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ⅡLive ≪セカンドライブ≫  作者: 工藤 遊河
一章 異世界
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イルミニアの異変

人工の革張りソファに四人が腰を掛けて、一人が立っている。

サファイアオービタルの眼鏡青年が客の横に座り、優奈と晄が向かい側に座っている。

もう一人の青年のほうは壁にもたれている。


「それでここは依頼屋でいいんですよね?」


痩せこけた客が言った。

ネズミのような顔立ちに和服を着た客は江戸時代を思わせる。


「えぇ、ここは私が営業していますが」


優奈は「私が」を強調して言った。


「アンタ、ここの評判聞いたのか?」


青年が言った。

言葉に反応して優奈が眼を飛ばす。


「いえ、一番近いところがここみたいですから……。ところであなた方は?」

「申し遅れました。私はサファイアオービタルのアルダ・ファンスと言います。あちらはカイリ・トミオカです」

「あ、私はユウナ・カガと言います」


優奈は思い出したように自己紹介をした。日本読みで自己紹介はしなかった。

晄はカイリと言う青年に、おや?っと思った。しかし問うことはできなかった。間違えたらどうしようという躊躇いがあったからだ。


「あぁ、サファイアオービタル……」


客は納得した。だが、どこか気まずい顔をした。


「何だったら、俺らが依頼を受けるけど?依頼を頼みに来たんだろ?」

「えぇ、そうですけど、此方にも予算がありますので……」

「いくら?」

「五万ガルツです」


申し訳なさそうに金額を言った。

この世界での通貨はガルツ、日本円と同じ価値であり、硬貨と紙幣の数も同じである。


「依頼の内容にも依りますが、どんなもので?」


アルダが聞いた。


「調査です、イルミニアの」

「やはり、イルミニア民族でしたか。それで調査と言うのは?」


イルミニア民族の特徴は和服。この世界でこれほど変わった服装はないと言われている。

ネズミ男が言った。


「つい最近ですね……、村周辺から大きな煙が上がったんです。聞くところによると最近多いようなので、此方から何人か様子を見に行きましたら、皆さん、黒いロボットにやられたようで……」


話を聞いて四人がハッとした。


「そのロボットと言うのは剣を持った?」


優奈が聞いた。

もし件のロボットならば状況の進展が望める。


「ええ、そうです。此方の村も戦える人はいるのですが……」


口を濁した。

補足するようにアルダが言う。


「イルミニア民族は元々が戦闘民族でしたからね、でも今となっては聞きませんね」


聞かないというのはイルミニアの傭兵を雇ったということである。

脅威的な戦闘力を持つイルミニアは数世紀前まではよく戦争などの傭兵として雇われていたが、大陸同士の大きな戦争が終戦してからというもの、人との交流を大切にしてきた。

そのため、強大な力を持て余しながらも、現在のイルミニア民族はその力を使えないでいる。

皆がそうというわけではないが、全盛期イルミニア民族が村に二人いるかいないかと言うほどに勢力を失っていた。

だが、失うばかりだけではなく、誕生してから幾年もその力を征服というほうに向けなかった心は今も健在で穏やかな性格をした人が多いという。


「そうなんです。戦うことのできる人は片手で数えられるほど……そのうち全盛期の戦闘力を持った人は一人くらいです」

「それならば、その人が対処すればいいのでは?」


優奈が言った。だがそれができるならばここには来ていないだろう。


「彼が言うには今の人たちはイルミニアのことを詳しくは知らない、それ故、今出てきてその力を使えばおそらく危険視する声が増え、今のような交流が難しくなると……」

「実際、イルミニア民族は教科書などに温厚な性格の民族としか載ってませんからね。ならばその意見も間違ってはいませんね。どうします?貴方がこの依頼の受けるなら私たちは引きますが」


アルダは優奈に促した。

依頼主の目的人物が優奈である以上は受ける権利は譲ってくれるようだ。


「分かりました。私たちで請け負います。具体的にはどのように処理すればよいのでしょうか?」

「出来れば、すべて処理してもらえると助かります」

「分かりました。それでは……」


ここから優奈は細かい話をしだした。

アルダは席を立ちあがってカイリと密会をしている。

カイリは不満そうな顔をしていたが、承諾したらしく先ほどと同じように壁にもたれ掛かった。

晄だけが蚊帳の外だったが不満には思わなかった。到底自分には理解し難い光景なのだから。


(とはいえ、そういうわけにはいかなくなるんだろうなぁ)


優奈の下にいれば、遅かれ早かれ関わることになるだろう。それが今なのか後なのかは分からないが晄は自分がその道へ足を踏み入れようとしていることには気づいていた。


(出来んのかね、俺に……)


