間を蘇らせることは出来ない。治癒魔法で脳機能を再び機能させれば、一時的に蘇らせることはできる。しかし常時魔法を掛け続けなければならず、一度他人の魔法から再機能させ、本人の魔力で魔法を発動しても本人の魔力が消耗すれば常時展開することができないため不可能と言われている。

 しかし彼が科学者であったことを頭に置いてもらいたい。

 彼は科学者として無人兵器の研究を行っていた。彼の課題は人型の無人兵器の完成、アンドロイドを作ることだ。しかしこの研究は人型兵器の存在意義の議論で、やむなく研究は中止となった。

 けれども既に八割方終わっていたこの研究は検証データと改良済ますだけとなっており、技術のノウハウとしては確立していた。

 研究は打ち止めとなったが彼はその先のことも考えていた。その先と言うのは人の体の一部を代役し、生命維持を続けさせる医療的なことで、兵器として言えば人をサイボーグ化するというものだ。

 そしてアルバロは考えた。これを確立することができれば娘を蘇らせることができるでは?

 無人兵器研究は娘が十歳もないころに立案され、事故が起きた十五の時に中止された。

 彼のプランが行動に移ったのは早かった。この事を妻に話すと意外にも反対はなかった。

 立ち入り禁止となった無人兵器研究所へとんぼ返り、娘が十八になるまでの三年間研究に没頭した。

 最初は自分でもおかしいと思い何度か戸惑った、しかし次第に何も思わなくなった。これが彼を正常から異常にした。

 当初は再び娘を元気にするためだったが、異常の科学者が持つ野心が膨れ上がった。

 自分の娘を実験台にし、兵器としてのサイボーグに仕上げ始めた。

 戦闘データのために無人兵器研究で作られた九体のロボットを大陸に解き放った。

 解き放った時点でここの足が付いてしまう。それまでが時間だ。

 実験体とサンプルがほしいがために子供までさらっていった。

 恐らく死刑は免れない。それでももう一度と思うことがあった。

 多くの子供の犠牲の上で生きながらえている娘は今、カプセル状の実験台で生命維持を続けている。


「本当はもう一度、楽しく、明るく暮したいだけだった。しかし私はどうやら根っからの科学者のようだ」


 娘の左頬に右手を添える。


「本当は治すためだけだったのに、気がつけば……気がつけば兵器のようにしてしまった。けどもう少しですべて終わる。終われば……また一緒に母さんと暮らそう」


 あまり感情を込めていない言葉を眠っている娘に言う。

 アルバロはこの時既に自分が何をしてきたか曖昧になっていた。

 娘への愛情と科学者の野心がもたらしたものは……。


☆☆☆


 羽織袴から襲われてから後日。あのあと青年を村まで送ると、二メートルの巨漢、ギンガから謝罪された。あの巨漢に頭を下げられると堪ったものではない。

 現在、サファイアオービタルの支拠点のあるデュッセの喫茶店で朝食には遅すぎる朝食を摂っていたカイリは正面にいるインテリメガネに昨日の事情を説明していた。


「そういうわけですか、協力しておいて良かったですね」

「行かなきゃあんな目に遭わなかったんだがな」


 ふてぶてしく答える。


「それにしてもそれ程に強敵でしたか?」

「バケモンだよ、俺らみたいなギルドの下っ端じゃあな。バリバリ魔法を割りやがる」

「下っ端はないでしょう?それにしても貴方の魔法を?本当に危なかったのですね」


 他人事のように言うがお前一人で相手してみろと言ってやりたい。


「それはそうと……コウ?は大丈夫なんでしょうか?」


 この件に関して最大の謎にアルダが訊いてきた。

 昨日の一件のネタはイルミニアの戦闘力よりも目立った。


「その言い方だとまるで別人のようですが……」

「さぁな、別人はどうか知らないがアイツは完全に違うっていったしな」


 この場にいないが晄と付き合いの長そうな優奈がそう言ったのだから間違いないと思っている。


「ユウナさんが言うならそうなんでしょう。彼はそれきり寝たままなんですか?」

「いや、さっき走ってるのを見た」


 この喫茶店に来る前に外を走っている晄を見つけた。しかしその顔はかなり思いつめていたようでもあった。


「なら大丈夫でしょう。私たちがどうこうできることじゃないですからね」

「だろうな」


 他人と自分を分けて考えることができるアルダがうらやましいと思った。

 カイリはそういうことができる人間ではなく、口で肯定しても本音は他人事のように感じられず、穏やかではなかった。


☆☆☆


 カイリとアルダが落ち合う少し前。

 晄は優奈の自宅兼事務所の自分の部屋で目覚めた。

 自分はなぜベッドで寝ているのだろうか?一番新しい記憶を掘り返す。青年に吊りあげられたところまでは覚えているが、その後の記憶がない。どうなったのだろうか?

 今ここにいるということはどうにかなったのだろうか?

 このままではどうしようもないと晄は思い、体を起こすと筋肉痛のようなものが腕にあった。


「あぁ、イッテェ、なんで?」


 そんなに激しく動いた覚えはないのだが……。

 トボトボと階段を下りると最下段で早速優奈とはち合わせた。白のTシャツとジーパンというラフな格好だった。


「おはよう」

「……おはよう?」


 あまりにも素っ気ないやりとりで拍子抜けする。しかしそんな事を思っている場合ではなく、あの時から今日に至るまでの出来事を聞いておかなければと思った。


「な、なぁ」

「その前にいつも通り走ってきて。私も聞きたいこと山ほどあるから走ってるときにでも思いだしておいて」


 大丈夫の一言もない彼女は平常運転だ。素っ気なさが空しいやら悲しいやら……。しかしここで質問攻めにあってもどうしようもないので聞かれるよりマシだった。


「わかった、そうする」


 文句も垂れずに、優奈の横を通り過ぎて靴をを穿く。

 この元宿屋は土足でも問題ないはずだが応接の場になっているフロント以外はわざわざ靴を脱ぐ必要がある。元日本人であっても自宅で土足と言うのは気が引けるとのこと。

 フロントを抜けて、パーテーションを越えて外にでる。時間帯は朝八時ごろ。店はほとんど準備に急かされているし、普通の民家は洗濯やらの家事に追われている。レギオンの制服もチラホラ見られるが此方を気に留めない。

 雑踏ではなく、建物から出る騒音はこの街が静かだということを物語る。

 走りながら思考を働かすには丁度いい。

初っ端に街が出来た経緯を世界観のために入れてみたものの活かせそうに無いです(@_@)


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