ミッション~恋した悪霊を救え~朱雀の炎と白虎の光
いよいよクライマックス。
後方から拓斗の援護で俺達は確実に前進していた。しかし菜月は短剣を構えて切りかかってくる。あの明るいあいつからは考えられないくらい表情。鉤爪で火花を散らせる紗江子。無数に浮遊する短剣が俺達に向かってくる。
「回避!!」
一斉に俺達は地面にダイブする。先ほどまで俺達がいたところには無数の短剣が刺さっていた。それもすぐに消えてしまう。しかしそれくらいでは攻撃は止まらない。再び短剣の雨。しかも今度は範囲が広かった。
「これは回避しきれないぞ・・・」
『お兄ちゃん!!今こそ刀を使うときだよ!!』
愛華・・・そうだな。みんなを守るため、愛する人を守るため・・・。俺はこの刀を引く。
まばゆい刀が姿を現す。両手でそれを構える。右手からギンの霊気が伝わり刀に付加される。それと同時に短剣が振ってくる。
「どうすれば・・・」
仲間の1人がつぶやく。こんなときはこうするんだ!!俺が前に出ようとしたら圭吾が俺を制して前に出る。
「ここは俺に任せてくれ。眠れるお姫様を起こすのは幼馴染だろ??」
そんな恥ずかしいこというなよな。ほら見ろ愛華が膨れちまったじゃないか。なんだよそんなに笑うなよな!!
「俺の力を見せてやるよ・・・。我と契約し朱雀。闇を打ち抜く力をわれに与えたまえ。出でよ!!神鳥朱雀!!名をユベル!!」
巨大な朱雀が姿を現した。離れていても熱を感じるほど熱かった。そして圭吾が愛用している拳銃とその朱雀・守護霊のバルドが同化した。現れた新たな武器とは。
「聖矢を放つアーチェリー・・・」
圭吾の右手には大きなアーチェリーがあった。そしてその矢となるものはなんと紅蓮に燃える朱雀の羽だった。
「闇を打ち砕け!!聖炎散矢!!」
無数の短剣と同じく無数の羽がぶつかり合い消滅する。そして更に菜月に向かって標準を構え。
「そろそろ起きろよな。封闇炎矢!!」
ためられた羽が1つとなり、長い1本の矢となり、放たれる。渾身の1矢だった。
『!!』
皆が驚愕した。確かに矢が彼女を貫いた。しかし無表情のままその矢を引き抜いて捨てたのだ。
そんなバカな・・・。圭吾の渾身の1撃だぞ・・・。菜月にまったく効かないなんて・・・。
「それなら私が行きます!!」
紗江子が叫び、聖獣を召還するべく詠唱を始める。
「我と契約し白虎。光を照らすべくわれに力を与えたまえ。出でよ!!閃光白虎!!名をシーフ!!」
光り輝く毛並みの白虎が表れた。背中には光の粒子が漂っていた。
「行くぞシーフ!!闇を光で浄化する!!」
咆哮して、背中に紗江子を乗せて駆け出す。俺も来るべき時に向けて霊気を一転に集中させる。頼むぞ紗江子。
そんな中で短剣の雨が降る。しかしそれを圭吾が次々に打ち落とし、道を作る。流れた剣を拓斗が防御で防ぐ。完璧な役割分担が成されていた。
そしてほかの仲間たちは後からあとから湧いてくる悪霊たちを片っ端からぶっ倒している。少数で多数の悪霊たちを圧倒する力を持つ仲間。本当に心強い。
『お兄ちゃん、みんな頑張ってるね』
ああ、そうだな。だから俺もへまできないんだよな~。これ結構プレッシャーなんだけど。
『まったくいつものお兄ちゃんはどこに行ったの??菜月さんを助けたいんでしょ今は??』
ああ、そうだよ。俺がしっかりしなきゃいけないんだ。俺には仲間がついている。愛華がついている。そして俺の手には相棒が握られている。負ける要素なんてどこにもないんだ。
そんな時ついに紗江子が菜月の元に到着した。
「浄化されなさい!!光爪斬闇!!」
光に包まれた紗江子の鍵爪。あれはシーフから出ていた粒子のようだった。爪から出た残撃が菜月を切り裂く。それでも無表情の菜月。しかし封印攻撃を立て続けに食らったためか相当力を失っているようだった。
「行くんだ佑介!!」
リーダーの声に俺は駆け出した。腰には刀『桜・一文字』があった。準備は万端。後はこいつを菜月に放てばいい。
「はああぁぁぁぁぁ!!」
俺は跳躍した。そして鞘から出した刀を上段に構えて叫ぶ。
「銀龍の咆哮!!」
刀からは銀色の霊気がまるで龍の方向のように吐き出され、菜月にぶつかった。見る見るどす黒いオーラが浄化されているのが分かった。そして最後に真っ白な閃光が広がった。
そして気がついたときには俺は夏樹のひざの上で横になっていた。周りには良かったと安堵する『ガイア』の面々となぜだかご機嫌斜めの愛華がいた。
「佑ちゃんごめんね・・・。こんなことになるとは思わなかったんだ・・・」
菜月は泣いていた。何もお前が悪いわけじゃないだろ??気にするなよな。
「それでも私はみんなにひどいことした・・・。私じゃない私の目から見てたけど、何度やめてといっても何もできなかった・・・」
もはや泣いているに等しかった。どんな言葉も聞き入れないだろう。それほど菜月は傷ついていた。だから俺は行動をとった。その前に『ガイア』の面々にアイコンタクトをとると理解したのかその場から離れてくれた。愛華は離れたくないと言い張っていたが紗江子に引っ張られていった。
「佑ちゃん・・・ごめんなさい・・・うぅ・・」
大粒の涙が彼女の頬を伝っていた。菜月をこんなにも傷つけたのは悪霊王のせいだ。しかし俺は悪霊王のことよりもまずはやらなければ行けないことがあった。決心した俺は菜月を優しく抱きしめた。
「ふぇ??」
間抜けな声を出す菜月。恥ずかしいのかばたばた暴れたが、頭を優しく撫でると暴れなくなった。
「気にしなくてもいい。みんなお前を助けたかったんだから。助かったんだからそれでいいんだよ。誰もかけてないんだから」
「うわぁぁぁーん!!ゆうちゃーん!!」
俺はただただ菜月を抱きしめていた。そんな一時の平和なときを感じていたいと思っていた。しかし裏ではすでに終幕が迫っていた。