不安要素しか思い浮かばない。たった四年でここまで来れた優奈はどうだったのだろう。

三日経つがその手の話は聞いていない。

晄は優奈のことを不器用だと思っていた。

幼い時から何をやらせても行き詰る、鈍臭いというイメージしかなかったが、この世界に置いてそんな優奈の片鱗は見られない。むしろ自分がそうなのではないかと今思う。

たった四年で変わるのか、驚愕だ。


「はい、これで契約完了です。二日後に伺います」


どうやら手続きが終わったようだ。

依頼主は立ち上がり言った。


「よろしくお願いします。このことは長にも伝えておきます」


深々と頭を下げて事務所から出ていった。

それに続くようにアルダも出ていこうとし、カイリも動き出した。


「一応、この件の不可解性はギルドの間でも問題になっています。手は出しませんが此方も上には伝えておきますね。」

「構わないわ、それとひとつお願いがあるのだけれど?」


アルダは面を喰らった。


「なんでしょう?」

「そこの人、貸してもらえないかしら?」


優奈はカイリを指差した。


「あぁ?なんでお前に貸し出されなきゃならないんだよ」


それはもっともだ。こんな女のもとで働くのはカイリとしては御免だった。

アルダは少々考えたが、良しの方向で肯いた。


「構いません。協力という形で書類をもらえれば」

「おい!?」

「いいじゃありませんか、この先、仕事もらってないでしょう?どうせ他に首突っ込んで迷惑がられるより、役に立ってきてください」

「ぬぅぅ」


カイリは晄、優奈へと目を流して、


「はぁ、分かったよ、役に立ってくるよ。どうせこいつら二人じゃ心もとないだろうしな、先方も」


了解した。

晄も頭数に入っているようで、足を踏み入れる時は近いと思った。

優奈はいつの間にか書類を取り出してサインをしていた。

それをアルダに渡す。


「それじゃ、これ」

「確かに受け取りました。何か変更があるときは連絡してください。これが通信先です」


と言って名刺のような大きさのカードを取り出した。

優奈も同じくカードを取り出した。

ここまで来るとサラリーマンの名刺交換だった。


「戻りますよ」

「へぃへぃ」


カイリは子供のような拗ねた顔でアルダの後を着いていった。

晄はここで小さな燻りをぶつけた。


「なぁ、アンタもしかして」

「それはまた今度な」


晄は首を傾げているが、この疑問は相手も持っているのだろうと、優奈も同じ疑問を持ちながらも思った。


☆☆☆


契約してから二日後、晄も剣とコートを引っ提げて現場に赴くことになった。

てっきり、優奈とカイリだけが行くものかと思っていたが、本当に頭数に入っていたらしい。

本音としては家で引き篭もっていたかった。だがあの時、足を踏み入れなければならないと感じたのだから我儘はやってられない。

トロトロと悪路を進むキャラバンは乗り心地がいいとは言えなかった。何せ、基本は物を運ぶのだからタクシーの代わりにはならない。

この世界には自動車というものはあまり走らず、多くは二輪や、自動車とは違った四輪が走る。

技術的には製造が可能だが、環境的な意味で舗装路を作ることができない。

気性の荒い生物が跋扈しているこの世界では、道路を作るのに一苦労を要する。

コスパの面に向かないのだ。作っては壊されの繰り返しでやるだけ無駄になる。(例外に北の都市部には高速道路のように地面から離して作っている)

そんな事情から現役のキャラバンから降りたところの目の前には竹藪が広がっていた。

目に優しい緑と光芒が入り乱れて静かな空間を生み出している。

三人は今、千本鳥居のように続く赤い鳥居の一つ目の前に立っている。

これがイルミニア民族の住処の入り口なのだろう。


「初めて来たけど、結構な広さね」


優奈が言った。

見たところ鳥居は奥が霞むまでずっと続き、景色も変わり映えないように見えた。


「この先に御殿があるっていうからな」


カイリが今日初めて口を開いた。

二日前はブチブチと文句を垂れていたが今日はそんなこともない。


「とにかく入ってみるか」


カイリのが我先に鳥居を潜っていく。二人もそれに続くように付いていく。

しばし無言の間があったが、それに耐え切れなくなりカイリが喋った。


「この前の質問だけどな、確かに俺も前世のあった人間だ」

「え、あぁ、そうなんだ」


いきなり言うものだから素っ気ない返事をしてしまう。


「でしょうね、この世界で日本名はほとんどが日本から転生した人間だと思っていいかしら。ほか知らないけど」


優奈もこの手のことに体験があるようだ。


「俺たちのような名前はこの世界で生まれた人間からすると時折見かける変わった名前の人で通ってるらしいからな」

「そんなにいるのか?」

「いるだろうな、日本人だけで何人死んでるか……。その中から篩いかけられても相当な数なんじゃないか?どいつもこいつもここに転生するわけじゃないだろうが」


言われてみればそうだろう。年間想像のつかない数の人間が亡くなっている。その中から篩いにかけても想像のつかない数になる。それがもしこの世界や他の世界を含むならば途轍もないだろう。

