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0 理香とショコラ 

 

 ショコラを食べて後悔したのは初めてだった。


 理香は小さく吐息をもらして、テーブルのうえに財布をのせる。

 進一と約束したときは、もうすこし財布に厚みがあった。駅で別れたときも、新装オープンした店の前でボンボンショコラたちと出会ったときも、もうすこしだけ重かったはず。

 理香は悲しげに首をふった。

 どうしてこんなことに……考えるほどに頭をかかえこむ。


 二人の記念日。

 はじめての贈りもの。

 忘れられない一生の思い出。


 プレゼント交換をひらめいたときは、窓から射し込む朝の陽光(ひかり)がスポットライトにみえた。

 ふかく考えることもなく、三時間後には進一にきいている。

「ねえ。十回目のデートのときに、プレゼント交換なんてしてみない?」

 あくまでも、かるい感じで。

 なんでもないように気楽な感じで。


 天を仰いでうなだれて、理香は頼りない財布をみつめる。

 突然の提案に戸惑ってはいたけれど、進一は受け入れてくれた。いまさら約束は取り消せないし、取り消したくもない。でも、仕送りがくるまでデートを延期するのはイヤだ。美咲や樹里さんなら援助してくれると思うけど、ふたりにもあまり頼りたくはない。あぁ、けど進一の喜んでくれそうなプレゼントは贈りたいし記念すべき十回目のデートは一生の思い出になるようにしたい。


 理香は財布から視線をそらして、ボンボンショコラの入っていた空のケースをみた。愚かさの象徴をながめながらマグカップを手にとり、しんみりとココアを味わう。口のなかに広がるやさしい甘さとあたたかさを感じて、ほっと息をついた。

 よみがえるショコラの味わい。

 魅惑的な幸せを思い出した口が、おもわず感嘆の声をこぼしていた。


 理香は祈るように半身を伏せると、テーブルに頭を打ちつけた。

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