カイリが言うように皆がここに来るわけでもない。けれども数としては無数だ。

そんな無数をここに解き放てば均されて自然な名前として通るのだろう。変わった名前として自然に。


「不本意だったけど協力しに来たのはそこらへんの話をしたかっただけなんだよな」

「へぇ、なるほどね」


意外とこの男は軽いのかもしれないと晄は思った。こんな話をするだけだったらあの場でしておけばよかったものを。

だが次の瞬間、晄に向けて忠告が飛んできた。


「それとな、お前、生粋のこの世界の住人の前で俺が前世のある人間だとか自分がそうだとかいう会話はするなよ?あの白い所での会話は喋るなって言われただろ」


白い所というのはあの天使がいる所を指すのだろうが、一方的に転生を薦めてきて、しかもあの会話については一切触れていなかったはずと晄は思う。


「そんな禁句とか喋るなとかいわれてないけど?」

「は?」

「は?」


優奈とカイリが口を揃える。

晄も「ん?」と首をかしげて見せる。


「本当に言われてないのか?もしそうなんだとしたら今ここで覚えろっ。喋ったら天使が直々に連れ去りに来るんだぞ!?」

「そうよっ、あれが地獄まで追ってくるのよ!?」


二人一遍に忠告を飛ばしてくる。優奈に限っては上手いこと言ったつもりのように地獄なんぞ言っている。

と言われても本当に記憶にないのだからあちらの落ち度になってくれるはずだ、そうでなくては困る。

それでも言わないほうがいいというの晄の以前の考えは合っていたのだ。


「あ、ああ。分かった。これから気を付ける……」


心配してもらえるのありがたいが自分がバカに扱われたのは釈然としなかった。


☆☆☆


長い鳥居をの道を数分歩くと先が三つに分岐している広場に着いた。三つの道も同じように先が見えなかった。


「どれに行きゃいいんだ?」


カイリは問うた。


「丁度三人いるから、一人一本で行けばいいかもだけれど、なにせコイツがね……」


優奈は顎で晄を指した。

やはり晄一人では心許ない。


「ま、俺からすれば二人とも何だがな。」

「アンタまだ言うの!?それっ!?」


二人はまたガミガミ言い合う。

晄は二日前から蚊帳の外の扱いな挙句、お荷物でもあった。


(はぁ、俺帰りたいわ……)


お荷物呼ばわりされるために着いて行きたくはない。

危険なのは承知、生きて出られるかもわからないが、いっそのこと自分だけ真ん中の道を行こうかと思ったその時、その真ん中の道からポテポテと歩いてくる者がいた。


「おい、あれ」


晄の呼びかけに二人は彼の目線の先を見た。


「ここの人間か、だったら聞いてみる……か?」


カイリの歯切れが悪い。その理由は歩いてくる者だった。

背丈は成人とも少年少女とも言えなかった。言わば幼児。

距離から男女のハッキリとした見分けはつかないが、強いて言うなら女だろう。

今回の件の依頼主のような和服を身に付けた幼児に見えた。

そんな幼児はポテポテ大きな一歩で近づいてくる。

そして晄たち三人の前まで来ると大きな目をきょとんとさせて首をひねった。


「えっと、お嬢ちゃん?カヴァンっていう人のところに行きたいんだけど、分かる?」


カイリはいきなり幼児にカヴァンというネズミ男の居場所を訊ねる。

だがその幼女は怪しいとも思わずに大きく頷いた。そしてまた来た道を大股歩きで帰っていく。

三人はどうしたものかと顔を見合わせるが、三人が付いてきていないと分かった幼女は振り返って大きく両手を振っていた。


「案内してくれるのかしら?」

「村自体かなり狭いところらしいから知ってるんじゃないか?」

「で、着いていくのか?」


晄は二人に聞いた。


「仕方ない。聞いておいてからにほうっておくのもアレだから着いていくか」


と言ってカイリは真ん中の道に入って行き、残された二人も追うように真ん中の道へ入って行った。














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